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手待時間と休憩時間の判断基準

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

場合によっては、勤務時間中にゲームをしている、仮眠をとっているといったケースも考えられる「手待時間」。そんな、表面上は“働いていない”ようにも思える「手待時間」をどのように扱うべきなのか、悩まれる使用者も多いのではないでしょうか。

まずは、労働基準法における「手待時間」の取扱いを確認しましょう。そのうえで、具体的にどんなケースが「手待時間」にあてはまるのか、そして、どんなことに注意して労務管理をするべきなのか等を、このページを通して整理していきましょう。

手待時間とは

「手待時間」とは、たとえ作業をしていなくても、使用者から指示があったときに、すぐに作業に取り掛かれる状態で待機している時間のことをいいます。このような状態にある時間は使用者の指揮命令下にあるといえるため、「手待時間」は「休憩時間(労基法34条)」ではなく、原則として、「労働時間」として扱われます。

次項より、もう少し踏み込んでみていきましょう。

なお、「休憩時間」、「労働時間」にまつわる諸問題について詳しく知りたい方は、別途以下のページでそれぞれ解説していますので、ぜひご覧ください。

休憩時間
労働時間

手待時間と休憩時間の判断基準

“作業をしていない時間”が「手待時間」と「休憩時間」のどちらに該当するかを判断する基準は、使用者の指揮命令の支配下から完全に解放され、労働者が自由に利用できる時間であるか否かです。より簡潔に区別すると、その時間が「労働時間」に該当するかどうかとなります。

「労働時間」:使用者の指揮命令下にある時間

上記の「労働時間」の定義に照らせば、「手待時間」は、使用者から指示があればすぐに作業を始めなければならない点で、使用者の指揮命令下にあることから、「労働時間」に該当するといえますし、行政解釈においても同様の見解が示されています(昭和33年10月11日基収6286号)。

他方で、「休憩時間」は、労働者が労働から開放されることが保障される時間と解されており(昭和22年9月13日発基17号)、労働者が使用者の指揮命令下から離れて自由に過ごすことができる点で、「労働時間」には該当しません。つまり、「手待時間」と「休憩時間」は、使用者の指揮命令下にあるかどうかで区別することができます。

監視・断続的労働従事者を例外とする規定

監視労働と断続的労働に従事する労働者のうち、行政官庁の許可を受けたものについて、労働基準法上の「労働時間」「休憩時間」「休日」に関連する規定が適用除外されています(労基法41条3号)。

労基法41条3号が想定している具体的な職種としては、監視業務については、施設の門扉等で人の出入りを監視する守衛、断続的労働業務については、会社役員等の専属ドライバーなどが挙げられます。

手待時間の具体例

店番の待機時間

お客様がいない時などを見計らって適宜“休憩”しても良いとする雇用条件で働く場合、“休憩”中も、来客があったときにはすぐに業務に戻らねばならないことから、この“休憩”は「手待時間」であり、労働基準法上の「休憩時間」にはあたらないと判断した裁判例があります(大阪地方裁判所 昭和56年3月24日判決、すし処「杉」事件)。

このように、飲食店や衣料品店等のスタッフは、店内に接客対象のお客様がいない時間帯も、どんなタイミングで来店するかわからないため、店内で待機しています。店番中は、調理や接客等の業務を行っていなくても、スタッフの判断で持ち場を離れるなどしてその時間を自由に使うことはできません。つまり、使用者の指揮命令下にある「労働時間」に該当するといえます。

タクシー運転手の客待ち時間

タクシー運転手には、お客様を送迎している時間のほか、客待ち時間が生じます。この時間も、基本的には「手待時間」として「労働時間」にカウントされます。

また、労働協約上に客待ちの場所等を制限する規定があっても、それに違反して客待ちをした時間が労働基準法上の「労働時間」にあたるかどうかは実態に即して判断すべきとした裁判例があります(大分地方裁判所 平成23年11月30日判決、中央タクシー割増賃金請求事件)。この裁判例では、指定場所以外での客待ちが約定にて制限されていましたが、そのほか営業上非効率と思われる閑散地での待機時間や、駅待ちで長蛇の列に並んでいる時間も、実態として使用者の指揮命令下にあると判断され、「労働時間」に該当するとされました。

休憩時間中の電話や来客応対

「休憩時間」中に、電話や来客対応の必要が生じた場合、対応にあたった分の時間は「手待時間」として「労働時間」の扱いとなり、改めてその分の時間を確保するなどして休憩をとらせる必要があります(昭和23年4月7日基収1196号、昭和63年3月14日基発150号、平成11年3月31日基発168号)。

特に、当番制等で「休憩時間」中の電話や来客対応を指示している使用者は要注意です。電話や来客対応が通常業務の一環であることは明白であり、“休憩時間”という名称で括られた時間であっても労働者が業務から解放されているとはいえず、その実態は丸々「労働時間」であると判断され得るからです。つまり、結果的に労働者に「休憩時間」を与えていない、さらには「労働時間」に対する賃金が未払いの状態となっているおそれがあります。

仮眠時間

拘束時間が長い業務では仮眠をとることがあります。その時間は完全に業務から離れ、仮眠をとることのみに充てられるという場合には、「休憩時間」と考えることができます。しかし、所定の仮眠場所がある場合や、仮眠時間中に緊急対応を命じる可能性がある場合には、仮眠時間を「労働時間」と判断され得るでしょう。夜間警備の業務などがイメージしやすいかと思います。

では、長距離トラックのドライバーが、2名以上で交代しながら運転している中、運転者以外の者が仮眠をとっている時間はどうでしょう。一見、業務から離れていると考えられなくもありませんが、手待時間が大半を占めていたとしても、トラックという一定の場所に拘束されている時点で使用者の指揮命令下にあり、また、万が一運転者に何かあったときの交替・故障修理の対応要員として備えているものと解され、仮眠をとっている時間を「労働時間」として扱われる可能性があります(昭和33年10月11日基収6286号)。

貨物の到着待ちの時間

貨物の積み込み作業のために貨物トラックの到着を待っている時間については、労働者が出勤を命じられ、一定の場所に拘束されている以上「手待時間」にあたると解される一方で(昭和33年10月11日基収6286号)、その時間を労働者が自由に利用できるのであれば「休憩時間」にあたるとする行政通達もあり(昭和39年10月6日基収6051号)、実態によって判断が変わる可能性があります。

これによると、例えば、すでにほかの貨物を預かっており、その場を離れると盗難のおそれがある、あるいは到着の待ち時間がどのくらいか定かでないが、到着次第速やかに対応しなければならないなど、自由にその場を離れられない事情があれば、「労働時間」にカウントされ得るといえるでしょう。

手待時間を自由に過ごしていた場合

手待時間に該当するかどうかは、使用者の指揮命令下にあるのかどうかがポイントとなります。そのため、労働者がスマートフォンを見たり、新聞を読んだり、何もせずにぼんやりしていたりと、一見自由に過ごしていると思われる時間も、従事すべき業務が発生した場合にすぐに対応できる状態にしておく必要があるのなら、使用者の指揮命令下にあるとして、その時間も手待時間に該当し、「労働時間」に含まれることになります。

手待時間の労務管理

「手待時間」は、実際には“作業をしていない時間”であるため、「労働時間」として把握しづらい部分があります。しかし、「手待時間」は、使用者の指揮命令下にある「労働時間」に含まれますので、当然、賃金支払義務が生じています。そのため、「手待時間」を「休憩時間」として処理してしまったりすると、賃金が適正に算定できなくなってしまいます。その結果、労働者から未払い賃金や時間外労働の割増賃金等の請求を受けるおそれがあるため、使用者はきちんとした理解のもと労務管理を行う必要があります。

休憩時間を与えなかった場合の罰則

たとえ労働者が作業をしていなかったとしても、その時間が、「手待時間」であり、「労働時間」に該当するとされた場合、使用者は、当該労働者に対し、労働基準法34条に規定される「休憩時間」を与えていなかったことになり、罰則の対象となるおそれがあります。このことからも、使用者には「手待時間」の労務管理を適切に行うことが求められます。

罰則の内容は、以下のページをご覧ください。

休憩時間を取得させなかった場合の罰則

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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