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働き方改革

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

政府が掲げる「働き方改革」の実施に伴い、2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行されることになりました。働き方改革とは、近年、日本が直面している労働関連の課題を解決するための取り組みですが、企業としては具体的にどのような対応をする必要があるのでしょうか?

働き方改革の目的や基本方針等から企業に求められる対応が見えてきますので、改革の概要について、解説していきます。

働き方改革とは

現在、日本では、少子高齢化に伴い生産年齢人口が減少するとともに、育児や介護と仕事の両立を望む労働者が増加する等、働くうえでのニーズが多様化してきています。このような状況下では、労働力不足の解消のために、生産性を向上させ、就業機会を拡大する等して、労働者の意欲や能力を十分に発揮できる環境を作ることが重要な課題とされます。

働き方改革」とは、これらの課題を解決するために、労働者が個々人の事情に応じた多様な働き方を選択できる社会である、一億総活躍社会を実現することを目指す改革です。

働き方改革により目指す社会

働き方改革により目指す社会とは、減少する生産年齢人口を補うと同時に、多様化した働くうえでのニーズに応えられるよう、個々人の事情に応じた多様な働き方の選択を可能にし、労働者一人ひとりがより良い将来の展望を持つことができるような社会です。

2018年12月28日に閣議決定された「労働施策基本方針」によると、「誰もが生きがいを持って、その能力を有効に発揮できる社会」、かつ「多様な働き方を可能とし、自分の未来を自ら創ることができる社会」に加えて、「意欲ある人々に多様なチャンスを生み出し、企業の生産性・収益力の向上が図られる社会」の実現を目指そうとしていることがわかります。

ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の実現

働き方改革が目指す、労働者が個人の能力を最大限に発揮できる社会には、労働者の“ワーク・ライフ・バランスの実現”、つまり仕事と私生活を調和させることが重要になります。

ワーク・ライフ・バランスが実現された社会では、「①就労による経済的自立」「②健康で豊かな生活のための時間の確保」「③多様な働き方・生き方の選択」が可能です。したがって、ワーク・ライフ・バランスを実現するためには、労働者が望むライフスタイルを実現できるだけの経済的基盤の提供に加え、十分な時間・余暇の確保ができ、かつライフステージごとに柔軟に働き方を変えられるような組織作りに取り組む必要があるといえるでしょう。

働き方改革が必要な社会的背景

生産年齢人口が減少するとともに、多様な働き方の需要が高まってきた日本が”一億総活躍社会“を実現するためには、当たり前とされてきた日本企業の労働環境を大きく見直す必要があります。そのために実施されることとなったのが働き方改革であり、具体的には、常態化した長時間労働と過労死の問題や、各国と比べて低い労働生産性といった、次項以下のような問題に関して早急な対応をとることが求められています。

長時間労働と過労死問題

日本は、欧州諸国と比較して、労働者1人当たりの年間労働時間が長く、また、長時間にわたって時間外労働を行う労働者も多くみられます。長時間労働は、労働者に過重な負荷をかけ、脳・心臓疾患や精神障害といった傷病を発症させるだけでなく、過労による死亡(過労死)といった最悪な結果を招いてしまうおそれがあります。

厚生労働省が発表した「過労死等防止対策白書」(2019年版)によると、2018年に日本で発生した自殺未遂を含む過労死等の件数は、158件にも及びます。もっとも、これはあくまでも労働災害として認定された件数であるため、実際の件数はさらに多くなると考えられますし、現実に認定件数を大きく上回った件数の労災請求がなされています。

社会的な損失を招く過労死を防ぐことは、日本にとって切迫した課題といえます。

労働人口の減少

少子高齢化が進む日本では、人口減少に伴い、生産年齢人口(労働力の中核となるような年齢の人口)が減少しているため、将来的に労働力不足に陥るおそれがあります。2017年の国立社会保障・人口問題研究所の発表によると、2015年には7728万人だった生産年齢人口は、2065年には4529万人となると予想されており、こうした人口減少によって、国内市場が縮小すると同時に投資先としての魅力が低下しイノベーションが生じにくくなり、経済成長率が低下していくことが考えられます。さらに、労働力不足を補うために、現在でも顕在化している長時間労働の問題がさらに深刻になり、ワーク・ライフ・バランスが実現されないことから少子化がさらに進むという悪循環が生じることも考えられます。

国民一人ひとりの豊かさを低下させないためにも、こうした悪循環を断ち切る必要があります。

労働生産性の低さ

2019年に行われた労働生産性の国際比較によると、日本の時間当たりの労働生産性(就業1時間当たりの付加価値)は、OECD加盟国36ヶ国中21位の46.8ドル(4744円)であり、主要先進7ヶ国中最下位です。また、1人当たりの労働生産性(就業者1人当たりの付加価値)は8万1258ドル(824万円)であり、イギリスやカナダをやや下回る水準ですが、こちらも順位はOECD加盟国36ヶ国中21位です。そして、製造業の労働生産性(就業者1人当たりの付加価値)は9万8157ドル(1104万円)であり、OECD加盟国主要31ヶ国中14位であり、ドイツを上回っていますが、アメリカの7割程度の水準に留まっています。

これらの比較から、日本の労働生産性は世界的に見ても低いことがわかります。労働生産性が低いにもかかわらず労働力人口も減少すれば、経済成長率の低下は免れません。このような事態を防ぐために提唱されたのが、働き方改革です。

事業主の責務

働き方改革における事業主の責務は、「労働者の職業生活の充実」です。具体的には、労働者が仕事と私生活の調和を保ちながら、個々人の意欲と能力に応じて就業できる環境を整備するために、国の労働施策基本方針に則った労働環境の改善に努める必要があります。

働き方改革推進に向けた労働施策基本方針

働き方改革の推進に向け、労働施策総合推進法に基づいた「労働施策基本方針」が2018年12月28日に閣議決定されました。労働施策基本方針とは、以下の7つの基本方針をいいます。

  • ①労働時間の短縮等の労働環境の整備
  • ②均整のとれた待遇の確保、多様な働き方の整備
  • ③多様な人材の活躍促進
  • ④育児・介護・治療と仕事との両立支援
  • ⑤人的資本の質の向上、職業能力評価の充実
  • ⑥転職・再就職支援、職業紹介等の充実
  • ⑦働き方改革の円滑な実施に向けた連携体制整備

労働時間の短縮等の労働環境の整備

労働環境の整備にあたっては、長時間労働の是正や過労死等の防止の観点から、安全で健康に働ける労働環境が目指されます。そのために行われるのが、賃金の引き上げや産業保健機能の強化であり、業種等の特性に応じた対策を検討することが求められます。また、大企業だけでなく、中小企業等に対しても支援や監督指導を行うことが想定されています。

均衡のとれた待遇の確保、多様な働き方の整備

同一労働同一賃金の実現等、非正規雇用労働者の待遇を改善するとともに、無期転換ルールへの対応の援助といった、正規雇用を希望する非正規雇用労働者の支援を行います。

また、テレワークや副業・兼業の普及を促進し、裁量労働制等の履行を確保する等して、柔軟な働き方が選択しやすい環境を整備します。

多様な人材の活躍促進

労働力を確保するために、女性・若年無業者・高齢者・障害者等の就職を支援する等、活躍を促進します。また、外国人労働者の受入れ環境を整備するとともに、ひとり親家庭の親や刑務所出所者、ホームレス等、様々な事情・困難を抱える人が活躍できるように就労環境を整備します。

育児・介護・治療と仕事との両立支援

育児・介護・治療といった私生活と仕事の両立を支援し、近年高まってきた働くうえでのニーズに応えます。具体的には、育児・介護休業法に基づく措置について周知するとともに履行を確実に確保し、企業における雇用環境改善の促進等を行います。

人的資本の質の向上、職業能力評価の充実

リカレント教育を充実させる等、企業内の人材育成を支援して人的資本の質を向上させるだけでなく、ジョブ・カードの活用を促進する等、職業能力の評価を充実させます。

転職・再就職支援、職業紹介等の充実

転職や出向・移籍を支援し、成長傾向にある分野等への労働力の移動を促進します。また、企業の職場情報をワンストップで閲覧できるサイトの構築によって、職場情報や職業情報の見える化を図り、地域の実情等に応じた雇用対策等を推進することで、求人・求職情報を効果的に提供すると同時に地域の雇用機会の確保を行います。

働き方改革の円滑な実施に向けた連携体制整備

地方公共団体、中小企業者団体、労働者団体等を構成員とする協議会、その他の連携体制を整備することで、働き方改革を円滑に実施できるような環境を整えます。

働き方改革の3つの柱

働き方改革の推進にあたっては、以下の3つの柱を中心に様々な制度が施行されています。次項より詳細について解説していきます。

  • ①長時間労働の是正
  • ②正規・非正規労働者間の不合理な格差の解消
  • ③柔軟な働き方の実現

長時間労働の是正

働き方改革の柱のひとつである「長時間労働の是正」の実現に向け、時間外労働に上限が設けられたため、原則として月45時間年360時間を超える労働が禁止されることになりました。臨時的な特別な事情がある場合でも、年720時間単月100時間(休日労働を含みます)、複数月平均80時間(休日労働を含みます)を超えて時間外労働をすることはできません。また、月45時間を超えることが許されるのは、年間6ヶ月までです。なお、医師や建設業等、一部の職業に対しては猶予が設けられています。

時間外労働の上限規制に違反した場合、懲役または罰金が科せられるため、注意が必要です。

正規・非正規雇用労働者間の不合理な格差の解消

働き方改革では、「正規・非正規雇用労働者間の不合理な格差の解消」も目指します。

正規雇用と非正規雇用の労働者間の大きな格差の一因となるのが、賃金の差です。大企業の場合、行っている業務に差異はないにもかかわらず、正規雇用と非正規雇用の労働者の年収が100万円以上違うケースも多くみられます。そこで、働き方改革の一環として、同一企業・団体における正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の解消を目指す制度である、「同一労働同一賃金」が実施されることになりました。

当該制度の実施により、経済的に弱い立場に置かれていた非正規雇用労働者が適切な対価を得ることができるようになるため、ワーク・ライフ・バランスが改善されると同時に、多様な働き方の選択が可能になります。

柔軟かつ多様な働き方の実現

より「柔軟かつ多様な働き方の実現」を目指す働き方改革の一内容として、「高度プロフェッショナル制度」が新設されました。これは、時間給制等のような報酬があらかじめ定められている働き方を選ぶか、成果報酬制のような成果に対する評価に応じて報酬が決まる働き方を選ぶかを、労働者本人の意思で決定することを可能にする制度です。

いわゆる裁量労働制と類似する制度ですが、残業代を節約するための抜け道として活用されることを防ぐために、“高度な専門知識等が必要と認められた対象業務でなければならない”、“年収が「基準年間平均給与額」の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額(1075万円)以上でなければならない”等、一定の基準が設けられています。

働き方改革関連法の成立

働き方改革関連法案とは、2018年6月29日に成立した以下の改正法案の総称です。次項より、改正のポイントについて解説していきます。

労働基準法

労働基準法の主な改正ポイントは、次のとおりです。

  • ・フレックスタイム制の拡充(32条の3)
  • ・時間外労働の上限規制(36条、139~142条)
  • ・年次有給休暇(年5日以上)の確実な取得(39条)
  • ・高度プロフェッショナル制度の創設(41条の2)
  • ・月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ(138条)

労働安全衛生法

労働安全衛生法の主な改正ポイントは、次のとおりです。

  • ・産業医・産業保健機能の強化
  • ・長時間労働者に対する面接指導の強化

じん肺法

じん肺法の主な改正ポイントは、次のとおりです。

・産業医・産業保健機能の強化

労働時間等設定改善法

労働時間等設定改善法(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)の主な改正ポイントは、次のとおりです。

  • ・勤務間インターバル制度の普及促進
  • ・起業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取り組みの促進
  • ・取引上の配慮促進

パートタイム・有期雇用労働法

パートタイム・有期雇用労働法の主な改正ポイントは、次のとおりです。

  • ・正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止
  • ・労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  • ・行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

派遣法

派遣法の主な改正ポイントは、次のとおりです。

  • ・派遣社員の賃金決定方法の厳格化
    (同一労働同一賃金の導入)
  • ・派遣先企業から派遣元企業への情報提供の義務化
  • ・派遣元企業に対する、派遣労働者の待遇に関する説明義務の強化

労働契約法

労働契約法の主な改正ポイントは、次のとおりです。

・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

(同一労働同一賃金の導入)

雇用対策法

働き方改革関連法の改正により、雇用対策法は、「労働施策の総合的な推進並びに職業生活の充実等に関する法律」という名称に変更されます。これに伴う主な改正ポイントは、次のとおりです。

・目的規定の変更(1条1項)

(具体的には、①労働者の多様な事情に応じた雇用の安定、②職業生活の充実、③労働生産性の向上の促進が新たな目的として設定されました。)

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