障害者職業生活相談員とは|役割や資格要件・選任報告書の届出など

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
法定雇用率の引上げに伴い、企業には障害者を雇用するだけでなく、活躍できる環境を整えることが強く求められています。
そこで鍵を握るのが「障害者職業生活相談員」です。障害者が働きやすいようにサポートする存在として、その重要性は年々高まっています。
一定数以上の障害者を雇用する企業には選任する義務があり、適切な体制の整備が不可欠です。
この記事では、相談員の役割や資格要件、実務上の注意点などについて詳しく解説します。
障害者職業生活相談員とは
障害者職業生活相談員とは、企業が採用した障害者の職業能力の向上や、職場への適応をサポートするために選任される担当者のことです。障害者雇用促進法に基づいて設けられている制度です。
具体的には、障害のある社員から、仕事や職場環境についての相談を受け、必要に応じて助言や指導を行います。また、上司や同僚との間に立って意思疎通をサポートするなど、職場内の調整役としても欠かせない存在です。
こうした支援を通じて、障害者が自分の力を発揮しながら働き続けられる環境が整い、職場への定着促進や離職防止にもつながります。企業における障害者雇用を安定的に進めるためには、障害者職業生活相談員の存在が不可欠といえるでしょう。
障害者職業生活相談員の選任義務
障害者雇用促進法では、一定数以上の障害者を雇用している事業所に対し、「障害者職業生活相談員」の選任を義務づけています(障害者雇用促進法第79条第2項)。
具体的には、常時雇用している障害者が5人以上いる場合、事業所ごとに、一定の要件を満たす従業員の中から相談員を選任しなければなりません。この人数は、障害の程度や勤務時間にかかわらず、1人を1人としてカウントします。
また、この義務は企業全体ではなく事業所ごとに判断されるため、複数の拠点を持つ企業では、それぞれで要件を満たしているか確認することが必要です。ただし、本局と出張所が一体的に運営されているなど、実質的に1つの事業所とみなされる場合は、本局に相談員を配置すれば足りるとされています。
さらに、相談員が異動や退職したときは、すぐに後任者を選任する必要があります。障害者が常時5人以上となった時点で選任義務が生じるため、人数の変動には常に注意しましょう。
障害者雇用のルールについては、以下の記事で詳しく解説しています。
障害者職業生活相談員とジョブコーチの違い
障害者職業生活相談員とよく比較される存在として「ジョブコーチ」があります。
障害のある従業員を職場で支えるという点では共通していますが、支援の方法や関わり方には、以下とのとおり違いがあります。
| 障害者職業生活相談員 | ジョブコーチ | |
|---|---|---|
| 配属元 | 企業内の従業員の中から選任される | 外部の支援機関から派遣される |
| 支援する期間 | 在職中を通じて、継続的にサポート | 必要なタイミングで、一定期間集中的にサポート |
| 業務内容 | 障害のある従業員の職業生活をサポートし、業務調整や職場環境の改善、生活面の相談などに対応 | 就職や職場への適応を支援し、事業主や上司、家族へのアドバイスも行う |
| 法的義務 | 障害者を5人以上雇用する事業所には選任義務がある | 任意で利用する制度であり、選任義務はない |
なお、両者は併用することも可能です。まずは法令に基づき、障害者職業生活相談員を適切に配置することが必要です。そのうえで、状況に応じて、ジョブコーチなど専門機関の支援も取り入れることで、よりきめ細やかなサポートが実現できるでしょう。
障害者職業生活相談員の役割
障害者職業生活相談員には、障害のある従業員が安心して働き続けるために欠かせない、以下の重要な役割があります。
- 職務内容に関する相談・支援
- 作業環境の整備
- 職場生活に関する相談対応
- 生活面・余暇活動の支援
- 社内理解の促進と職場定着支援
企業として適切な支援体制を整えるうえでも、それぞれの役割を理解しておくことが大切です。
障害者雇用の相談体制については、以下の記事で詳しく解説しています。
職務内容に関する相談・支援
障害者職業生活相談員の大切な役割の一つが、日々の業務相談に対応し、障害特性に合わせた業務の選定や、能力開発を支援することです。
能力や適性を踏まえ、仕事上の不安や悩みに寄り添いながら助言を行います。そして、上司や現場担当者と連携しながら、それぞれに適した業務や配置へと調整していきます。
聴覚障害者には、文字でのやり取りを中心とした業務を、発達障害者には手順が明確な作業を任せるなど、個々に応じた工夫を行うことが重要です。さらに、教育訓練や資格取得の支援を通じて、スキルアップを促すことも欠かせない業務です。
障害者の特性に応じた配慮について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
作業環境の整備
障害のある従業員が不便なく働けるよう、職場のバリアフリー化を進めることも重要な役割です。
具体的には、次のような工夫があげられます。
- 車いすや視覚障害の方などが通りやすいよう通路の幅を確保する
- 掲示物やコピー機の高さ、設置場所を工夫する
- トイレを、障害者に対応したものに変更する
- パソコン入力の補助装置など、業務遂行に必要な機器の導入を検討する
こうした作業環境の整備により、働きやすさが向上し、業務効率の改善や職場への定着が期待できます。
また、安全で無理のない環境を整えることは、事故や体調不良の予防にもつながります。
障害者雇用の安全衛生についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
職場生活に関する相談対応
障害者職業生活相談員は、職場での悩みや不安について、幅広く相談に応じます。例えば、労働時間や業務内容、業務量、上司や同僚との関係など、日々の働き方に関わるさまざまな課題に対応します。
相談を受けたときは、本人の状況や希望をくみ取り、必要に応じて勤務時間や業務内容を調整することが必要です。さらに、職場で円滑にコミュニケーションが取れるよう、上司や同僚との関係づくりを支援することも大切な役目です。
生活面・余暇活動の支援
仕事だけでなく日常生活の面でも支援を行います。例えば、食事や休息の取り方や、体調管理の方法に関する相談・指導などがあげられます。
また、日頃から健康状態や生活リズムに目を配り、不調の兆しがあれば早めにフォローすることも重要です。さらに、休日の過ごし方についてもアドバイスし、リフレッシュを促します。心身ともに安定し、無理なく働き続けられる環境づくりにつながるでしょう。
社内理解の促進と職場定着支援
障害者に対する直接的なサポートだけでなく、職場全体の理解を深めることも、重要な役割の一つです。障害のある従業員が安心して働き続けるためには、周囲の理解と協力が欠かせません。
そのため、一般の従業員に向けて研修を行い、障害の特性や必要な配慮について、正しく知ってもらう機会を設ける必要があります。また、配属先の部署には、本人に合った働き方ができるよう情報を共有し、無理なく仕事に取り組める環境づくりを支援します。
障害者職業生活相談員の資格要件
障害者職業生活相談員になるためには、厚生労働省が定める以下の要件のうち、いずれかを満たす必要があります。
- 資格認定講習の修了者
- その他厚生労働省が定める要件を満たす者(障害者の雇用の促進等に関する法律施行規則第1項)
資格認定講習の修了者
『独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構』が全国で毎年実施している「障害者職業生活相談員資格認定講習」を受講するだけでなく、修了していることが資格認定の要件となります。
なお、障害者職業生活相談員の選任が、対象障害者を5人以上雇用している事業所に求められていることから、「障害者職業生活相談員資格認定講習」は個人での受講申請を承認していません。あくまでも障害者職業生活相談員として選任される予定がある方を対象とした講習となっています。
その他厚生労働省が定める要件を満たす者
以下にあげる学歴や一定の実務経験がある従業員は、「障害者職業生活相談員資格認定講習」を受講しなくても、障害者職業生活相談員の資格要件を満たしていると認められます。
- (ア)職業能力開発総合大学校の長期課程の福祉工学科に関連する指導員訓練の修了者等
-
(イ)次の①~④のいずれかに該当し、かつその後1年以上対象障害者である従業員の職業生活に関する相談・指導の実務経験がある者
- ①大学または高等専門学校(旧専門学校を含む)の卒業者
- ②職業能力開発総合大学校の長期課程の福祉工学科に関連する以外の指導員訓練の修了者
- ③特定専門課程または特定応用課程の高度職業訓練の修了者
- ④職業能力開発大学校、または職業能力開発短期大学校の専門課程の高度職業訓練、または職業能力開発大学校の応用課程の高度職業訓練の修了者等
- (ウ)高等学校または中等教育学校の卒業者(学校教育法施行規則150条に規定する者またはこれと同等以上の学力を有すると認められる者を含む)で、その後2年以上対象障害者である従業員の職業生活に関する相談・指導の実務経験がある者
- (エ)(ア)~(ウ)以外の者で、3年以上対象障害者である労働者の職業生活に関する相談・指導の実務経験がある者
- (オ)(ア)~(エ)に準ずる者
障害者職業生活相談員選任報告書の届出
障害者職業生活相談員を選任したときには、「障害者職業生活相談員選任報告書」を提出する必要があります(障害者雇用促進法施行規則40条2項)。
提出先は、事業所を管轄するハローワークです。また、電子申請も可能です。
届出の期限
障害者職業生活相談員の選任は、選任の義務が生じた日から3ヶ月以内、つまり、対象障害を持つ従業員の雇用が5人以上になった日から“3ヶ月以内”に行わなければなりません(障害者雇用促進法施行規則40条)。
選任の届出は、その後滞りなく提出する必要がありますので、この“3ヶ月”がおおよその目安となるでしょう。
報告書の記入例
「障害者職業生活相談員選任報告書」には、主に次のような内容を記載します。
- 事業所の名称、所在地、事業の種類
- 労働者数、障害者数(身体障害者・知的障害者・精神障害者である各労働者の数)
- 障害者職業生活相談員の氏名、生年月日、選任年月日
- 障害者職業生活相談員の職歴等
- 障害者職業生活相談員の職務権限や職務区分(同じ事業所に相談員が2名以上いる場合)
- 障害者職業生活相談員の新任、改任の理由
「職歴等」欄には、障害者職業生活相談員としての資格要件を満たしていることがわかるよう、必要な職歴や勤務年数、学歴などを記入しましょう。認定講習を修了している場合は、その事実を明記すれば問題ありません。
一方、修了していない場合は、「障害のある職員や労働者の職業生活に関する相談・指導の実務経験が3年以上ある」など、具体的な経歴を記載する必要があります。
報告書の様式は労働局のホームページからダウンロードできます。以下のページに記載例も公開されていますので、ご活用ください。
障害者職業生活相談員の選任後の留意点
障害者職業生活相談員に選任された者は、次のことに留意しながら障害者の支援にあたる必要があります。
- ハローワークとの連携
- 組織的対応
ハローワークとの連携
障害者職業生活相談員は、障害者の職場適応、作業環境、障害者からの相談及び対応といった状況をハローワークに報告するとともに、状況に応じた適切な指導・助言をハローワークに求めるなどして適宜連携を図り、障害者がより職場に馴染めるように努める必要があります。
組織的対応
障害者の職場適応等の妨げとなる問題が生じた場合、その内容によっては相談員だけでなく、組織全体で対応策に取り組むことも必要となってきます。そのために有効な手段として、以下のようなことが考えられます。
《事業所内》
障害者職業生活相談員をはじめ、事業所の代表者や障害者の採用担当者、障害者が所属する部署の責任者等、関係者で構成した“障害者職場定着推進チーム”の設置・運営。
《事業所外》
ジョブコーチ、障害者就業・生活支援センター等の外部支援を活用し、障害者の“仕事”及び“生活”のサポートの強化。
障害者職業生活相談員を選任しなかった場合の罰則
障害者職業生活相談員を選任しなかった場合の、直接的な過料や刑罰といった明文の罰則規定は設けられていません。
しかし、選任は法律上の義務であるため、未選任のままでいると、ハローワークから選任を求める行政指導を受ける可能性があります。また、専門知識を持つ担当者が不在だと、障害のある従業員への適切な配慮が難しくなり、早期離職や労務トラブルの発生リスクにも繋がります。
対象障害者を5人以上雇用した場合は、本稿で紹介した事項に留意しつつ、速やかに選任手続を行いましょう。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
