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労働条件明示

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

会社が従業員(労働者)を雇用するにあたり、どのように雇用してもいい、というわけではありません。会社と従業員の間には雇用する側という経済的・社会的強者、される側という経済的・社会的弱者という明らかなパワーバランスが存在します(そもそも、多くの労働者は会社からの給料により生活しているのが実情です。)。

そのため、会社が従業員を雇用するにあたっては、いくつかの法的規制が存在します。その中の一つが、労働者に対する会社の雇用条件明示義務(労働基準法15条1項)です。

採用における労働条件の明示義務

上記したような理由から、使用者(会社)には労働条件明示義務が課されています。詳しい内容については後述しますが、使用者(会社)には、これを遵守しなければ様々なペナルティーが存在することになります。

例えば、明示された労働条件と実際の労働条件が異なる場合は、労働者側からの即時の労働契約の解除(=退職)が認められています(労働基準法15条2項)し、使用者(会社)で働くために、労働者が引越をしたにもかかわらず、労働基準法15条2項により、労働契約を解除し、14日以内に帰郷する場合には使用者(=会社)はその旅費も負担する必要があります(労働基準法15条3項)。

さらに、労働基準法15条1項、3項違反には30万円以下の罰金が定められています(労働基準法120条)。

明示すべき労働条件の内容

労働者の雇入れに当たって、労働条件を明確にしていないと、後日、労使紛争を引き起こしかねません。そこで労働基準法15条1項では、労働契約の締結又は更新の際に、労働条件のうち一定の事項を明示しなければならないと使用者に義務付けています。

その明示すべき労働条件には、法律上必ず明示しなければならない事項(絶対的明示事項)と、使用者が定めをした場合には必ず明示しなければならない事項(相対的明示事項)とがあり、具体的な内容については次の項目で説明します。

この絶対的明示事項については、「昇給に関する事項」を除き、書面の交付により明示しなければならないとされています(労働基準法施行規則5条2項、3項)。一般的には雇用契約書や労働条件通知書といった書類で明示しています。

反対に、相対的事項及び絶対的明示事項のうちの「昇給に関する事項」については書面の交付によらず、口頭により明示してもよいとされています。

そのため、労働基準法違反に該当するのは、あくまでも絶対的明示事項について書面による交付を行わなかった場合となります。また、これら以外の労働条件(福利厚生等)を明示しない場合であっても労働基準法15条1項違反とはなりません。

実務上の労働条件を明示するタイミングとしては、労働契約が成立して、勤務を開始するのが正しい順番となるため、遅くても従業員が初出勤をする前には明示したほうが良いでしょう。また、労働基準法の改正により2019年4月以降は書面の交付に加えて、従業員本人が希望した場合はFAXや電子メールによって明示する方法も認められるようになりました。

絶対的明示事項

労働条件の絶対的明示事項は以下のとおりです。

  1. 雇用契約の期間に関する事項(労働基準法施行規則5条1項1号)
  2. 就業の場所、従事すべき業務に関する事項(同規則5条1項1号の2)
  3. 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項(同規則5条1項2号)
  4. 賃金(退職金、賞与を除く)の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切・支払いの時期、昇給に関する事項(同規則5条1項3号)
  5. 退職に関する事項(同規則5条1項4号)

上記5項目は労働条件に必ず盛り込まなくてはなりません。

そして、4の項目の中にある「昇給に関する事項」を除き、雇用契約書や労働条件通知書といった書面又はFAXや電子メールの交付により、明示しなければなりません。

相対的明示事項

また、相対的明示事項は以下のとおりになります。

  1. 退職金(労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払の方法及び支払いの時期)に関する事項(労働基準法施行規則5条1項4号の2)
  2. 臨時の賃金及び最低賃金額(同規則5条1項5号)
  3. 労働者に食事、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は、これに関する事項(同規則5条1項6号)
  4. 安全及び衛生に関する定めをする場合は、これに関する事項(同規則5条1項7号)
  5. 職業訓練に関する定めをする場合は、これに関する事項(同期毒5条1項8号)
  6. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合には、これに関する事項(同規則5条1項9号)
  7. 表彰及び制裁の定めをする場合は、種類及び程度に関する事項(同規則5条1項10号)
  8. 休職に関する事項(同規則5条1項11号)

労働条件明示の時期

まず、使用者(=会社)は、労働者の募集を行う時点で、労働条件の明示を行うことが職業安定法5条の3によって義務付けられています。この段階での労働条件の明示について、使用者は、求人の募集の時点の賃金額を示すこと足りるとされているため、現行の給与の金額や見込み額を提示し、実際の入社時において確定した賃金額を提示することも可能です。

次に、法律上の義務としては労働契約法4条に、使用者は提示する労働条件、及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにする義務、及び使用者・労働者の双方に対し、当該労働契約の内容について、できる限り書面により確認する義務が課せられています。

更に、労働基準法15条の規制により、労働所条件の明示は、労働契約の締結時(内定も判例上、故労働契約の成立と解されています。)に行われる必要があります。

この点、使用者には、いずれのタイミングにおいても労働者の期待権を侵害してはならない信義則上の義務が課せられているため、求人時や採用内定時の労働条件を合理的な理由なく、かつ、信義則に反する程度に変更する場合には、使用者に不法行為が成立する可能性があるので注意が必要です。

新卒採用における労働条件の明示

新卒採用の場合、どの時点で労働契約が成立すると考えるのが適切でしょうか。

この点、まず、労働契約法6条は「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と規定しています。そして、判例は、採用内定の法的性質について、労働者の労働契約の申込みに対する承諾であると解しており、採用内定を受けたものと使用者との間に、就労の始期を大学卒業後とし、それまでの間、一定の内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立した、と解しています。

そのため、上記したように原則として採用内定時に労働条件は提示すべきこととなりますが、労働者の期待権を侵害しなければ、実際の入社時に明示することで足りる、とされているのが実務上の運用です。

労働条件の有効性

上記のとおり、使用者(=会社)に一定の制限はあるものの、労働契約も契約ですので、基本的には使用者・労働者の合意によって、その内容が決定されることになります。

しかし、ここでも使用者(=会社)と労働者のパワーバランスを考える必要があることから、ここにも一定の制限が使用者(=会社)側に課されることになります。

まず、労働基準法違反(労働基準法で定める条件以下)の労働契約は無効となり、労働基準法上の条件に強制的に引き直されることになります(労働基準法13条、労働契約法13条)。また、労働基準法上の条件より有利な条件が当該事業場の就業規則において定められている場合には、その就業規則の条件に引き直されることになります(就業規則の最低基準効、労働契約法12条)。

もっとも、個別の労働契約において、労働基準法や就業規則よりも労働者に有利なものについては有効となります。

書面の交付による明示義務

上記したように、労働基準法施行規則5条3項で規定されている就業規則の絶対的記載事項については、同規則5条4項により、書面による明示義務が使用者に課せられています。もっとも、例外的に昇給に関する事項については、絶対的明示義務ではあるものの、書面を交付する必要はありません(同規則5条2項)。

労働条件通知書の作成

では、使用者は具体的にどのような書面で労働者に労働条件を通知すればよいのでしょうか。

書面の形式について法律で具体的には定められてはいません。すなわち、少なくとも絶対的明示事項が示されている書面であれば、少なくとも労働基準法などの法律違反に即時になる、ということにはなりません。

一般的な実務では雇用条件通知書や雇用契約書(労働契約書)が用いられており、厚生労働省のホームページでもこれらのひな形が公開されています。

それぞれの文書に具体的な定義があるわけではないのですが、雇用契約書であれば、使用者・労働者双方の判子を付く形態のものが一般的であり、雇用条件通知書は使用者が労働者に対して一方的に労働条件を「通知」するものですので、労働者側の判子は押さないものが一般的です(雇用条件通知書の受領書の提出を労働者に求める場合はあります。)。

口頭による明示が認められる場合

上記してきたように、絶対的明示事項については口頭での提示は認められず、書面での提示が義務付けられています。

もっとも、それ以外の労働条件については、書面によることは必ずしも要求されていません。すなわち、口頭での提示も許される、ということになります。

もっとも、上記したように、労働契約法4条の義務が使用者には課されていますが、これらの義務については、努力義務であり、これに違反したことにより直接の制裁を受けるわけではありません(労働契約法4条を遵守した方が、余計なトラブルが発生しない、という意味では遵守すべき条項ではあります。)。

平成31年4月の法改正による多様化

上記のように、労働基準法上は絶対的明示事項については書面による提示のみが規定されています。しかし、平成31年4月の労働基準法施行規則の改定により、労働基準法施行規則5条4項で明示の方法について、FAXや電子メールでの明示が可能になりました。

もっとも、どのような場合でもこういった提示方法が可能なわけではありません。以下の要件を具備する必要があることに注意が必要です。

  1. 労働者からの希望があること(同規則5条4項ただし書き)
  2. 特定の受信者宛ての電気通信であること(同規則5条4項2号)
    →特定の受診者宛てであることが必要ですので、ホームページでの公開や、ブログでの公開では意味がないことに注意が必要です。
  3. 出力して書面を作成できること(同規則5条4項2号括弧書)
  4. 到達を確認すること

あくまで書面を提示することに代わる明示の方法ですので、こういった要件を具備しなければ、書面の提示とは同等とみなされないことになります。

パートタイマーへの明示義務

正社員ではない、いわゆるパートタイマー(アルバイト等も当然この概念に含まれます。)に対しても、労働者であることには変わりがないことから、労働条件の明示義務が使用者に課せられています(パートタイム労働法第6条第1項、同法施行規則第2条)。

これらの規定では、労働条件の明示義務が労働契約の締結時に書面で行わなければならないことに注意が必要です。

また、これらの規定においては、上記した労働基準法上の明示義務事項のほかに、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」について明記する必要があります。

派遣労働者への明示義務

派遣労働者も労働者であることには変わりがありません。そのため、派遣労働者に対しても、就労条件の明示義務が労働者派遣法34条1項において定められています。

実務的には、派遣労働者の方に対しては、「雇用条件(=労働条件)通知書」と「就業条件明示書」が交付されます。雇用条件通知書については、上記したように絶対的明示事項について、労働基準法に基づいて交付が要求されているものの一例であるのに対し、就業条件明示書は労働者派遣法において要求されている書面という意味で違いが存在します。

しかし、実際のところ、両書面の内容は共通するものが多いことから、実務的には「雇用条件通知書兼就業条件明示書」といった書面を使用者が労働者に対して交付し、実質的に1種類の書面としてしまうことが多いといえます(内容さえ満たしていれば、形式的に2種類の書面を交付すべき義務が使用者に課されているわけではありません。)。

具体的には上記した労働基準法上の絶対的明示事項に加え、当該労働者を派遣する旨、及び派遣先での就業条件等を記載することになります。

2020年4月の法改正による説明義務

働き方改革の実施により、正規雇用とそうでない雇用形態の従業員についていわゆる「同一労働・同一賃金」ルールが適用されることになりました。

今年(2020年)の4月から適用されるルールになりますが、使用者は労働者に対して、均等、均衡待遇に関する措置の内容を説明する義務が発生することになり(労働者派遣法第31条の2第2項)、従業員から説明を求められた場合には、使用者は本人の雇用条件における待遇差の内容、説明を行う必要があります。

また、この使用者の説明義務については、書面の交付が義務付けられているものではありませんが、書面を活用しながら口頭で、労働者の十分な理解を得られるような説明を行うよう、使用者側は努める必要があります。

明示義務違反があった場合

労働条件の明示義務は上記したように、使用者(=会社)と労働者のパワーバランスの観点から使用者側に一方的に課されている義務になります。

この労働条件明示義務違反については労働基準法120条1号が30万円以下の罰金を使用者に科す旨が規定されている他、後述するような労働者側の即時解雇権等、使用者(=会社)にとって制裁的な規定が存在していますので、注意が必要です。

即時解除権について

使用者(=会社)において、労働条件の明示義務違反が発生している場合、労働基準法15条2項により、労働者に契約解除権が発生します。

本来雇用契約(=労働契約)の解約については民法627条1項で解約の申入れから2週間の期限の経過が必要となりますが、労働基準法15条2項は使用者の労働条件明示義務違反については「即時に労働契約を解除することができる。」旨を規定しています。

さらに、当該労働者が就業の為に引っ越してきた場合、契約解除から14日以内に帰郷するのであれば、使用者はその旅費を負担しなければならないことは上記のとおりです。

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