退職勧奨とは|進め方や注意点、応じない場合の対応等について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
日本では、解雇が有効であると認められにくいことから、退職してほしい労働者がいる場合や人件費を削減したい場合には「退職勧奨」を行うことがあります。
退職勧奨は、会社側から労働者に対して退職を促して受け入れてもらい、同意のうえで退職してもらう方法です。
しかし、進め方や程度によっては違法な退職強要と判断されかねないので、十分に注意しながら行わなければなりません。
この記事では、退職勧奨の概要や進め方、注意点などについて解説します。
目次
退職勧奨とは
退職勧奨(たいしょくかんしょう)とは、会社側が労働者に対して退職を促すことをいいます。退職勧告ともいわれています。
退職勧奨は、あくまでも労働者に退職を勧める手続きにすぎないため、強制力も法的な効果もありません。
会社側が退職勧奨を行うこと自体について法規制はないため、時期や内容を含めて基本的に自由です。しかし、会社側が退職勧奨を短期間で繰り返し行ったり、長期間に渡って拘束したりすると、退職を強要したとみなされて、違法であると評価されるリスクが生じます。
会社都合退職となるのか
会社からの退職勧奨によって退職した場合には、雇用保険において、基本的に会社都合退職として取り扱われると考えられます。しかし、会社が恒常的に用意している早期退職制度等を利用して、退職勧奨に応じる結果となった場合は自己都合退職となります。
会社都合退職であれば、労働者は失業保険を退職から7日後から受け取れます。また、失業保険の受給期間が延びるケースがある等、労働者にとっては有利になる場合が多いです。そのため、会社都合退職としての退職を求められることも多いと考えられます。
解雇との違い
退職勧奨と解雇との違いとして、労働者の同意が必要であるかが挙げられます。
解雇は、使用者からの一方的な雇用契約終了の意思表示であり、労働者の同意は必要ありません。
一方で、退職勧奨によって雇用契約を終了させるためには、労働者の同意が必要です。
解雇が不当だと考えられるときには、労働者との訴訟に発展するケースもあります。
また、解雇が有効であると判断されるための裁判上のハードルは極めて高いものです。
そのため、会社側は、簡単には労働者を解雇できないことから、退職勧奨をして労働者の同意を取りつけるのが有効であるケースが多いと考えられます。
解雇や解雇予告について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
退職勧奨の理由例
法律上、退職勧奨を行う理由には、基本的に制限がありません。また、問題がある労働者に対して退職勧奨を行うこと自体は、違法ではありません。
ただし、次のような理由で退職勧奨を行うと違法になるおそれがあります。
- 男性であること、女性であること、妊娠したこと、出産したこと
- 労働組合に加入したこと
- パワハラを受けていること等について相談したこと
- 会社が行っている不正を通報したこと
また、育休明けの労働者に対し退職勧奨を行うことも雇用機会均等法や育児・介護休業法に違反する可能性があるため、注意しましょう。
退職勧奨には、主な原因が労働者側にあるケースと、企業側にあるケースがあります。
いずれの場合であっても、労働者との面談時には、退職勧奨を行わなければならない理由を丁寧に説明するべきでしょう。
労働者の能力不足
退職勧奨を行う理由として、労働者の能力不足が挙げられます。これは、労働者側が原因となる退職勧奨です。
能力不足の根拠とされることの多い事情として、ミスや顧客からの苦情が多いこと、営業成績が不良であること等があります。
これらの事情があったとしても、それだけで解雇が認められる可能性は低いと考えられます。そのため、退職勧奨が用いられます。
勤務態度に問題がある
退職勧奨を行う理由として、労働者の勤務態度が悪いことが挙げられます。これは、労働者側が原因となる退職勧奨です。
勤務態度が悪いことの根拠とされやすい事情として、無断遅刻や無断欠勤が多いことや、業務上の指示に従わないこと等があります。
これらの事情があっても、直ちに解雇できるというわけではなく、繰り返し指導して、改善されない場合には軽い懲戒処分を行うなどの対応が必要となります。そのため、早く退職してもらうために退職勧奨が用いられます。
周囲とトラブルが多い
退職勧奨を行う理由として、周囲とトラブルが多いことが挙げられます。これは、労働者側が原因となる退職勧奨です。
トラブルが多い根拠とされることの多い事情として、他の労働者を怒鳴りつけることや、悪口を言いふらすこと等があります。
これらの事情があっても、すぐに解雇することは難しいため、まずは配置転換を行うなどの対応が必要となります。そのため、早く退職してもらうために退職勧奨が用いられます。
経営上の事情
退職勧奨を行う理由として、経営上の事情が挙げられます。これは、会社側が原因となる退職勧奨です。
経営上の事情の具体例として、業績の悪化や不採算部門の廃止などがあります。
会社が赤字であったとしても、労働者を解雇するためには、その前に解雇を回避するための努力をしなければなりません。そのため、退職勧奨などの対応が行われます。
退職勧奨の進め方
退職勧奨は、主に次のような手順で進めます。
- 退職勧奨の方針を決定する
- 退職勧奨の理由を整理する
- 労働者と面談を行う
- 回答期限を伝え、検討を促す
- 退職の時期や条件を話し合う
- 退職届等の提出
この手順について、それぞれを以下で詳しく解説します。
①退職勧奨の方針を決定する
退職勧奨の対象とする労働者について、会社の幹部が話し合い、直属の上司の意見を聴いて共有します。そして、会社の総意として退職勧奨を行うのだということを本人に伝えられるようにしておきます。
②退職勧奨の理由を整理する
対象となる労働者について、退職勧奨を行う理由を整理します。そして、労働者本人に伝えられるように準備を進めます。
退職勧奨の対象とされた労働者は反論するケースが多いため、十分に検討したことが分かるようにしておきましょう。
③労働者と面談を行う
退職勧奨を実施するときには、労働者を個室に呼び出して行います。このとき、退職を強要したと受け取られないように、労働者を侮辱するような表現は控えるなど話し方に気をつけましょう。
また、労働者には、退職条件を調整できるなど、退職勧奨に応じることにメリットがあると伝えましょう。
④回答期限を伝え、検討を促す
退職勧奨では、1週間程度の期間を目安として回答期限を伝えましょう。その場で回答させようとすると、退職強要とみなされるリスクがあるため、基本的には望ましくありません。
少なくとも、労働者が家族に相談しなければ回答は難しいケースが多いため、週末に伝えて検討してもらう等の対応が必要となるでしょう。
⑤退職の時期や条件を話し合う
労働者が退職勧奨に応じた場合、退職時期や条件面などを決める必要があります。労働者にとって何が好条件になるかをよく考え、しっかりと協議することが後のトラブル回避につながります。
会社が提案できる条件として、次のようなものが挙げられます。
- 給料の数ヶ月分を支払うこと
- 退職金を割り増しで支払うこと
- 次の就職先を見つけるための支援をすること
- 未消化の有給休暇を買い取ること
⑥退職届等の提出
退職勧奨の結果、労働者が退職すること及びそのための条件に納得したときは、退職届を提出してもらいましょう。
ただし、退職届を提出してもらったとしても、労働者が退職勧奨に同意した証拠として十分ではありません。そこで、退職勧奨通知書を渡し、退職勧奨同意書(合意書)に署名してもらうようにしましょう。
退職勧奨同意書(合意書)については、次項で解説します。
退職勧奨同意書・退職勧奨通知書について
退職勧奨同意書(合意書)とは、会社が退職勧奨を行い、従業員がそれに応じたことを証明するための書面です。
従業員が退職勧奨に同意した場合であっても、後になって不当解雇であったと主張されてしまうリスクがあるため、円満に退職勧奨に同意してもらった証拠として、退職勧奨同意書(合意書)を作成する必要があります。
退職勧奨同意書(合意書)は、会社側が適切な書面を作成し、双方が署名するようにしましょう。内容として、少なくとも次の事項を明記しましょう。
- 退職日
- 退職勧奨に応じて退職すること
- 退職金等の金額
- 退職勧奨同意書(合意書)に記載されていない未払賃金などがないこと
- 一定の期間について競業避止義務があること
- 退職勧奨に応じた条件について秘密にする義務を負うこと
- 会社側を中傷する言動をしないこと
退職勧奨を行う際の注意点
退職勧奨を行うときには、後で「実質的に不当な解雇だった」といった主張をされないように注意しなければなりません。
この点について、退職勧奨に臨む際に気を付けるべきことを以下で解説します。
強迫やパワハラとならないようにする
退職勧奨を目的として労働者と面談を行う際は、十分、言動に気を付ける必要があります。労働者に脅迫や強要と判断されるような行為をしてはなりません。そのような言動をすると、「退職強要」にあたり、退職の合意について無効だと主張されるリスクがあります。
退職強要にあたる言動としては、次のものがあげられます。
- 「退職届を出さないと解雇する」などと発言する
- 退職に同意するまで部屋から出られないようにする
- 過剰な仕事を押し付けたり、仕事を取り上げたりして、退職に同意するべきだと思わせる
退職勧奨を行うときには、退職強要はしないように注意しながら、大声は出さずに丁寧な言い方を心がけるなど、細心の注意を払うようにしましょう。
また、労働者の気が変わるなどして訴訟を起こされたときに反論できるように会話は録音しておくと良いでしょう。
【判例】昭和電線電纜事件(横浜地方裁判所川崎支部 平成16年 5月28日判決)
この事例は、出向先で口論をするなどした原告が出向を解除され、そのことなどを理由として会社から退職勧奨を受けた事例です。原告は、被告会社が解雇を示唆したことから、退職勧奨に応じなければ解雇されると考えて退職したものの、退職の取り消しを求めて訴訟を起こしました。
裁判所は、原告が不注意によるミスや、年齢に照らして軽率な態度があったことは認めつつも、解雇されるほど重大ではないとしました。
また、整理解雇も成立しないため、被告会社による解雇の意思表示は無効であり、原告の退職には錯誤(勘違い)があったため無効だと認めました。
何度も面談を繰り返したり、長時間行わない
退職勧奨に同意してもらうことを目指して、何度も呼び出して面談を行うのは控えるべきでしょう。面談の回数が増えていけば、労働者の意思に反して執拗に退職を強要していると評価されるおそれが高まっていきます。
労働者が明確に退職を拒否した後には、退職勧奨を行わないことが望ましいと考えられます。
また、退職勧奨を行うのは就労時間内にして、長くても1時間以内には終わらせるようにしましょう。
退職勧奨をする回数や時間が社会通念上の限度を超えていると、違法と判断されるリスクが大きくなります。
違法な退職勧奨とされると、次のようなリスクがあります。
- 退職の合意が無効となるリスク
- 退職としてから無効とされるまでの賃金を支払うリスク
- 慰謝料を支払うことになるリスク
【判例】全日空事件(大阪高等裁判所 平成13年3月14日判決)
この事例は、交通事故により負傷した原告が、被告会社の上司から繰り返し退職勧奨を受けて、最終的に解雇されたために、解雇の取り消しに加えて退職強要についての慰謝料などを求めて訴訟を起こした事例です。
裁判所は、原告の労働能力が交通事故によって著しく低下したとは認めず、解雇を無効だと判断しました。そして、被告会社の上司が原告に対して、30回以上も面談などを行い、その中には8時間程度の長時間に及ぶものがあり、罵倒するような言葉を浴びせ、机を叩くなどの行為に及んだこと等について、違法な退職強要であり不法行為になると認めました。
退職を促すための業務内容の変更や配置転換を行わない
退職勧奨に同意してもらうために、合理的でない配置転換や出向を行わないようにしましょう。
例えば、退職勧奨を拒否した労働者について、次のようなことをすると不当だと判断されるおそれがあります。
- 事務員を出向させて、肉体的な負担の重い倉庫業務に従事させる
- 草むしり等をするように命じて、他の仕事を与えない
- 1人だけ個室を与え、会社の業務とは関係の乏しい作業をさせる
【判例】大和証券事件(大阪地方裁判所 平成27年4月24日判決)
この事例は、被告会社Y1から被告会社Y2に転籍した原告が、1人だけ他の社員と異なる部屋に事実上隔離され、朝会などにも参加できず、新規顧客に1日100件の営業をかけることを求められる等の扱いを受けた事例です。原告は、被告会社Y1及びY2が、原告を退職に追い込むために共謀して嫌がらせを行ったとして、慰謝料などを求めて訴訟を起こしました。
裁判所は、原告に個室を与えて他の社員から隔離したことについて、原告に対する嫌がらせであると認めました。また、1日100件の営業を目標とすることに合理的な理由があるとは認められず、原告に対する嫌がらせであると評価しました。
そして、原告に対する嫌がらせは悪質であるとして、慰謝料として150万円の支払いを命じました。
即日での回答を求めない
退職勧奨の面談を行っても、即日での回答は求めないようにしてください。
即日での回答を求めると、従業員は真意に基づかない意思表示をするおそれがあります。考える時間を与えられず、退職する以外に選択肢がないと誤信して行った退職合意は後日無効となるおそれがあり、トラブルになるリスクが高まります。
労働者が退職勧奨に応じない場合の対応
労働者に退職勧奨を行い、拒否されたからといって、感情的になって怒鳴ったりすれば、違法な退職強要だと評価されるリスクがあります。
そこで、労働者が退職勧奨に応じなかった場合に、どのような対応を検討するべきかについて以下で解説します。
退職の優遇措置を提案する
労働者に退職勧奨を受け入れてもらうために、優遇措置を提案する方法が考えられます。
優遇措置としては、例えば退職金の割り増しや特別手当の支給、次の就職先のあっせん等があります。
労働者の生活の不安を軽減できるだけの優遇措置があれば、退職を快諾してもらえる可能性が高まります。
人員整理であれば解雇を検討する
退職勧奨を行っても労働者が退職勧奨を断る場合には、解雇を検討しましょう。
会社が雇用している労働者を解雇することは難しいですが、全く認められないわけではありません。例えば、当該労働者が就業規則などに違反しており、繰り返し指導しても改善がみられない場合など、労務提供に必要な能力が明らかに欠けている場合があります。
このように、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であれば、労働者に対する解雇が有効となることもあります。
また、会社の経営状態の悪化により、どうしても整理解雇しなければならない状況であれば、合理的な理由があると判断されて解雇が認められる場合もあります。
また、労働者を有効に解雇するためには解雇予告などの措置をとらなければなりません。解雇予告について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
パワハラなどの違法な退職勧奨による損害賠償責任
退職勧奨が過度に行われて、事実上の退職強要になった場合には、退職勧奨を行った者だけでなく使用者にも損害賠償責任が生じることがあります。
特に、退職勧奨の態様が、個室に隔離して仕事を与えないようなものであったケースや、侮辱的な言葉を繰り返し投げかけるものであったケース等、パワハラに該当するようなものだったときには、労働者からの慰謝料の請求が認められるリスクが高くなります。
また、違法な退職強要によって労働者が退職した場合には、裁判等によって退職が取り消されるおそれがあります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある