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従業員の公民権行使のための休暇

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

使用者には、労働者に対して、法律で定められた休暇・休業を付与する義務があります。この法定の休暇・休業には様々なものがありますが、今回は「公民権行使」にかかる休暇について解説します。労働者とのトラブルを未然に防ぐために、お役立ていただければ何よりです。

公民権行使の保障

憲法は、公民(国政に参加できる地位にある者)に、いわゆる「公民権」を行使することを保障しています。これを受け、労働基準法7条では、使用者に対して、労働者から①公民権を行使するため、または②公の職務を執行するために必要な時間を請求された場合に、拒否することを禁止しています。

ただし、権利行使や公務の執行に妨げがない場合に限って、請求された時刻を変更することは認められます(労基法7条但書)。

なお、労働者からの請求を拒んだ時点で同条に違反すると解され、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(労基法119条)。つまり、違反したかどうかを判断する際に、最終的に付与したか否かは問われません。

労働基準法

(公民権行使の保障)第7条
使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。

「公民としての権利」に該当するもの

「公民としての権利」には、以下に列挙する権利等が該当します。

  • ・選挙権
  • ・被選挙権
  • ・最高裁判所裁判官の国民審査
  • ・特別法の住民投票
  • ・憲法改正の国民投票
  • ・地方自治法による住民の直接請求権
  • ・行政事件訴訟法による民衆訴訟
  • ・公職選挙法に規定する選挙人名簿に関する訴訟
  • ・公職選挙法に規定する選挙または当選に関する訴訟

「公の職務」に該当するもの

「公の職務」には、以下に列挙する職務等が該当します。

  • ・衆議院議員その他の議員の職務
  • ・労働委員会の委員の職務
  • ・労働審判員の職務
  • ・検察審査員の職務
  • ・民事訴訟における証人の職務
  • ・選挙立会人の職務
  • ・裁判員の職務

なお、裁判員休暇に関しては別途説明しているので、下記の記事をご覧ください。

従業員が裁判員に選任された際の対応について

公民権行使にかかる休暇

休暇の対象者

公民権行使にかかる休暇は、雇用形態を問わず、請求した全労働者が取得できます。したがって、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイト、派遣労働者であっても、取得することが可能です。

休暇の日数

公民権行使にかかる休暇の日数について、法律上の定めはありません。また、公民としての権利行使または公の職務の執行には様々な種類があり、それぞれ必要とされる時間も異なります。したがって、当該休暇は、権利や職務の態様に応じて、適切な期間を付与するべきでしょう。

そのため、一般的に、就業規則上に「必要と認められる期間を付与する」という規定を設けることが多いようです。

休暇中の給与

公民権行使にかかる休暇中の給与についても、法律上の定めはありません。そのため、使用者は、ノーワーク・ノーペイという給与支払いの原則に従って、休暇中の給与相当額を控除することができます。

しかし、選挙権の行使や裁判員の職務の執行等、社会的にも重要性が認められる事情を理由とする休暇の場合は、給与を支払うべきであるとする見解もあります。

なお、当該休暇制度の導入にあたっては、有給扱いと無給扱いのどちらにする場合でも、就業規則に明記しておく必要があります。

出勤率の算定における取り扱い

年次有給休暇は、対象となる期間における全労働日の出勤率が8割以上である場合に付与されます。この点、公民権行使にかかる休暇は、全労働日に含まれないため、出勤率の算定において不利益に扱われることはありません。詳しくは下記の記事をご覧ください。

年次有給休暇の出勤率の算定方法について

公民権行使にかかる休暇を理由とする解雇処分の有効性

例えば、選挙権等、公民権の行使が短時間で終了する場合には、法的な問題が生じることはさほどありません。しかし、議員活動といった、長時間かつ長期間にわたって労働者が労働契約上の義務を履行できないような場合には、当該労働者の解雇の適法性等が争われる事態になることがあります。

この問題について検討した裁判例によると、「使用者が、労働者が地方議会議員等の公職に就任したこと自体を解雇事由とすることは許されない」とするものの、「公職就任により著しく業務に支障を生ずる場合」、あるいは「業務の支障の程度が著しいものでなくとも、他の事情と相俟って、社会通念上相当の事由があると認められる場合」は、使用者がする普通解雇は正当として許されると解されます(東京高等裁判所 昭和58年4月26日判決、社会保険新報社事件)。

解雇について、詳しくは下記の記事をご覧ください。

退職及び解雇

上述の裁判例以後も、基本的に同様の考え方が支持されていると考えられます。

公民権行使にかかる休暇を理由とする解雇が争点となった裁判例

以下の2つの裁判例は、公民権行使にかかる休暇を理由とする解雇処分の適法性について検討したものです。

懲戒解雇処分の違法性について判断した判例

・最高裁 昭和38年6月21日第2小法廷判決、十和田観光電鉄事件

<事案の概要>

Y(上告人会社)に雇用され、Yの労働者で組織される労働組合の執行委員長だったX(被上告人)は、十和田市議会議員選挙の議員候補者として推薦され、立候補したところ、当選しました。そこで、XはYの社長であるAに公職就任中は休職扱いにしてもらいたい旨を申し出ましたが、Yは、就業規則で「労働者が会社の承認なく公職選挙法による選挙に立候補し、公職に就任することを禁止」していることを理由に、Xを懲戒解雇処分に付しました。

そこで、Xは、かかる就業規則の規定の効力は労働基準法7条の趣旨に反して無効であるため、当該懲戒解雇処分も無効であるとして、訴訟を提起しました。その結果、第一審、第二審ともにXが勝訴したため、Yが上告しました。

<裁判所の判断>

結論として、裁判所はYの請求を棄却しました。

まず、懲戒解雇は、企業秩序に違反した者に使用者が課す一種の制裁罰であり、普通解雇とは異なります。そして、本件就業規則の規定は、単に労働者の公職への就任を理由に懲戒解雇するものではなく、使用者の承認なく公職に就任したことを理由に懲戒解雇するものですが、それは、公職の就任について会社に対する届出事項とするだけでなく、使用者の承認を必要とすることに加えて、違反者に対して制裁罰としての懲戒解雇を課すことを定めるものです。

この点、労働基準法7条が、労働者に対して、労働時間中に公民としての権利の行使および公の職務の遂行を保障する趣旨を考慮すると、本件就業規則の規定は、同条に反して無効であると解釈できます。

このような理由から、裁判所は、公職に就任することで会社業務の遂行が著しく阻害されるおそれがある場合でも、普通解雇はともかく、懲戒解雇処分を行うことは許されないといわざるを得ないと判断しました。

普通解雇処分の違法性について判断した裁判例

・東京高等裁判所 昭和58年4月26日判決、社会保険新報社解雇事件

<事案の概要>

X(控訴人)は、昭和42年4月に旧町議会議員選挙に立候補し当選しましたが、議員報酬だけでは生活ができないため、大学の同級生であったAの計らいで、Aが代表を務めるY(被控訴会社)にアルバイトとして就職しました。その後、任期満了に伴い、昭和46年4月に市議会(旧町議会)議員選挙に立候補したところ落選したため、同月に名実ともにYの正社員となりましたが、昭和50年4月に再度市議会議員選挙に立候補して当選し、市議会議員に就任しました。なお、その間、Xは図書の編集業務、次に総務、次いで営業関係というように、担当する業務を多々変更して勤務してきました。

Yは、Xが市議会議員に就任した直後の同月末に、Xが①議員に就任したことおよび②年齢が60歳を超えたことを理由に挙げ、任意退職を勧奨しました。しかし、Xが拒否したため、Yは解雇の意思表示をするとともに、裁判所に対してXY間に雇用関係がないことを確認する訴えを提起したところ、Yの請求を認容する判決が下されたため、Xが控訴しました。

<裁判所の判断>

裁判所は、Xの請求を退けた第一審判決※1を維持しつつ理由※2を付け加え、Yの解雇を有効と判断しました。

※1第一審判決の内容
使用者が、労働者の公職への就任自体を理由に解雇することは許されないものの、公職の就任により業務に著しい支障が生じる場合、あるいは支障の程度が著しくなくとも、他の事情とあいまって社会通念上相当の事由があると認められる場合は、使用者の行う普通解雇は正当であるとして許されると解されます。

この点、本事案では、Yの人的体制からみて、Xの市議会議員への就任は業務の運営に支障を生じさせるものの、業務運営を著しく阻害する程度のものではありませんでした。しかし、①解雇時Xは63歳という、高齢かつYの60歳を超えた他の多くの労働者の退職年齢とほぼ相当する年齢であり、また、②将来的に60歳定年制が実施されることを予期する立場にあったことに加え、③解雇によって収入が減少することはほとんどなく、仮にあったとしても生計の維持を困難にするほどのものではないこと、④その他XがYに雇用された経過等を総合考慮した結果、裁判所は、本件解雇は社会通念に照らして相当の事由のある解雇であるというべきであると判断しました。

※2控訴審判決で付加された理由および判決内容
Yの代表者であるAは、挨拶または報告を受けた者の儀礼として、激励とみられる言葉でXに応対する等したけれども、こうした言動があったからといって、第一審判決で述べた理由でXを解雇することが信義に反し、権利の濫用に当たると解することはできません。

したがって、第一審判決は相当であり、控訴には理由がないとの結論を下し、棄却されました。

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