人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

不利益取扱いの禁止

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

性別などによる差別、ハラスメントなどに敏感な時代の変化に応じて、法律は少しずつ改正されているものの、現場レベルですっかり浸透しているかといえば、そうではない会社も少なくありません。

ここでは、使用者が気を付けたい、労働者に対する「不利益取扱い」の禁止について解説していきます。「不利益取扱い」発生の予防、万が一発生してしまった場合の措置など、現状を把握し、今後の対策を検討するきっかけとして、ぜひご一読ください。

ではさっそく、重要なキーワードとなる「不利益取扱い」とはどういったことか確認してみましょう。

不利益取扱いについて

労働者に対する「不利益取扱い」とは、使用者が、さまざまな法令で定められている“労働者の権利の行使を妨げるような扱い”をすることをいいます。労働に関する法令には、労働者が適正に権利を行使できるよう、「不利益取扱い」を禁止する規定が設けられています。

では、具体的にどのようなことが「不利益取扱い」に認定されるおそれがあるのでしょうか。

不利益取扱いとなる処遇

ここでは、代表的な例を紹介します。
*以下の行為はあくまでも例示であって、これ以外の行為であっても、不利益取扱いに該当する場合があります。

  • 解雇する
  • 有期で雇用される労働者の契約を更新しない
  • 契約更新の回数を、当初の取決めよりも減らす
  • 退職、労働契約の内容の変更を強要する(例:正規雇用者を非正規雇用とすること)
  • 労働者にとって不利益となる自宅待機の命を下す
  • 降格処分とする
  • 給与を減らす、あるいは不当な方法でボーナス等の計算をする
  • 昇進や昇格に不利な評価をつける
  • 経験や技能が活かされない事業場への配置転換を命じる
  • 職場を労働者にとって居心地の悪い環境とするような言動をとる
  • 派遣先が、該当の派遣労働者の労働を拒否する

「不利益取扱い」に該当する具体例を確認したところで、今度は「不利益取扱い」を禁止する規定について、法令ごとにみていきましょう。

労働基準法における不利益取扱いの禁止

労働基準法で認められている労働者の権利を阻害するような「不利益取扱い」は禁止されています。ここでは、以下の2つに関する「不利益取扱い」の禁止について順に解説します。

  • 労働者が監督機関に対して使用者の不正を申告する権利
  • 労働者が自由に有給休暇を取得する権利

使用者の労働基準法違反を行政官庁などに申告したこと

労働基準法では、労働者が、使用者の労働基準法違反を行政官庁など(例:労働基準監督署)に申告したことを理由とした「不利益取扱い」を禁止しています(労基法104条2項)。

これは、“労働者が監督機関に対して使用者の不正を申告する権利(労基法104条1項)”を保障し、使用者が、会社内の不正を外部に漏らす行いをしたとして、労働者を解雇などしないように保護するためのルールです。

有給休暇の取得

使用者は、有給休暇を取得した労働者に対する「不利益取扱い」をしないよう、求められます(労基法136条)。

ポイントは下線部のとおり、例えば賃金の減額が行われたとしても、直ちに違法、無効となるわけではないということです。減額とした趣旨・目的や、労働者が失う経済的利益の程度、年休取得に対する事実上の抑止力の強弱等、諸般の事情を総合して判断されます。その結果、実質的に“労働者が自由に有給休暇を取得する権利”を抑制していると判断された場合には、公序良俗(民法90条)違反として、無効となるおそれがあります。

男女雇用機会均等法における不利益取扱いの禁止

男女雇用機会均等法には、雇用における性差別や、性的な言動(セクハラ)に関する「不利益取扱い」が起こらないよう、労働者を保護するための規定が設けられています。以下の2つに分けて説明します。

  • 女性の妊娠や出産
  • 異性間、同性間を問わず、職場で起こった性的な言動に関する相談等

妊娠・出産等

妊娠や出産等を理由とした女性労働者に対する「不利益取扱い」は禁止されています(雇均法9条3項)。

ただし、以下の2点のどちらかに該当する場合は、例外的に、ここで禁止される「不利益取扱い」とはみなされない可能性があります。

例外①:本人の自由意志に基づく同意のもと行われたと認めるに足る合理的な理由が、客観的にみても存在するといえるとき
例外②:業務の性質上、配置転換の必要性があり、配置転換をしないことが業務に支障をきたすといえる、特段の事情が存在するとき

職場において行われる性的な言動に対する相談等

労働者が、職場内で受けた性的な言動について相談したこと、あるいはそういった相談に対する使用者の調査等に協力し、事実を申告したことを理由とした「不利益取扱い」は禁止されています(雇均法11条2項)。

個人の尊厳を傷つけるような、相手の意に反する性的な言動、つまり“セクハラ”が社会的に許されないことは言うまでもありません。それが職場で行われた場合、当該労働者は能力を十分に発揮できず、また、職場の規律が乱れたり、会社自体の社会的評価に影響したりするほか、使用者が適切に対応しなければ、両当事者が退職せざるを得ない状況に陥るなど、労使双方にとって大きな損失を生む問題です。

そのため、使用者には、職場内での性的な言動の発生を起因としたトラブルを防止し、また、適切に対応するための措置を講じることが義務づけられています(同11条1項)。

育児・介護休業法における不利益取扱いの禁止

以下にあげるような、育児・介護休業法に定められる事項を理由に労働者に対して「不利益取扱い」をすることは禁止されています。

  • 育児休業の申出・取得
  • 介護休業・介護休暇の申出・取得
  • 子供の看護休暇の申出・取得
  • 所定労働時間外の労働をしなかったこと等
  • 法定労働時間外の労働をしなかったこと等
  • 深夜労働をしなかったこと等
  • 所定労働時間を短縮したこと等
  • 育児・介護休業等に関する言動による問題の相談等
  • 紛争の解決の援助を求めたこと
  • 紛争の調停の申請をしたこと

次項より、順にみていきましょう。

なお、育児・介護休業法制定の背景、また、各制度の内容等に関して、以下の各項目の記載よりもさらに詳しい説明を知りたい方は、以下のページをご参照ください。

育児・介護休業

育児休業の申出・取得

育児休業※1の申出をしたこと、あるいは育児休業したことを理由とする「不利益取扱い」は禁止されています(育介法10条)。

なお、本規定は、各会社の就業規則等に基づく運用となる育児休暇は対象とはなりませんので、注意が必要です。

※1:子供を養育する労働者の申出により、こどもが1歳(一定条件のもと最長2歳)に達するまでの間に、育児のために、原則1回取得できる休業制度です。

介護休業・介護休暇の申出・取得

介護休業※2介護休暇※3の申出、あるいはこれらを取得したことについて「不利益取扱い」とすることは禁止されています(育介法16条、16条の7)。

※2: 雇用期間が1年以上の労働者が、“要介護状態(=負傷・疾病または身体・精神的な障害で、2週間以上常に介護が必要)”にある家族1人の介護につき、3回(通算93日)の範囲で取得できる休業制度です。

※3:雇用期間が半年以上の労働者が、“要介護状態”にある家族1人の介護につき、1年に5日の範囲で時間単位の休暇を取得できる制度です。

子供の看護休暇の申出・取得

子供の看護休暇※4の取得を申し出たこと、あるいは取得したことを理由とした「不利益取扱い」は禁止されています(育介法16条の4)。

※4:労働者が、小学校に就学するまでの子供の病気・怪我の看護または予防のために必要な世話をするために、1人につき1年に5日までの範囲で時間単位の休暇を取得できる制度です。

所定労働時間外の労働をしなかったこと等

育児・介護のための、所定外労働の制限※5の対象となる労働者が、所定労働時間を超えて働かなかったこと、あるいはその制度の利用を求めたことを理由とした「不利益取扱い」は禁止されています(育介法16条の10)。

※5:3歳未満の子供を養育する労働者、要介護状態にある対象家族を介護する労働者が申請した場合には、原則として所定時間を超える労働をさせることができません。申請回数の制限はなく、1回の申請では、1ヶ月以上1年以内の期間を設定できます。

法定労働時間外の労働をしなかったこと等

育児や介護のための法定時間外労働の制限※6を受ける労働者が、上限となる時間を超えて働かなかったこと、あるいは、その制度を利用する申出を理由とした「不利益取扱い」は禁止されています(育介法18条の2)。

※6:原則として、小学校就学までの子供を養育している、または要介護状態の家族を介護する労働者が申請した場合には、1ヶ月に24時間、1年に150時間を超えて時間外労働をさせることができません。1回につき1ヶ月以上1年以内の間で申請でき、何回でも申請できます。

深夜労働をしなかったこと等

労働者が育児や介護のために深夜業の制限※7を求めたことや、制限の対象となる労働者が深夜労働をしなかったことを理由に「不利益取扱い」をすることは禁止されています(育介法20条の2)。

※7:小学校就学までの子供を養育する労働者および要介護状態の家族を介護する労働者から申出があった場合、午後10時から午前5時の深夜帯に労働させることはできません。申出の回数は制限ありませんが、1回の申請につき、1ヶ月以上6ヶ月以内の期間となります。

所定労働時間を短縮したこと等

育児あるいは介護のために短時間勤務制度・その他の措置等の利用※8を求めたこと、また、短時間勤務制度等を利用していることを理由とした労働者に対する「不利益取扱い」は禁止されています(育介法23条の2)。

※8:使用者には、3歳未満の子供を養育する労働者の希望により利用可能な短時間勤務制度の設置が、要介護状態の家族を介護する労働者の希望により短時間勤務制度等の措置を講ずることが義務づけられています。なお、制度および措置の設定条件はそれぞれ異なります。

 

育児・介護休業等に関する言動による問題の相談等

労働者が、上記までの育児・介護休業等の制度や措置の利用について相談※9したことや、会社からの調査において事実を申告したことを理由とした「不利益取扱い」は禁止されています(育介法25条の2項)。

※9:使用者は、育児・介護休業等の利用に関してなされる、職場での上司や同僚からの言動(=ハラスメント)により、当該制度・措置を利用する労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じるなどしてハラスメントの防止措置を講じる義務があります。

紛争の解決の援助を求めたこと

労働者が都道府県労働局長に対して、上記までの、育児・介護休業法に定める事項に関する紛争の解決について援助※10を求めたことを理由とする「不利益取扱い」は禁止されています(育介法52条の4第2項)。

※10:労働者には、都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めれば、助言、指導または勧告を行ってもらうことができる権利があります。

紛争の調停の申請をしたこと

労働者が、育児・介護休業法に定める事項に関する紛争の調停※11を申請したことを理由とする「不利益取扱い」は禁止されています(育介法52条の5第2項)。

※11:労働者が都道府県労働局長に調停の申請をした場合、必要に応じて、紛争調停委員会による調停を行うことができる仕組みとなっています。

障害者雇用促進法における不利益取扱いの禁止

労働者が、障害者に対する差別や、雇用に関する合理的な配慮の提供に関する紛争の、解決の援助を求めたことを理由とする「不利益取扱い」は禁止されています(障害者雇用促進法74条の6第2項)。

紛争当事者から紛争解決援助の申出をすると、都道府県労働局長は、必要な助言、指導または勧告をすることができます。

労働組合法における不利益取扱いの禁止

続いては、“不当労働行為”として労働組合法で「不利益取扱い」が禁止されている事項について、順に説明します。

  • 労働組合の組合員であること等
  • 労働委員会へ申立てたこと等

なお、そもそも【労働組合】がどういった組織なのか、詳しく知りたい方は以下のページも併せてご覧ください。

労働組合

労働組合の組合員であること等

労働者の、労働組合に関する以下の事項を理由に、「不利益取扱い」をすることは禁止されています(労組法7条1号)。

  • 労働組合員であること
  • 労働組合に加入しようとしたこと
  • 労働組合を結成しようとしたこと
  • 労働組合の正当な行為をしたこと

なお、上記を理由に「不利益取扱い」がなされた場合、“不当労働行為”が成立します。“不当労働行為”については、以下のページに解説を譲ります。

不当労働行為

労働委員会へ申し立てたこと等

労働者が、不当労働行為があったことを労働委員会に申し立てたこと(再審査の申立ても含む)、あるいは労働委員会が当該申立て関する調査・審問・争議の調整等をする際に、使用者の不当労働行為の証拠を提示したこと、または発言したことを理由として、「不利益取扱い」をすることは禁止されています(労組法7条4号)。なお、こちらも「不利益取扱い」がなされた場合には“不当労働行為”となります。“不当労働行為”について詳しく知りたい方は、前項のリンクからご確認いただけます。

公益通報者保護法における不利益取扱いの禁止

労働者が“公益通報”をしたことを理由とした「不利益取扱い」は禁止されています(公益通報者保護法5条)。

「公益通報」とは、使用者側による一定の法律違反などを、労働者が通報することを指します。通報先としては、会社の相談窓口や外部機関等が挙げられます。不祥事の発覚は内部労働者からの通報がきっかけとなることもあり、被害拡大を防止するためにも、通報者を不利益取扱いから保護する必要があります。

雇用保険法における不利益取扱いの禁止

労働者が使用者に対して、雇用保険の被保険者となった、あるいは被保険者でなくなったことの確認を求めた場合、それを理由に「不利益取扱い」をすることは禁止されています(雇用保険法第73条)。

不利益取扱いの罰則

これまで説明してきた「不利益取扱い」の禁止にあたる行為をしてしまった場合でも、そのすべてが罰則の対象となるわけではありません。会社に罰則が科せられる事項、および罰則の内容として考えられるのは、次の2つになります。

(労基法104条2項)
使用者の労働基準法違反を行政官庁などに申告したことを理由とした「不利益取扱い」に関する罰則
➡6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(同119条)

(雇用保険法73条)
労働者が、雇用保険の被保険者となった、あるいは被保険者でなくなったことの確認を求めたことによる「不利益取扱い」に関する罰則
➡6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(同19条)

ただし、直ちに罰則が科せられないからといって、その他の事項について「不利益取扱い」を行うことはリスクが大きいものとなります。

厚生労働大臣、あるいはその委任を受けた都道府県労働局長から使用者に対し、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法に関する制度等が、法に則って適切に行われているかどうか等、必要に応じて報告を求められることがあります。これによって是正すべき点が判明し、勧告を受けたにもかかわらず、会社が従わなかったときには、企業名を公表することがあります(雇均法30条、育介法56条の2)。

加えて、そもそも報告をしていない、あるいは虚偽の報告をしたときには、20万円以下の過料に処されるおそれがあるため、きちんと対応するようにしましょう(雇均法33条、育介法66条)。

企業の様々な人事・労務問題は弁護士へ

企業側人事労務に関するご相談 初回1時間 電話・来所法律相談無料

会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません

0120-630-807

受付時間:平日 10:00~20:00 / 土日祝 10:00~18:30

0120-630-807タップで電話開始

平日 10:00~20:00 / 土日祝 10:00~18:30

※初回1時間無料、1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。 ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。 ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます