フレックスタイム制とは|仕組みや導入のメリット・デメリットなど

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
「子育てや介護と両立したい」「自分のペースで効率よく働きたい」
このようなニーズに応える働き方として、昨今注目を集めているのがフレックスタイム制です。
フレックスタイム制とは、簡単に言うと、労働者が始業・終業時刻を自ら決められる制度です。ワークライフバランスや生産性の向上が期待できる一方、制度設計や運用を誤ると違法となるおそれがあります。
そこで今回は、フレックスタイム制の仕組みや、導入時の注意点などについて解説します。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、あらかじめ定められた一定期間(清算期間)の中で、労働者が自らの始業・終業時刻や働く時間を自由に決めることができる制度です。
毎日決まった時間に出勤・退勤する必要がないため、仕事の進み具合やプライベートの予定に合わせて柔軟に働くことができます。
ITエンジニアやプログラマー、Webデザイナー、ライター、企画職など、業務の進め方や勤務時間を自由に調整しやすい職種で導入されることが多いです。
フレックスタイム制の目的
フレックスタイム制を導入する主な目的は、「労働者のワークライフバランスの向上」です。
フレックスタイム制では、例えば納期が近く忙しい日は長く働き、業務に余裕がある日は早く退勤するといった柔軟な働き方が可能です。
また、子供の予定や送り迎えに合わせて出退勤時刻を調整するなど、家庭との両立も図りやすくなります。
フレックスタイム制・変形労働時間制・裁量労働制の違い
フレックスタイム制・変形労働時間制・裁量労働制との大きな違いは、日々の労働時間を自分で決めて働けるか否かという点です。
フレックスタイムは日々の労働時間を労働者自身で決めることが可能ですが、変形労働時間と裁量労働は、基本的に企業側が1日の労働時間を定めるため、労働者が決めることはできません。
| フレックスタイム制 | 変形労働時間制 | 裁量労働制 | |
|---|---|---|---|
| 労働時間 | 清算期間内に定められた総労働時間の枠の範囲内で、労働者自身が日々の労働時間(出社・退社時間)を自分で決めて働く。 | 1週単位、1ヶ月単位、年単位の総労働時間の枠の範囲内で、企業側が決めた日々の労働時間(出社・退社時間)に従って働く。 | 労使協定や労使委員会の決議で定めた時間を労働時間とみなす。(1日8時間をみなし労働時間と定めたら、1時間働こうが、9時間働こうが、8時間働いたものとみなす) |
| 目的 | 労働者の都合に合わせた柔軟な働き方を提供し、ワークライフバランスを実現する | 閑散期や繁忙期など、会社の都合に合わせて労働力を効率的に投入し、残業時間を削減する | 時間にとらわれない働き方によって、生産性を向上させる |
| 対象者 | 職種や業種問わず、すべての労働者 | 職種や業種問わず、すべての労働者(ただし、1週単位の場合は業種等の要件あり) | ・専門性の高い業務を行う労働者:SE、プログラマー、研究開発者、編集者、建築士など ・企画、立案、調査や分析を行う労働者 |
裁量労働制と変形労働時間制の詳細については、それぞれ以下のページをご確認ください。
フレックスタイム制の仕組み

フレックスタイム制では、必ず勤務しなければならない「コアタイム」と、自由に出退勤できる「フレックスタイム」を定めるのが一般的です。
例えば、10時~14時を「コアタイム」とする場合、その4時間は必ず業務にあたらなければなりません。これにより、労働者のコミュニケーションの機会を確保できるほか、ミーティングや打ち合わせも組みやすくなります。
一方、出退勤が自由な「フレックスタイム」については、割増賃金が発生する深夜帯を避けて設定するのが通常です。
なお、コアタイムを設けず、出退勤時刻を完全に労働者に委ねる「スーパーフレックスタイム制」という制度もあります。
コアタイム
コアタイムとは、フレックスタイム制において必ず勤務しなければならない時間帯のことです。例えば、コアタイムを11時から15時とした場合、その時間帯は必ず働く必要がありますが、それ以外の時間は自由に出退社できます。
コアタイムを設ける義務はありませんが、会議や情報共有の時間を確保しやすくなるため、多くの企業で採用されています。また、労使で合意すれば、曜日ごとにコアタイムを変更したり、1日の中で分割したりすることも可能です。
ただし、コアタイムが長すぎると、フレックスタイム制として認められないおそれがあるためご注意ください。
フレキシブルタイム
フレキシブルタイムとは、労働者が自由に出退社できる時間帯をいいます。
コアタイムと同じく任意で設けることができますが、一般的にはコアタイムの前後に配置されることが多いです。
例えば、6時~10時、15時~21時をフレキシブルタイムとした場合、その範囲内であれば好きな時間に出退勤できるほか、中抜けも可能です。この時間帯に労働者へ勤務を命じたり、ミーティングへの参加を強制したりすることはできません。
また、深夜時間帯に働くと割増賃金の支払いが必要になるため、フレキシブルタイムは通常、22時~5時を除いて設定されます。
スーパーフレックスタイム制
スーパーフレックスタイム制とは、コアタイムを設けず、1日の勤務時間をすべて労働者の判断に委ねる制度です。
通常のフレックスタイム制よりも自由度が高く、よりライフスタイルに合った働き方を実現できます。また、スーパーフレックスタイム制でも、勤務可能な時間帯を定めるフレキシブルタイムを設けることは可能です。
ただし、情報共有や打ち合わせの日程調整が難しくなるほか、勤怠管理も複雑になりやすいため、導入には十分な準備が求められます。
フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制を導入すると、企業には以下のようなメリットがあります。
- ①ワークライフバランスの実現・生産性の向上
- ②残業時間の削減
- ③優秀な人材の確保
ワークライフバランスの実現・生産性の向上
フレックスタイム制では、労働者が出退勤の時刻を自由に調整できるため、自分の生活スタイルに合わせた働き方ができるようになります。
例えば、保育園の送迎や家族の介護、役所への手続きや通院、資格取得のための勉強、習い事がしやすくなるなど、プライベートの時間を確保しやすくなります。 また、電車が混雑する時間帯を避けて出勤すれば、通勤ラッシュを回避することも可能です。
これらの結果、ワークライフバランスの実現に近づくため、労働者の作業効率や生産性の向上を期待できます。
残業時間の削減
フレックスタイム制の下では、無駄な残業や休日出勤を削減できる可能性があります。
一般的な労働時間制では、たとえ仕事が終わっても定時まで働かなければなりません。しかし、フレックスタイム制が導入されれば、仕事が少ない日は早めに退社して、仕事量が多い日は長めに働くなどの効率的な働き方が可能となるため、無駄な残業が削減され、残業代を抑制することが可能となります。
優秀な人材の確保
ワークライフバランスを実現できる企業は、労働者にとって魅力的です。そのため、離職を防止したり、優秀な人材を定着させたりする効果が期待できます。
また、求人情報に「フレックスタイム制あり」と記載すれば、求職者にも自社の魅力をアピールすることができます。
例えば、「プライベートも充実させたい」「通常の労働時間で働くのが難しい」などと考える求職者にとって、フレックスタイム制は魅力的な制度です。そのため、応募者が増え、優秀な人材の確保につながると考えられます。
フレックスタイム制のデメリット
フレックスタイム制には以下のようなデメリットもあるため、導入時は注意が必要です。
- ①勤怠管理の煩雑化
- ②急な業務に対応できない
- ③労働者同士のコミュニケーション不足
勤怠管理の煩雑化
勤怠管理が複雑になり、労務担当者の負担が増えるおそれがあります。
フレックスタイム制では、労働者ごとに、毎日異なる出退勤時間を管理しなければなりません。また、それぞれの労働者について、労働時間が長すぎないか、短すぎないかを確認し、何か問題があれば個別に対応する必要があります。
賃金計算を誤り、未払い賃金を発生させないためにも、労働時間の管理はしっかり行うことが重要です。
急な業務に対応できない
突発的な会議や緊急の電話があっても、労働者が応じられない可能性があります。例えば、取引先からの問い合わせ時に担当者がまだ出社していない、あるいはすでに帰宅してしまったなどの状況が生じることもあるでしょう。
フレックスタイム制を導入する場合は、取引先などの信頼を損ねないよう、ほかの労働者でも代わりに対応できるような体制を整備しておく必要があります。
労働者同士のコミュニケーション不足
労働者が顔を合わせる機会が少なくなり、コミュニケーション不足に陥る可能性があります。その結果、労働者間の信頼関係が低下し、必要な情報共有が行われないなど、業務に支障が生じるおそれがあります。
このような状況を防ぐには、オンラインのコミュニケーションツールを利用し、情報共有の機会を確保するなど対策を講じる必要があるでしょう。
フレックスタイム制における残業時間
フレックスタイム制では、1日8時間や週40時間を超えて働いたとしても、それだけで時間外労働になるわけではありません。
判断のポイントとなるのが清算期間です。清算期間とは、労働時間を集計するための一定期間のことです。フレックスタイム制では、この清算期間全体で働いた時間の合計(実労働時間)が、法律で定められた上限時間(法定労働時間の総枠)を超えたときに、はじめて時間外労働として扱われます。
例えば、清算期間が1ヶ月以内であれば、法定労働時間の総枠は次の計算式で求めます。
法定労働時間の総枠 =1週間の法定労働時間(40時間) × 清算期間の暦日数 ÷ 7日
フレックスタイム制でも、時間外労働には36協定の締結と割増賃金の支払いが必要です。未払いのままにすると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられるおそれがあります。
フレックスタイム制における時間外労働の取扱いや割増賃金については、以下の各ページをご覧ください。
清算期間における総労働時間
清算期間内に労働者が働く必要のある所定の時間を「総労働時間(所定労働時間)」といいます。
総労働時間は、法定労働時間の範囲内で設ける必要があるため、週平均が40時間を超えないよう設定する必要があります。
なお、下表のとおり、月の日数によって法定労働時間は変動します。
| 月の日数(清算期間の暦日数) | 法定労働時間 |
|---|---|
| 28日 | 160.0時間 |
| 29日 | 165.7時間 |
| 30日 | 171.4時間 |
| 31日 | 177.1時間 |
例えば、〈清算期間が1ヶ月(暦日数28日)で総労働時間が155時間、実労働時間が170時間〉のケースで考えてみます。この場合、法定労働時間の総枠は160時間なので、法定内残業は5時間、時間外労働は10時間となります。
このとき、法定内残業の5時間分は通常の賃金を支払い、時間外労働の10時間分は割増賃金を支払う必要があります。
清算期間の延長
2019年の法改正により、フレックスタイム制の清算期間は、最長1ヶ月から3ヶ月まで延長されました。これにより、業務の繁閑や個人の予定に応じて労働時間を調整しやすくなり、より柔軟な働き方を実現できるようになりました。
ただし、清算期間が1ヶ月を超える場合は、残業代の計算方法が複雑になります。具体的には、以下の①②それぞれが時間外労働としてカウントされ、割増賃金の支払いが求められます。
- ① 1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えた分
- ② ①を除いて、清算期間全体の労働時間が週平均40時間を超えた分
また、清算期間を1ヶ月超えとする場合は、就業規則に必要事項を定めるだけでなく、労使協定を結び、労働基準監督署へ届け出る必要があります。
清算期間の延長によるフレックスタイムへの影響については、以下の記事をご覧下さい。
フレックスタイム制における勤怠管理の取り扱い
フレックスタイム制を導入した際は、以下の勤怠管理に注意が必要です。
遅刻・早退
フレックスタイム制の場合、出退勤時刻は労働者の判断に委ねられるため、基本的に遅刻や早退は発生しません。
ただし、コアタイムは勤務が義務付けられた時間帯なので、コアタイムの開始時刻に間に合わなければ“遅刻”、終了時刻よりも早く退勤すれば“早退”として扱うことができます。
なお、コアタイム中に遅刻や早退があっても、清算期間の総労働時間に達している場合は基本的に賃金控除ができません。そのため、遅刻や早退に対して何らかの罰則を課す場合は、別途就業規則に規定するなどの対応が必要です。
一方、コアタイムがない「スーパーフレックス」の場合、出退勤時刻はすべて労働者の自由なので、遅刻や早退は発生しません。
欠勤
就業規則で「労働日」と「休日」が明確に定められている場合、労働者はそれに従う義務があります。そのため、フレックスタイム制でも、労働日に勤務しなかった者は“欠勤”扱いとすることができます。
ただし、実際の労働時間が“清算期間の総労働時間”を超えている場合、欠勤による賃金カット(欠勤控除)は基本的にできません。欠勤に対して何らかのペナルティを課す場合、就業規則に別途定めたり、人事評価で査定対象にしたりする方法が考えられます。
一方、実際の労働時間が“総労働時間”を下回る場合は、通常の労働と同じく賃金カット(欠勤控除)することができます。また、不足時間分を次の清算期間に繰り越し、総労働時間に上乗せするという方法もあります。
欠勤控除について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
休憩時間
フレックスタイム制の休憩時間については、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与える必要があります。
また、休憩は「労働時間の途中に」「一斉に」与え、「自由に」利用させなければなりません。そのため、一般的にはコアタイムの間に休憩時間を設ける企業が多いようです。
ただし、労使協定を締結すれば、一斉休憩は適用除外となります。また、以下の業種では、休憩時間を一斉に与える必要はありません。
- 運輸交通業
- 商業、金融・広告業
- 映画・演劇業
- 通信業
- 保健衛生業
- 接客・娯楽業 など
休憩時間の法的ルールについては、以下のページで詳しく解説しています。
休日出勤
事業主は、少なくとも週1日、または4週に4日の「法定休日」を与えることが義務付けられています。また、法定休日は就業規則や雇用契約書に明記する必要があるため、労働者が勝手に休日出勤することはできません。これは、フレックスタイム制でも同様のルールです。
よって、労働者が法定休日に出勤した場合、その労働時間は“清算期間の総労働時間”とは別にカウントし、35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
一方、「法定外休日(企業が定める所定休日)」に出勤しても休日割増賃金は発生しませんが、通常の労働時間には加算されるため、法定労働時間の総枠を超えて働いた分は割増賃金の支払いが必要となります。
法定休日と法定外休日との違いや、割増賃金の計算方法について詳しく知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
年次有給休暇
フレックスタイム制の対象者が年次有給休暇を取得した場合、労使協定に定めた「標準となる1日の労働時間」を実労働時間に加算し、その労働時間を基礎として賃金の計算を行います。
例えば、「標準となる1日の労働時間」が8時間の場合、有給休暇取得日は8時間働いたものとみなし、賃金計算に反映する必要があります。
年次有給休暇取得時の賃金の計算については、以下のページで詳しく解説しています。
フレックスタイム制を導入する方法
フレックスタイム制の導入は、以下の手順で進めます。
-
労使協定の締結
労働組合または労働者代表と労使協定を結びます。協定には、制度の対象となる労働者の範囲、清算期間、清算期間内の総労働時間、1日の標準労働時間、コアタイム・フレキシブルタイム(任意)などを定めなければなりません。 -
就業規則への明記
就業規則またはそれに準じる文書に「始業・終業時刻の決定を労働者に委ねること」を明記します。コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合は、その時間帯の記載も必要です。就業規則の変更後は、労基署への届出が求められます。 -
従業員への周知
コアタイムや時間外労働の取扱い、遅刻・早退のルールなどについて説明し、制度を正しく理解してもらいましょう。
フレックスタイム制の導入方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
