育児休業
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
育児休業は、子供を持つ従業員が取得できる休業として「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う従業員の福祉に関する法律(通称育児・介護休業法)」により定められています。もととなる「育児休業等に関する法律」は、合計特殊出生率の大幅な低下により、少子化対策、育児と労働の両立を推進する法制度の要請が高まり、平成3年に制定されました。少子高齢化が進み、人口の大幅な減少が見込まれる現在、労働力を確保することも企業にとってはひとつの課題となっています。育児世代の従業員が働きやすい環境を作ることは、優秀な労働力の確保にもつながります。
このページでは、育児休業についての基礎を確認するとともに、事業主がとるべき対応についてまとめていきます。
目次
育児休業の定義
育児休業とは、従業員が原則として1歳未満の子供を養育するため、事業主に申し出ることで、その子供が1歳になるまでの期間を休業することができるという制度です。この休業は男女かかわりなく、また実子・養子問わず取得することができます。かつては「仕事か育児か」という二者択一状態でしたが、少子高齢化が加速度的に進み、労働人口も減少するなかで、子供を望んでいながら持てないでいる共働き世帯も、子供を持ち、家庭と仕事を両立し、ワーク・ライフ・バランスを実現できるようにすることを目指した制度といえるでしょう。
育児休業と育児休暇の違い
混同されがちな「育児休業」と「育児休暇」ですが、両者は大きく異なります。主な違いは公的な保証があるかどうかで、育児休業は従業員に認められている権利であるのに対し、育児休暇は「(育児目的のための)単なる休暇」というあつかいです。ただし、事業主には育児に関する目的で利用できる休暇(子供の行事のため等)制度を設置する努力義務が課されています(育介法24条1項)。
育児休業と育児休暇の主な保証の違いについては、以下の表にまとめています。
育児休業 | 育児休暇 | |
---|---|---|
法的保証 | ・育児・介護休業法によって定められている | ・法的保証なし・育児を目的として取得する単なる休暇 |
育児休業給付金の有無 | ・ノーワーク・ノーペイの原則で無給。ただし収入減を補うため、雇用保険制度から賃金の一定割合が給付される | ・給付なし |
社会保険料免除の有無 | ・被保険者負担分、事業主負担分ともに免除 | ・免除されず、支払わなければならない |
育児休業の申出は拒否できる?
育児・介護休業法では、『事業主は、従業員からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない(育介法6条1項)』と定められています。これは「努めなければならない」という努力義務とは違いますので、事業主は、従業員からの申出があれば必ず受理しなければなりません。ただし例外もあり、それについては後述します。
就業規則に規程を設ける必要性
育児休業については、制度が導入され、就業規則等に記載されるべきであるという指針が厚生労働省から出されています。これ自体は“指針”ですが、労働基準法では、事業主は、就業規則に、始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、賃金等について必ず記載しなければならないと定められています(労基法89条)。育児休業は、この絶対必要記載事項である「休暇」に含まれ、また、その期間についての待遇や、賃金の支払いの有無等についても記載しなければならないということになります。
育児・介護休業法の改正による変更点
育児・介護休業法は、従業員が育児休業・介護休業を取りやすくなるように頻繁に改正されており、最近で平成29年の1月と10月に改正されています。
平成29年の改正までは、有期契約労働者の育児休業の取得について、
- 申出時点で過去1年以上継続して雇用されていること
- 子供が1歳になった後も継続雇用の見込みがあること
- 子供が2歳になるまでの間に雇用契約が更新されないことが明らかである者は除く
とされていました。
改正内容について、育児休業に関する箇所を見てみましょう。
【平成29年1月の改正】
平成29年1月の改正により、②が「子供が1歳6ヶ月になるまでの間に雇用契約がなくなるのが明らかでないこと」と変更され、また、③の条件も撤廃されました。
そのほか、育児休業を取得できるのは「法律上の親子関係がある実子・養子」という条件もありましたが、これに特別養子縁組の監護期間中の子供、養子縁組里親に委託されている子供等も新たに対象になりました。
【平成29年10月の改正】
10月の改正では、以下の点が改正されました。
- ・子供が1歳6ヶ月の時点で保育園に入れていない等の場合、2歳まで延長が可能に
- ・従業員もしくは配偶者が妊娠したことを知ったとき、事業主は関連する制度について個別に周知するための措置を講ずる努力をしなければならない
- ・事業主は、育児に関する目的で利用できる休暇(配偶者の出産休暇、子供の行事休暇等)を設置するよう努めなければならない
いずれの改正も、子供を持つ従業員がより働きやすくなるように、また、就労を継続しやすくなることを目指したものだといえるでしょう。
育児休業の対象者
育児休業を取得できる従業員として対象になるのは、日々雇用者(1日限りの雇用契約、または30日未満の有期契約で雇われている従業員)を除く、すべての男女従業員です。また、男性による育児休業の取得も認められていますが、平成30年の取得率は6.16%と非常に低いものとなっています。
有期契約従業員から申請があった場合
有期契約従業員の育児休業取得には、いくつか条件があります。
- 当該事業主に1年以上継続して雇用されていること
- 子供が1歳6ヶ月になるまでの間に、雇用契約期間が満了、あるいは更新されないことにより終了することが明らかでないこと
の2つです。②について、平成28年の改正時に「2歳」から「1歳6ヶ月」とされ、また「子供が1歳になっても引き続きの雇用が見込まれること」という条件は撤廃されました。
労使協定により対象外にできる従業員
事業主は、原則として従業員の育児休業の申出を拒むことはできませんが、次のいずれかに該当する従業員に関しては、労使協定で育児休業を認めないと定めれば、対象から除外できます。
- ・雇用されてから1年に満たない従業員
- ・休業の申出の日から1年以内に雇用関係が終了することがあきらかな従業員
- ・1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
以前は配偶者が専業主婦(主夫)であることも除外できる条件として挙げられていましたが、平成22年の改正により削除されました。
配偶者が専業主婦(夫)の場合
配偶者が専業主婦(主夫)の場合、かつては労使協定で定めることにより、事業主は育児休業の申出を拒めることになっていました。しかし、平成22年5月の改正により、配偶者が専業主婦(主夫)であっても、育児休業を取得できるようになりました。また、いわゆる内縁の妻・夫が常態として育児をできる状態、つまり専業主婦(主夫)のような状態にあっても、育児休業を取得することができます。
育児休業の期間
育児休業の開始日は、産前産後休業が終了した翌日からとなります。産後休業が出産日の翌日から56日間ですので、産後57日目から育児休暇期間ということになります。なお、男性が育児休業を取得する場合は、子供の出生日から可能です。
育児休業とは『養育する1歳に満たない子について、…育児休業をすることができる(育介法5条1項)』というものなので、終了日は子供が1歳に達するまでの日ということになります。ただしこれは原則であり、現在では法改正により延長することが可能となっています。
女性の産前産後休業については、こちらのページをご参照ください。
休業期間の延長ができるケースとは?
原則、育児休業の期間は子供が1歳になるまでですが、延長できるケースがいくつかあります。
- ① 1歳2ヶ月まで延長できるケース
- 夫婦がともに育児休業を取得すると、子供が1歳2ヶ月になるまでに休業が延長されます(パパ・ママ育休プラス)。たとえば夫婦で半分の7ヶ月ずつということも可能ですし、休業取得期間が重なっても構いません。
- ② 1歳6ヶ月まで延長できるケース
- 夫婦どちらかが育児休業中であり、かつ、保育所等に入所を希望していても入れない場合、または1歳以降子供を養育する予定だった配偶者が、死亡、傷病、疾病、婚姻解消による別居、産前産後の期間中のいずれかの場合には、育児休業を子供が1歳6ヶ月になるまで延長できます。
- ③ 2歳まで延長できるケース
- 上記②と同じ条件で、1歳6ヶ月から2歳までの間についても休業期間の延長が可能です。
休業期間を事業主が指定することはできるのか?
育児休業の申出は、原則として休業開始日の1ヶ月前まで(例外として1歳から1歳6ヶ月まで、あるいは1歳6ヶ月から2歳までの子供については2週間前、予定日前の出産等に関しては1週間前)までにしなければなりません。そして、原則として事業主が休業期間を指定することはできません。ただし、以下の場合にのみ、規定の範囲内で事業主が休業開始日を指定することができます。
- ・申出が1ヶ月前より遅かった場合は、事業主は1ヶ月(上記年齢の子供については2週間)の範囲で休業開始日を繰り下げて指定できる
- ・予定日よりも前の出産等で申出が1週間前より遅かった場合、事業主は1週間の範囲で休業開始日を繰り下げて指定できる
育児休業の回数
育児休業の取得は、原則として1人の子供について1回に限られ、休業は連続したひとつの期間でなければなりません。ただし例外もあり、配偶者が死亡、あるいは負傷・疾病・身体上精神上の障害により子供の養育が困難になったとき、あるいは子供が死亡またはそれらの障害により2週間以上の世話が必要になったとき、配偶者との婚姻の解消等により同居が解消されたとき、保育所に入れないとき等、特別な事情がある場合は、1回に限らず育児休業を申出ることができます。
また、父親が母親の産後休業期間(8週間)に育児休業を取得した場合、その父は特別な事情がなくとも再度育児休業を取得することができる、いわゆる「パパ休暇」という制度もあります。
育児休業中の給与
育児休業中の給与については、育児・介護休業法では定められておらず、労働契約にゆだねられています。基本的には、ノーワーク・ノーペイの原則により無給となり、その旨を就業規則に記載しておかなければなりません。ただし、育児休業中の従業員には雇用保険制度から給与の一定割合(休業6ヶ月までは67%、その後は50%)が「育児休業給付金」として給付されます。
育児休業と年次有給休暇の関係
「出勤しなければならない日に、従業員が休む権利を行使して休暇を取得できる」という制度が年次有給休暇です。もとから休日と設定されている日に有給休暇を取得しないように、育児休業中の期間は「出勤しなければならない日」ではない、すなわち休日と同じあつかいであるため、育児休業を取得している期間は、それに重ねて有給休暇を取得することはできません。
また、年次有給休暇の付与対象として「労働日の8割以上出勤した者」とされていますが、このとき計算される出勤率に、育児休業で休んだ期間は影響しません。労働基準法に、育児休業中は「出勤したものとみなす」と規定されています。
年次有給休暇について、詳しくは以下のページをご覧ください。
育児休業において会社が行うべき手続
育児休業中の従業員に関しては、社会保険料の免除、育児休業給付金等があります。また、休業を終えて復職した従業員に関しては、報酬月額変更のほかに、復帰後に時短勤務等で給与が下がっても、育児休業前の給与の水準で年金を受け取れるといった制度もあります。これらの手続は基本的に、事業主が行わなければなりません。手続を怠れば、従業員が不利益を被ることになってしまいます。
育児休業の申出があった際、育児休業が終わった際、それぞれ事業主がしなければならない手続にどんなものがあるか、以下で見ていきます。
育児休業を申請された際の手続
育児休業の申出は、以前は書面のみとされていましたが、平成21年の改正によりファックス、メールでも可能になりました。申出の期限は原則休業開始日の1ヶ月前まで、子供が1歳以上1歳6ヶ月、または1歳6ヶ月以上2歳までの場合は2週間前までです。
休業開始日については、早産等の特別な事情がある場合、1回に限り繰り上げが認められています。また、休業終了日については理由がなくとも1回に限り繰り下げが可能です。休業開始日の繰り下げ、休業終了日の繰り上げについては規定がなく、事業主は認めなくとも構わないことになっています。
育児休業の申出があった際、事業主がしなければならない手続には、社会保険料免除、育児休業給付金に関するもの等があります。
育児休業期間中、社会保険料は被保険者・事業主負担分ともに免除されます。ただし、そのためには「育児休業等取得者申出書」を日本年金機構に提出しなければなりません(産前産後休業についても、「産前産後休業取得者申出書」の届け出が必要です)。
育児休業給付金に関しては、ハローワークにさまざまな書類を提出しなければなりません。提出期間も厳密に定められていますので、ご注意ください。
育児休業を終了する際の手続
従業員が取得していた育児休業が終了する際、事業主がしなければならない手続にはどのようなものがあるでしょうか。
育児休業中だった従業員が予定よりも早く休業期間を終了して復職する場合、事業主は、日本年金機構へ「育児休業等取得者終了届」を提出します。
ほか、育児休業中だった従業員が復職したときに時短勤務や所定外労働の免除等で休業前より給与が低下してしまった場合、標準報酬月額の改定が可能です。これについては当人から申出を受けた事業主が、同じく日本年金機構に「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出します。
また、「養育機関の従前標準報酬月額のみなし措置」という制度もあります。上記と同じく、育児休業から復職した後に給与が低下してしまった場合でも、育児休業取得前の標準報酬月額に基づいて将来の年金を受け取れるというものです。この手続も、事業主が日本年金機構に「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出します。
育児休業取得を理由とした不利益取り扱いの禁止
従業員が育児休業を取得したことによって、事業主がその従業員に対して不利益な扱いをすることは禁止されています。「不利益取り扱い」とは、具体的には、解雇、降格、減給、不利益な異動・職務の変更、有期契約職員の契約を更新しないこと、正規雇用から非正規雇用に変更するよう強要すること等です。これらは特段の正当な理由がないかぎり、不法行為となるので注意が必要です。
育児休業に関するハラスメント防止の措置
従業員が育児休業取得の申出・利用をするにあたり、就業環境が害されるようないやがらせ=ハラスメントをされることがないよう、事業主は必要な措置を講じなければなりません。例えば育児休業を取得することで「出世に響く」「降格する」と言われ実際そうされたり、周囲から「迷惑」「ずるい」などと言われたりするようなことを防止します。
マタニティ・ハラスメント、いわゆるマタハラについて、詳しいことはこちらのページで解説しています。
育児中の従業員を支援するその他の制度
子供を育てている従業員の継続就労、家庭と仕事の両立を支援するさまざまな制度があります。
所定労働時間を超えて労働させてはならない「所定外労働の制限」、1ヶ月24時間、1年150時間を超えて労働時間を延長してはならない「時間外労働の制限」、深夜(午後10時から午前5時まで)の労働をさせてはならない「深夜業の制限」、子供を持つ従業員が希望する場合には1日の所定労働時間を6時間にする、あるいは6時間を含む複数の時間を選択肢とする「所定労働時間短縮等の選択的措置義務」等です。
これら、育児・介護休業法に定められた、子供を持つ従業員を支援する法についてはこちらのページで概要を説明しています。
特に「所定外労働の制限」に関して、以下のページで詳しく解説しています。
また、男女雇用機会均等法や労働基準法には、働く女性の母性を保護するための内容が定められています。妊産婦の危険有害業務の就業制限、生理休暇、女性が保健指導や健康診査を受けられるように休暇・短時間勤務等の措置を講じなければならないとされています。そのほか、労働基準法67条では、生後1年に満たない子供を育てる女性は、1日2回、各30分まで生児を育てる時間をとれるという、通称「育児時間」が定められています。
働く女性の母性保護、また育児時間について、詳しくは以下のリンク先をご覧ください。
育児休業を導入する事業主への助成金
家庭と仕事を両立できる「職場環境づくり」のため、国が事業主へ助成金を交付する「両立支援助成金」という制度があります。育児休暇に関しては、仕事と育児の両立を支援する「育児休業等支援コース」、男性の育児休暇取得を促進するコース等があります。中小企業事業主のみが対象ですが、次の3つのとき、国からの助成金が給付されます。(なお、下記は令和2年度の助成金となります。)
- ・事業主が「育休復帰プラン」を作成し、従業員がプランに基づき、円滑に育児休業を取得、また職場復帰をさせたとき
- ・従業員が育児休業を取得した際、代替要員を確保し、育児休業取得者が休業を終えたあと、原職等に復帰させたとき
- ・育児休業から復帰した従業員の、家庭と仕事の両立が困難であるとき、育児・介護休業法を上回る「子の看護休暇制度」または「保育サービス費用補助制度」を導入すること(ただし、対象従業員が1ヶ月以上の育児休業から復帰したあと6ヶ月以内に、導入した制度に一定の利用実績(子の看護休暇制度は10時間以上の取得、保育サービス費用補助制度は3万円以上の補助)があること)