女性活躍推進法の一般事業主行動計画について

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
女性活躍推進法では、女性が安心して、また能力を十分に発揮して働くことができるよう、会社に様々な取組みを義務付けています。
その取組みのひとつが、一般事業主行動計画の策定です。この計画は、女性の活躍に関する自社の状況を把握したうえで、それを改善するための具体策を検討・実施するための一連の措置であり、実効性が高い取組みといえます。労働者の満足度を高めるだけでなく、女性の活躍を推し進める会社として、社会的に高い評価を受けることにもつながるでしょう。
本記事では、女性活躍推進法における一般事業主行動計画に焦点をあて、策定の流れ等を詳しく解説します。会社の社会的責任をしっかり果たすためにも、適切な手順を把握しておきましょう。
目次
一般事業主⾏動計画について
一般事業主行動計画とは、女性の職場における活躍を推進するための取組みについて定めた計画です。
女性活躍推進法では、一定規模の事業主に対して一般事業主行動計画の策定を義務付けています。
なお、一般事業主行動計画の策定にあたっては、厚生労働省が定める適切な流れを踏む必要があります。まずは自社の女性の活躍に関する状況の把握と課題分析を行い、目標を設定します。その後、目標を達成するための取組内容や計画期間を具体的に定めなければなりません。また、目標や取組内容の設定についても一定の要件があるため注意が必要です。
では、それぞれのステップや注意点について、以下で詳しくみていきましょう。
女性活躍推進法について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
行動計画の策定にあたっての状況把握・課題分析
行動計画の策定は、自社の女性の活躍に関する状況把握※や課題分析を踏まえて行う必要があります。
では、状況把握※や課題分析はどのような流れで進めれば良いのでしょうか。この点、対象となる項目が定められていますので、それに沿って対応します。
具体的には、必ず把握すべき「基礎項目」と、必要に応じて把握する「選択項目」に分けられています。
それぞれの項目について、以下で解説していきます。
※「直近の事業年度」の状況を把握するのが基本です。難しい場合、前々事業年度の状況でも良いとされています。
雇用管理区分について
状況把握や課題分析を行う前に、労働者の雇用管理区分を把握しなければなりません。調査対象である基礎項目や選択項目には、雇用管理区分ごとに状況把握が必要なものもあるためです。
雇用管理区分とは、労働者の区分(職種、資格、雇用形態等)であって、当該区分に属している労働者について他の区分に属している労働者と異なる雇用管理を⾏うことを予定して設定しているものをいいます。
職務の内容や人事異動の幅、昇進の有無及び上限に客観的な違いがあるかで分類するため、単なる形式ではなく、会社の雇用管理の実情に基づいて把握する必要があります。例えば、以下のような区分が一般的です。
- 総合職、エリア総合職、一般職
- 事務職、営業職、技術職
- 正社員製造職、パート製造職
基礎項目
基礎項目とは、事業主が必ず状況把握と課題分析を行わなければならない項目です。
基礎項目は、女性の活躍推進において多くの企業が抱える問題である、「女性の採用率の低さ」、「出産前後における女性の継続就業の難しさ」、「男女問わず長時間労働による仕事と家庭の両立の難しさ」、「管理職に占める女性割合の低さ」という4つの問題に着目し、改善を図ることを目的としています。
具体的なチェック項目は、以下の4つが定められています(女性活躍推進法8条3項)。
- 採用した労働者に占める女性労働者の割合
- 男女の平均継続年数の差異
- 労働時間の状況
- 管理職に占める女性労働者の割合
では、それぞれの算出方法等を以下で確認していきましょう。
採用した労働者に占める女性労働者の割合
【計算方法】
直近の事業年度における女性の採用者数÷直近の事業年度における採用者数×100(%)
本項目は、雇用管理区分ごとに把握することが義務付けられており、把握することで以下のような課題を分析することができます。
なお、採用者数を把握するのが難しい雇用管理区分については、労働者に占める女性労働者の割合でも代替することが可能です。
- 女性の職域が狭まっていないか
- 職域が狭いことで女性の採用が抑制されていないか
男女の平均勤続年数の差異
対象となる労働者は、期間の定めのない労働契約を締結している労働者及び同一の使用者との間で締結された2つ以上の期間の定めのある労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者です。
本項目も、雇用管理区分ごとに把握することが義務付けられています。
また、本項目の把握により、以下のような課題を分析することができます。
- 出産や育児、介護などによる女性労働者の退職が根付いていないか
- 育児休業後の女性の復帰が促されているか
労働時間の状況
【計算方法】
各月における対象労働者の(法定時間外労働+法定休日労働)の合計時間数÷対象労働者数
非正規雇用も含めた全労働者の労働時間を把握します(ただし、高度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者については、健康管理時間の把握)。
また、事業場外みなし労働時間制・専門業務型裁量労働制・企画業務型裁量労働制の適用を受ける労働者、管理監督者等、⾼度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者、短時間労働者は、それ以外の労働者と区別して把握しなければなりません。
本項目を把握することで、以下のような課題を分析することができます。
- 男女で残業時間に差ができていないか
- 育児で残業ができない労働者に配慮されているか
管理職に占める女性労働者の割合
【計算方法】
⼥性の管理職数÷管理職数×100(%)
管理職とは、「課長級」と「課⻑級より上の役職」にある労働者の合計数を指します(役員は除く)。
なお、課長級とは、具体的な肩書によるところではありません。事業場内で通常「課長」と呼ばれる者であって、2係以上の組織からなり、又は課長を含め10名以上の構成員の長である場合、課長級にあたります。
また、呼称や構成員に関係なく、職務の内容や責任の重さが「課長級」に相当する場合、課長級に含むとされています。
本項目を把握することで、以下のような課題を分析することができます。
- 男女の配置が分散していないか(昇進の機会が多い部署に男性ばかり配属していないか)
- 女性管理職に対する教育制度は整っているか
- 女性管理職が孤立し、働きづらい状況になっていないか
選択項目
選択項目とは、基礎項目に加え、必要に応じて把握することが望ましい項目をいいます。
基礎項目をより具体化した内容となっているため、基礎項目で課題だと判断された事項を選択するようにしましょう。
また、選択項目は、以下の2つの観点から、どれだけ女性の活躍推進が図られているかをチェックします(女性活躍推進法省令2条)。
- 女性労働者に対する機会の提供
- 職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備
では、具体的な項目や算出方法をみていきましょう。
※他にも適切な状況把握の項目や課題分析の方法がある場合、会社の実情に応じて実施するのが効果的だとされています。
女性労働者に対する機会の提供
女性労働者に対する機会の提供については、以下のような項目が定められています。また、計算方法の定めがある場合は※で記載しています。
【採用】※1
・採用における男女別の競争倍率など
※女性又は男性の応募者数(採用選考の対象者数)÷女性又は男性の採用者数(内定者を含む)
【配置・育成・教育訓練】※1
・男女別の配置の状況
・将来の育成を目的とした教育訓練の男女別の受講状況(管理職の養成を目指した選抜研修の受講率など)
・職場風土に関する意識(性別にかかわらない業務配分や権限の付与がされているか、男女労働者が共に昇進意欲を持てているか等)
【評価・登用】
・1つ上位の職階へ昇進した労働者の男女別の割合など
※事業年度開始の日の職階から1つ上位の職階に昇進した⼥性又は男性労働者の数÷事業年度開始の日の職階における⼥性又は男性労働者の数
【職場風土・性別役割分担意識】※1
・ハラスメント等に関する相談窓口への相談状況など
【再チャレンジ(多様なキャリアコース)】
・男女別の再雇用又は中途採用の実績(定年後の再雇用や雇入れを除く)※1
・男女別の職種又は雇用形態の転換者、再雇用又は中途採用者を管理職へ登用した実績
・非正社員のキャリアアップに向けた研修の男女別の受講状況※1
など
【取組の結果を図るための指標】※1
・男女別の賃金の差異(学歴別や勤続年数別)
女性の平均賃金÷男性の平均賃金×100(%)
※1:雇用管理区分ごとに把握する必要がある項目です。
職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備
職業生活と家庭生活の両立については、以下のような項目が定められています(計算方法の定めがある場合は※で記載しています)。
【継続就業・働き方改革】
・10事業年度前やその前後に採用された労働者の男女別の継続雇用割合※1
9~11事業年度前に採用した女性又は男性労働者で現在雇用されている者の数÷9~11事業年度前に採用した女性又は男性労働者の数(新卒者のみ)
・男女別の育児休業取得率や平均取得期間※1
【女性労働者の育児休業取得率】
育児休業をした女性労働者数÷出産した女性労働者
【男性労働者の育児休業取得率】
育児休業をした男性労働者数÷配偶者が出産した男性労働者数
【平均取得期間】
直近の事業年度に育児休業を終了した女性又は男性労働者の育児休業の取得期間の合計÷直近の事業年度に育児休業を終了した女性又は男性労働者数
・職業生活と家庭生活の両立を支援する制度(時短勤務、所定労働時間の免除など育児休業以外の制度)の男女別の利用実績※1
・各月における労働者の労働時間(平均残業時間や健康管理時間)※1
・有給休暇取得率※1
・男女別のフレックスタイム制やテレワークなど柔軟な働き方に関する制度の利用実績
※1:雇用管理区分ごとに把握する必要がある項目です。
⼀般事業主⾏動計画の策定
状況把握と課題分析の結果を踏まえ、行動計画を策定します。行動計画には、計画期間・数値目標・取組内容及びその実施時期を盛り込まなければなりません(女性活躍推進法8条2項)。
また、状況把握と課題分析によって複数の課題が見つかった場合、最も重大な課題を行動計画の対象にしつつ、積極的に複数の課題に対処することが効果的とされています。
なお、女性活躍推進法は10年間の時限立法(期限が定められた法律)ですので、計画期間内に数値目標を達成することを念頭に置く必要があります。そこで、事業主は対象期間を2~5年ほどに区切り、定期的に行動計画の進捗を検証しながら改定することが望ましいとされています。
数値目標の設定については、次項でご説明します。
数値目標
数値目標は、定められた項目のうち、会社の実情に沿ったものを選び設定します。
具体的には、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」、「職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備」の2つの区分から項目を選択し、実数・割合・倍数等の数値を用いて定める必要があります。
このとき、状況把握や課題分析によって最も重大と判明した項目を優先的に選ぶことが重要です。また、数値目標の水準については、計画期間内に目標を達成できるよう、会社の実情に見合った水準にしましょう。
なお、数値目標の設定が必要な項目数は、会社の規模によって異なります。
・常時雇用する労働者が301人以上の会社:各区分から1つ以上の項目を選択し、数値目標を設定
・常時雇用する労働者が101人以上300人未満の会社:合計1つ以上の項目を選択し、数値目標を設定※
※令和4年4月1日から施行されます。
では、具体的にどのような項目があるのか、以下でみてみましょう。
数値目標に関する項目
数値目標を決める項目として、以下のようなものが定められています。基本的には状況把握・課題分析を行った項目と同様ですが、改めて整理しておきましょう。
女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
【採用】
・採用した労働者に占める女性労働者の割合
・採用における男女別の競争倍率など
【配置・育成・教育訓練】
・男女別の配置状況
・教育訓練の男女別の受講状況など
【評価・登用】
・管理職に占める女性労働者の割合
・男女の人事評価の結果における差異など
【職場風土・性別役割分担意識】
・セクシュアルハラスメント等に関する相談窓口への相談状況
【再チャレンジ(多様なキャリアコース)】
・職種又は雇用形態の転換者、再雇用又は中途採用者の男女別の管理職登用実績
・非正社員のキャリアアップに向けた研修の男女別の受講状況など
【取組みの結果を図るための指標】
・男女の賃金の差異
職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備
【継続就業・働き⽅改革】
・男⼥の平均継続勤務年数の差異
・男⼥別の育児休業取得率や平均取得期間
・各⽉における労働者の労働時間
・有給休暇取得率など
対象事業主は、以上の項目から必要数を選択し、数値目標を設定します。例えば、「~職の女性の採用を〇人増やす」、「男女の勤続年数の差を〇年以内にする」等と定めます。
⼀般事業主⾏動計画策定における留意点
行動計画の策定にあたっては、男女雇用機会均等法に違反しないよう注意が必要です。
男女雇用機会均等法では、募集・採用・配置・昇進等において、女性労働者を男性労働者よりも優先的に取り扱う措置を基本的に禁止しています(ただし、女性の割合が4割未満の雇用管理区分等では例外的に優遇措置が認められます)。
例えば、「管理職に占める女性労働者の割合を〇%に増やす」という目標は問題ありませんが、その目標を達成するための取組みとして、「女性労働者だけを対象とした昇進試験を実施する」「女性労働者の評価基準を緩くし、優先的に昇進させる」といった対応は法違反となります。
そのため、女性労働者を過度に優遇する行動計画とならないよう十分配慮しましょう。
派遣労働者の⼀般事業主⾏動計画策定等
派遣労働者の状況把握・課題分析・行動計画の策定は、派遣元事業主が行わなければなりません。派遣労働者に対する指揮命令権は派遣先事業主にありますが、雇用関係に基づく責任は派遣元が負うためです。
一方で、長時間労働やハラスメントを是正する取組みは、職場の状況に応じて行うことが欠かせません。そのため、派遣先も、派遣労働者を含めたすべての労働者について状況把握・課題分析を行い、職場環境の改善を図る必要があります。また、長時間労働やハラスメントにおける課題については、派遣元が派遣先と積極的に話し合い、取組みを推進するよう働きかけたり、フォローアップをしたりすることが重要です。
⼀般事業主⾏動計画の社内周知
行動計画を策定したら、労働者に周知することが重要です。また、社内周知を徹底するため、非正社員も含めたすべての労働者に知らせる必要があります。
周知方法に定めはありませんが、労働者全員が漏れなく把握できるよう配慮します。例えば、以下のような方法が一般的です。
- 事業所の見やすい場所への掲示
- 電子メールでの一斉送信
- 社内ネットワークや社内報への掲載
- 書面の配布
- 事業所への備え付け
なお、事業所への備え付けによって周知を行う場合、設置場所が労働者に周知されていることや、労働者が容易に手に取れるよう配慮することが必要です。例えば、休憩室や共用の棚等に備え付けておくと良いでしょう。
⼀般事業主⾏動計画の公表
対象事業主は、策定した一般事業主行動計画を外部に公表しなければなりません(女性活躍推進法8条5項)。
公表方法は、自社のホームページに掲載するか、厚労省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」に掲載するのが一般的です。
女性活躍推進企業データベースでは、情報公表の項目以外にも自由記載欄が設けられており、女性の活躍推進に関する自社の取組みをアピールするのに効果的です。また、求職中の学生や女性の目に留まりやすく、優秀な人材(応募者)を確保しやすいというメリットもあります。
都道府県労働局への届出
策定した一般事業主行動計画は、会社を管轄する都道府県労働局に届け出ることが義務付けられています(女性活躍推進法8条1項)。
なお、届出には所定の書式を用いるのが基本ですが、女性活躍推進法省令1条に定められた事項(会社の基本情報・行動計画の計画期間・状況分析や取組内容の概況・周知や情報公表の方法等)が記載されていれば、他の書式でも受理されるとしています。
取組みの実施、効果の測定
行動計画は、策定して終わりでは意味がありません。定期的に数値目標の達成度合や取組内容の実施状況を点検・評価し、必要に応じて行動計画を見直すことが重要です。
このように、改善・実行・評価・改善というPDCAサイクルを定着化させ、より有意義な行動計画へブラッシュアップしていきましょう。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある