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退職金の不支給・減額|違法性や解雇による対応、判例などを解説

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

退職金は、従業員にとって長年の努力の結晶であり、企業にとっても重要な労務管理のテーマです。
しかし、「問題行為を起こした社員に退職金を支払うべきか」と迷う場面に直面する企業は少なくありません。退職金の不支給や減額は、企業が自由に決められるものではなく、就業規則の整備や正当な理由がなければ認められないため注意が必要です。

本記事では、退職金の不支給・減額が認められる条件や、企業が注意すべきポイントについて解説します。

退職金の不支給・減額とは

退職金の不支給・減額とは、会社が本来従業員に支払われるはずの退職金を支給しない、または一部のみを支払う対応をいいます。

退職金の支払いは、法律上の義務ではありません。そのため、支給の有無や計算方法などは、会社が就業規則などで自由に定めることができます。そして、これらの規定には、一定の場合に退職金を支給しない支給制限事由が設けられていることが一般的です。

例えば、横領や機密情報の漏えいなど、重大な不正があった場合には、退職金が不支給または減額されることがあります。

退職金の不支給・減額の違法性

退職金の不支給や減額を、就業規則や退職金規程であらかじめ定めておくこと自体は、法律上問題はありません。合理的な理由に基づくものであれば、賃金は全額支払うべきとする原則(賃金全額払い原則、労基法24条)にも反しないと考えられています。

ただし、こうした規定がない場合や、正当な理由なく会社が一方的に退職金を支給しない、または減額することは認められず、違法と判断される可能性があります。

また、本来支払うべき退職金を支払わない場合には、遅延損害金が発生し、その利率は、就業規則や退職金規程に定めがある場合にはそれに従うことになります。

就業規則や退職金規程に遅延損害金の利率について定めがない場合は、民事法定利率の3%となるのが原則です。さらに、退職金請求権の消滅時効は5年であるため、退職金請求権が行使可能な時から5年の間は退職した従業員から退職金を請求されるリスクが残る点も押さえておきましょう。

賃金支払いの5原則について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

賃金支払いの5原則とは|例外や違反時の罰則など詳しく解説

退職金の不支給・減額が認められる条件

退職金の不支給や減額は、会社の判断で自由に行えるわけではありません。裁判例でも慎重に判断されており、認められるケースは限られています。具体的には、以下の2つの要件をいずれも満たしている場合にのみ、不支給や減額が認められるとされています。

  • 就業規則または退職金規程に不支給事由や減額事由が定められていること
  • 退職者に著しい背信行為があったこと

不支給事由や減額事由が定められていること

退職金に関する事項は、制度を設けている場合には、就業規則に記載してその内容を明確にし、後日の争いを防ぐことが重要です。そのため、退職金制度を導入するときは、支給対象となる従業員の範囲や計算方法、支払時期などを、就業規則や退職金規程に明記しておくことが求められます。

さらに、懲戒解雇や就業規則違反などを理由に、退職金の不支給や減額を行うのであれば、その取扱いについても、あらかじめ規定に盛り込んでおく必要があります。例えば、以下のような内容を定めることが一般的です。

第○条(退職金の不支給および減額)
1 従業員が懲戒解雇された場合、または在職中もしくは退職後に懲戒解雇事由に相当する非違行為を行ったことが退職後に判明した場合には、会社は退職金の全部または一部を支給しないことがある。
2 従業員が就業規則に定める服務規律に違反し、または会社に対し著しい背信行為を行った場合には、その程度に応じて退職金を減額することがある。
3 従業員が退職した後に、在職期間中に懲戒解雇事由に該当する事実があったことが判明した場合には、会社は、当該元従業員に対し、すでに支給した退職金の全部または一部の返還を求めることができる。

退職金制度の概要や、就業規則の作成方法についてより詳しく知りたい方は、以下の各ページをご一読ください。

退職金制度とは|種類や企業のメリット・デメリットなどわかりやすく解説
就業規則の記載事項|記載すべき3つの事項や作成時の留意点など

著しい背信行為があったこと

退職金はこれまでの勤続に対する報酬としての性質を持ちます。そのため、退職金の不支給や減額が認められるのは、会社との信頼関係を大きく損なう「重大な背信行為」があった場合に限られます。単なるミスや軽い規律違反では、基本的に不支給や減額は認められません。

実際に退職金の不支給や減額が認められるかどうかは、個別の事情を踏まえて判断されます。会社にどれだけの損害や影響を与えたのか、故意か過失か、違反の悪質さや継続性などが考慮されます。

例えば、会社資金の横領や競業行為、顧客の引き抜き、営業秘密の持ち出し、刑事事件に発展する不祥事は、典型的な背信行為です。こうしたケースでは、事案ごとの事情を踏まえた総合判断により、退職金の不支給や減額が認められる可能性があります。

競業避止義務とは|禁止できる競業行為や設定方法、違反時について
秘密保持義務|対象者や罰則、就業規則に規定するメリット

懲戒解雇による退職金の不支給や減額

懲戒解雇となった場合でも、退職金が自動的に不支給になるわけではありません。

退職金には賃金の後払いや、これまでの功労に対する報酬という性格があります。そのため、不支給や減額が認められるのは、よほど悪質なケースに限られます。

実際の裁判では、懲戒解雇かどうかだけで判断されるのではなく、問題となった行為の内容や悪質性、会社に与えた損害の程度、勤続年数やこれまでの貢献度などを含めて総合的に判断されるのが通例です。そして、その行為が「長年の功績を打ち消すほど重大な背信行為」といえる場合に限って、退職金の不支給や減額が認められるとされています。

ただし、このような場合でも必ず全額不支給となるわけではなく、一部減額にとどまる裁判例も少なくありません。懲戒解雇が有効とされた事案でも、退職金の3割の支払いが認められたケースもあります。退職金の減額割合については、法律上の明確な基準がなく、事案ごとに個別に判断されます。

懲戒解雇については、以下のページにて詳しく解説していますので、ご覧ください。

懲戒解雇とは|要件や手続きの流れ、退職金の支給義務について

契約社員やパートへの退職金不支給について

退職金制度を定めているのであれば、退職金の有無についても同一労働同一賃金が問題となります。同一労働同一賃金とは、会社における正社員と非正規社員(パートタイマー、契約社員等)の間には不合理な待遇の差をなくすといったものです。

つまり、非正規社員に合理的な理由なく退職金が支給されない場合には、この同一労働同一賃金の観点から、非正規社員への待遇が違法と認められることがあります。

実際に、約10年勤務していた契約社員へ退職金を支払わなかったとして、会社の不支給を違法とした裁判例もあります(東京高等裁判所 平成31年2月20日判決、メトロコマース事件)。

したがって、非正規社員だからといって退職金を支払わなければ違法となるおそれもあるため、会社としては正社員との待遇の違い等をあらかじめ説明しておくことが義務付けられています(短時有期法14条)。

同一労働同一賃金のルールについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

同一労働同一賃金とは|ガイドラインや企業の対応などわかりやすく解説

退職後の退職金返還請求は可能か

退職した後に、在職中に懲戒解雇に相当する問題行為をしていたことが発覚するケースがあります。このような場合、退職金の返還を求められるかどうかは、就業規則や退職金規程の内容が大きなポイントになります。

退職後に、在職中の懲戒解雇相当の行為が発覚した場合、懲戒解雇事由が存在し、退職金を不支給とする旨の定めが就業規則に設けられていて、現実にそれまでの勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背信行為が存在するときには、不当利得として、退職金の返還請求が認められる可能性が高いでしょう。

実際に、在職中の収賄が退職後に明らかになり、規定に基づいて退職金の返還が認められた裁判例もあります(大阪地方裁判所 昭和63年11月2日判決)。

もっとも、返還を求めるときは、不支給事由に当たるかを慎重に見極める必要があります。また、本人に弁明の機会を与えることも重要です。
加えて、従業員が退職した後に懲戒解雇にすることはできないため、懲戒解雇としたこと自体を退職金の不支給ないし減額事由にするのではなく、懲戒解雇事由がある場合を退職金の不支給ないし減額の要件として規定することが必要になります。このように規定することで、従業員の退職後に懲戒解雇に該当する事実が判明した場合でも退職金の不支給要件を満たすことになります。

対応に迷う場合は、労働問題に詳しい弁護士へご相談ください。

退職金の不支給・減額に関する裁判例

退職金の不支給が認められた事例

【令和3年(ワ)第5200号 東京地方裁判所 令和5年5月24日判決】

事件の概要

勤続25年の不動産会社の経理部長代理が、退職を申し出た日に、会社のデータを大量に持ち出したことが問題となった事案です。
従業員は、経理フォルダ内に保存されていた約8000件のファイルをUSBにコピーして持ち帰り、その中には顧客情報や事業計画、収支計画、売上データなどの情報が含まれていました。さらに、発覚時には「駅のごみ箱に捨てた」と嘘をつくなど、不誠実な行動も見られました。

会社は重大な規律違反と判断して懲戒解雇とし、退職金も支給しませんでしたが、従業員は納得いかず提訴しました。

裁判所の判断

裁判所は、持ち出された情報が、会社の事業の全般に関連するあらゆる情報であり、会社の事業の中核である不動産事業に関するデータが多く含まれていた点を重視し、外部に流出すれば、会社の事業に重大な支障が出ると評価しました。

さらに、自身の行為が発覚しないように証拠隠滅を行っているなど、懲戒事由が発覚した後の原告の対応が誠実なものではないことも考慮し会社との信頼関係を大きく壊す重大な非違行為であると認定しました。

その結果、懲戒解雇は有効であり、長年の勤務による功績をすべて打ち消すほど悪質な行為として、退職金を全額不支給とした会社の対応は適法であると判断しました。

裁判例のポイント

本件で持ち出されたデータは、不正競争防止法上の営業秘密には当たらないと判断されたものの、就業規則上の「重大な機密」に実質的に該当するとされ、従業員には使用者の秘密を保持する義務があると判断されました。また、実際に会社の秘密が外部へ漏えいし会社に損害が発生していなくても、それだけでは重大な規律違反は否定されないと評価され得ることも示されています。

企業としても、情報の重要性や持ち出し禁止のルールを従業員に周知し、退職時にはアクセス制限や機器回収を徹底することが欠かせません。

退職金の一部減額が認められた事例

【平成14年(ネ)第6224号 東京高等裁判所 平成15年12月11日判決、小田急電鉄(退職金請求)事件】

事件の概要

鉄道会社に勤務していた従業員Xは、電車内で痴漢行為を行い、逮捕・拘留されました。しかし、その後も同様の行為を繰り返して再逮捕され、正式起訴されて、執行猶予付きの有罪判決を受けました。

このような経緯を重く見た会社は、就業規則に基づきXを懲戒解雇し、あわせて退職金も支給しませんでした。これに対しXは、処分は重すぎて無効であり、長年の勤務実績を踏まえれば退職金まで全額不支給とするのは不当だとして、裁判を起こした事案です。

裁判所の判断

裁判所は、電車内での痴漢行為により逮捕・拘留され、さらに起訴に至った点については、原審は、会社の信用を損ないかねない重大な問題であるとして、懲戒解雇自体は相当であると判断し、控訴審もこれを是認しました。

一方で、退職金の扱いについては、こうした行為が勤務時間外に行われたものであり、報道等によって社外にその事実が明らかにされたわけではなく、会社の社会的評価や信用の低下・毀損が現実に生じたわけではない点を重視し、長年の勤続による功績をすべて失わせるほどの重大な背信行為とまではいえないと評価しました。

そのため、退職金を一切支給しないのは行き過ぎであるとして、退職金の3割は支払うべきと結論づけています。

裁判例のポイント

この裁判例のポイントは、「懲戒解雇が適法かどうか」と「退職金を支給しないことが認められるか」は、別々の問題として判断されるという点にあります。

本件では、解雇は適法とされたものの、退職金の全額不支給までは認められませんでした。また、私生活上の問題については、たとえ刑事事件に発展しても、直ちに長年の功績を全て否定するほどの背信行為とまでは評価されない可能性も示されています。

そのため、退職金を不支給とする場合には、行為の内容や会社への影響、勤務実績などを踏まえ、処分が重すぎないかを慎重に検討する必要があります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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