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秘密保持契約書について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労使間あるいは企業間で秘密保持契約を結び、情報の受領者に秘密保持義務を課すことは、企業を経営するうえで重要な「秘密情報」の漏洩を防ぐための手段として、非常に効果的です。自社の競争力を損なわないためにも、労働者や他企業とは有効な秘密保持契約を結んでおくことが重要といえます。そのためには、契約および契約書の内容が実態に即した適切なものである必要があります。

本記事では、有効な秘密保持契約書を作成するうえで役立つ知識について、解説していきます。

秘密保持契約書の作成について

秘密保持契約は、「NDA」や「機密保持契約」とも呼ばれており、企業が保有する秘密情報について、第三者への漏洩や目的外使用を禁止することを定める契約のことを指し、契約書を作成するのが通常です。

万が一秘密保持契約書に重大な不備があると、契約が無効になってしまいます。例えば、秘密情報の範囲を過度に広範なものにすると、必要性や合理性が認められず、公序良俗違反として無効とされてしまう場合があるので、慎重に作成するようにしましょう。

秘密保持契約の必要性

秘密情報の価値は、第三者に漏洩された時点で大幅に低下してしまいます。例えば、特許法上、「特許出願前」に「公然知られた発明」は、特許の対象とならない(特許法29条1項1号)とされています。そのため、特許の取得を考えている場合は、秘密保持契約を締結し、秘密情報を保護しておくことが重要になります。

また、秘密保持契約等の取り決めがなければ、情報を無断使用された場合に法的な救済措置を受けることは困難です。例えば、不正競争防止法は、「営業秘密」の受領者が図利加害目的で「営業秘密」を使用・開示する行為を、不正競争のひとつ(不正競争法2条1項7号)として防止の対象としていますが、秘密保持契約を締結せずに開示された情報は、「営業秘密」には該当しないおそれがあります。

秘密保持契約書の必要項目

秘密保持契約書には、以下のような項目を設ける必要があります。

・秘密情報の定義
秘密保持契約を有効なものとするためには、漏洩が禁止される「秘密情報」の定義を明確にしておく必要があります。したがって、秘密保持契約書内に秘密情報を定義する項目を設け、外部に漏洩してほしくない具体的な情報を秘密情報として明記することになります。

また、秘密情報の受領者が開示前から知っている情報や公知の情報に関しては、例外として秘密情報の対象から除外し、受領者の負担を軽減しましょう。

なお、秘密情報の詳細に関しては、下記の記事をご覧ください。

秘密保持義務について

・秘密保持義務の内容
「秘密情報を第三者に開示することの禁止」や「秘密情報を目的外使用することの禁止」等、情報の受領者が負う義務の内容を明記し、具体的に特定できるようにします。

・情報の使用目的
秘密情報の目的外使用を禁止するためにも、受領者と秘密情報を共有する本来の目的、つまり秘密情報の使用目的を規定することが必要です。秘密情報の保護や目的外使用の禁止という契約の目的と併せて記載される例がよくみられます。

・複製の禁止
漏洩のリスクを低減するために、一般的に、受領した秘密情報の複製(紙やデータのコピー)を禁止する旨の規定を設けることが多いです。

・秘密情報の返還・廃棄
漏洩や目的外使用のリスクを減らすため、秘密保持契約の期間満了後、秘密情報が記載された資料を返還あるいは廃棄してもらうことも規定しておくと良いでしょう。

・秘密保持の検査権
情報受領者の事業所や営業所への立入検査に同意する旨の規定を設けておくことで、開示した秘密情報の利用状況を把握し、場合によっては秘密保持に関する措置の是正を求めることができるようになります。

・損害賠償
万が一秘密情報の漏洩や目的外使用がなされ、損害が発生した場合に備えて、損害賠償請求ができる旨を定めましょう。このようにすることで、情報受領者の秘密保持義務に関する意識を高めることができます。

・差止請求
損害賠償請求に加えて、秘密情報の漏洩や目的外使用がなされた場合に、開示者は秘密情報の使用差止請求ができる旨も定めておきましょう。

・権利帰属
秘密情報に基づき発生する権利(著作権、特許権等の知的財産権)は、秘密情報の開示によって受領者に移転する、または使用が許諾されるものではない旨を規定しておくことも重要です。また、秘密情報を利用して新たな発明がなされたり、著作物やノウハウが発生したりした場合の取扱いについても、「協議によって定める」等、あらかじめ設定しておくことをお勧めします。

・義務の不存在
秘密保持契約の締結によって、秘密情報の開示者が情報の開示を義務づけられる、あるいは受領者と何らかの取引を開始する義務を負うことはないこと、また、秘密保持義務を遵守する受領者が、情報の使用目的と同一または類似の取引をすることを妨げられることはないといった、義務の不存在を確認する項目を設けると良いでしょう。

・反社会的勢力の排除
契約当事者が将来にわたって反社会的勢力と一切関わりがないことを確認するとともに、違反した場合の制裁規定を設けます。

・合意管轄
秘密保持契約に関して訴訟になった場合を想定し、自社にとって利便性が高い地域の裁判所を当該訴訟における管轄裁判所として定めておくと、いざというときに労力を節約することができます。

・準拠法
秘密保持契約の相手方が海外企業の場合には、いずれの国の法律を適用するのか争いにならないよう、当該秘密保持契約書が日本法に準拠して解釈、履行されることを明記しておくことが大切です。

・協議条項
秘密保持契約書に明記されていない事柄や、明記されている項目に関して疑義が生じた場合は、協議のうえ解決するといった旨の規定を設けておくと良いでしょう。

・契約の年月日、署名(又は記名)、押印
秘密保持契約を有効なものにするためには、契約の年月日、署名(又は記名)、押印の欄を必ず設け、記入を忘れないようにしましょう。

印紙や割印の必要性

秘密保持契約書は、原則として印紙税法上の課税文書には該当せず、印紙税がかかりません。したがって、原則として、収入印紙を貼付する必要はありません。ただし、契約書を作成することによって得られる経済的利益があったり、法律関係が安定化したりする場合には、課税文書に該当する場合があるので、ご不安な場合は弁護士にご確認ください。

また、秘密保持契約書が複数枚になる場合には、改ざんを防ぐため、割印や契印をすることが必要になります。

雛形を利用する場合

インターネット上には、秘密保持契約書の雛形が多数公開されており、そのまま利用することができます。しかし、雛形はあくまで基本的な書式であるため、自社に適した内容に修正しておかなければ、万が一秘密情報の漏洩等が起こった場合に、法的な救済を得られないおそれがあります。

自社に適した有効な契約書とするために最も重要なのが、契約書上の秘密情報の定義について、具体的かつ明確に記載することです。もし、秘密情報の定義が不十分だった場合、重要な情報が保護の対象から漏れてしまうおそれがありますし、その反対に秘密情報の範囲をあまりに広く定めた場合には、必要性や合理性が認められず、公序良俗違反として契約自体が無効とされてしまうおそれがあります。

雛形を利用する場合には、上述した、契約書に記載すべき必要項目が揃っているかをよく確認したうえで、自社に適した契約書にするために適宜修正しましょう。

秘密保持契約書の有効期限

秘密保持契約については、法律上の期限が定められていないので、契約書に期限を明記しておく必要があります。

秘密保持契約にあたって有効期間をどの程度にするかは、対象となる秘密情報の価値の大きさ、価値が保持される期間の長さによって判断します。一般的に、技術情報等の有効期間は2~3年に設定するケースが多くみられますが、1年ごとに自動更新していくケースもあります。また、受領者による秘密情報の利用権自体は終了させた後も、第三者への開示等をしてほしくない秘密情報については、受領者の秘密保持義務を延長させるケースも見受けられます。

秘密保持契約の終了に伴って秘密情報の取扱いが大きく変わるため、有効期間については慎重に設定することが求められます。

秘密保持契約の締結のタイミングと締結後の注意点

締結のタイミング

秘密保持契約は、情報を開示する前の取引交渉段階であらかじめ締結しておくべきです。万が一締結前に情報を開示してしまった場合には、契約書に「〇年〇月〇日(情報を開示してしまった年月日)以降に開示した情報を含む」といった記載をし、秘密保持契約の対象となる秘密情報に、既に開示してしまった情報を含める等の方法で対処します。

また、特に労働者を相手方とする場合は、入社時や昇進時等、関係が良好な時に、退職後の秘密保持義務に関する規定を含めた秘密保持契約を締結しておくと良いでしょう。なぜなら、退職時には労働者との関係が悪化している可能性があり、秘密保持契約の締結が難航するおそれがあるからです。

締結後の注意点

開示する側でたびたび生じるトラブルとしては、秘密保持契約書で定義していない重要な情報を開示してしまうことが挙げられます。この場合、たとえ秘密保持契約を結んでいても、受領者は当該情報に関しては秘密保持義務を負わないと判断され、仮に漏洩や目的外使用による損害が発生しても、法的な救済を受けられないおそれがあります。

これは、労働契約に付随して秘密保持義務を負うとされる労働者を受領者とする場合でも同様なので、注意する必要があります。

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