障害者雇用促進法における相談体制の整備、苦情処理、紛争解決の援助

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
法律では、障害をもつ従業員が、ほかの従業員と公平な環境で働けるよう、さまざまなルールが定められています。
しかし、障害を持つ従業員と事業主側との認識の差異、障害者に対する配慮が行き届いていないなど、障害を持つ従業員が実際に働いてみて初めて感じる不都合や不平も出てくるでしょう。
そこで、このページでは、障害をもつ従業員が感じた不都合や不平を解決するために、事業主が整えておくべき体制について、そして、紛争に発展した場合に利用できる具体的な援助制度等について紹介していきます。
目次
障害者雇用促進法における相談体制の整備、苦情処理、紛争解決の援助について
障害者雇用促進法には、先の改正(平成28年4月1日施行)によって、主に次の3つのルールが定められています。
- ①障害者に対する差別の禁止
- ②障害者に対する合理的配慮の提供義務
- ③相談体制の整備・苦情処理・紛争解決の援助
このページでは、③のルール(①・②に関する障害者からの相談や苦情、紛争を解決するための仕組み)について詳しく解説していきますが、その前に少しだけ、①・②のルールについて確認しておきましょう。
障害者に対する差別の禁止
「①障害者に対する差別の禁止」は、労働者の募集・採用や、採用後の待遇について、“障害者”であることを理由に差別的な取扱いをしてはならないというルールです(障害者雇用促進法34条、35条)。例えば、車いす利用者であることを理由に採用を拒否すること等が例として考えられます。さらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
障害者に対する合理的配慮の提供義務
「②障害者に対する合理的配慮の提供義務」は、障害がある人とない人の間で、雇用機会や待遇を平等に確保するために“支障となっている事情”を改善・調整する対応策を講じるよう、事業主に義務付けるルールです(障害者雇用促進法36条の2、36条の3、36条の4)。
例えば、車いす利用者に合わせて事務机の高さを調整すること等が例として考えられます。さらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
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相談体制の整備
それでは本題である「③相談体制の整備・苦情処理・紛争解決の援助」のルールを詳しくみていきましょう。
まず、事業主は、障害者からの相談に適切に対応するために雇用管理上必要な、相談体制の整備をしなければなりません。以下、3つのポイントを紹介します。
相談窓口
例えば、障害者からの相談対応をする部署、あるいは担当者を定めたり、相談対応を外部の機関に委ねたりといったように、あらかじめ「相談窓口」を定め、かつ労働者に周知する必要があります。相談窓口の担当者を決定したら、障害者を採用した時点で、マニュアル、リーフレット、チラシ等(窓口担当者の部署、氏名、電話番号やメールアドレス等を記載)を適宜の方法で、配布することが考えられます。
また、「相談窓口」の担当者が、相談の内容に応じて適切な対応ができるよう、運用の整備をしておくことも重要です。具体的には、窓口担当者用にマニュアルを作成しておくこと等が考えられます。
採用後に合理的配慮に関する相談があったときの適切な対応
採用の決定後に、労働者から障害に関する合理的配慮を希望する旨の相談があった場合には、速やかに“支障となっている事情”を確認し、「合理的配慮の手続き」を行います。
例えば、「車いす利用者から、机が高すぎてキーボードのタイピングに支障があります、他の机を使わせてもらえませんか」という配慮の希望があったときは、現在の机の高さが本当に合っていないのかを確認したうえ、車いす利用者の身体にあった高さの机を提供する必要があります。
プライバシー保護のために必要な措置
合理的配慮に関する相談で得た情報は、当該障害者のプライバシーにかかわる情報といえます。したがって、事業主は、例えば相談窓口担当者に徹底した情報管理の教育をすること、他の個人情報とは別に保管すること等、プライバシー保護の対策を講じること、また、対策を講じていることについて労働者に周知していることが必要となります。
この点、厚生労働省より事業主に向けたガイドラインが策定されています。以下のページでは、そのガイドラインに沿った解説を記載していますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。
相談を理由とする不利益な取扱いの禁止
事業主は、障害者が合理的配慮に関する相談をしたことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをしてはなりません。また、その旨を記載した就業規則、社内報、社内ホームページなどを掲示・配布することによって、労働者に周知・啓発する必要があります。
苦情の処理
障害者から、「①障害者に対する差別の禁止」・「②障害者に対する合理的配慮の提供義務」に関する苦情を受けた場合、まずは職場の様子や事情をよく理解している事業主と当該障害者、あるいは相談窓口の担当者などで話し合いの場を持ち、自主的に問題解決を試みる努力が求められます。
具体的には、事業主を代表する者と、当該事業所の労働者を代表する者とで構成される、当該事業所内の「苦情処理機関」において苦情処理が行われるような運用とすることなどが考えられます。
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紛争解決の援助制度
事業所内の「苦情処理機関」等を用いても、紛争の自主的な解決が図れないときには、次のような機関の援助を受けられる仕組みになっています(障害者雇用促進法74条の6、7)。
(1)行政機関 ➡ 都道府県労働局長による助言等
*紛争解決にスピード感が求められる場合に有用です。
(2)第三者機関 ➡ 調停制度
*より公平なジャッジを求めたい場合に有用です。
(1)・(2)について、もう少し詳しくみていきましょう。
都道府県労働局長による助言等
「①障害者に対する差別の禁止」・「②障害者に対する合理的配慮の提供義務」に関する紛争について、紛争当事者から援助を求められた(※どちらか一方からの申出も可)都道府県労働局長は、できるだけ自主的な解決に導けるよう、必要な助言や指導、勧告をすることができます。
第三者による調停制度
「①障害者に対する差別の禁止」※1・「②障害者に対する合理的配慮の提供義務」に関する紛争の当事者が都道府県労働局に対して調停を申請し、必要があると認められた場合には、紛争調整委員会に設けられている障害者雇用調停会議によって、調停が行われます。具体的には、調停委員が当事者双方に対して調停案(改善策)提示し、受け入れるよう勧告する流れとなります。
ただし、調停案の受け入れを強制するものではなく、調停が成立しなかった場合には、裁判手続を利用した解決に移行することも考えられます。
※1:「①障害者に対する差別の禁止」のうち、募集及び採用に係る紛争については、雇用関係が発生する以前の問題であることなどから、障害者雇用調停会議の対象にはなりません。
援助を理由とする不利益な取扱いの禁止
事業主は、障害のある労働者が(1)都道府県労働局長による助言等、あるいは(2)第三者による調停制度の利用を求めたことを理由に、解雇などの不利益な取扱いをすることは禁止されています(障害者雇用促進法74条の6第2項)。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある