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高齢者雇用

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

昨今の少子・高齢化の下で、企業として労働力を確保することは切迫した問題となっています。少子化のために若年層の確保が難しい中で、高齢者、特に従来は定年で余生を送ろうかという人たちまでをも労働者として確保することが必要となっています。このような高齢者を定年後も雇用するような場合、企業は、法律上どのような規制を受け、どのような点に配慮する必要があるのでしょうか。

高年齢者の雇用

そもそも、日本企業は終身雇用・年功序列制という雇用体系を採用していたため、高齢者になるほど賃金が上昇し、企業も高齢者を雇用継続しづらいという側面があります。他方、人口に占める高齢者の割合が増加する中で、公的年金の支給年齢の引き上げが求められているという側面もあります。両者をあわせて考えると、このような状態の下で、高齢者を何ら保護せず放置することは、増大する高齢者の生活水準の低下に直面させることにつながるため、そのような事態は回避しなければなりません。加えて、高齢者の就労の意欲が高まっている状況もあります。

こうした状況の下で、高齢者雇用安定法は、定年の引き上げ、継続雇用制度の導入により高齢者の安定的な雇用や再就職、その他の高齢者の就業の機会を確保することを目的としています。

高年齢者雇用安定法の改正

1990年改正

改正によって、企業は65歳定年制の導入を努力義務として課されるとともに、65歳未満の定年制を導入している企業については、65歳までの安定雇用を確保するために、(あ)定年の引き上げ、(い)現に雇用している高年齢労働者が希望する際には、当該高年齢労働者を引き続き雇用する制度(継続雇用制度)の導入、(う)当該定年制の廃止のいずれかを講じなければならない義務が課せられました。ただし、(い)の継続雇用制度については、労使の書面による協定(労働者の過半数で組織する労働組合、または当該労働組合が存在しない場合には労働者の過半数を代表する者との間の書面による協定)によって、事業者が定年後の継続雇用者を選別できる基準を定めることが認められ、企業は、当該協定により継続雇用を行う者を選別できるようになっていました。

2012年改正

改正の背景

厚生年金の支給開始年齢の引き上げがあり、少子高齢化による労働力の減少が認識されつつある中で、企業においても、前回改正の影響で65歳定年制を含めた雇用確保措置は程度浸透している状況(2010年度においては9割を超える企業に普及していたとのデータもあります)にあることから、65歳までの労働者に対して雇用確保措置をとることを企業に義務付ける内容の改正法を施行することとなりました。

改正の概要

65歳までの高齢者雇用確保措置の義務化

改正の中心は、企業に対して65歳までの定年制の廃止を含めた雇用確保措置をとることを義務化したことです。具体的には、企業は①定年の延長、②継続雇用制度、③定年制の廃止のいずれかを選択しなければなりません。

さらに、継続雇用制度を採用する場合に対象者を限定できる仕組みを廃止し、また、義務違反があった場合の制裁措置として企業名の公表がなされることが規定されました。さらに、これらの方策を具体的に運用するために、構成労働大臣による指針が作成されることになりました。なお、この改正法は平成25年4月1日から施行されています。

60歳未満定年の禁止

高年者雇用安定法第8条は、「事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、60歳を下回ることができない。ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。」と定めています。この規定のとおり、企業が定年制を設ける場合には、60歳を下回る定年制を定めることができないことになり、これに反する企業の定めは無効とされています(いわゆる強行法規としての性格を有しています。)

なお、但し書きの厚生労働省令に定める業務としては、いわゆる坑内業務が挙げられています。

65歳までの高年齢者雇用確保措置

高齢者雇用安定法9条の規定

高齢者雇用安定法9条では、以下のとおり、定年制を採用している事業者に対して、高年齢者雇用確保措置を取ることを義務づけています。

なお、事業者のうち既に65歳以上の定年制を導入している事業者に対しては適用がありませんので、ご留意ください。

  1. 定年の引き上げ
  2. 継続雇用制度
  3. 定年の廃止

定年の引き上げ

定年とは、労働者が一定の年齢に到達すると労働契約を終了させる企業の定めをいいます。65歳未満の定年制を導入している企業に対して、65歳まで定年を引き上げることを求める義務が課されていることになります。

継続雇用制度

2012年改正において、2004年改正において認められていた、継続雇用する高齢労働者を企業が一定の基準で選抜する制度が廃止されたため、基本的に、定年に到達した労働者は希望すれば継続雇用の対象になります、ただし、厚生労働省の指針で認められているとおり、一定の場合には、企業は継続雇用の適用を拒否することも許容されていました。

定年の定めの廃止

定年の定めの廃止とは、企業が定年制を廃止することであり、一定年齢を超えても、労働契約が継続することになります。その結果、仮に当該労働者との間の労働契約を終了させようとするときには、合意解消又は解雇措置のいずれかが必要となり、その結果、後者の場合であると解雇権濫用法理の適用があります。

ところで、定年を廃止するメリットとしては、①高齢であっても高技術を有する労働者を継続して雇用することができ、安定的な業務運営が可能となること、②これにより新しい人材を採用する費用・又は育成する費用を削減できることが挙げられます。他方、デメリットとしては、年功序列型の人事体系の場合には、高齢者の賃金が増大し、若年者の賃金上昇が抑制される結果、現役世代の勤労意欲が抑制されるおそれがあること、②当該高齢労働者との間の労働契約を解消しようとする場合には、合意解消ができる場合は別として、解雇措置をとらざるをえないので、解雇権濫用法理により規制がかかってしまうこと、➂現在の少子高齢化の人口体系からすると、労働力の中心が高齢者に傾いてしまい、人材の新陳代謝が遅くなることといったことが挙げられます。

義務違反の企業に対する公表規定

まず、高年齢者雇用安定法10条1項に基づき、同法9条1項各号に定める高年齢者雇用確保措置を実施しない企業は、厚生労働大臣(実際には労働局、ハローワーク)による勧告と指導を受けることになります(勧告及び指導は、法的には対象企業を服従させる強制力はありませんので、履行を確保するために、次に規定する実質的な制裁手段が定められています。)。

当該助言又は指導にも関わらず、当該企業に同項違反の事実が認められる場合には、企業名が公表されます。これにより、企業イメージが低下するおそれがあります。指導若しくは勧告又は公表を受けたことにより、企業と労働者間において高齢者是正措置がなされたものと同等の法律関係が形成されることにはならず、違反の是正は、企業自身が直ちに実施する必要がありますので、ご留意ください。

高年齢者雇用安定法第9条の私法的効力

高年齢者雇用安定法9条は、企業に対し、定年の引き上げ・廃止等の雇用確保措置義務を課しています。ここで、企業が同法に基づく当該雇用確保措置を取らなかった場合、企業と労働者間において、雇用確保措置が存在するという効果を生じさせるのでしょうか。同条の私法的効力の問題ともいわれます。裁判例においては「同条は、私人たる労働者に、事業主に対して、公法上の措置義務や行政機関に対する関与を要求する以上に、事業主に対する継続雇用制度の導入請求権ないし継続雇用請求権を付与した規定(直截的に私法的効力を認めた規定)とまで解することはできない」(大阪高等裁判所平成21年11月27日判決)と判断されており、同条は私法上の効力を有しておらず、労働者の権利を生み出すものではないものとされています。

高年齢社雇用安定法9条の私法的効力が争点となった判例

過去の裁判例においては、以下のような判断がなされています。

通信会社の労働者が、当該会社が定年後の雇用継続措置を取らなかったことが、高年齢者雇用安定法9条に違反し不法行為責任を生じさせると主張した事例において、当該法律は私法上の効果を認めたものではないとして、その請求を棄却する判断がなされました(大阪高等裁判所平成21年11月21日判決)。その他、労働者が、会社に対し、会社が定年後の再雇用における現役時代よりも賃金を減額したことが、高年齢者雇用安定法の趣旨に反すると主張して、現役時代との差額を請求した事例において、裁判所は、高年齢者雇用安定法の私法上の効力を否定して、当該請求を棄却する判断を行ったこともありました(平成22年3月22日高松高等裁判所判決)。なお、後者の事例については、今後は、正社員と定年後の嘱託社員(有期雇用)との間の同一労働同一賃金の問題になっていくと考えられます。

高年齢者の再就職の援助

企業には、高年齢者雇用安定法11条に基づき、同法9条1項の定年等の事由により退職することとなる高齢者が再就職できるようにするために、再雇用の機会付与、そのための職業訓練又は求人の開拓等を行うように努める義務が課されています。

高年齢者の雇用管理に関する措置

高年齢者の意欲と能力に応じた雇用機会の確保のため企業が行うべき事項に関する指針を定める「高年齢者等職業安定対策基本方針」(以下「指針」といいます)においては、企業には、高年齢者がその意欲と能力に応じて65歳まで働くことができる環境の整備を図るため、可能な限り早い時期に必要な措置を講ずるよう努力する義務があることが規定され、特に、企業が継続雇用制度を導入する場合には、原則として希望者全員を対象とする制度としなければならない旨が定められています(2012年高齢者雇用安定法改正参照)。

職業能力の開発及び向上

指針により、企業は、高年齢者の有する知識や経験等を活用できる効果的な職業能力開発の推進のため、公共職業能力開発施設・民間教育訓練機関において実施される職業訓練を積極的に活用しながら、必要な職業訓練を実施することが定められました。

作業施設の改善

高齢者は、若年者に比して加齢により身体的・精神的な機能が減退している場合もあるので、時として、高齢者が職場から排除される危険性も否定できないところがあります。このような事態を避けるために、企業は、当該身体的・精神的機能に応じた作業補助具の導入を含めた機械設備の改善、作業の平易化等、作業方法の改善、照明その他の作業環境の改善、福利厚生施設の導入・改善を通じ、加齢に伴う身体的機能の低下等に配慮することにより、体力等が低下した高年齢者が職場から排除されることを防ぎ、その職業能力を十分発揮できるように努めなければなりません。この場合においては、国が用意している、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構(当該機構の委託を受け、当該機構の業務の一部を実施する法人を含みます。以下「機構」といいます)が有する高年齢者のための作業施設の改善等に関する情報等の積極的な活用を図ることとされています。

高年齢者の職域拡大

企業は、少子高齢化により人口構成が従前と変化していることを考慮に入れ、労働者の年齢構成の高齢化に対応した職務の再設計を行うこと等により、身体的機能の低下等による影響を低減し、高年齢者の能力、知識、経験等が十分に活用できる職域の開発に努めなければなりません。また、企業は、合理的な理由なく、年齢によって高年齢者を職場から排除することのないように配慮しなければなりません。

知識、経験等を活用できる配置や処遇の推進

例えば、一定の領域(製造加工技術その他専門的な技能を要する職種)においては、熟練者の技術は若年者にただちに取って代われるものではありません。そのため、指針において、企業は、このような技術を持つ高年齢労働者に対し、その意欲及び能力に応じた雇用機会を確保するため、職業能力を評価する仕組みや資格制度、専門職制度等の整備を行うことにより、その知識、経験等を活用することのできる配置、処遇を行わなければならないものとされました。

勤務時間制度の弾力化

体力の減少した高齢者にとって、若年者と同様に、常にフルタイムでの勤務を要求されることは、時に過酷です。そこで、指針において、企業は、高齢期における就業希望や体力の多様化に対応するため、短時間勤務、隔日勤務、フレックスタイム制等を活用した勤務時間制度の弾力化を図らなければならないとされました。

事業主が共同で行う取り組みの推進

指針において、同じ産業や同じ地域の企業間であれば、単独で対処するよりも、より幅広い視点から又はより効率的に対応できるとして、高年齢者の雇用に関する様々な経験を共有しつつ、労働者の職業能力開発の支援、職業能力を評価する仕組みの整備、雇用管理の改善等についての共同の取組を推進することとされました。

事業主に給付される「65歳超雇用推進助成金」

制度概要

65歳超雇用推進助成金(以下「本助成金」といいます)は、65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成するものであり、高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現することを目的とされています。また本助成金は次の3コースで構成されています。なお、以下の内容は2020年2月時点の内容をもとに記載していますが、助成金の支給内容については、年度ごとに見直されることがありますので、最新の情報を確認する必要があります。

  1. 65歳超継続雇用促進コース
  2. 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
  3. 高年齢者無期雇用転換コース

コースの概説

65歳超継続雇用促進コース

実施した措置の内容や定年等の年齢の引き上げ幅、60歳以上の雇用保険被保険者数に応じて支給するコースです。

受給要件

【積極要件】

  1. 労働協約又は就業規則により、①65歳以上への定年引き上げ②希望者全員を66歳以上まで雇用する継続雇用制度の導入③定年の定めの廃止のいずれかに該当する制度を実施したこと
  2. Aの制度を規定した際に経費を要したこと
  3. Aの制度を規定した労働協約又は就業規則を整備していること
  4. 高年齢者雇用推進員の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置を実施している事業主であること
  5. 支給申請日の前日において、当該事業主に1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者(例外あり)が1人以上いること

【消極要件】

Aの制度の実施日から起算して1年前の日から支給申請日までの間に、高年齢者雇用安定法8条又は9条1項の規定に違反していないこと。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

以下の要件を満たした場合には、支出経費の最大75%まで助成するというコースです。

受給要件
  1. 高年齢者の雇用管理制度の整備等に係る措置を労働協約又は就業規則に定めていること
  2. 次の(A)~(B)によって実施した場合に受給することができます。

(A)雇用管理整備計画の認定

高年齢者のための雇用管理制度の整備等のため、次の取組に係る「雇用管理整備計画」※を作成し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の理事長に提出してその認定を受けること

※「雇用管理整備計画」 高年齢者の雇用の機会を増大するための能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入または医師もしくは歯科医師による健康診断を実施するための制度の導入

(B)高年齢者雇用管理整備の措置の実施

(A)の雇用管理整備計画に基づき、同計画の実施期間内に高年齢者雇用管理整備の措置を実施すること

高年齢者無期雇用転換コース

50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者の無期雇用労働者への転換を実施した場合に受給することができるコースです。

受給要件
  1. 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者に対し
  2. Aの労働者を無期雇用労働者への転換を実施し、
  3. その際に以下の(A)及び’(B)の要件を満たすこと

(A)無期雇用転換計画の認定

「無期雇用転換計画」を作成し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長に提出してその認定を受けること。

(B)無期雇用転換措置の実施

(A)の無期雇用転換計画に基づき、当該計画の実施期間中に、高年齢の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換すること。

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