【働き方改革】同一労働同一賃金ガイドラインの具体例や注意点

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
働き方改革の中心的な施策として、同一労働同一賃金の導入が掲げられています。これは、正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
事業主には、賃金や福利厚生など様々な面で見直しが求められるため、制度の内容を十分理解する必要があります。
本記事では、同一労働同一賃金のルールについて具体例を交えながら詳しく解説していきます。抜け漏れがないよう、しっかり確認していきましょう。
目次
働き方改革にて同一労働同一賃金ガイドラインを策定
「同一労働同一賃金」の下では、同一企業・団体における正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間での、給与や福利厚生など様々な労働条件での不合理な待遇差が禁止されています。
もっとも、これは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間における、あらゆる待遇差を禁止するものでありません。また、各事業者には、同一労働同一賃金の考えに沿った対応を求められることになりますが、いかなる待遇差が不合理であり、いかなる待遇差は不合理でないのかについては、不明確な点が残ります。
そこで、事業主の個別の対応に資するよう、2018年12月18日、厚生労働省は、いわゆる「同一労働同一賃金ガイドライン」(略称)を公表しました。このガイドラインでは、どのような待遇差が不合理となるのか項目ごとに例示されていますので、待遇を決定するのに役立つでしょう。
以下のページでは、公正な待遇を確保するまでの流れ等を解説しています。併せてご覧ください。
同一労働同一賃金ガイドライン
同一労働同一賃金ガイドラインでは、どのような待遇が不合理となるのか具体例を紹介しています。また、合理性の判断基準も項目別に説明しています。
さらに、賃金だけでなく福利厚生や教育訓練にも触れており、広く労働条件一般について不合理な待遇差の解消を推進しています。
では、ガイドラインに記載された項目とは具体的にどんなものでしょうか。以下でひとつずつ説明していきます。
なお、ガイドラインでは、不合理な待遇差であるかを判断するに際して非正規雇用労働者と比較対照される“正社員”(ここでは、正規雇用の労働者及び無期雇用フルタイムの労働者をいうものとします。)を指し示す概念として、「通常の労働者」という概念が用いられています。「通常の労働者」とは、社会通念に従い、比較の時点で事業主において「通常」と判断される労働者のことをいうとされていますが、具体的には上記“正社員”を意味するものと考えられます。以下では、この「通常の労働者」を“正社員”と表記していきます。
基本給
賃金は、毎月支給される月例賃金と、特別に支給される賃金とに区別され、月例賃金は、さらに所定内賃金と所定外賃金に区別されますが、「基本給」とは、一定の支給条件が設けられている各種手当を除いた所定内賃金の主たるものとして支払われる金銭をいいます。
ガイドラインでは、「基本給」について、1能力又は経験に応じて支給するもの、2業績又は成果に応じて支給するもの、3勤続年数に応じて支給するものそれぞれに関して、基本的な考え方が示されています。
以下では、それぞれについて見ていきましょう。
労働者の能力又は経験に応じて支給する基本給
基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、正社員と同じ能力や経験を有する非正規雇用労働者には、その能力や経験に応じた部分について、正社員と同じ金額を支払わなければなりません。また、能力や経験に相違がある場合、その相違に応じた賃金を支給しなければなりません。
この点、以下のようなケースは「問題ない」とされています。
- ある能力の向上のための特殊なキャリアコースと設定している会社が、当該キャリアコースを選択しその結果として当該能力を習得した正社員の基本給については当該能力に応じた基本給とし、当該能力を習得していない非正規雇用労働者には当該能力に応じた基本給としなかった
- 同じ職場で同じ業務に従事している非正規雇用労働者であるAとBのうち、能力又は経験が一定の基準を満たしたAを正社員に登用したところ、Aには定期的な職務の内容や勤務地変更の可能性が生じたことを理由に、Aの基本給をBに比べ高く設定した
- 能力や経験は同じ正社員Aと非正規雇用労働者Bがいる会社において、AとBに共通して適用される基準を設定し、就業日や就業の時間帯が休日や深夜にわたるAの時間当たりの基本給を、平日の昼間のみ働Bよりも高くした
一方、以下のケースは「問題あり」とされています。
非正規雇用労働者Bと比べて多くの経験がある正社員Aの基本給をより高く設定したが、Aの経験は現在の業務と関連がない(別業界からの転職など)
労働者の業績又は成果に応じて支給する基本給
労働者の業績又は成果に応じて支給する基本給について、非正規雇用労働者が正社員と同じ業績又は成果を上げている場合、その業績又は成果に応じた部分について、正社員と同一の基本給を支払わなければなりません。また、業績又は成果が異なる場合は、その違いに応じた基本給を支給しなければなりません。
具体的に、以下のようなケースは「問題ない」とされています。
- 基本給の一部について労働者の業績又は成果に応じて支給している会社において、所定労働時間が正社員の半分であり正社員に設定されている目標数値の半分を達成した非正規雇用労働者に対し、正社員が目標数値を達成した場合の半分の基本給に支給した
- ノルマ未達成であれば待遇上の不利益を課される正社員に対し、ノルマ未達成の場合の待遇上の不利益を課されていない非正規雇用労働者よりも、待遇上の不利益の見合いに応じて基本給を高く支給している
一方、以下のケースは「問題あり」といえます。
基本給の一部について労働者の業績又は成果に応じて支給している会社において、目標達成時に行っている支給を正社員だけに行い、正社員と同じ目標を設定した非正規雇用労働者には行っていない
労働者の勤続年数に応じて支給する基本給
基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するものについて、正社員と同じ年数勤続する非正規雇用労働者には、勤続年数に応じた部分について正社員と同じ賃金を支払わなければなりません。また、勤続年数に違いがあれば、その違いに応じた賃金を支給する必要があります。
ここで問題となるのは、主に有期雇用労働者(契約社員など)です。例えば、当初の契約時から通算した年数を基準としていれば問題ありません。
一方、契約更新の度に勤続年数をリセットし、当該契約中の期間のみを基準とするのは不合理とされています。
労働者の勤続による能力の向上に応じて行う昇給
昇給についても、基本給と同じように考えます。勤続によって能力が向上した非正規雇用労働者には、向上した部分について正社員と同じ昇給を行わなければなりません。また、能力の向上に一定の差がある場合、その差に応じた昇給を行う必要があります。
例えば、雇用形態を問わずすべての労働者に定期昇給制度を設けるのはもちろん、昇給ルールまで開示するとなお良いでしょう。
一方、雇用形態によって賃金の決定基準が異なる場合、その要因として正社員と非正規雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「正社員と非正規雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、以下3つの要素のうち、問題となっている待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの実態に照らして、不合理と認められるものであってはならないとされています。
- ①職務内容
- ②職務内容・配置変更の範囲
- ③その他の事情
賞与
賞与も、すべての労働者に公平に支給しなければなりません。つまり、正社員と非正規雇用労働者が会社に同等の貢献をした場合、貢献した部分については同額の賞与を支給する必要があります。また、貢献度に差がある場合、その差に応じた賞与を支給します。
賞与の差は労働者のモチベーション低下や関係悪化にもつながるため、実態に見合った判断をしましょう。例えば、以下のケースは「問題ない」とされています。
ノルマ未達成時に待遇上の不利益を受ける正社員に対し、ノルマがない非正規雇用労働者よりも、不利益に見合う範囲内で高い賞与を支給した
一方、以下のようなケースは「問題あり」とされます。
正社員には貢献度の大小にかかわらず何らかの賞与を支給しているが、非正規雇用労働者には一切支給しない
ただし、アルバイト社員への賞与不支給が不合理ではないと判断された裁判例もありますので、待遇差の合理性については個別具体的に判断することになります(令和2年10月13日最高裁第三小法廷判決、大阪医科薬科大学事件)。
各種手当
役職手当
役職の内容に対して支給する役職手当について、正社員と同じ役職に就く非正規雇用労働者には、正社員と同じ役職手当を支給しなければなりません。また、役職に一定の相違がある場合は、相違に見合った待遇差にする必要があります。
非正規雇用労働者が課長や部長といった管理職に就くことは少ないですが、飲食業や小売業で「店長」を担うケースはあります。その場合、例えば「正社員の店長にのみ店長手当を支給し、同じ業務に就く非正規社員の店長には店長手当を支給しない」等の待遇差は不合理となる可能性があるため注意しましょう。
一方、所定労働時間の違いに応じて、所定労働時間に比例した役職手当を支給することは問題とならないとされています。
特殊作業手当
特殊作業手当とは、作業の危険性や作業環境に応じて支給される手当です。主に高所、暑熱・寒冷な場所、坑内で作業する労働者に支給されます。
正社員と同じ危険度や作業環境の業務に従事する非正規雇用労働者には、正社員と同じの特殊作業手当を支給しなければなりません。
これは、特殊作業手当は作業そのものを金銭的に評価したものであり、特定の作業を行う労働者には等しく支払う必要があるためと考えられます。
特殊勤務手当
特殊勤務手当は、特定の時間帯や曜日に働く労働者へ支給されるものです。主に、交代制勤務で深夜や休日に働いた労働者へ支給されます。
ガイドラインでは、正社員と同じ勤務形態で従事する非正規雇用労働者には、正社員と同じ特殊勤務手当を支給するよう定められています。
例えば、労働力の確保が難しい早朝や深夜、土日祝日に勤務したすべての労働者に、同額の特殊勤務手当を支給すれば問題とならないと考えられます。
一方、勤務実態が同じにもかかわらず、雇用形態によって支給の有無を変えるのは不合理といえます。
精皆勤手当
精皆勤手当とは、一定期間無欠勤である労働者に対して支給される手当です。
同じ業務に就く正社員と非正規雇用労働者には、同じ精皆勤手当を支給しなければなりません。
精皆勤手当の決定基準に差があると、よほどの事情がない限り不合理となる可能性が高いため注意が必要です。
というのも、精皆勤手当の支給目的は、労働者が休まずに勤務することを奨励し、一定の労働力を確保することにあり、これは雇用形態によって変わるものではないと考えられるためです。
時間外労働に対して支給される手当
いわゆる「残業代」や「残業手当」の割増率が問題となります。
ガイドラインでは、正社員の所定労働時間を超え、同一の時間外労働をした非正規雇用労働者には、正社員と同じ割増賃金率で残業代を支給しなければならないとされています。
例えば、正社員の割増率を1.3倍、パート社員の割増率を1.25倍にすることは不合理といえます。
深夜労働又は休日労働に対して支給される手当
正社員と同一の深夜労働や休日労働をした非正規雇用労働者には、正社員と同じ割増率で手当を支給しなければなりません。
労働基準法では、深夜労働に対して1.25倍以上、法定休日労働に対して1.35倍以上の割増賃金を支払うよう義務付けています。そのため、同じ時間・職務内容で深夜又は休日労働をした者には、雇用形態を問わず、一定以上の割増賃金を等しく支払う必要があります。なお、深夜労働と休日労働が重なる場合、1.25+1.35=1.6倍以上の割増率とします。
なお、非正規雇用労働者の休日手当について、平日の労働時間が短いからという理由で休日労働に対して支給される手当の単価を正社員よりも低く設定することは、問題があるとされています。
通勤手当・出張旅費
通勤手当や出張旅費の費用は、職務内容や雇用形態によって変わるものではないため、正社員・非正規雇用労働者ともに同一の支給をする必要があります。
ただし、自宅近辺の店舗に配属した労働者に対し、あらかじめ通勤手当の上限を設けることは問題ありません。その場合、引っ越し等の自己都合により交通費が上限を超えても、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給することができます。
また、出勤日数によって支給方法を変えることも可能です。具体的には、毎日出勤する者には定期代全額を、出勤日数が少ない者には日額の交通費を支給するといった方法です。
食事手当
非正規雇用労働者にも、正社員と同じ食事手当を支給する必要があります。
食事手当の支給目的は労働者の出費をカバーすることであり、これは職務内容や雇用形態によって変わるものではないからです。
ただし、ここでの食事手当は労働時間の途中における食事の費用を補償するものです。よって、短時間勤務で休憩時間が与えられていない場合、食事手当を支給しなくても問題ありません。
一方、雇用形態の違いだけを理由に、非正規雇用労働者の食事手当を正社員よりも低く設定することは問題とされています。
単身赴任手当
単身赴任手当では、家族と離れて暮らす労働者の生活費を一部補償したり、帰省にかかる旅費を支給したりするのが一般的です。
ガイドラインでは、正社員と同じ支給要件を満たす非正規雇用労働者には、正社員と同額の単身赴任手当を支給しなければならないと定められています。
地域手当
地域手当とは、事業所がある地域の物価や生活水準に合わせて支給し、賃金の実質的な不均衡を補うための手当です。
ガイドラインでは、同じ地域に勤務する正社員と非正規雇用労働者には、同じ地域手当を支給しなければならないことが定められています。
例えば、正社員と非正規雇用労働者のどちらも全国一律の基本給が規程され、転勤があるにもかかわらず、正社員だけに地域手当を支給するのは問題があると考えられます。
一方で、正社員は全国一律の基本給の規程を適用し、転勤があることに鑑みて地域の物価等を勘案した地域手当を支給することを定めているが、非正規雇用労働者はそれぞれの地域で採用し、地域の物価が盛り込まれた基本給が各地域で定められている場合、非正規労働者に地域手当を支給しなかったとしても問題にはならないと考えられます。
福利厚生
福利厚生施設
ガイドラインでは、正社員と同じ事業場で働く非正規雇用労働者には、正社員と同じ福利厚生施設(給食施設・更衣室・休憩室をいうとされています。)の利用を認めなければならないと定められています。
転勤者用社宅
ガイドラインでは、非正規雇用労働者が正社員と同じ支給条件を満たす場合、非正規労働者にも正社員と同じ転勤者用社宅の利用を認めなければなりません。支給条件としては、転勤の有無や扶養家族の有無等が挙げられます。
例えば、非正規雇用労働者に転居を伴う異動がない等支給条件を満たさない場合、非正規雇用労働者には転勤者用社宅の利用を認めないという取扱いは不合理とまではいえないと考えられます。
有給の保障
有給の保障には、以下の3つが挙げられています。
- 慶弔休暇に係る給与の保障
- 健康診断に伴う勤務免除に係る給与の保障
- 健康診断を勤務時間中に受診する場合の当該受診時間に係る給与の保証
これらについては、正社員・非正規雇用労働者で同一の保証をしなければなりません。
ただし、勤務日数に応じて待遇を変えることは問題ありません。
たとえば、正社員と同じように出勤日が設定されている短時間労働者に対しては、正社員と同様の慶弔休暇を付与している一方で、週2日の勤務の短時間労働者に対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振替が難しいケースについてのみ慶弔休暇を付与することは、問題とならないとされています。
病気休職
ガイドラインでは、病気休職も、非正規雇用労働者には正社員と同一の病気休職を認めなければならないと定められています。病気休職は労働者の健康回復を促し、職場復帰させるための制度ですので、雇用形態で差を設けるべきではないからです。
なお、休職には一定の期間を定める必要があるという性質上、契約期間を踏まえてその期間を決定をすることは問題ありません。たとえば、労働契約の期間が1年である有期雇用労働者について、病気休職の期間を労働契約の期間が終了する日までとすることは問題とならないとされています。
勤続期間に応じて取得を認めている法定外の休暇
勤続期間に応じて、会社が独自に設ける休暇のことをいいます。例えば、リフレッシュ休暇や子供の学校行事に参加するための休暇です。また、法定以上の有給休暇を付与する企業もあります。
ガイドラインでは、正社員と勤続期間が同じ非正規雇用労働者には、正社員と同じ休暇取得を認めなければならないと定められています。なお、契約社員などの有期雇用労働者の場合、最初の労働契約開始時から通算した期間を用いる必要があります。
ただし、これらの休暇は、業務に従事した時間全体を通じた貢献に対する報償という趣旨で付与されたものであるため、所定労働時間に比例する形でその待遇を変えても問題とならないとされています。例えば、正社員に対し、勤続10年で3日、20年で5日、30年で7日の休暇を付与している場合において、非正規社員に対し、所定労働時間に比例した日数を付与することは問題とならないとされています。
教育訓練
業務遂行のための教育訓練を行う場合、同じ業務に就く正社員と非正規雇用労働者には同一の訓練を実施する必要があります。また、業務に一定の相違がある場合、その相違に応じた教育訓練を行わなければなりません。
なお、非正規雇用労働者には派遣社員も含まれます。派遣社員は自社(派遣先)で直接雇用しているわけではありませんが、派遣先の正社員と同じ業務を行う場合には、同じ教育訓練を実施するのが基本です。
安全管理に関する措置及び給付
事業主は、労働者が安全に働けるよう配慮する義務があります。そのため、同じ作業環境下にある正社員と非正規雇用労働者には、同一の安全管理措置及び給付を行わなければなりません。
安全管理措置としては、長靴や防護服の支給、メンタルヘルス対策(カウンセリング・専門医の紹介など)が考えられます。
また、給付については労災補償が代表的です。労災が発生した場合、雇用形態を問わずすべての労働者に給付金を支払う必要があります。
使用者が注意すべき点
ガイドラインに記載がない手当
ガイドラインに原則的な考え方についての記載がない手当(退職金、住宅手当、家族手当等)も、不合理な待遇差を積極的に解消する必要があります。そこで、労使の協議により、個別事情を考慮したうえで待遇を決定することが重要です。
例えば、退職金は、長年の労働に対する報償としての後払い的な報酬という性質があるので、短期雇用を前提とした非正規雇用労働者に支給しないのは合理的といえるでしょう。一方、無期雇用契約の場合、勤続年数や職務内容を踏まえ、一定の退職手当を支給すべきといえます。
また、住宅手当や家族手当の支給目的は職務内容とは無関係なので、転勤や家族の有無といった支給要件を満たすすべての労働者に支給するのが望ましいでしょう。
正社員の待遇が不利益変更にあたる場合
不合理な待遇差を是正するにあたり、正社員の待遇を不利益に変更するのは望ましくないとされています。不利益変更とは、正社員の賃金を引き下げたり、正社員にのみ支給されていた手当を廃止したりすることをいいます。
一方、経営困難になるなどやむを得ない事情で不利益変更を行う場合、基本的に労使間の合意が必要です。この点、就業規則の変更と労働者への周知だけでも対応は可能となる場合はありますが、変更内容の合理性で争いとなる可能性が高いでしょう。
もっとも、正社員の労働条件を一部引き下げる代わりに基本給を増額させるなど、総支給額が下がらないよう調整することは可能と考えられます。不利益の程度を考慮しつつ、変更内容を決めるのが賢明でしょう。
賃金の決定基準・ルールの相違がある場合
待遇差がある要因として、賃金の決定基準やルールが違うことも考えられます。例えば、正社員が成果給、アルバイト社員が職能給であるケースです。また、そもそも能力や成果で基本給を決めていないというケースもあるでしょう。
しかし、賃金の決定基準やルールに差を設けるにも合理的な理由が必要であり、「将来担う役割が異なるから」といった抽象的な説明では不十分とされています。
具体的には、労働者の職務内容や配置転換、転勤の有無やその範囲等の諸般の事情を考慮して判断する必要があります。例えば、「正社員はノルマがあり、全国転勤も予定しているが、パート社員は事務作業のみ行い、転勤もない」と明確な違いがある場合、待遇差の合理性が認められる可能性があります。
定年後に継続雇用された有期雇用労働者の取扱い
定年後に再雇用された有期雇用労働者には、パートタイム・有期雇用労働法が適用されます。よって、パート社員や契約社員と同じく、正社員との不合理な待遇差は禁止されます。
ただし、再雇用であることは「その他の事情」として考慮されるため、通常の非正規雇用労働者と同視しない取扱いが許容される余地があります。
まず、定年前よりも賃金を引き下げる場合、原則として労使の合意が必要となります。合意がない場合であっても、合理性が認められる限りで不利益変更の余地はありますが、業務内容が定年前とほとんど変わらないのに、大幅に金額を下げるのは不合理な不利益変更とされる可能性があります。
さらに、待遇の内容は職務内容等を踏まえて決めるため、定年後の有期雇用労働者であることだけを理由に正社員との待遇差を設けることはできないでしょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある