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セクハラ

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

企業内でセクシュアルハラスメント(セクハラ)が行われると、多くのケースで、労働者の意欲の低下や、被害者の退職による労働力の喪失といった不利益が発生します。また、被害者から、加害者に対する使用者としての責任を問われれば、被害者に賠償する義務が発生することも考えられます。さらに、企業イメージの悪化といったリスクもあるでしょう。

このように多くの不利益をもたらすセクハラの発生を防止することは、企業にとって重要な課題であり、また、雇用機会均等法等によっても義務とされています。本記事では、セクハラが行われた場合の対応策や再発防止の手段といった、かかる義務を果たすために有用な情報をお伝えします。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)の定義と種類

雇用機会均等法および厚生労働省が定めた「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(以下、セクハラ指針、最終改正令和2年厚生労働省告示第6号)によると、セクハラとは、次の2種類に分けて定義できます。

  1. 対価型セクハラ
    職場で行われる性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者がその労働条件について不利益を受けるもの
  2. 環境型セクハラ
    職場で行われる性的な言動により、労働者の就業環境が害されるもの

なお、どちらのセクハラも、男性が女性に対して行うイメージが強いかもしれませんが、女性が男性に対して行うことや同性が同性に対して行うことも考えられます。また、セクハラの定義に当てはまる言動であれば、被害者の性的指向や性自認にかかわらず、セクハラとして規制の対象となります。

雇用機会均等法

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)第11条

1 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

対価型セクハラ

対価型セクハラとは、職場で行われる性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者がその労働条件について不利益を受けるもので、いわゆる昔ながらの露骨なセクハラといえるでしょう。例えば、上司から求められた性的な関係を拒否したために降格される、人事考課上不利益に扱われる、配転される、解雇されるといったことや、職場での大声の猥談について抗議したために不利益な異動を命じられること等が挙げられます。

環境型セクハラ

環境型セクハラとは、職場で行われる性的な言動により、労働者の就業環境が害されるものです。環境型セクハラは、さらに視覚型セクハラ発言型セクハラ身体接触型セクハラに分けることができるでしょう。

視覚型セクハラは、他の労働者が職場にヌードポスター等を掲示しており、集中力が削がれるので止めるよう抗議しても止めないといった行為により、業務に専念できない環境にするというようなものです。

これに対して、発言型セクハラは、恋人の有無や性的な体験等を執拗に尋ねたり、食事やデートに執拗に誘ったりするといったものです。

また、身体接触型セクハラとは、不必要に身体に触れたり、膝の間に座らせたり、酒の席でお酌することを強要したりするといったものです。

その他

制裁型セクハラとも呼ばれていますが、加害者の性別役割分業等の性差別的な価値観に基づく言動もセクハラの一種とされます。例えば、「女性は男性を支援する役に徹するべきだ」「女性は出世すべきではない」といった考え方に基づき、この考えに従わない人を抑圧するようなものが挙げられます。

また、妄想型セクハラという、被害者が加害者である自分に好意を抱いているという妄想に基づく言動(一種のストーカー)もセクハラにあたります。例として、被害者が笑顔で挨拶や世間話をしただけで、自分に好意があると誤解し、休日にデートに誘ったり、一緒に歩いているときに手を握ったりと、恋人のような言動をするものが挙げられます。

対象となる労働者について

セクハラ防止措置の対象となる第三者とは、事業主が雇用するすべての労働者です。したがって、正規労働者だけでなく、パートタイマーや契約社員といった非正規労働者等も対象となりますし、性別によって異なる扱いがされることもありません。

なお、派遣労働者に関しては、雇用形態上、派遣元事業主と派遣先事業主の両方が、セクハラ防止措置を講じる必要があります。

厚生労働省が定めるセクハラの判断基準

ある行為がセクハラであるか否かを判断する際には、「労働者の意に反する性的な言動」と「就業環境を害される」という2つの要件を満たすかどうかを基準に、個別の状況を客観的に判断する必要があります。また、男女の認識の差異もセクハラの発生に寄与する要素のひとつであるため、被害者である労働者の性別ごとに、「セクハラとされる行為に対する女性または男性の印象」を標準とした判断をするべきでしょう。

一般的に、意に反した身体接触により受けた精神的苦痛が大きい場合には、一度の接触であっても、就業環境を害する場合があると考えられます。また、それよりも精神的苦痛が小さく、行為の継続または繰り返しが要件のひとつとして必要とされる場合でも、「はっきりとした抗議がなされたにもかかわらず、当該行為がなされるままに放置されている状態」または「心身に重大な影響を受けていることがはっきりしている場合」には、就業環境が害されていると判断することができます。セクハラに該当する行為といえるかに関する一般的な基準としては、精神障害の労災認定基準の別表において、セクシュアルハラスメントの心理的負荷の程度が挙げられているため、参考になります。

セクハラの民事責任

セクハラ加害者には民事責任が生じますが、同時に使用者である企業の責任(使用者責任または債務不履行責任)が問われるケースも多くあります。

セクハラがもたらす企業へのリスク

企業内でセクハラを防止する適切な対策が講じられないでいると、各都道府県労働局の雇用均等室の助言の対象となることがあります。助言を受けても状況を改善しないと指導が、それでもなお改善しないと勧告が行われ、これに従わない場合には企業名が公表され、企業イメージが低下してしまうおそれがあります。

また、セクハラが行われると、労働者の就業環境が悪化し、円滑な業務の遂行が害されるばかりか、労働組合との団体交渉や争議行為に対応しなければならなくなったり、被害者から損害賠償を請求されたりする等、多くのリスクが発生します。

免責の可能性

企業が負担する使用者責任については、選任及び監督について相当の注意をしたときには免責される旨が定められています(民法715条第1項)。しかしながら、裁判例上、企業内で行われたセクハラに関する損害賠償請求訴訟において、被告となる企業側が、加害者の選任監督にあたって相当な注意をしていたと認められることはほぼありません。

では、セクハラの発生前から、企業がセクハラ指針の内容に従っており、事後も指針に従い適切に対応したような場合は免責されるのでしょうか?別の裁判例によると、ペアで行う業務の組み合わせに配慮し、相当回数の研修会を実施しており、責任者の態勢も整えていたものの、結局セクハラが防止されなかったところ、免責が認められませんでした。したがって、たとえ形式的に指針に従ったとしても免責は認められないと考えられます。なお、企業が雇用機会均等法上定められたセクハラ防止措置を講じていると認定した裁判例もありますが、そもそもセクハラに該当する行為が行われた事実はないと認定された事案における付随的な判断であることに注意が必要でしょう。

セクハラ発生時の対応

企業内でセクハラが発生してしまった場合には、まず、被害者と加害者の隔離を検討し、事実関係について迅速かつ適切な調査を行います。その後、調査の結果を踏まえてセクハラの有無について判断し、セクハラが行われた事実が認められる場合には、加害者の処分を検討します。そして、二度とセクハラが発生しないように、再発防止のための措置を講じます。

関係者の隔離

裁判例で、性暴力等、重大なセクハラの被害が申告された場合に、被害者と加害者の隔離が不十分であったことを被害の拡大事情として捉えたものもあるとおり、比較的軽微なセクハラの場合でも、就業環境が悪化している以上、被害者が加害者と顔を合わせる必要がない状況にするべきであるとされます。

異なる事業所や店舗へ配属する等、それぞれの職場を完全に切り離すことが望ましいですが、難しい場合には、事実関係の調査が終わるまで、加害者の出勤を免除(被害の状況によっては被害者も出勤を免除)し、自宅待機させるといった方法をとることも検討に値します。

適正な調査

企業は、被害が申告されたセクハラについて、迅速かつ適切な調査をしなければなりません。この義務を怠れば、不作為による安全配慮義務違反等として、損害賠償が命じられるおそれがあり、調査が不適切であることを理由に損害賠償額を増額させられる場合もあります。

また、形式的な事情聴取だけを行い、加害者に簡単に注意をするだけで済ませるといった対応も適切とはいえません。簡単な事情聴取をしただけで、加害者に「誤解を受けるような行為はしないように」と注意して済ませた企業の対応について、被害者からの損害賠償請求を認めた裁判例も存在します。

被害者側から事情聴取

セクハラの被害が申告されたら、迅速に被害者から事情を聞き取ります。なぜなら、被害者に対して、企業が迅速かつ適切な対応をしていないという印象を与えてしまうと、外部からの介入を招く等、トラブルが拡大することが予想されるからです。特に重大なセクハラを受けた被害者から聞き取りを行う際には、聞き取りの担当者を同性にする、または同性の労働者を同席させるといった配慮が必要でしょう。

事情の聞き取りを行う際には、次の点に注意しましょう。

  • ・結果について、詳細かつ正確に記録をとる (つじつまが合わない内容についても、否定せずにそのまま記録に残す)
  • ・録音する際には、本人の同意を得る
  • ・聞き取りの記録について、本人に内容を確認したうえ、署名・捺印をもらう
  • ・被害者と加害者間のやりとりの記録(メールやLINE等)はすべてコピーをとる

加害者の事情聴取

被害者から、被害の申告は行うものの、加害者には伝えないでほしいといったことが求められることがあります。そのような場合に、加害者に直接ヒアリングを実施することは、被害者の希望に沿わない状況を生み出すおそれがあります。

しかしながら、加害者からのヒアリングを行い、被害が確認できた場合には指導または処分を行わない限り、再発防止が叶いません。そのため、被害者の気持ちには寄り添いつつも、再発防止のためには加害者からも事情を聴きとる必要があることを伝えたうえで、同意を得る努力をするべきでしょう。なお、加害者から事情を聞き取る際も、詳細かつ正確に記録をとるとともに、被害者とのやりとりの記録をすべて提出してもらい、コピーをとりましょう。

加害者の処分を検討

事実関係の調査の結果、セクハラの事実が認められた場合、加害者の処分を検討することになります。たとえ企業にとって重要な人物や勤務成績が良い人物であっても、処分をしないことは適切な対応とはいえません。また、セクハラの程度に応じた適切な処分が求められるため、比較的軽微なセクハラの加害者に対して懲戒解雇等の重大な懲戒処分をすることは認められないでしょうし、重大なセクハラの加害者に対して戒告処分だけで済ませることも相当ではないと考えられます。

懲戒処分の内容について、詳しくは下記の各記事をご覧ください。

懲戒処分
退職及び解雇

セクハラの再発防止

セクハラの再発防止に努めることも重要です。具体的には、朝礼等の際に、社員に対してセクハラを二度と起こさないよう訓示したり、セクハラについて認識を深めるための研修を計画したり、セクハラ加害者に懲戒処分を下した場合はその旨を社内に公表したりする等、セクハラを防止するという姿勢を周知し、社員を啓発します。

プライバシーの保護

企業内のセクハラについて対応する際に気をつけなければならないのは、被害者と加害者のプライバシーの保護です。

特に被害者のプライバシーには十分な配慮をすることが求められます。強引な聞き取りを行えば、被害者がさらなる精神的被害を受け、二次被害に発展してしまうおそれがあることや、調査の過程で、被害者や実際にあったセクハラ行為が特定されてしまい、二次被害が拡大して損害賠償請求訴訟に発展するおそれがあることには、十分に留意しましょう。

就業規則にセクハラの禁止を定める意義

厚生労働省は、セクハラ指針により、企業がセクハラ防止のために講じるべき措置を告示しています。

当該指針に規定されている措置のひとつには、事業主がセクハラに関する方針を明確にし、その旨を周知・啓発することがあります。そして、その具体例として、就業規則等の職場における服務規律等を定めた文書上に、職場でセクハラがあってはならない旨の方針を定めるとともに、職場におけるセクハラの定義や、性別役割分担意識に基づく言動がセクハラ発生の原因や背景となり得る旨を周知し啓発することを挙げています。

また、職場でセクハラを行った者について、厳正に対処するという方針と処分の内容を就業規則等に定め、管理・監督者を含む労働者に周知・啓発することも、指針上講じるべき措置の一内容とされています。

就業規則において、セクハラを禁止したうえで、懲戒処分の対象としておかなければ、調査の結果セクハラを認定したとしても、厳重注意するだけで終わってしまうため、懲戒根拠としての規定を定めることが必要です。

したがって、当該指針に従いセクハラ防止措置を講じるうえで、就業規則にセクハラの禁止および懲戒事由として定めることが求められます。

セクハラ防止指針

雇用機会均等法11条は、事業主に対して、職場でのセクハラを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることを義務づけています(均等法11条1項)。そして、この事業主がすべき措置について、厚生労働大臣の指針により定めることとしています(均等法11条2項)。この指針こそが、前述のセクハラ指針です。

雇用機会均等法

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)第11条

1 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

措置義務を怠るリスク

職場でのセクハラ防止措置を講じる義務に違反した企業は、厚生労働大臣に報告を求められ、助言、指導もしくは勧告をされる対象となり得ます(均等法29条)。また、この是正勧告に従わない場合には、企業名を公表されるおそれがあります(均等法30条)。

企業名公表は、近年、インターネットによって求人企業を検索することが一般的になっていることからすれば、企業の求人活動にも悪影響を及ぼすことは明らかであるため、公表措置にならないようにしっかりと対応しておくべきでしょう。

雇用機会均等法

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)第29条

1 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。

(公表)第30条

厚生労働大臣は、第五条から第七条まで、第九条第一項から第三項まで、第十一条第一項、第十一条の二第一項、第十二条及び第十三条第一項の規定に違反している事業主に対し、前条第一項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかつたときは、その旨を公表することができる。

法改正による同性やLGBTへのセクハラ指針について

雇用機会均等法が制定された当初は、セクハラとは男女間で行われるものだと思われがちでした。しかし、同性間でもセクハラが起こり得ることが世間に認識されるようになってくると、同性に対して行われるセクハラについても禁止する必要性が出てきました。そのため、2013年の雇用機会均等法の改正に伴って、女性上司が女性部下の胸を触ったり、男性間で性的なからかいや噂話をしたりするといった同性間の言動もセクハラとして認められることが明記されることになりました。

しかし、この改正だけでは、LGBT等の性的マイノリティの方の保護が周知徹底されず、性的マイノリティの方が企業内の相談窓口にセクハラ被害を訴えても取り合ってもらえない事例が多発していました。そこで、2016年にふたたび雇用機会均等法が改正され、それに伴い、性的マイノリティの方もセクハラの対象となることが明示されました。

取引先や顧客からのセクハラ

雇用機会均等法は、企業に対して、「職場」でのセクハラを防止する義務を課します。この「職場」には、労働者が通常就業している場所だけでなく、業務を遂行する場所も含まれています。したがって、出張先や業務で使用する車の中、取引先との打ち合わせ場所、職務の延長と考えられる懇親の場等も「職場」に含まれます。

よって、このような「職場」において、労働者が社外の人からセクハラを受けた場合、雇用機会均等法11条等に規定されるとおり、企業は労働者の相談に応じ、再発を防ぐための体制の整備や雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。

セクハラに関する事例や裁判例

労働者が受けたセクハラ被害に関して、企業の責任を認めた裁判例を2つほどご紹介します。

京都地方裁判所 平成9年4月17日判決、京都セクシュアル・ハラスメント(呉服販売会社)事件

<事案の概要>

Y1(被告会社)の労働者であるA(男性労働者)が女子更衣室を盗撮していたところ、Y2(Y1の取締役)がこの事実に気づきましたが、十分な対応をせず、結果として盗撮が続けられました。最終的には、Y1はビデオカメラを撤去してAを懲戒解雇したものの、X(原告・女性)は、この件以来職場の雰囲気が悪くなったと感じました。そのため、朝礼で「会社を好きになれない」旨の発言をしたところ、Y3(Y1の代表取締役)は、同じく朝礼で「会社を好きになれない人は辞めても良い」旨の発言(Y3発言)をしました。また、別日の朝礼では、Y2がXとAが男女関係にあるかのような発言(Y2発言)をし、さらにXに勤務を続けるか否かを1日考えてくること、今日は今すぐ帰っても良い旨の発言をしました。その結果、XはY1の他の労働者から関わり合いを避けるような態度をとられるようになり、退職せざるを得なくなりました。

そこでXは、Y2とY3については不法行為責任に基づく、Y1に対しては債務不履行ないし不法行為責任に基づく損害賠償等の請求を行いました。

<裁判所の判断>

1 Y2の責任

まず、Aの盗撮行為については、Y2は個人として盗撮を防止するまでの義務を負わず、また、使用者責任も負わないので、Xの請求を退けました。

しかし、公衆の面前で異性関係について発言したこと(Y2発言)によってXの名誉は毀損されたというべきであり、この点について損害賠償責任を負うと判断しました。

そして、Y2について、Y1の取締役であるとともに代表取締役であるY3の親族でもあるため、Y1の労働者に対する発言力が大きい立場にあることを理由に、不用意な発言を控える義務と、この義務に背いた場合に発言を撤回して謝罪するといった措置をとる義務の存在を認めました。この点、Y2が朝礼でのY3発言に続けて退職を示唆するような発言をし、その結果Xの就業環境が悪化したにもかかわらず何の措置もとらなかったためにXが退職するに至ったので、Y2はXの退職による損害賠償責任も負うと判断しました。

2 Y3の責任

Y2と同様、Aの盗撮行為について責任はなく、また、事前にY2発言が行われることを知っていたことを認めるに足りる証拠はないことに加え、Y3が個人として職場の環境を整えるまでの義務を負うということはできないとして、原告の請求を退けました。

3 Y1の責任

Aの盗撮行為について

まず、Y1は、雇用契約を結んだXのプライバシー侵害を防止するべく、職場の環境を整える義務があるというべきであり、Y1は盗撮の事実に気づいた時点で、盗撮の加害者を追求する努力と再発防止の義務を負っていたと考えました。しかし、十分な対応をせず、結果盗撮が再開されたのであるから、Y1は債務不履行により、盗撮の事実に気づいた時点以降のXの損害を賠償する責任を負うと判断しました。

Y2発言について

Y1の取締役であるY2が、朝礼で当該発言をしている以上、使用者として、原告に対して損害賠償責任を負うと判断しました。

原告の退職について

まず、Y1の義務として、雇用契約を結んだXが意思に反して退職することがないよう職場環境を整えるべき責任を認めたうえで、Y1には退職の原因となったY2の発言を撤回させるべき義務があったにもかかわらず何の措置もとらなかったためにXが退職したのであるから、退職による損害を賠償する責任を負うと判断しました。

大阪地方裁判所 平成10年12月21日判決、大阪セクハラ(S運送会社)事件

<事案の概要>

Y1(被告会社)の労働者であるX(原告・女性)が、上司であるY2(男性)からXの職種を対象とした歓迎会をするため参加者を募っている旨の連絡を受け、本件飲み会に参加したところ、カラオケボックスにて行われた二次会でY2にわいせつ行為をされ、その後欠勤を続けることになりました。そこで、Y2に対して不法行為に基づく損害賠償請求を、Y1に対して使用者責任に基づく損害賠償請求と、Y1の責に帰すべき事由により出勤できない状態になったとして過去および将来分の未払い賃金の請求をした事案です。

<裁判所の判断>

1 Y2の責任

裁判所は、証拠およびXの本人尋問の結果を受け、二次会におけるY2によるXへの性的嫌がらせの事実を認定し、不法行為の存在を認めました。そして、Xの主張するわいせつ行為には、この性的嫌がらせが含まれると解して、Y2には不法行為に基づく損害賠償責任があると判断しました。

2 Y1の責任

Y2の行為に対する使用者責任について

まず、Y2は、労働者の懇親を図るために本件飲み会を企画し、一次会終了後帰宅しようとするXを二次会に誘い、二次会にて、原告が嫌がっているにもかかわらず仕事の話に絡ませて性的嫌がらせを繰り返した事実が認められるので、この性的嫌がらせは、職務に関連させて上司たる地位を利用して行ったもの、つまり「事業の執行につきされたものである」と認定しました。

一方、Y1は、①Xの配置転換によりXY2間の上下関係は断ち切られていたこと、および②Y1は本事案のような男女間の私的な飲み会を禁止していたことを理由に、使用者として責任を負わないという主張していました。しかし、裁判所は、Xの配置転換は一時的なものにすぎないため、XY2間の上下関係は完全に断ち切られていたとはいえず、また、単に口頭でこうした飲み会を禁止している旨を通知することを繰り返しただけにすぎず、労働者にはそれほど重みを持って受け止められていなかったと認定し、Y1の使用者責任を認めました。

Xの欠勤に関するY1の責任について

一方、Xの欠勤に関しては、Xが出勤したとしてもY2と顔を合わせる現実的危険性は乏しく、再度性的嫌がらせの被害に遭うおそれがあったとは認められず、また、Y1が一般的な職場改善策をとるべきとまではいえないことを考慮すると、Y1の責に帰すべき事由によるものであるとはいえないと判断しました。

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