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退職事由

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

多くの労働者は会社を辞めるとき、自分の意思のみで退職できると思っています。実際、自分の意思表示だけで退職することが可能な場合もありますが、雇用形態等によっては不可能な場合もあります。労働者の退職が成立するためにどのような事由が必要なのか、また使用者としてどのような規定を設ければ良いのか、法律上の規定や注意点も併せて解説していきます。

退職事由を明確化する必要性

使用者と労働者との間で生じるトラブルの原因の多くは、退職に関することだと言われています。たとえば、退職する2週間前に予告すれば退職できると民法上に記載がありますが、会社の業務によっては引継ぎが必要な場合もあります。このように退職の状況というのは、労働者と使用者の利害が対立しやすい場面です。業務の適切な引継ぎが行われないと、会社にとっては不利益につながるおそれもあるため、業務の引継ぎ義務やそれに基づく命令を行ったり、就業規則に退職の予告期間を定めたりしている会社も多くあります。このように、法律上と会社の規則上の食い違いによってトラブルになるケースもあります。

就業規則は各会社によってさまざまですが、上記のようなトラブルにならないためにも、就業規則に記載されている退職事由の規定を明確にし、労働者に周知しておくことが重要です。

就業規則と退職事由の関係

労働者を常時10人以上雇用している会社は、就業規則を作成する義務があります。その就業規則には、必ず記載しなければならない事項である絶対的必要記載事項があります。その事項内では、退職事由に関すること(解雇を含みます。)の記載が義務付けられています(労働基準法89条(以下、労基法とします。))。

労働基準法

(作成及び届出の義務)第89条

常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

3 退職に関する事項(解雇の事由を含む)。

退職の種類

退職は、雇用契約の終了のうちの1つです。雇用契約の終了としては、ほかに解雇が挙げられます。解雇は、使用者側が一方的に雇用契約を終了させることに対し、それ以外の雇用契約の終了を退職と整理することができるでしょう。この退職には、自主退職(自己都合退職)、合意退職、自然退職の3つに分類することができます。

詳しい退職の種類については、下記のページをご覧ください。また、どのような場合に解雇になるのかといった解雇事由についての解説も併せてご覧ください。

退職及び解雇 解雇事由
退職及び解雇

退職事由として規定すべき事項

退職が成立するための退職事由は、各会社の就業規則に記載が義務付けられていますが、その記載内容は会社ごとに様々です。退職事由として、定めるべき内容とはどのようなものでしょうか。本項で解説していきます。

民法における退職の定め

期間の定めがない労働契約を結んでいる労働者が退職する場合、2週間前に退職をする予告をすればいつでも退職ができると規定されています(民法627条)。一方で、使用者は就業規則内に退職を予定している者に対して、業務の引継ぎのために予告期間を定める場合があります。その際、予告期間が民法上で定めている2週間以上にすることは不可能ではありませんが、よほどの合理性がない限り長期間の予告期間は無効となるため注意が必要です。

民法627条の予告期間に関する裁判例

期間の定めがない労働契約者が退職する際の、予告期間は民法上に則るのか、あるいは会社の就業規則に則るのか、どちらかを優先すべきかと、労働者から問われる場合もあります。そういった問題においての裁判例があるのでご紹介します(東京地方裁判所 昭和51年10月29日判決・高野メリヤス事件)。判決において、「民法第627条の予告期間は、使用者のためにはこれを延長できないものと解するのが相当である。」と解釈されました。その結果、会社の就業規則が民法よりも長期間の退職予告を定めていたとしても、退職の予告期間は民法の定めよりも長い期間を定めることはできないため、注意が必要になります。

契約期間の満了

あらかじめ契約期間が定められている労働者は、契約期間が満了になると労働契約が終了します。しかし、一定の場合には労働契約法19条に基づき保護されることがあるうえ、厚生労働省の公表する「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)」においては、有期雇用の労働者であっても、3回以上契約を更新している場合や1年を超えて継続勤務している労働者の契約を更新しない場合は、使用者は30日前までに雇止めの予告をする必要があるとされており、これに準じた対応をすることが一般的です。

休職期間の満了

多くの会社では休職制度が設けられていますが、法律上は休職制度を創設することは義務付けられていません。各会社の労働契約や、就業規則において定めるか否かは自由に判断できます。

就業規則で定めている休職制度は、休職期間を定めている場合がほとんどです。そこには、休職期間満了時に、復職ができない場合は労働契約を終了する、いわゆる自然退職(当然退職)となる旨の記載をしていることが多いです。こういった休職期間満了による自然退職も、退職事由に該当するため、就業規則の退職事由事項に記載が必要になります。

休職についての詳細は、下記のページをご覧ください。

休職・復職

行方不明・長期間の無断欠勤

労働者による長期の無断欠勤が続いている場合や、音信不通で自宅へ訪問しても不在で部屋自体が引き払われていて行方不明、といった場合、使用者としてはどのような対処をすべきでしょうか。解雇をするとしても、労働者本人に解雇予告をしなければなりませんが、行方不明の相手に知らせることは困難です。解雇の意思表示を到達させるために公示催告を行う方法もありますが、法的手続を要するので時間も手間もかかってしまいます。こうした事態に陥らないためにも、会社の就業規則内の退職事由として、一定期間無断欠勤が続いた場合(行方不明で一定期間連絡がとれない場合)は、自然退職とする規定を定めておくことが有用です。「○○営業日以上無断欠勤が継続した場合」というような形で、日数を具体的に定めておく方法が一般的になります。解雇をする際の解雇予告が「30日前」であることをふまえ、「30日以上」の期間を定めておくことが適切でしょう。

退職及び解雇 解雇予告

在職中の死亡

自然退職には、定年退職や休職期間の満了、雇用契約の満了、本人の死亡等が該当するとされています。退職事由が絶対的必要記載事項であることも踏まえて、就業規則には、労働契約者本人が死亡した際は当然退職となる規定を記載しておきましょう。

役員就任

役員就任の際は、自然退職に該当させておく就業規則が一般的でしょう。従業員兼務役員という地位も許容されていることから、このような規定を定めておかなかった場合、役員に就任したとしても従業員としての地位も保有し続けることになります。このような場合、役員としての報酬と労働者としての賃金が併存することにもつながるうえ、これらの規律は会社法により規制される報酬と、労基法等により規制される賃金といった、全く性質が異なる金銭を支払うことにつながります。会計上及び税務上の処理も、報酬と賃金とに正確に分けて行うことが必要です。

このような曖昧な状況を継続することは、会社としても望ましい状況ではないため、役員就任を自然退職事由としておくことで、通常の労働者としての身分を喪失させ、その後の処理を整理することに資すると考えられます。

定年による退職

定年退職、再雇用制度等についての詳細は、下記のページにて解説しております。併せてご覧ください。

退職及び解雇 定年

退職事由を詳細に聞くことは問題ないか

退職予定者に対して、使用者が退職理由を詳細に聞くことの可否について問題になる場合があります。

可否について、大きく3つのケースに分けられます。

まず1つ目は、合意退職の場合です。合意退職は、労働者の退職意思に対して、使用者が承諾することで退職が成立します。使用者の承諾に必要な判断事情を収集するために、退職事由を詳細に聞くことに関して合理的理由があると考えられます。そのため、退職事由を詳細に聞くことは可能といえるでしょう。

2つ目は、期間の定めがある労働契約者の退職事由です。これに関しても、退職において「やむを得ない事由があるか」といえるか把握する必要があるため、合理的理由があるとされます(民法628条)。よって、この場合も退職事由を詳細に聞くことは可能です。

最後は、期間の定めがない労働契約者の退職事由です。期間の定めがない労働契約者は、原則として、退職日の2週間前であれば退職の申し入れが可能なため、労働者は退職事由がなくても退職可能といえます。そのため、使用者として退職事由を詳細に聞くことは、合理的理由を見いだすことが困難となります。よって、退職事由を詳細に聞くことは控えたほうが望ましく、やむを得ず確認する場合でも、回答するか否かが労働者の任意であることをあらかじめ明示する方が良いと考えられます。

退職証明書の交付義務について

労働者が退職した後に退職証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付しなければなりません(労基法22条)。

使用者は退職証明書において、以下の事項を証明しなければなりません。なお、退職者が求めていない事項は記載してはなりませんので、記載すべき事項を確認したうえで発行すべきでしょう。

  • ・使用期間
  • ・労働者が従事した業務の種類
  • ・事業における労働者の地位
  • ・労働者の賃金
  • ・退職事由

ただし、退職者からの請求がなかった場合には、交付する必要はありません。

詳しい退職証明書については、下記のページをご覧ください。

退職及び解雇 退職証明書及び解雇理由証明書

労働基準法

(退職時の証明)第22条

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

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