会社が貸与するパソコン等の利用に関する服務規律

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者が働きやすい環境を作るため、会社がパソコン等を貸与することは有効な手段です。ただし、業務において使用するパソコン等には、多くの社内データや顧客情報が含まれるため、セキュリティや危機管理に十分配慮しなければなりません。
そこで、パソコン等の利用方法・利用制限に関する服務規律を就業規則に定め、労働者に周知しておくことが重要です。
本記事では、会社が労働者に対してパソコン等を貸与する際に設けるべき規定や、貸与する際の注意点等を解説していきます。この点の規定等が曖昧なままパソコン等の貸与制度を導入し、思わぬトラブルに見舞われることがないよう、しっかり確認しておきましょう。
目次
パソコン等の利用に関する服務規律の必要性
近年、業務で使用するパソコンや携帯電話、タブレット端末といった情報機器を労働者に貸与する会社が増えています。それと同時に、貸与された機器で私的なメールの送受信や、SNSを含むインターネットの私的な利用行為も問題視されています。
このような身勝手な行為が見過ごされると、作業の遅れや集中力の低下を招き、会社に大きな不利益を与えかねません。また、機密情報が外部に漏れ、会社の信用損失につながるおそれもあります。
そこで、パソコン等の利用ルールは、服務規律として就業規則で定めておくのが望ましいでしょう。就業規則に定めることで、労働者に一定の制約を与えるだけでなく、場合によっては懲戒処分とすることもできます。
なお、服務規律の概要から知りたい方は以下のページをご覧ください。
労働基準法における制限
労働基準法には、貸与されたパソコン等の利用を制限することに関する条項はありません。
一方で、労働者は、就業規則や労働契約を遵守し、誠実に業務にあたることが義務付けられています(労基法2条2号、労契法3条4項)。よって、パソコン等の私的利用によって業務に支障をきたした場合、当該義務違反として処分の対象になりえます。
会社財産と施設管理権
労働者に貸与されるパソコン等は会社の財産であり、会社の施設管理権が及びます。よって、会社はその利用方法や制限を定めることができ、労働者はこれに従う義務があります。
会社の施設管理権については、以下のページで詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
パソコン等の取扱いに関する規定
では、パソコン等の取扱いに関する規定例をみていきましょう。
【遵守事項】
- パソコン等の情報機器は丁寧に扱い、故障・破損・盗難がないようにすること
【禁止事項】
- 無断で持ち出したり、社外の者に利用させたりしないこと
- 保存されたデータファイルの使用や消去、第三者への提供をしないこと
- パソコンの改造や機能の増設、システムの変更をしないこと
- USBメモリ等の記憶媒体を使用しないこと
【報告】
- パソコン等が故障又は破損したとき、盗難被害に遭ったとき、パスワードが第三者に漏洩したとき、不正アクセスやウイルス侵入があったときは、速やかに会社に報告すること
また、これらの規則違反を【懲戒事由】と定めることで、違反した者に懲戒処分を下すことが可能です。
さらに、使用状況を確認する目的でメールの送受信履歴や閲覧履歴を監視する場合、その旨を【モニタリング】として定めておきましょう。規定なく監視した場合、プライバシー侵害にあたるおそれがあるため注意が必要です。
その他、パスワードの管理やデータの管理・引継ぎについても定めておくと良いでしょう。
パソコン等の私的利用に関する規定
勤務時間中、労働者は誠実に職務を行う「職務専念義務」を負っています。つまり、勤務中に業務とは関係ない私的行為をしてはいけないということです。
パソコン等の私的利用はこの職務専念義務違反にあたるため、懲戒処分の対象となりえます。ただし、懲戒処分とするのか否かは、業務への影響等を踏まえて個別的に判断することになります(判断基準は、後ほど詳しくご説明します)。
労働者の職務専念義務については、以下のページでさらに詳しく解説しています。
また、中でもSNSをはじめとしたインターネットの私的利用には特に注意が必要です。詳しくは以下のページで解説しますので、併せてご確認ください。
私的利用の労働時間該当性
労働時間とは、使用者の指揮命令下で働く時間のことをいいます。具体的には、勤務時間から休憩時間を差し引いた時間を指します。労働基準法32条では、労働時間は1日8時間以内、週40時間以内と定められており、これを超えた分は時間外労働(残業)と扱われます。
では、パソコン等を私的利用していた時間は労働時間に含まれるのでしょうか。この点、業務中に私的行為をしていた時間(不就労時間)が不明瞭であることや、私的行為中でも業務を命じられれば指示に従う必要があることを踏まえ、私的行為中も実質的には使用者の指揮命令下にあったと判断されるのが一般的です。よって、従業員がパソコン等を私的行為していた時間も労働時間に含まれ、賃金が発生するケースが多いでしょう。
このように、労働時間に含まれるか否かについて正確に判断するのは困難です。以下のページではそれぞれの具体例を取り上げていますので、ぜひご覧ください。
休憩時間中の利用制限
休憩時間には、その自由利用の原則が設けられています。この原則は、休憩時間を労働者の自由に利用させなければならないとするものです(労基法34条3項)。
とはいえ、休憩中も会社の秩序を守る義務から解放されるわけではありません。また、規律保持を目的とした合理的な行動制限は、休憩中でも認められると考えられています。
そのため、休憩中も会社の施設管理権が及び、パソコン等の私的利用を制限することが可能です。
パソコン等の私的利用への罰則
パソコン等の私的利用の禁止を就業規則で定め、かつ懲戒事由としている場合、当該労働者は懲戒処分の対象となる可能性があります。
ただし、懲戒処分の有効性は、違反行為の程度や会社への影響等を考慮して慎重に判断されます。よって、必ず懲戒処分が認められるわけではないことに注意が必要です(詳しくは次項でご説明します)。
また、パソコン等の私的利用については、黙認されている他の私的行為(業務中の私語や喫煙など)と公平に配慮すべきだと考えらえています。そのため、けん責や戒告など比較的軽い処分となるのが一般的です。
懲戒処分の詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
懲戒処分の可否判断
パソコン等の私的利用は「職務専念義務違反」にあたるため、会社として何らかの処分を検討すべきでしょう。
この点、パソコン等の私的利用が就業規則で禁止され、懲戒事由にも定められている場合、労働者への懲戒処分が認められる可能性があります。しかし、当該義務違反をもって当然に懲戒処分が認められるわけではなく、以下の点を踏まえて個別的に判断すべきでしょう。
- 私的利用の頻度や時間
- 私的利用の悪質性(SNS等で会社の信用毀損や他の労働者を誹謗中傷していた等)
- 業務に支障があったかどうか
- 会社への影響
- それまでの注意指導の有無
- 業務と私的利用の関連性
例えば、会社のパソコンで転職活動をしたり、出会い系サイトにアクセスしたりしていた場合、悪質性があるとして懲戒処分が認められる可能性があります。また、度々注意しても一向に私的利用を止めない場合も懲戒処分の対象となりえます。
一方、会社のパソコンで私的なメール・チャットをしても、その頻度や内容によっては、懲戒処分とすることが困難な場合があります。
なお、職場の風紀秩序を乱す労働者も懲戒処分の対象となる可能性があります。詳しくは以下のページをご覧ください。
パソコン・社内データの持ち出し
パソコンや社内データを持ち出す際は、機密情報の流出等さまざまなリスクを伴います。そのため、このような行為に対しては、特に厳しい対策が求められるでしょう。どのような規定を設けるべきか、以下で解説していきます。
また、その他の備品の持ち出しについても規定を設けておくとなお良いでしょう。詳しくは以下のページで解説しますので、併せてご覧ください。
情報漏洩の危険性について
社外でパソコンを利用してデータのやり取りを行う場合、機密情報や顧客情報の漏洩には、特に注意が必要です。外部からの不正アクセスだけでなく、パソコンの置忘れや紛失、誤操作といった人為的なミスによる漏洩も多いため、十分な対策が求められます。
具体的には、以下のような服務規律を設け、就業規則に定めておくことが重要です。
- 会社の許可なくパソコンを就業場所から持ち出さない
- 会社の許可なく、USBメモリ等の記憶媒体を使用しない
また、別途持ち出しに関する誓約書を提出させることも有効です。誓約書には、以下のような規定を盛り込むことが望ましいでしょう。
- パソコンの私的利用をしない
- 会社の信用毀損、他の労働者を誹謗中傷するコメントを記載しない
- 国籍や宗教、障害者への差別にあたるような内容をコメントしない
- パソコンを改造したり、不必要に周辺機器へ接続したりしない
- 会社の許可なくアプリケーションやソフトをインストールしない
- 機密情報を複製、謄写しない
- IDやパスワードを厳重に管理する
刑法による処罰
許可なく会社の情報(データ)を持ち出した場合、「窃盗罪」にあたる可能性があります。
なお、窃盗罪は、「財物」の窃取が構成要件となっているため、「情報(データ)」はこれに含まれません。そこで、情報を会社が管理する用紙やUSBメモリ等に複製してこれを持ち出した場合に、窃盗罪が成立する可能性があります(これらの用紙やUSBメモリ等につき管理権限を有している者が行った場合には、業務上横領罪が成立する可能性もあります)。
他方、労働者が自己の所有する用紙やUSBメモリ等を使って情報(データ)を持ち出した場合、窃盗罪や業務上横領罪の構成要件に該当しないこととなります。
不正競争防止法との関係
持ち出された情報が「営業秘密」の場合、会社は不正競争防止法違反に基づく措置をとることができます。
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保することを目的とし、営業秘密の侵害や限定提供データの不正取得等を禁止しています。また、会社は、同法に違反した者に対し、差止請求を行ったり、損害賠償請求を行うことができます。さらに、懲役や罰金といった罰則も規定されています。
なお、同法における営業秘密とは、秘密として管理されている生産方法・販売方法・事業活動に有用な技術上又は営業上の情報で、公然に知られていないものと定められています(不正競争防止法2条6項)。具体的には、以下の3つの要件を満たすことが必要です。
- 秘密管理性
秘密に管理されていると客観的に認識できること
例:情報にアクセスできる者が制限されている、部外秘と記載されているなど - 有用性
客観的にみて、情報が事業活動に利用され、経費の節約や経営効率の向上に役立っていること
例:顧客情報、実験データ、生産方法など - 非公知性
保有者の管理下以外では入手できないこと
例:社員しか知らない情報、他の会社と秘密保持契約を締結したうえで共有している情報など
ID・パスワードの管理について
ID・パスワードが外部に漏れると、秘密情報の漏洩やデータ破損、社内システムの不正利用といった事態を招くおそれがあります。このようなリスクを防ぐため、以下のような規定を設け、管理を徹底することが重要です。
- ID・パスワードを第三者に漏らさない
- 1つのID・パスワードを複数人で使用しない
- パスワードは定期的に変更し、過去に使用したものを繰り返して使用しない
- パスワードは、氏名や生年月日など他人が容易に推測できるものを用いない
- ID・パスワードを使用しなくなった場合、速やかに会社に報告する
- ID・パスワードが外部に漏れた場合、速やかに会社に報告する
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある