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労働協約の債務的効力

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働協約は、使用者と労働組合との間で結ばれる契約の一つです。ただ、労働組合法(以下、「労組法」といいます。)14条以下によって特別の効力(これを規範的効力といいます。)を付与された特殊な契約です。それゆえ、労働協約には、通常の契約とは異なる特有の効力があると理解されています。本ページでは、この労働協約に特有の契約上の効力(これを債務的効力といいます。)について詳しくみていきます。

債務的効力の定義

労働協約の効力には、債務的効力と規範的効力の2つがあります。債務的効力とは、労働協約が全体にわたって契約としての性格を保持していることから認められる、協約当事者を拘束する契約上の効力をいいます。その本質が契約上の効力であることからも分かるように、債務的効力は協約全体について生じ、当該債務への違反に対して幻想として相手方へその履行を求めることができます。

規範的効力と債務的効力の違い

規範的効力とは、労働協約で「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」を定めた場合(この部分を規範的部分といいます。)、当該基準に違反する労働契約内容を無効にする法律上の効力をいいます(労組法16条)。労働協約の当事者は使用者と労働組合であるにもかかわらず、規範的部分は、当事者ではない労働者に関する賃金、労働時間、休日、休暇など労働条件を変容させる部分に効力が及ぶことが特徴です。規範的効力について、詳しくは下記のページをご覧ください。

労働協約 労働協約の規範的効力

これに対し、債務的効力は、労働者の労働条件を変容させない部分(これを債務的部分といいます。)にはもちろん、規範的部分に対しても効力が及んでいます。

債務的効力が生じる具体的な条項

労働協約の当事者である使用者と労働組合の間で設定した、団体的労使関係の運営についてのルールが、債務的部分の主要な内容になります。

例としては、「①非組合員の範囲」「②ユニオン・ショップ」「③組合活動に関する便宜供与やルール、団体交渉の手続やルール」「⑤労使協議制」「⑥争議行為の制限」「⑦争議行為中のルール」などが挙げられます。また、「⑧人事に関する事前協議ないし同意条項」や「➈苦情処理手続」のように、労働者の処遇や不満に関して労働協約の当事者間でどのように協議するのか、その手続を定めたものも当てはまります。

履行義務について

労働協約を締結した場合、使用者及び労働組合は、契約当事者として労働協約の内容を遵守し履行する義務を負います。そこで、一方当事者は、他方当事者が協約規定に違反した場合やそれを実行しない場合には、原則として、その履行を請求し、または不履行によって生じた損害の賠償を請求することができます。

ただし、労働協約は、労働条件や労使関係のルール設定という独特の機能を営み、それゆえに特別の効力を付与されている点で通常の契約とは性質を異にします。そのため、一般的な債務不履行の法理をそのままには及ぼせない場面がありますので、注意が必要です。

具体例

例えば、先に述べた項目「2」の⑤に関し、労働協約の中で「就業規則の改廃は、使用者及び労働組合間の事前の協議の上、労働組合の合意を得て行うものとする。」という条項が定められているにもかかわらず、会社が事前協議を行うことなく就業規則を改定しようとした場合、労働組合は、使用者に対し、事前協議を実施するように請求することができます。

履行義務違反が生じた場合

上記のような履行請求に関するトピックは、主に債務的部分に関していえることです。なぜなら、債務的部分は、労働協約の当事者である使用者と労働組合の間の債務の設定を意味しているからです。これに対し、規範的部分は、労働協約の当事者ではない、個々の労働者の労働条件に関わる領域のものです。そのため、労働組合が要求している内容が、規範的部分の履行請求や確認請求であるのか、それとも債務的部分の履行請求であるのかについて見極めることが必要です。

請求訴訟を提起した場合の訴えの利益の有無

規範的部分が個別労働関係上の基準であることからすると、労働組合の使用者に対する規範的部分の履行請求は、個々の組合員が請求権を行使すれば足りる内容である限りは訴えの利益が否定されると考えられます。

もっとも、そのような個々人による請求では規範的部分の実現が期待できない場合は、労働組合自身による履行請求も許容される場面が完全に否定されるわけではありません。

確認訴訟を提起した場合の確認の利益の有無

労働組合の使用者に対する規範的部分の確認請求は、使用者と組合員との間に労働協約上の労働条件の不明確さに起因して争いが生じ、労働協約の解釈が公権的に与えられれば当該労働条件をめぐる紛争が一挙に解決されると予想され、労働組合による労働協約の確認請求が個々の組合員による労働契約上の地位確認請求よりも直截(ちょくせつ)的な紛争解決方法であるといえる場合に限り、認められるとされています(大阪高等裁判所 昭和55年4月24日判決)。

その他損害賠償請求について

労働協約上の履行義務に違反した場合、労働組合は、使用者に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができる場合もあります。

過去の裁判例をみると、使用者が労働協約に定められた手続を履行しなかったことがきっかけで、組合員の中に労働組合の存在価値を疑ったり組合を脱退したりする者まで出たという事案で、使用者の不履行によって労働組合の名誉及び団結権が侵害され、無形の損害として20万円の慰謝料が生じたとして、使用者の債務不履行責任を認めたものがあります(神戸地方裁判所 昭和48年7月19日判決)。

平和義務・平和条項の意義

協約当事者が労働協約の有効期間中に既定の事項の改廃を目的として争議行為を行わない義務を、平和義務といいます。平和義務は、実際上はほとんどもっぱら労働組合の義務として機能しますが、理論上は当事者双方に課された義務ですので、使用者にも平和義務があると理解されます。そして、労働協約中、平和義務を定めた条項を平和条項と呼びます。

なお、もともと労働協約自体が労使間の平和協定としての意義を有しており、契約法上の信義則の内容としても双方で約定した内容である以上、有効期間中はその内容を尊重するのが当然の義務と考えられていることなどから、平和義務は、協約に明示されなくとも当然に生じる義務であると理解されています。

相対的平和義務と絶対的平和義務

労働協約を締結することによって労働組合側が負うことになる平和義務は、その協約で定められた事項についてのみ生じる、相対的な義務です。これを相対的平和義務といい、労働協約内で定められている通常の平和義務は、この相対的平和義務に該当するケースが多いでしょう。なお、労働協約の有効期間中であっても、次期協約の締結に向けて交渉を進めている場合、次期協約の内容をめぐって争議行為を行うことは、相対的平和義務には反しないとされています。

一方で、労働協約の有効期間中は、その協約で定められた事項かどうかを問わず、一切の争議行為を行わない、と特に協定することがあります。このような平和義務は、絶対的平和義務と呼ばれます。

義務違反の効果

損害賠償請求

平和義務違反があった場合、これによって生じた損害の賠償を請求することが認められています。もっとも、平和義務違反を理由とする損害賠償請求においては、損害の範囲について、見解が分かれています。平和義務違反と相当因果関係が認められる損害はすべて含むという考え方と、労使関係上の信義則違反の無形損害、つまり慰謝料にとどめるべきであるという考え方があり、前者の損害範囲を広くとらえる考え方のほうが広く支持されています。

差止請求

平和義務に違反した協約当事者に対する違反行為の差止請求についても見解が分かれています。平和義務が労使関係を安定させる機能を有していることからすれば、このような権利は認められるべきという考え方と、反対に、差し止めについては認めない考え方です。

過去の裁判例では、平和義務は差止請求権までを内容としないと判示したもの(東京地方裁判所 昭和35年6月15日決定)や、差止めの仮処分において保全の必要性はないと判示したもの(東京高等裁判所 昭和48年12月27日決定)があり、実務の傾向としては差止請求については否定的といえるでしょう。

懲戒処分

平和義務や平和条項に違反する争議行為が労働組合によって行われた場合、使用者がその参加者である組合員を懲戒処分とすることができるかという点が問題となります。これについては、平和義務に違反する争議行為は単なる契約上の債務不履行であって、これをもって企業秩序の侵犯にあたるとはいえないと判示した判例(最高裁 昭和43年12月24日第三小法廷判決)もありますので、平和義務や平和条項に違反しているという理由だけでは懲戒処分はできないと考えられます。

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