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退職金の不支給、減額

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

退職金は労働者にとってはひとつの区切りとなることが多いでしょう。退職金の支給を規定しているのであれば、一定の基準をあらかじめ設けておかなければなりません。
たとえば、労働者が退職前や退職後に問題行為をおこした場合、そのあとの退職金はそのまま支給すべきではない、と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、退職金を不支給・減額にするときは、それなりの理由付けや対策等が必要となります。

本記事では、退職金の不支給や減額に関する取扱いを解説していきます。

退職金についての詳細は、以下のページをご覧ください。

退職金について

退職金の不支給・減額

法律上、退職金の支払い義務に関する規程はありません。

このため、会社側は、退職金についての基準や金額、ひいては支給の有無についても自由に決めることができます。

退職金を支給すると決めた場合には、退職金が適用となる労働者の範囲、算定・支払方法、支払時期といった事項を、就業規則や退職金規定等に明記する必要があります(労基法89条)。

また、懲戒解雇や職務規定違反等による退職について、退職金の不支給や減額を行うのであれば、この旨も併せて明記しておくことを徹底しましょう。

解雇による退職金の不支給や減額

退職金については法律には定めがないため、支給の範囲や基準については会社が自由に定められます。多くのケースでは、支給基準の中に懲戒解雇等に相当するような違反行為があった者には、退職金を不支給または減額をするといった規定を設けることが多いです。

ただし、退職金は、賃金の後払い的な性格を有するため、単に、退職金の不支給や減額に関する規定があったからといって、その不支給や減額に合理的な理由がない限り、労働者は納得しないでしょう。

実際、後述の裁判例においては、懲戒解雇やそれに相当する行為が、「長期間の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為」に該当する場合に、退職金の不支給・減額が認められると判示しています。

そのため、就業規則等に退職金の不支給や減額を定める場合には、かかる趣旨を踏まえた要件を設けておく必要があるでしょう。

懲戒解雇については、以下のページにて詳しく解説していますので、ご覧ください。

懲戒解雇とは

解雇と退職金の不支給、減額に関する裁判例

ここでは、実際に退職金の減額が認められた裁判例について紹介していきます。

【東京高等裁判所 平成15年12月11日判決、小田急電鉄(退職金請求)事件】

事件の概要

鉄道会社で勤務していた労働者Xが、痴漢行為により逮捕拘留された後、再び痴漢行為を繰り返し、逮捕され、正式起訴され執行猶予付き判決を受けました。会社の就業規則の懲戒事項に基づき懲戒解雇をし、併せて退職金規程の不支給事情によって退職金を支払いませんでした。
退職金不支給に関して、Xは解雇の手続に瑕疵があり、処分内容も重すぎて無効、さらに勤続年数に対して功労を消し去るほどの不信行為に該当しないとして、退職金の全額支払いを求めた事案です。

裁判所の判断

裁判所は、電車内の痴漢行為による逮捕や拘留、起訴は懲戒解雇となる理由に相当するとしました。
しかしながら、退職金については、Xの行為が業務時間外に行われた非違行為であること等を理由に、永年の勤続の功を抹消してしまうほどの背信行為があったとまではいえないとし、全額不支給ではなく、3割を支給すべきするのが相当であるとしました。

契約社員やパートへの退職金不支給について

退職金制度を定めているのであれば、退職金の有無についても同一労働同一賃金が問題となります。同一労働同一賃金とは、会社における正社員と非正規社員(パートタイマー、契約社員等)の間には不合理な待遇の差をなくすといったものです。
つまり、非正規社員に合理的な理由なく退職金が支給されない場合には、この同一労働同一賃金の観点から、非正規社員への待遇が違法と認められることがあります。

実際に、約10年勤務していた契約社員へ退職金を支払わなかったとして、会社の不支給を違法とした裁判例もあります(東京高等裁判所 平成31年2月20日判決、メトロコマース事件)。
したがって、非正社員だからといって退職金を支払わなければ違法となるおそれもあるため、会社としては正社員との待遇や相違の違い等をあらかじめ説明しておくことが義務付けられています(短時有期法14条)。

退職後の退職金の返還について

退職金を支給した退職者が、在職中に懲戒解雇に相当する違反行為をしていたことが判明した場合、会社は返還を請求できるのでしょうか?
このような場合、就業規則等に「退職後、在職中に懲戒解雇に相当する行為が発覚した場合、退職金を返還または支給しないことがある」というような規定があるかどうかが判断基準となります。

実際に、退職者が在職中に収賄の事実が発覚し、就業規則にあった上記のような規定に基づき、退職金の返還請求を認めた事案があります(大阪地方裁判所 昭和63年11月2日判決、阪神高速道路公団事件)。

これらのように、懲戒解雇事由を退職金の不支給・減額要件とすれば、退職後にこれらの事由が発覚しても、「不当利得(民法703条)に基づき退職金の返還を請求できる」旨を規定しておくべきでしょう。

退職金不支給に対する罰則

就業規則や退職金規程に、退職金支給に関する規定を明記しているにもかかわらず、退職金を支払わない場合、労働者から未払い請求をされるおそれがあります。

さらに、支払うべき退職金を支払わない期間については、遅延損害金が発生してしまいます。退職金の遅延損害金は、年3%です。なお、賃金の支払の確保等に関する法律により、退職日以降の不合理な支払い遅延にかかる遅延損害金については、年14.6%となることが定められていますので、ご注意ください。

また、退職金請求には、支払うべきときから5年という消滅時効が定められています(労基法115条)。そのため、不支給のまま数年経っていたとしても、時効までは未払い請求を受けるおそれがありますので、注意が必要です。時効についての詳細は、以下のページをご覧ください。

退職金請求権の消滅時効期間

競業避止義務違反及び秘密保持義務違反と退職金の不支給、減額

就業規則や退職金規程等に「競業避止義務や秘密保持義務に反した者は、退職金の不支給または減額をする」という旨を明記していれば、退職後においても退職金の不支給や減額が認められる場合があります。ただし、会社の一方的な規定のみでなく、合理性が認められるような内容にすることが必要でしょう。

競業避止義務や秘密保持義務についての詳細は、以下の各ページをご覧ください。

競業行為について
秘密保持義務について

会社都合退職、自己都合退職の退職金について

退職金には様々な性格が認められており、勤続年数が多ければ多いほど有利な算定とする会社が多く見受けられます。また、定年退職とは別に、中途退職の場合は、「会社都合」なのか「自己都合」なのかによって、退職金の金額が異なる方式を採用している会社も多いです。

会社都合退職とは、倒産、労働者の解雇、退職勧奨といった“会社の都合”によって労働者との雇用契約を終了することをいいます。

これに対し自己都合退職は、労働者本人の都合によって生じるものです。このため、会社都合退職より低い金額、場合によっては不支給の取扱いとすることが一般的となっています。

退職金債権の譲渡

会社が退職金の支払い基準等を定めていれば、会社はその支払い義務が生じており、労働基準法上の賃金に該当します。労働基準法24条では、賃金の直接払いの原則が定められています。これは、使用者は賃金を直接労働者に全額支払わなければならないとする原則です。

たとえ、退職者が第三者へ退職金の譲渡をした場合でも、使用者は労働者本人に直接支払わなければならない(最高裁 昭和43年3月12日判決参照)ため、この原則に反してしまうと30万円以下の刑罰を科せられるおそれがあります(労基法120条)。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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