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労働者が死亡した場合の退職金について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

退職金制度について労働基準法上の規程はないため、各会社の裁量で、就業規則に則った運用がなされることになります。したがって、就業規則の整備が不可欠となります。

殊に「死亡退職金」の取扱いについては、きちんと理解したうえで必要な規定を設けて運用しなければ、支払先等に関して亡くなった労働者のご遺族とのトラブルに発展するおそれがあります。

本記事では、「死亡退職金」の支払いに関して会社が把握しておくべき点について解説していきます。

死亡退職金について

「死亡退職金」とは、労働者の死亡による退職を機に発生する退職金のことであり、死亡した本人の代わりに遺族に対して支払うものです。

ここで、以降「死亡退職金」の詳細を説明していく前に、①労働者が退職後に死亡した場合の退職金と、②労働者の死亡によって退職した場合の退職金との、性質の違いを明確にしておきましょう。

労働者が退職後に死亡した場合の退職金

労働者の退職を機に発生した退職金債権を、労働者本人が取得したものの、退職金未支給のまま死亡した場合、その未払い退職金の請求権は相続財産となります。したがって会社は、遺言で指定された取得者または法定相続人に未支給分の退職金を支払うことになります。

つまり、この場合の退職金は相続財産の一つとして扱われることから、本記事で述べる「死亡退職金(=労働者の死亡による退職を機に発生する退職金)」とは基本的に性質を異にするものといえます。就業規則の退職金規程に定められた「死亡退職金」の受給権者には退職金請求権はないものと解されるため、支払先には注意しなければなりません。

労働者の死亡によって退職となった場合の退職金

労働者が在職中に死亡し、それにより退職となったことを機に発生する退職金は、本記事で定義する「死亡退職金」にあたります。よって、以降は本項の内容をベースに説明していきます。

「死亡退職金」の支払先は、就業規則の退職金規程の内容によって決まります。

就業規則の退職金規程に「死亡退職金」に関する規定はあるものの、受給権者の範囲、支払先の順位について特段の定めがない場合、この退職金は相続財産に属するものと解され、前項の場合と同様に扱います。他方で、特段の定めがある場合には相続財産には属さず、規定に基づいた受給権者が、受給権者固有の権利として退職金請求権を取得することとなります。

なお、会社が「死亡退職金」の受給権者の範囲や支払先の順位を定めるにあたっては、労働基準法施行規則42~45条あるいは労災保険法16条の7に準ずる運用とすることが一般的です。

例えば、死亡した労働者に配偶者と子等の法定相続人(又は遺言で指定された者)がいた場合に、退職金請求権が相続財産に属するか、受給権者固有の権利に属するかで、支払先は原則として以下のように異なります。遺族とのトラブルを予防するためにも、受給権者の範囲、支払先の順位については明確に定めておくべきでしょう。

《属性》
相続財産:配偶者、子等の法定相続人(又は遺言で指定された者)
受給権者固有の権利:配偶者(事実婚の関係にある者を含む)のみ※1

※1:労働基準法施行規則42条に準じた場合

死亡退職金の支払期日

労働者が死亡した場合の賃金について、労働基準法23条は“権利者(支払先となる法定相続人または「死亡退職金」の受給権者)から請求があった日から7日以内(土日祝日を含む)”に支払うよう会社に課しています。

ただし、就業規則に退職金の支払期日を明確に定めている場合には、労働基準法23条は適用されず、就業規則であらかじめ定めた支払期日に支払えば良いものとされています(昭和26年12月27日基収5483号、昭和63年3月14日基発150号)。

退職金制度を設けている会社では、運用のための規程を整備しておくのが通常ですが、その際には計算・支払方法だけでなく、支払期日についても定めておくことが重要です。

相続人不明の場合の死亡退職金

相続財産性を有する「死亡退職金」の支払先は、遺言による指定がなければ法定相続人となりますが、相続人の存否が不明な場合には、相続人調査を行う必要があります。具体的には、死亡した労働者の出生から死亡までのすべての戸籍謄本等を取得して、相続人にあたる者がいないかどうかを確認します。

調査の結果、相続人の存在が判明すれば、「死亡退職金」の支払先はその相続人となります。他方で、相続人がいないことが判明したときには、家庭裁判所に対して相続財産管理人選任の申立てを行い(民法952条)、選任された相続財産管理人が「死亡退職金」を管理していくこととなります。

相続人不明の場合の供託

死亡した労働者の相続人が不明の場合、会社が相続人の調査を行うことがありますが、容易ではありません。時間や手間、費用がかかってしまいます。このように、「死亡退職金」を誰に支払えば良いかわからない場合は、債権者不確知を理由に法務局に弁済供託をすることが可能です(民法494条)。

ただし、相続人を確認できないことが、会社の過失によるものではないことが要件となるため、相応な調査が必要とされます。

問題社員への死亡退職金について

就業規則において、懲戒解雇とした労働者の退職金を不支給等とする旨の規定を設けている会社は多くあります。では、そのような規定がある場合に、業務上横領等の懲戒解雇事由にあたる問題行為があったことが労働者の死亡後に判明したケースでは、どのような扱いとなるのでしょうか。

この場合、労働者が死亡退職した時点で退職金債権が発生していること、また、退職した者を懲戒解雇処分にはできないことから、基本的には退職金を支払うことになります。

ただし、退職後に懲戒解雇事由の存在が判明したときに、退職金を不支給又は減額とすることができる旨や、退職金の返還を求める旨の規定を別途設けている場合で、労働者に“よほどの行為”があれば、退職金の不支給等が認められることがあります。裁判例の多くは、とりわけ功労報酬的な性格を有する退職金の不支給・減額について、“労働者の勤続の功績を抹消又は減殺する程度に著しい不信行為”が認められるケースに限り可能としています。

死亡退職金支払時の提出書類

以下、「死亡退職金」の支払い時に、会社が提出要否の判断に迷いやすい書類の扱いについて解説します。

「退職所得の源泉徴収票」の要否

会社が“所得税が課税される退職所得”を支払う場合には、源泉徴収票を税務署に提出し、また支払先の者に交付しなければなりません(所税法226条2項)。しかし、「死亡退職金」は相続税の計算の基礎に算入されるため、所得税は課税されません(所得税基本通達9-17)。したがって、「死亡退職金」の支払いについて所得税法226条2項の適用は受けず、源泉徴収票の提出及び交付は不要と解されています。ただし、次項にあげる書類の提出は必要となる可能性があります。

「退職手当等受給者別支払調書」の要否

「死亡退職金」は、受給権者固有の権利として取得させたものであっても、みなし相続財産として相続税の課税対象となります(相税法3条1項2号)。

会社は、みなし相続財産である「死亡退職金」の支払額が受取人ごとに100万円を超える場合には、「退職手当等受給者別支払調書」を税務署に提出しなければなりません(同59条1項2号)。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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