不当労働行為

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働者の権利を不当に侵害しないために、使用者は労働組合法で禁止されている行為について理解しておく必要があります。
特に、不当労働行為と呼ばれる行為に対して、労働者は「不当労働行為救済制度」を利用することができます。この制度により、労働委員会に救済申立てが行われると、各種手続きの対応に追われることになるので注意しなければなりません。
そこで、本ページでは、どのような行為が不当労働行為に当たるのか、罰則はあるのか等を、わかりやすく解説していきます。トラブル回避のための参考にしていただければ幸いです。
目次
不当労働行為とは
不当労働行為とは、憲法で保障された労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を阻害する行為をいいます。
労働三権は、それぞれ下の表のような権利です。
団結権 | 労働者が労働組合を結成する権利 |
---|---|
団体交渉権 | 労働者が使用者と団体交渉する権利 |
団体行動権 | 労働者が要求実現のために団体で行動する権利 |
労働組合法において、不当労働行為として禁止されている行為は同法7条に定められています。不当労働行為を禁じることによって、労働者と使用者との間に存在する交渉力の格差を是正するのが目的だと考えられます。
不当労働行為における「使用者」の範囲
不当労働行為における「使用者」の範囲は、労働組合法の条文上では明確にされていません。
この点、判例では、
したがって、労働者の労働条件に関して影響力を持つ、労働者を実態として支配している関係があるといった以下のような場合は、直接の雇用主でなくとも、「使用者」に該当することがあります。
- 親会社
- グループ会社
- 業務委託契約の発注会社
不当労働行為の6つの種類
労働組合法7条記載の不当労働行為は、以下のように類型化できます。
- ①不利益取扱い
- ②黄犬契約
- ③団体交渉拒否
- ④支配介入
- ⑤経費援助
- ⑥報復的不利益取扱い
それぞれの内容について、以下で解説します。
①不利益取扱い
使用者が労働者に対して、以下のような理由で解雇、懲戒処分、配置転換(組合活動が難しくなるもの)、賃金・昇給等の差別、パワハラ行為の対象にするといった不利益な取扱いをすることは、不当労働行為にあたります。
- 労働組合員であること
- 労働組合に加入したり、労働組合を結成しようとしたりしたこと
- 労働組合の正当な行為をしたこと
上記の理由で不利益な取扱いをしたか否かは客観的な証拠で証明するのは難しいので、「使用者が日頃から組合を嫌悪していたか」「加入のタイミングとの時的近接性」などといった事情から推認されます。
また、次に挙げるような行為も不利益取扱いとして不当労働行為に該当します。
- 争議行為(ストライキ等)に参加したことによる不利益取扱い
- 労働組合の壊滅を目的とした全員解雇
不当労働行為の1つである「不利益取扱い」については、以下のページでさらに詳しく説明していますので、併せてご覧ください。
②黄犬契約
黄犬契約とは、労働者雇入れの際、労働組合に加入しない、あるいはすでに加入している労働組合から脱退することを採用の条件とすることです。
例えば、次のような行為が該当します。
- 「労働組合に加入しないことを約束してくれれば採用する」と告げる
- 「労働組合には加入しない」という趣旨の誓約書に署名させる
- 入社時に組合加入の有無を調査する
③団体交渉拒否
使用者が労働組合からの団体交渉の申し入れを“正当な理由”なく拒否することは、不当労働行為にあたります。
“正当な理由”とは、例えば、組合側からの暴言・暴力により心身に危険が及ぶおそれがある、交渉を重ねたもののこれ以上進展が見込めない等の状況が考えられます。
また、使用者は団体交渉に単に応じるだけでなく、誠実な交渉を行う義務を負っており、不誠実な態度で臨む交渉(=不誠実団交)も「団体交渉拒否」に含まれると解されています。
例えば、次のようなケースが該当します。
- 交渉に必要な情報の開示請求を拒む
- 対面での話し合いには応じず書面・電話等で対応する
- 正当な理由もなく労働協約の締結(合意内容の書面化)を拒否する
なお、「団体交渉」について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
④支配介入
労働者が行う労働組合の結成や運営に使用者が支配介入することは、不当労働行為にあたります。
例えば、次に挙げるような行為がこれに該当し得ます。
- 使用者が、日頃から組合を嫌悪する言動をしている
- 組合への加入状況を調査・聴取した
- 組合結成の動きに対して威嚇又は非難を行った
- 組合結成大会の当日に、あえて緊急性の乏しい業務を命じた
- 組合への加入を妨害した
- 組合員に脱退を働きかけた
- 既存の組合を弱体化させるために、新たな組合を結成するように促した
- 複数併存する組合において扱いに差異を設けている
不当労働行為の1つである「支配介入」については、以下のページでさらに詳しく説明していますので、併せてご覧ください。
⑤経費援助
労働組合の運営のために必要な諸経費、活動資金を使用者が援助すること(経費援助)は、その援助によって組合を支配し、労働組合の自主性を損なわせて弱体化させるおそれがあるため、不当労働行為にあたります。
なお、以下の行為は「経費援助」に含まれないとされています。
- 就業時間中の団体交渉等に対する賃金の支払い及び有給休暇の付与
- 最小限の広さの組合事務所の供与
- 組合の福利厚生基金に対する寄付
ただし、これらを使用者が一方的に取りやめた場合、取りやめたことが不当労働行為とみなされるリスクがあるため、提供を行うかどうかは慎重に判断する必要があります。
また、就業時間中の争議行為(ストライキ等)に対する賃金の支払いは不当労働行為に当たり得るため、注意が必要です。
⑥報復的不利益取扱い
報復的不利益取扱いとは、労働委員会への救済申立てなどを理由とする不利益取扱いのことです。
なお、報復的不利益取扱いは、次に挙げるような言動に対する報復だと考えられる行為をいいます。
- 労働委員会に不当労働行為救済の申立てをしたこと
- 不当労働行為の命令について再審査申立てをしたこと
- 労働委員会が行う調査などの際に証拠を提出・発言したこと
また、報復として行われる行為としては、解雇、懲戒処分、配置転換、賃金・昇給等の差別、パワハラ行為の対象にすること等が挙げられます。
不当労働行為救済制度とは
不当労働行為救済制度とは、労働者や労働組合が会社から不当労働行為を受けたときに、労働委員会に対して不当労働行為の救済を申し立て、審理を求めることができる制度です。
不当労働行為があったと認定されると、労働委員会が使用者に対して是正を命じます。この命令を「救済命令」といいます。
労働委員会の救済命令は、どのような命令を出すかについて幅広い裁量権を有しており、従わなければ50万円以下の過料の罰則が適用されるおそれがあります。
不当労働行為の救済手続きについて詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
不当労働行為で使用者が受けるペナルティ
不当労働行為を行ってしまうと、使用者は次のようなペナルティを受けるおそれがあります。
- ①民事上の損害賠償責任
- ②救済命令違反に対する罰則
これらのペナルティについて、以下で解説します。
民事上の損害賠償責任
不当労働行為は、民法における不法行為(民法709条)にあたります。そのため、不当労働行為により労働者や労働組合が損害を受けた場合、使用者は民事上の損害賠償責任を負うことになります。
救済命令違反に対する罰則
不当労働行為について救済命令が発された場合において、労働委員会の救済命令に不服がある場合、「再審査の申立て」または「取消訴訟の提起」が可能です。
これらの手続きを行わずに、または敗訴するなどして救済命令が確定したにもかかわらず、使用者が命令を履行しなかった場合には、次のような過料や刑罰を受けるおそれがあります。
- 取消訴訟なしで救済命令に違反した場合:50万円以下の過料
- 取消訴訟を経て救済命令に違反した場合:1年以下の禁固もしくは100万円以下の罰金刑
なお、労働委員会による救済命令についての詳細は、以下のページをご覧ください。
不当労働行為にあたるとされた裁判例
どのような言動が不当労働行為であるかについて、相手方から「正当な理由がある」等と争われるケースがあります。
これに関連する、次のような裁判例があります。
【東京地方裁判所 令和2年6月26日判決】
事件の概要
当該事案は、補助参加人(労働組合)の組合員である看護師の物忘れが激しくなり、休職命令を受けた後で精密検査を受けたところ、復職は可能であると診断されて診断書を提出したものの復職を拒まれ、補助参加人と共に交渉しても復職できず、労働委員会に救済を申し立てたところ救済命令が下されたため、原告である学校法人が当該救済命令の取り消しを求めた事案です。
裁判所の判断
原告は、当該看護師の物忘れの原因が解明されていないこと等を復職拒否の理由として挙げ、不当労働行為には当たらないと主張しました。しかし、当該看護師が「復職は可能である」と記載されている診断書を提出していること等から、復職を拒む正当な理由はないと認め、復職拒否は補助参加人が組合員であることを理由として行われたと認定しました。
そして、原告の対応は誠実交渉義務に違反し、実質的な団交拒否であり、労使間の対立が深まる中で組合の介入を妨害しようとしたものであり、支配介入に当たると認定して、原告の請求を棄却しました。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある