有期労働契約の途中解雇する際の注意点

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
有期労働契約を締結した従業員については、基本的に、使用者は契約期間が満了するまで雇用しなければなりません。そのため、契約期間の途中で解雇するための要件は、無期雇用契約の従業員を解雇する場合よりも厳しいとされています。
しかし、やむを得ない事情があり、契約期間の途中で従業員を解雇するケースもあるでしょう。そういったケースでは、解雇が有効であるかを慎重に確認しなければ、無効とされて損害賠償金を支払うことになるリスクがあります。
このページでは、有期労働契約の従業員の解雇について、概要を解説します。
目次
労働契約の解雇とは
解雇には、主に普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の3種類があります。解雇以外にも、労働契約の解除によって契約を終わらせることが可能です。解雇は、使用者の一方的な意思によって労働契約を終了させますが、解除であれば、労使双方の合意によって労働契約が終了します。
有期労働契約は、途中で解雇するのが無期労働契約よりも難しいと考えられており、やむを得ない事由が必要になります。
なお、有期労働契約について、次期の契約を行わず、契約関係を終了させることも可能であり、これを雇止めといいます。
解雇の種類 | 解説 |
---|---|
普通解雇 | 普通解雇とは、従業員の能力不足や、言動による悪影響等を理由として行われる解雇です。 |
整理解雇 | 整理解雇とは、経営難や人員過剰等を理由として行われる解雇です。これは、日本で一般的に「リストラ」と呼ばれる解雇です。 |
懲戒解雇 | 懲戒解雇とは、業務上横領や悪質なセクハラ・パワハラ等、重大な就業規則違反を理由として、懲戒処分として行われる解雇です。 |
有期契約者の途中契約解雇の争点
従業員を、有期労働契約の途中で、会社都合(経営上の都合)により解雇することについては制限があり、法的に有効な解雇だとみなされるには、一定の要件を充たす必要があります。
有効性の争点となるのは、主に以下の2点です。
- ①そもそも解雇できる事情があるか(整理解雇の有効性)
- ②契約途中に解雇できるか(中途解雇の有効性)
上記の争点のうち、いずれも充たされなければ、有期労働契約の途中での解雇は有効となりません。
①整理解雇の有効性
経営上の理由による解雇(整理解雇)が有効であるかどうかは、有期労働契約であれ無期労働契約であれ、以下の「整理解雇の4要件」で判断されます。
- ①人員削除の必要性
- ②解雇回避努力
- ③手続の妥当性
- ④被解雇者選択選定の妥当性
整理解雇については以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
②途中解雇の有効性
使用者の都合で有期労働契約を解除するときに問題となるのは、民法628条と労働契約法17条にある「やむを得ない事由」です。
整理解雇の要件を充たしていても、やむを得ない事由があると認められなければ、会社には、契約期間が満了するまでは労働者としての地位を保障し、賃金を支払う義務が生じます。この「やむを得ない事由」はかなりハードルの高いものであり、天災等により事業の継続が困難になったケースや、懲戒解雇になってもおかしくないような事情があるケース等でなければ、期間満了まで労働者を解雇することはできないとされています。
民法
(やむを得ない事由による雇用の解除)第628条
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
労働契約法
(契約期間中の解雇等)第17条
1 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
有期労働契約途中解除の予告
やむを得ない事由により有期労働契約を途中で解除する場合には、有期労働者に解雇の予告をしなければなりません。労働契約の締結に際し退職に関する事項を書面で明示するほか、解雇する場合、少なくとも30日前にその予告をするか、日数分の解雇予告手当を与える必要があります。
ただし、次の場合を除きます。
- やむを得ない事由による経営破綻等を理由とする解雇の場合
- 懲戒処分を理由とする解雇の場合
- 日雇いの労働者の場合
- 2ヶ月以内の有期契約労働者の場合
- 試用期間である労働者等の場合
有期労働契約締結時の明示事項については以下のページで解説していますので、ご参照ください。
解雇予告手当について
解雇予告手当とは、正当な理由があって従業員を解雇する場合に、解雇することを伝えてから解雇するまでの期間が30日に足りないときには、足りない日数分の平均賃金を支払うものです。
平均賃金とは、通常、事由の発生した日以前3ヶ月間に、その労働者に支払われた賃金のトータル額を、その期間の総日数(休日も含めた日数)で除した金額です。 つまり、解雇の当日に解雇すると伝えたケースでは、解雇予告手当として「平均賃金額×30」を支払うことになります。
解雇予告・手当に関しては以下のページで解説しています。こちらもご参照ください。
有期労働契約期間途中の解雇に関する裁判例
有期雇用契約の労働者を契約期間中に解雇する場合において、「整理解雇の4要件」と、途中解雇するための「やむを得ない事由」の両方が存在しなければ、解雇は無効となります。
これに関連する、次のような裁判例があります。
【福岡高等裁判所 平成14年9月18日決定、安川電機八幡工場(パート解雇)事件】
- 事件の概要
当該事例は、原告らが期間3ヶ月の労働契約でパートタイム従業員として雇用されてから10年以上も同様の契約が更新されていたところ、会社が原告らを契約期間中に解雇する意思表示をした事例です。
- 裁判所の判断
裁判所は、この事例について、解雇の有効性については「整理解雇の4要件」のうち、人員削減の必要性・解雇回避努力・手続の妥当性を認め、原告の1名については非解雇者選択の妥当性も認めました。
しかし、契約の途中解除については、人員削減の必要は認めたものの、原告らの解雇は3ヶ月の雇用期間の中途でなされなければならないほどのやむを得ない事由があったとは認めず、無効であると判断しました。
途中解雇せず雇用期間終了後に雇止めを行う
有期労働契約の契約期間中には、解雇はほとんど認められません。そのため、契約期間が終了するのを待って、契約を更新しないようにする方が、リスクが低いと考えられます。この場合、労働契約の終了は解雇によるものではなく雇止めによるものになります。
ただし、雇止めについても、必ず有効になるわけではありません。契約の更新が行われると期待させるような言動をした等の事情があれば、雇止めは無効となります。
なお、有期労働の雇止めが無効になる要件等について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある