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母性健康管理

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

少子高齢化が進み労働人口の減少が問題視されるなか、継続的に経済発展をしていくためには、労働力の確保が必要不可欠です。この点、近年社会進出が進んできた女性は、有力な労働力となり得ます。しかし、女性の労働力を安定して得るためには、女性が妊娠中・出産後も働き続けることができる職場環境を整える必要があります。そして、これは社会的にも重要な課題とされています。

こうした課題に対処するために、雇用機会均等法によって定められたのが「母性健康管理措置」という制度です。これは、事業主に対して、雇用する女性労働者の母性を尊重することを義務づける制度です。

本記事では、母性健康管理措置の概要や事業主の具体的な義務の内容等について、事業主が気をつけなければならないポイントを踏まえながら説明します。

雇用機会均等法で定められる「母性健康管理措置」

雇用機会均等法では、妊産婦妊娠中および産後1年以内の女性)が安心して働くことができる条件を整備するために、いくつかの規定を設けています。その中には、妊産婦の健康管理に関する規定もあり、これを「母性健康管理措置」といいます。

母性健康管理の対象者

妊産婦は、雇用形態を問わず、全員が母性健康管理措置の対象となります。育児休業に関しては、就労してから1年未満の労働者など一部の労働者に関して、労使協定を締結することで対象から除外できると定められています。しかし、母性健康管理措置の対象は「女性労働者」であり、特段の除外を認める規定も設けられていないことから、日雇労働者や有期契約労働者等も当然対象となるため、母性健康管理措置の対象から非正規労働者等を除外する旨の就業規則等を定めることは許されません。

なお、特殊な雇用形態である派遣労働者に関しては、派遣元事業主と派遣先事業主の双方が、母性健康管理措置を講じる義務を負います。

保健指導または健康診査を受けるための時間の確保(雇均法12条)

雇用機会均等法12条によると、事業主は、雇用する女性労働者が、妊産婦のための保険指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保できるようにしなければなりません。妊産婦は、母体や胎児の健康のために保険指導または健康診査を受ける必要があるものの、働いている場合にはこの時間を確保することが難しいケースがあります。そこで、事業主に対して、受診に必要な時間を確保することを義務づける必要性が生じたのです。

本条項にいう保険指導または健康診査とは、妊産婦本人を対象とする産科に関する診察や諸検査、これらの結果に基づき行われる個別の保険指導をいいます。また、保険指導または健康診査を受けるために必要な時間には、健康診査等の受診時間や保険指導を直接受けている時間だけでなく、医療機関等での待ち時間や移動の往復時間も含まれます。

なお、会社の休日等に保険指導や健康診査を受けることを本人が希望する場合には、休日等にこれらを受けさせても問題はありません。

確保しなければならない受診回数

妊産婦の身体の状態は時間とともに変化していくので、その時々に応じて、受診に必要な時間(頻度)も異なります。次項以下に、必要とされる受診の頻度を場合分けしてまとめました。

妊娠中の場合

以下の表をご覧いただくとわかるように、妊娠週数ごとに、必要とされる受診の頻度や時間は異なります。

なお、医師または助産師が下表と異なる指示をした場合には、その指示に従い、必要とされる時間を確保できるようにしなければなりません

妊娠週数確保しなければならない受診回数
0週~23週まで4週間に1回
24週~35週まで2週間に1回
36週~出産まで1週間に1回

産後(出産後1年以内)の場合

事業主は、出産後1年以内の女性労働者が、医師または助産師から健康診査等を受けるよう指示されたときは、その指示に従い、受診に必要な時間を確保できるようにしなければなりません

目安として、産後の経過が良好な場合は、一般的に産後休業期間中である産後4週前後に1回、受診することになります。これに対して、産後の回復が不良で、健康診査等を受診する必要がある場合には、医師等の指示どおり、必要な時間を確保できるようにする必要があります。

受診に必要な時間の付与方法

健康診査等を受けるために必要な時間を付与する方法や付与単位に関しては、事業主が決めることになります。ただし、決定するにあたっては、労使間で話し合いをするべきだとされます。

当然のことですが、労働者ごとに、通院する医療機関等と勤務地間の距離が異なるとともに、受診に要する時間も異なります。そのため、健康診査等にかかる時間の付与単位は、時間単位や半日単位でも取れるようにする等、融通が利くものにする必要があります。

通院日や通院する医療機関等は、原則として本人の希望を優先させましょう。

なお、事業主が、会社の休日または本人の非番日に通院日を変更させること、および休日以外の申請を拒否することは基本的にできません。しかし、業務の都合等により、やむを得ず通院日の変更を行わせる場合には、原則として本人の希望に従って通院日を決定してください。

受診時間中の賃金について

健康診査等を受けている間の賃金(給与)に関する、法律の規定はありません。そのため、就業規則等で「受診中の賃金は無給とする。」と定めることも違法ではありません。もっとも、こうした取り決めは、労使間の協議を踏まえて決定していくことが望ましいでしょう。

指導事項を守ることができるようにするための措置(雇均法13条)

事業主は、妊産婦である女性労働者が、保険指導または健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするための措置を講じなければなりません(雇均法13条1項)。措置の内容を決定した事業主は、決定後速やかに、可能であれば書面によって、女性労働者に対してその内容を明示しましょう。

事業主が講じることを求められる具体的な措置としては、勤務時間の変更(妊娠中の通勤緩和や休憩に関する措置等)や業務負担の軽減(妊娠中・出産後の症状等に関する措置)といったものが挙げられます。次項以下で詳しく説明していきます。

妊娠中の通勤緩和

妊娠中は、つわりといった体調不良や流産・早産等の危険を抱えており、交通機関(公共交通機関だけでなく自家用車も含みます)の混雑に起因する苦痛によって、これらが悪化してしまうおそれがあります。そこで、事業主は、女性労働者が健康診査等で「通勤緩和」の指導を受けた場合には、本人の申出に基づいて、当該女性労働者が通勤ラッシュによる混雑を避けて通勤できるように、通勤緩和の措置を講じる必要があります

なお、労働者の居住地や会社の立地、始業時刻等により、通勤時の交通事情は異なるので、当該女性労働者の心身の状態や通勤事情を考慮し、措置の内容を決定することが望ましいと考えられます。採用されることが多い通勤緩和の措置の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 時差通勤
    :始業時間と終業時間に各30~60分程度の時間を設けること
    :フレックスタイム制度(労基法32条の3)を適用すること
  • 勤務時間の短縮(1日30~60分程度)
  • 混雑の少ない交通手段・通勤経路への変更

妊娠中の休憩に関する措置

事業主は、妊娠中の女性労働者が健康診査等で「休憩に関する措置」について指導を受けた場合には、本人の申出に基づき、休憩時間の伸長増数等、必要な措置を講じなければなりません。ただし、一口に妊娠中の女性といっても、心身の状態や勤務内容は一人ひとり異なるので、こうした事情を考慮したうえで、企業内の産業保健スタッフや機会均等推進責任者と相談し、講じる措置を決定することが望ましいとされます。

休憩に関する措置の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 休憩時間の伸長
  • 休憩回数の増数
  • 休憩時間帯の変更

また、休憩場所を設ける場合には、妊娠中の女性労働者が横になれる休憩室を設けることが望ましいとされています。休憩室は設けず、部屋の一部に横になって休憩できるような長椅子等を置く場合は、周りについ立てを設置する等の工夫をするようにしましょう。妊娠中の女性労働者が立ち仕事に従事しているような場合には、その傍に椅子を置く等、休憩を取りやすくする工夫をすることが求められます。

妊娠中又は出産後の症状等に対応する措置

事業主は、妊産婦である女性労働者が健康診査等で指導を受けた場合には、本人の申出に基づき、当該女性労働者が指導事項を守ることができるようにするための措置を講じなければなりません。講じることが求められる措置の具体的な内容としては、次のようなものが挙げられます。

  • 負担の大きい作業の制限・負担の小さい作業(座り仕事、デスクワーク等)への転換
    負担の大きい作業の例 :重量物を取り扱う作業(年齢によって制限される重量は異なります)
    :外回り等、連続して歩行しなければならない作業
    :常に全身の運動を伴う作業
    :頻繁に階段を上り下りしなければならない作業
    :腹部を圧迫する等、不自然な姿勢をとらなければならない作業
    :全身の振動を伴う作業
  • 勤務時間の短縮
  • 〇(症状軽快まで休業期間の付与
  • 作業環境の変更
    :つわりの症状が酷い妊娠中の女性労働者を、通気性の悪い勤務場所から移動させる

医師による具体的な指導がない場合、措置が不明確な場合の対処法

①通勤緩和や休憩に関する措置について、医師等から具体的な指導がない場合、または②症状等に対応する措置について、その指導に基づく措置の内容が不明確な場合でも、事業主は適切な対応をとらなければなりません

①のような場合に、女性労働者本人から通勤緩和や休憩に関する措置の申出があったときは、事業主は、当該女性労働者の通勤事情や勤務内容を考慮し、次に挙げる例をはじめとして適切な対応をとる必要があります。

  • 〇適切な対応の例 :女性労働者本人を介して担当医等と連絡をとり、判断を求める
    :企業内の産業保健スタッフに判断を求める
    :機会均等推進責任者に判断を求める
    :ただちに通勤緩和や休憩に関する措置を講じる

一方、②のように「症状等に対応する措置」について指導がなされているケースは、女性労働者の妊娠の経過に異常またはそのおそれがある等、専門家の判断を求める必要性が高いので、次のような具体的対応等を通して、必要な措置を講じなければなりません。

  • 〇事業主がとるべき具体的対応 :女性労働者本人を介して担当医等と連絡をとり、判断を求める
    :企業内の産業保健スタッフに相談し、必要な措置を決める

「母性健康管理指導事項連絡カード」について

母性健康管理指導事項連絡カードとは、母性健康管理措置が適切に講じられるようにするために必要な情報(医師等からなされた指導事項の内容および講じるべき措置の内容)を明確にし、事業主に的確に伝達することを目的に様式が定められたカードです。

健康診査等の結果、通勤緩和や勤務時間に関する措置等が必要であると認められる指導事項があると医師等が判断した場合に、本カードに必要事項を記入することで発行されます。当該女性労働者が本カードを提出して措置を申し出た場合、事業主は、カードの記載内容に従った適切な措置を講じなければなりません

妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止(雇均法第9条)

事業主は、女性労働者が妊娠・出産・産前産後休業を取得したことを理由とする解雇や、雇用機会均等法で定める母性健康管理措置、労働基準法で定める母性保護措置等を受けたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません(雇均法9条)。

紛争の解決(雇均法第15条~第27条)

事業主が母性健康管理措置を講じず、事業主と労働者間で紛争が生じた場合には、調停をはじめとした解決援助の申出を行うことが認められています(雇均法15~27条)。これらの規定によって、あっせんや調停等の裁判よりもソフトな手段を利用して紛争の解決を目指すことができます。なかでも、調停手続においては、簡易裁判所における調停と同様に、時効の中断の効力を与えられていることが特徴といえます。

労働基準法で定められる「母性保護規定」

雇用機会均等法で定める母性健康管理措置以外にも、労働基準法には、女性労働者の母性を保護する規定が定められています。これを「母性保護規定」といいます。

母性保護規定の例としては、妊産婦に認められている、休業期間の制度(産前産後休業)が挙げられます(労基法65条1項、2項)。

女性従業員の労働 産前産後休業

また、妊産婦が請求した場合には、使用者(事業主とほぼ同義です)は軽易な業務に転換させなければならず(労基法65条3項)、労働時間も制限しなければなりません(労基法66条1項、2項、3項)。さらに、本人の請求にかかわらず、妊娠・出産・哺育等に危険有害な業務に就業させることはできません(労基法64条の3)。

女性従業員の労働

そして、使用者は、満1歳未満の子供を養育する女性労働者に対して、勤務時間中、休憩時間とはまた別に育児のための時間を与えなければならないと定められています。

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