会社側・経営者側の労働問題(就業規則、問題社員対応、ハラスメント、メンタルヘルス、労働審判、退職勧奨)は弁護士法人ALGへ

減給

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

従業員が非違行為をした場合、企業を運営する側としては減給の懲戒処分をする場合がありますが、減給の懲戒処分に関しては法律上の規制があります。そこで、以下では懲戒処分としての減給の法的規制について簡単に記します。

労働基準法第91条における制裁規定の制限

減給の懲戒処分は、労働基準法第91条において「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と規定されています。すなわち、1回の非違行為に対する減給は、平均賃金1日分の2分の1以下とせねばならず、同一の労働者による数回の非違行為があった場合に関しても、1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない、ということを意味します。

したがって、非違行為を繰り返す従業員の場合に、1回当たりの減給の額が適切であっても、非違行為の回数を乗じた合計の額が規定を上回ってしまう場合には、それ以下の額におさえなければなりません。

この規定が存在することによって、一般的に想像されている減給よりは、かなり制限されているといえるでしょう。

懲戒処分による減給の定義

懲戒処分の種類には、懲戒解雇や諭旨解雇、降格、出勤停止、譴責等があり、減給も懲戒処分の1つとして挙げられます。懲戒処分としての減給は、事業主と労働者間で合意した賃金を減額することをいい、上記に述べたとおり、労働基準法第91条の規制が課せられています。法の制限を超えて減給することはできず、これに違反した場合には、罰則規定が定められています。

減給処分が有効となる条件

懲戒処分として減給をする場合には、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておかなければなりません。そして、減給をするにあたり、客観的に合理的な理由と社会通念上相当と認められる事由が必要となります。

懲戒処分

減給処分となりうる懲戒事由

就業規則上の懲戒事由に該当することが前提となりますが、度重なる遅刻や規律違反等が挙げられます。また、非違行為に対して減給をする場合に、合理的な理由と社会通念上相当として認められることが必要であることは上述したとおりです。

懲戒処分 懲戒事由

減給限度額の計算例

懲戒処分としての減給は、上述したように労働基準法第91条による減給の限度額につき規制があります。平均賃金の具体的な算出の仕方としては、例えば、毎月末日締めの翌月25日払いという場合、2月25日に減給処分をしたケースでは、処分の直前の賃金締切日は、1月31日ということになります。そして、1月31日からさかのぼって3ヶ月間に当たる11月1日から1月31日までの期間につき賃金の総額(所得税や社会保険料を控除する前の賃金の合計です)を計算します。そして、11月1日から1月31日までの総日数を合計し、賃金の総額を総日数で割ります。これが労働基準法の定めに従った平均賃金の算出の仕方となります。なお、この算出された平均賃金は、11月1日から1月31日までの賃金の総額を、処分を受ける従業員の出勤日数で割った額に0.6を乗じた額(平均賃金の最低額)を下回ってはなりません。仮に下回る場合には、平均賃金の最低額が平均賃金となります。

平均賃金の求め方

まず、減給処分の直前の賃金締切日から3ヶ月間の賃金総額と3ヶ月間の総日数を計算します。次に、3ヶ月間の賃金総額を3ヶ月間の総日数で割り、その算出された額が平均賃金の最低額を下回らないかどうか確認します。

減給できる期間について

上述したように、懲戒処分としての減給は、労働基準法第91条の規制がありました。では、非違行為をした従業員を数ヶ月にわたって減給することはできるでしょうか。

従業員が非違行為を複数回おかした場合には、労働基準法第91条の規制に反しなければ、数ヶ月にわたって減給することは可能です。しかし、複数回の非違行為ではなく、従業員の1回の非違行為に関して数カ月にわたって減給することは、1賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えずとも、1日の平均賃金の2分の1を超えている場合には法に反するものとして無効となります。

賃金の減額が「減給の制裁」に該当しないケース

懲戒処分としての減給以外に減給する方法としては、懲戒処分としての出勤停止に伴う減給や、人事権の行使としての降格・降職等に伴う減給、賞与(賃金に該当しない場合)の減給が考えられます。

労使合意に基づく減給

労使間の合意に基づいて減給をすることはできます。賃金という労働条件を従業員に不利益に変更する場合には、原則として従業員の同意が必要となります。経営難を理由とする減給等の場合に従業員の同意を求めることが考えられます。

降格処分による減給

降格には、人事権の行使としてのものと懲戒処分としてのものがあるところ、人事権の行使としての降格に伴う減給の場合には、労働基準法第91条の規制は及びません。行政解釈においても、降格や降職を行う場合であって、職務によって異なった基準の賃金を支給することが定められている場合においては、法91条の規制に抵触しないとされています。

出勤停止による賃金不支給

出勤停止とは、懲戒処分の一つです。そのため、出勤停止の期間中は無給とされることが一般的です。懲戒処分としての減給の場合、労働基準法第91条の規制があることは上述しましたが、同じ懲戒処分である出勤停止については、仮に労働基準法第91条に規定された上限額を超えたとしても労働基準法違反とはなりません。詳しくはこちら。

懲戒処分 出勤停止・懲戒休職

懲戒処分による昇給停止

懲戒処分の種類の一つとしては、昇給停止が挙げられます。これは、次期の昇給を停止、減額すること、もしくは延期することをいいます。昇給停止に伴って減給がなされた場合も、懲戒処分としての減給と異なり、労働基準法第91条の規制は及びません。

賞与からの減給について

賞与を支給するか否かは事業主の裁量となりますので、賞与から減給をしても、労働基準法第91条の規制は及ばないものと考えられます。しかし、賞与につき、就業規則等において制度として設け、算定期間、支給基準、計算方法等を定める等、事業主に支払義務が生じる場合には、労働基準法上の賃金に該当するものとされ、労働基準法第91条の規制が及ぶことになります。

欠勤・遅刻・早退に対する減給

賃金は、労働の対価ですので、従業員が労働を提供していない場合には、事業主は賃金を支払う義務は生じないというノーワークノーペイの原則があります。したがって、欠勤・遅刻・早退の場合、欠勤した日数分、遅刻した時間分、早退した時間分については労働の提供がありませんので、事業主にその分の賃金を支払う義務は発生しません。また、欠勤・遅刻・早退に対する減給については、労働基準法第91条の規制は及びません。

従業員への罰金は違法となるのか?

労働基準法第16条では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と規定されています。したがって、例えばノルマを達成できなかった場合に従業員から罰金や違約金を徴収する等といったことをすると、法律違反として制裁を受ける可能性があります。

ただし、懲戒処分としての減給として行うことは次の条件を満たせば可能となる場合があります。その条件としては、懲戒事由や処分が就業規則に定められており、労働基準法第91条の規制に反せず、減給処分を課すことが合理的で社会通念上相当であること等です。

減給処分が有効・無効となった裁判例

減給処分の相当性を判断する際の参考となるよう、有効になった裁判例と無効となった裁判例をご紹介しておきます。

まず、有効となった裁判例ですが、主任職の上司の右腕上部を掴むという暴行に及んだり、直接の別の上司を押し倒したりしたものの、負傷には及ばなかったという事案においては、減給処分は有効とされています。一方で、保母の業務中に園児を見失った者に対する減給処分については、他の業務遂行中に見失っており、当該他の業務自体も必要な業務であったことなどからやむを得なかったものであり、保護までの時間も15分程度であったことから、減給処分は無効とされています。

後者の事例については、過失の程度は必ずしも低いものではないものの、大事に至らなかったこともあり、減給処分は無効とされています。

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます