介護休暇制度とは|改正内容や介護休業との違い

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
近年の日本では、社会構造の変化等に対応し、誰もが働き続けることができるようにするため、育児・介護休業法が制定されました。
当初は、介護休業制度のみでしたが、その後も介護分野においては、「介護離職ゼロ」を目指して幾度も改正が行われており、平成21年の改正によって「介護休暇」制度が新設されています。
介護休暇制度とは、家族の介護等をするための休暇であり、より使いやすくするために改正されました。
本記事では、介護休暇とはどのような制度なのか、介護休業との相違点はどのような点にあるのか、事業主として知っておくべきこと、講じなければならない措置等を詳しく解説していきます。
目次
介護休暇制度とは
介護休暇制度とは、要介護状態※1にある対象家族の介護、通院などの付き添い、介護サービスを利用する手続きの代行等、身の回りの世話をするために休暇を取得できる制度です。
なお、「常時介護を必要とする状態」に当てはまるか否かの基準は、厚生労働省によって定められています。
介護休暇は、従業員が事業主に申し出ることにより、年度につき5日※2を取得することが可能であり、基本的に事業主は取得の申し出を断ることはできません。
※1:負傷、疾病、または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態
※2:要介護状態の対象家族が2人以上いる場合は10日
介護を必要とする状態の判断基準については、以下の厚生労働省のページをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/otoiawase_jigyousya.html介護休暇の対象労働者
介護休暇を取得することができるのは、日々雇用者(1日限りの雇用契約または30日未満の有期契約で雇われている従業員)を除くすべての労働者であり、男女のいずれも含みます。正社員以外の有期雇用社員や派遣社員、パート・アルバイトの従業員も対象になります。
ただし、雇用されてからの期間等により、対象外となる労働者がいます。これについては、次の項目で解説します。
対象外となる労働者
事業主は、基本的に日々雇用者を除く労働者からの介護休暇取得の申出を拒めませんが、以下に当てはまる者については、労使協定で定められていれば対象外とすることができます。
- 入社して6ヶ月未満の従業員
- 1週間の所定労働日が2日以下の従業員
- 時間単位で取得することが困難と認められる業務に従事する従業員(この条件に当てはまる従業員についても、1日単位での申出は拒めない)
対象家族の範囲
介護休暇は、介護の対象となる家族の範囲が限定されます。
具体的には、介護休暇を取得する従業員から見て、以下の立場に該当する家族です。同居及び扶養の有無は問われません。
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母
- 子(養子を含む)
- 配偶者の父母
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 孫
以前は同居及び扶養が要件として定められていましたが、現在は削除されています。
介護休暇の日数
取得できる介護休暇の日数は、1年度につき5日までと定められています。ただし、要介護状態の対象家族が2人以上の場合は10日までとなります。これは人数ごとに日数も比例して増えるものではなく、要介護の対象家族が3人、4人と増えても上限は10日です。
また、「1年度において」の年度とは、事業主が特に定めていない場合、毎年4月1日から翌年の3月31日までです。
育児・介護休業法の改正による変更点
育児・介護休業法が令和3年1月に改正され、介護休暇制度も変更されました。
この改正による介護休暇制度の変更点は以下のとおりです。
- 改正前は半日単位でしか取得できなかったが、改正後は時間単位で取得できるようになった。
- 改正前は1⽇の所定労働時間が4時間以下の労働者は取得できなかったが、この制限が廃止された。
なお、時間単位の取得については、法令上の義務としては、始業時刻から連続し、または終業時刻まで連続する時間単位とされています。したがって、労働時間の途中で介護休暇を取得して、労働に戻ってくる「中抜け」時間まで許容する必要はありませんが、厚生労働省からは、「中抜け」を許容する制度とすることが望ましいとされています。
介護休暇の申出
介護休暇を取得する旨の申出に関しては、書面に限定されてはいません。その性質上、急遽介護休暇を取得する必要が出てくる場面も想定できるため、当日の電話や口頭での申出でも可能とし、書面の提出を定める場合は事後でも認める等、事業主としても配慮が求められます。
介護休暇の申出において、従業員は以下の事項を報告する必要があります。
- 自身の氏名
- 介護する対象家族の氏名及び続柄
- 介護休暇の取得希望予定日と終了予定日(時間単位取得の場合は、取得開始時間)
- 対象家族が要介護状態にある事実
なお、対象家族が要介護状態にある事実については、口頭で報告することが可能とされています。しかしながら、企業としては、要介護状態に関して口頭報告のみで把握することは難しいと思われますので、後日、要介護状態にあることについては、事後的にでも資料の提出を促す方が望ましいでしょう。
申出書は厚生労働省の作成したフォーマットがありますので、参考にすることをおすすめします。
介護休暇における証明書類の請求
労働者が介護休暇を取得しようとするとき、事業主は、対象家族が要介護状態であることを証明する書類の提出を、申請した従業員に対して求めることが可能です。ただし、証明書類は医師の診断書等に限定されておらず、従業員が提出できる範囲で書類を提出すれば良いとされ、事業主はそれを受け入れる必要があります。
むしろ、医師の診断書等に証明書類を限定して、提出を義務付けるべきではないとされています。また、書類の提出は事後でも構わないとされており、書類が提出されないことを理由に、口頭で申請された介護休暇の取得は拒否できないことに注意が必要です。
介護休暇と介護休業の違い
育児・介護休業法に定められている介護休暇ですが、似た名前の制度として「介護休業」の制度もあります。それぞれの違いを表にまとめましたので、ご参照ください。
介護休業 | 介護休暇 | |
---|---|---|
取得可能日数 | 要介護者1人につき、通算93日を限度として3回まで分割取得可能 | 1年度に5日間、対象家族が2人以上ならば10日間 |
介護休業給付金の有無 | 雇用保険制度から休業前の賃金の67%が「介護休業給付金」として支給される | 企業によって異なる |
申請方法 | 開始日の2週間前までに事業主へ申し出る | 事業主への申出(詳細は企業によって異なる) |
取得条件 | ・入社から1年以上が経過していること ・申請から93日以内に退職することが決まっていないこと ・1日の所定労働時間が2日以下でないこと |
・入社から6ヶ月以上が経過していること ・1日の所定労働時間が2日以下でないこと |
なお、介護休業に関して、詳しくは以下のページをご覧ください。
就業規則に規程を設ける必要性
事業主は、介護休暇を付与する条件や期間、申請方法、退職金の算定における扱い等を、必ず就業規則に記載する必要があります。
これは、就業規則について、「休暇」は絶対的必要記載事項(必ず記載しなければならない事項)であると労働基準法で定められており、介護休暇も「休暇」に該当するためです。
介護休暇中の給与
介護休暇中の給与に関しては、法律で定められてはいませんので、無給であっても特に問題はなく、有給にするか無給にするかは事業主の裁量に委ねられています。ただし、給与について就業規則に記載しなければならないことは労働基準法で定められていますので、有給なのか無給なのか、必ず定めておき、就業規則に記載しなければなりません。労働者側からすれば、無給であるならば有給休暇として取得したほうが良いという判断もあり得ますので、労働者にも理解してもらうよう周知しておくなど留意が必要です。
介護休暇は欠勤扱いになるのか
介護休暇は、労働者が取得できる権利を持つ休暇として、育児・介護休業法に定められていますので、欠勤とは異なります。欠勤であれば評価や査定に影響することもありますが、事業主は、労働者が介護休暇を取得したことによって不利益な取扱いをすることは禁じられています(育介法10条、16条の4)。労働者が介護休暇を取得したことによって、評価を下げる等はできません。
年次有給休暇との関係
介護休暇の取得は育児・介護休業法に定められた労働者の権利ですので、事業主には、労働者に年次有給休暇とは別に取得させる必要があります。また、年次有給休暇には、事業の正常な運営を妨げる場合に事業主が日程を変更させることができる「時季変更権」がありますが、介護休暇には変更権はありませんので、規定の期間に申出があれば、取得を認めなければなりません。
年次有給休暇や時季変更権については、以下のページで詳しく解説しています。
年休付与における出勤率への影響
労働基準法では、出勤率が8割に満たない場合、翌年の年次有給休暇を付与する必要がないと定められています。介護休暇に関しては、出勤したとみなすかどうか、法律では定められていません。よって、労働者が1日単位で介護休暇を取得した場合、有給休暇における出勤率の算定との関係では出勤していない日として扱うことも可能です。ただし、年次有給休暇付与日数の算定はあくまでも「出勤した日」を出勤率として換算するので、半日単位での介護休暇取得を0.5日の欠勤として扱う等のことはできず、出勤扱いにしなければなりません。
介護休暇以外に事業主が講じるべき措置
要介護状態の対象家族を持つ労働者に対して、事業主は、所定労働時間の短縮措置、そのほか就業しながらの介護を容易にするための措置(フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、介護サービス費用の助成)のいずれかを利用できる措置として講じなければなりません。また、所定外労働、時間外労働、深夜業がそれぞれ制限されることにも留意が必要です。
事業主が講じるべき措置に関して以下のページで詳細に解説していますので、ご参照ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある