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従業員の賃金を計算する流れについて解説

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働条件に従い、正確に賃金(給与)を計算するという職務は、労務管理をするうえで非常に重要です。会社に多大な不利益をもたらす給与計算のミスを防ぐためにも、給与計算を担当する方および担当者を管理・監督する立場にある方は、計算の流れをしっかりと頭に入れておかなければなりません。 賃金は算定されるまでに様々なプロセスを経ます。今回は、プロセスごとの計算方法に重点を置きながら解説していきますので、給与計算システムの見直しの際等にご活用いただければ幸いです。

労務管理における給与計算

労務管理上、給与計算は、「労働契約の履行」「税金・社会保険等の公的手続き」という重要な2つの役割を果たします。今回は給与計算の流れについて解説しますので、給与計算の役割については、下記の記事をご覧ください。

労務管理で重要な役割を持つ給与計算について

給与計算の具体的な流れ

同じ会社で働いていても、個々の労働者によって、雇用形態は異なり、それに伴い、基本給や支給される手当も変わってきます。さらに給与の計算にあたっては、時間外労働の有無等も考慮する必要があります。このように、労働者ごとに労働条件および給与計算上考慮すべき事情は多種多様ですが、一般的には、次の計算式によって、実際に労働者に支払うべき賃金の額(手取り額)が算定できます。

手取り額=総支給額-(社会保険料+税金+会社による天引き額)

総支給額および控除される金額の計算方法についての解説は、次項以下をご覧ください。

総支給額の算出

総支給額(額面給与)とは、労働者が労働の対価として得る賃金の総額であり、社会保険料等の各種控除がなされる前の金額です。一般的に、「総支給額=基本給+諸手当」という計算式で求められます。

基本給とは、時間外手当や通勤手当、インセンティブといった各種手当を含まない賃金であって、賃金構成の基礎となる要素を指します。対して、諸手当とは、生活や労働にかかる経費を補填するために支給される賃金をいい、大きく分けて「時間外手当(割増賃金)」と「その他手当」に分けられます。

賃金の構成や各種手当について説明しているので、下記の各記事も併せてご覧ください。

賃金を構成する要素
割増賃金請求について
会社が支給する給与の諸手当について

社会保険料の算出

社会保険料とは、国が行う、国民の様々なリスクに対する公的援助の財源となるもので、「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」「労災保険料」「介護保険料」の5種類に大別できます。また、雇用保険料と労災保険料を併せて「労働保険料」と呼ぶこともあります。各保険料ごとに、会社が負担する分、労働者が負担する分が決まっています。

会社は、賃金の支払額を計算するにあたって社会保険料の金額を算定し、賃金の総支給額から労働者の負担分を控除します。そして、自身の負担分と併せて各納付先へ納付します。そのため、労働者が公的な手続きをする必要はありません。

次項より、各保険料の計算方法を説明します。

健康保険料

健康保険料とは、国が医療費を一部肩代わりするための財源となる医療保険料であり、会社と労働者が半額ずつ負担します。したがって、労働者が負担する健康保険料は、次の計算式で求められます。

健康保険料(本人負担額)=標準報酬月額×健康保険の保険料率÷2

標準報酬月額:原則として4~6月の賃金の総支給額を平均した金額(報酬月額)を等級表に当てはめて算出した、保険料を計算する際の基準となる金額 (年4回以上賞与を支給する場合で、健康保険料を計算する際には、4回目以降の賞与も標準報酬月額に含まれることになります。)

健康保険の保険料率は、会社が①全国健康保険協会(協会けんぽ)あるいは②健康保険組合のいずれに加入しているかで異なります。なお、大企業やその子会社等以外の一般の会社は①に加入しているケースが多くみられます。

①に加入している会社の場合、「健康保険の保険料率」は、下表のとおり、会社所在地の都道府県ごとに異なります

健康保険の保険料率(2020年度4月納付分より)
北海道 10.41% 東京都 9.87% 滋賀県 9.79% 香川県 10.34%
青森県 9.88% 神奈川県 9.93% 京都府 10.03% 愛媛県 10.07%
岩手県 9.77% 新潟県 9.58% 大阪府 10.22% 高知県 10.30%
宮城県 10.06% 富山県 9.59% 兵庫県 10.14% 福岡県 10.32%
秋田県 10.25% 石川県 10.01% 奈良県 10.14% 佐賀県 10.73%
山形県 10.05% 福井県 9.95% 和歌山県 10.14% 長崎県 10.22%
福島県 9.71% 山梨県 9.81% 鳥取県 9.99% 熊本県 10.33%
茨城県 9.77% 長野県 9.70% 島根県 10.15% 大分県 10.17%
栃木県 9.88% 岐阜県 9.92% 岡山県 10.17% 宮崎県 9.91%
群馬県 9.77% 静岡県 9.73% 広島県 10.01% 鹿児島県 10.25%
埼玉県 9.81% 愛知県 9.88% 山口県 10.20% 沖縄県 9.97%
千葉県 9.75% 三重県 9.77% 徳島県 10.28%

※40~64歳の方(介護保険第2号被保険者)は、これに全国一律の介護保険料率(1.79%)が加わります。

一方、②に加入している会社の場合、保険料率は、組合ごとに3~13%の範囲で設定することが可能です。したがって、組合によって保険料率は異なります

厚生年金保険料

厚生年金保険料とは、年金制度の財源となる、公的年金の保険料であり、厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する70歳未満の労働者が支払うものです。厚生年金保険料について、会社は労働者と折半して負担します。したがって、厚生年金保険料の労働者の負担額は、次の計算式で求められます。

月額の厚生年金保険料(本人負担額)=標準報酬月額×18.300%÷2

賞与の厚生年金保険料(本人負担額)=標準賞与額×18.300%÷2

※標準賞与額:支給された1回あたりの賞与額から1000円未満を切り捨てたもの。

厚生年金保険料の計算にあたっては、上限が150万円とされます。

(年4回以上賞与が支給される場合、3回目の賞与までが標準賞与額の対象となります。)

厚生年金保険の保険料率は、全国一律で定められており、2020年4月時点では「18.300%」とされています。ただし、毎年変動するためご注意ください。

なお、厚生年金保険の適用を受ける会社は、厚生年金保険料のほかに「子ども・子育て拠出金」として、児童手当の支給に要する費用等の一部を拠出しています。具体的には、「(厚生年金保険の)標準報酬月額および標準賞与額×拠出金率」という計算式で求めた金額を拠出します。もっとも、労働者の負担はないため、手取り額の計算に影響することはありません。

介護保険料

介護保険料とは、介護を必要とする高齢者を社会全体で支えるための財源となる保険料です。40歳に達した方に、加入と保険料の支払いが義務づけられます。介護保険加入者は、自身が介護の必要な状態になった場合に、1割の費用負担で介護サービスを利用することができます。

なお、介護保険料は、会社と労働者が折半して負担します。したがって、介護保険料の労働者の負担額は、次の計算式で求められます。

月額の介護保険料(本人負担額)=標準報酬月額×1.79%÷2

賞与の介護保険料(本人負担額)=標準賞与額※×1.79%÷2

介護保険料の計算にあたっては、上限が540万円とされます。

介護保険の保険料率は全国一律で定められており、2020年4月時点では「1.79%」とされていますが、変動するためご注意ください。

また、介護保険第2号被保険者に該当する方で、協会けんぽに加入している方は、都道府県別の健康保険料率に介護保険料率を加えたものが、健康保険料率として計算されることになります。

雇用保険料

雇用保険料とは、失業者や育児・介護休業を取得した労働者、60歳以上の一部の労働者に金銭を給付するための財源となる保険料です。なお、労働基準法9条で定義する「労働者」に当たらない方は、原則として雇用保険の対象外となります。健康保険料等と同様、会社も雇用保険料を負担することになりますが、労働者の負担割合よりも会社の負担割合の方が大きいという点で異なります。

雇用保険料は、次のような計算式で求められます。雇用保険料率については下表をご覧ください。

雇用保険料(本人負担額)=賃金総額※1×雇用保険料率

※1:賃金総額=課税対象額※2+通勤手当

※2:課税対象額=総支給額-非課税項目(社会保険料+通勤手当等)

2020年度の雇用保険料率

※3 農林水産の事業:季節的な休業や事業規模の縮小がないとして、厚生労働大臣が指定する以下の事業については、失業保険を受給する可能性が高いとはされないので、一般の事業として取り扱われます。

  • ・牛馬育成、酪農、養鶏、または養豚の事業
  • ・園芸サービスの事業
  • ・内水面養殖の事業
  • ・船員が雇用される事業

労災保険料

労災保険料とは、勤務中や通勤中に起きた出来事に起因する、労働者の怪我・病気・障害・死亡に対する給付金の財源となる保険料です。他の保険料とは異なり、会社が全額負担するものであるため、労働者の給与を計算するうえで扱われることはありません。なお、労災保険の保険料率は、事業の種類ごとに定められています。

税額の算出

賃金には所得税や住民税といった税金がかかりますが、会社に勤める労働者が自ら納付手続きをする必要はありません。労働者の代わりに会社が、労働者に支払うべき賃金の総額からあらかじめ税金分を控除したうえで、税務署や自治体に納付します。

控除すべき税額の計算方法については、次項以下をご覧ください。

所得税(源泉徴収税)

労働者が得る賃金は、税務上、所得に該当するため、賃金の額に応じた所得税がかかります。所得税とは、個人の1年間のすべての所得から各種保険料や配偶者控除等の所得控除を差し引いた残りの所得である課税所得に対してかかる税金です。所得税の支払いのために、会社が賃金から税金分を天引き(源泉徴収)しますが、この天引きした所得税の金額を「源泉徴収税額」といいます。

※なお、2015年から2037年までは、毎年所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて、源泉徴収されることになります。

そして、所得税は、次の計算式によって求めることができます。なお、所得税の税率は、法令により下表のとおりに決まっています。

所得税=課税所得×所得税の税率

所得税の速算表(2015年分以降)
所得税の速算表(2015年分以降)
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え330万円以下 10% 9万7500円
330万円を超え695万円以下 20% 42万7500円
695万円を超え900万円以下 23% 63万600円
900万円を超え1800万円以下 33% 153万6000円
1800万円を超え4000万円以下 40% 279万6000円
4000万円超 45% 479万6000円

なお、所得税は、毎月の収入金額から概算した金額を天引きしていくことから、保険料による控除や住宅ローン控除等を踏まえた金額を算出し、正確な所得税の金額を清算することが必要になりますが、この清算のための手続きを年末調整といいます。

住民税

住民税とは、都道府県や市区町村の行政サービスの財源となる税金で、収入や住んでいる地域によって金額が異なります。納付先は、その年度の1月1日時点の居住地の自治体になります。

住民税は、納付の方法によって「特別徴収」と「普通徴収」に分けられます。前者は、会社が労働者の賃金から毎月天引きして納付するもので、後者は、労働者自身が10回(または4回)に分割された納付手続きを行うものです。

特別徴収をする場合でも、会社が住民税の金額を計算する必要はありません。なぜなら、市区町村が各労働者の毎月の納付額を計算し、6月~翌年5月の12ヶ月分の住民税額を記載した納付書を郵送してくれるからです。書面は、特別徴収義務者である会社に毎年5月にまとめて届きます。これを受けて、会社は各労働者の毎月の納付額を正確に把握し、給与計算に反映させる必要があります。

その他控除額の算出

これまで説明してきた、社会保険料や所得税といった賃金から控除することが法律で定められている「法定控除」のほかにも、会社は、個別に定めた賃金項目を控除することができます。ただし、そのためには、会社と労働者の過半数代表者との間で賃金控除に関する「労使協定」を締結しなければなりません。なお、労働者の過半数が組織する労働組合がある場合は、会社と労働組合との間で締結します。

下記の記事にて、控除の対象となることが多い賃金項目を紹介しています。

賃金から控除される事項

手取り額の算出

労働者の雇用形態、勤務状況等に応じて算定された総支給額から、上述のように算定した税金や社会保険料、その他控除額を差し引くことで、実際に労働者に支払うことになる「手取り額」が確定します。

賃金台帳・給与明細の作成

賃金台帳とは、法定三帳簿のひとつで、労働者への賃金の支払い状況を記載した書類のことです。事業部ごとに作成することが義務づけられています(労基法108条)。詳しくは下記の記事をご覧ください。

法定三帳簿の作成・保存

給与明細とは、賃金の支払額や控除額がまとめて記載された通知書です。労働者は、給与明細を確認することで、基本給やその他手当、控除項目等の明細を知ることができます。使用者に課せられる発行義務に関しては、下記の記事で解説しています。

給与明細の発行義務

賃金の支払いについて

給与計算により賃金の額が算定された後、使用者は賃金を支払うことになります。その際、使用者は、労働基準法24条が定める「賃金支払いの5原則」を守らなければなりません。なお、本原則の違反者には罰則が設けられています(同法120条)。

詳しくは下記の記事をご覧ください。

賃金の支払いに関する労働基準法の定めについて
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