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企業における産業医の選任義務について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

労働者の健康状態を、使用者だけで把握するのは困難です。しかし、労働者の健康の維持や、安全を保つのは使用者の義務となっています。そこで、会社としては、一定の数以上の労働者を使用する場合には、産業医の選任を義務付け、労働者の健康管理、職場環境等の改善を行うことが求められています。会社としては、どのようにして産業医を選ぶのでしょうか?また、必ずしも産業医を設置しなければならないのでしょうか?

本項では、会社における産業医の選任義務について説明していきます。

産業医の選任義務について

使用者は労働安全衛生法13条に則り、一定以上の規模に該当する事業場において産業医の選任が義務付けられており、産業医を選任することによって、労働者の健康管理等を行っていくことが求められています。多くの労働者の健康状態をみて管理するには、医学的・専門的知識も必要になる場面が増えてきます。また、職場環境や長時間労働等の、過労によるストレスからのメンタルヘルス不調を未然に防ぐ際にも、産業医の判断や意見が参考になります。そういった産業医の判断や意見を受けて、使用者が労働者の働き方をどのようにするべきかという判断に役立ち、健康を確保する措置を実施していくことで労働者の健康保持につながっていきます。したがって、産業医と一緒に、労働者の労働環境や健康状態の改善・対策をすることができるでしょう。

メンタルヘルスについては、下記のページにて解説しています。

メンタルヘルス

産業医とは

そもそも産業医とは、事業場において労働者が健康で快適な環境で働けるように、健康管理や職場環境管理等を行い、専門的立場から指導や助言を行うことができる者として、厚生労働省令(労安衛則14条第2項)で定める一定の要件を充足した医師のことをいいます。産業医は、産業保健や労働衛生の専門的知識に精通していることを活かして、労働者の心身の健康を保持・増進することを目指した活動をしていきます。ただし、産業医は一般の医師のように診察を行うものではなく、労働者と会社の間に立って、健康に業務を行えるかどうか等の判断や、労働者が健康に業務に従事するための指導をする医師になります。

働き方改革による「産業医の機能強化」

2019年4月から施行されている法改正により、労働安全衛生法が定める産業医の権限が拡大され、衛生委員会及び使用者への関与が強くなり、産業医の機能強化が規定されています。

産業医の選任が必要な事業場

産業医の選任

常時50人以上の労働者を使用する事業場(事業場単位であるため、会社全体という意味ではありません。)では、1人の産業医の選任が必要となります(労安衛法13条、労安衛法令4条)。また、労働者が常時3000人以上の事業場では、2人の産業医を選任しなければなりません(労安全規則13条第1項4号)。さらに、労働者が常時1000人以上の事業場、及び法で定められている有害業務に労働者が常時500人以上の事業場には、専属産業医を選任する義務があります(労安衛則13条第1項第3号)。専属産業医については、次項にて説明します。

ただし、労働者が50人未満の場合は、産業医の選任は義務ではありませんが、健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師又は保健師による健康管理が努力義務とされています(労安衛法13条の2、労安衛則15条の2第2項)。

産業医の勤務形態

産業医には、2種類の形態があります。それが、専属産業医嘱託産業医です。どちらも、産業医として行うことができる業務に変わりはありません。本項では、それぞれの違いについて説明してきます。

専属産業医

専属産業医とは、会社と直接契約し、会社専属の産業医として働く産業医のことをいいます。

専属産業医は、労働者が1000人以上いる事業場、及び有害業務に労働者が500人以上携わっている事業場に選任する必要があります。また、労働者が3000人以上いる場合は2人の専属産業医の選任が必要となります。ここに該当する有害業務とは、労働安全衛生規則13条の規定になります。

労働安全衛規則

(産業医の選任等)第13条

三 常時千人以上の労働者を使用する事業場又は次に掲げる業務に常時五百人以上の労働者を従事させる事業場にあっては、その事業場に専属の者を選任すること。

  • イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  • ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  • ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
  • ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
  • ホ 異常気圧下における業務
  • ヘ さく岩機、鋲びよう打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
  • ト 重量物の取扱い等重激な業務
  • チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  • リ 坑内における業務
  • ヌ 深夜業を含む業務
  • ル 水銀、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
  • ヲ 鉛、水銀、クロム、砒ひ素、黄りん、弗ふつ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
  • ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
  • カ その他厚生労働大臣が定める業務

嘱託産業医

嘱託産業医とは、労働者が50人以上999人以下の事業場に選任する必要がある産業医です。普段は勤務医や開業医といった医師が、月に1回から数回の頻度で会社へ訪問し、必要な健康指導等を行います。

嘱託産業医は、普段は労働者以外の患者も診ており、色々なケースを知っているため視野が広く、参考になる意見が伺えるでしょう。

厚生労働省令が定める産業医の要件

産業医として選任するためには、以下の要件を満たした医師であることが必要です。

  • (1) 厚生労働大臣に指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
  • (2) 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
  • (3) 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保険衛生である者
  • (4) 大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者

産業医の法定業務

本項では、法律上で定められている産業医の業務について解説していきます(労安衛則14条)。

健康診断

全ての労働者が毎年1回は受診することになっている健康診断の結果から、異常がみられる場合、産業医が当該労働者に対して就業判定を行います。また、生活習慣の指導等についても助言する場合もあります。

健康診断の実施義務についての詳細は、下記のページをご覧ください。

健康診断の実施義務

面接指導

長時間労働者で疲労の蓄積が認められる者や、ストレスチェックで高ストレスと判断された労働者から、面接指導の希望があった場合は、産業医はそれぞれに対する指導を行う必要があります。

面接指導についてより詳しい説明は、下記のページをご覧ください。

面接指導

ストレスチェック

ストレスチェックをすることにより、労働者のストレスをある程度把握できます。これによって、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的としています。職場環境を知る産業医がストレスチェックを行うことで、労働者への対応や職場環境の改善等が期待されています。

ストレスチェックについての詳細は、下記のページをご覧ください。

ストレスチェック

職場巡視

産業医は、少なくとも毎月1回は職場を巡視し、職場環境の確認が必要となります(労安衛則15条第1項)。ただし、使用者から所定の情報の提供を受け、巡視の頻度に関して使用者からの同意を得られている場合は、2ヶ月に1回の巡視も許容されています。

さらに、産業医は、巡視中に作業方法や衛生状態に有害なおそれに気づいたときには、労働者の健康障害を防止する措置をするために必要な措置を講じなければなりません(労安衛則15条第1項)。

健康・安全衛生教育

産業医は必要に応じて、労働者に対して健康管理や衛生管理のために研修を行います(労安衛則14条第1項)。研修をすることにより、企業の健康維持や安全管理に役立つことになります。

安全衛生教育についての詳細は、下記のページをご覧ください。

企業が実施すべき安全衛生教育の重要性について

衛生委員会への参加

使用者は安全・衛生に関して労働者の意見を聴くために、常時50人以上の労働者を使用する事業場には、衛生委員会を設置しなければなりません(労安衛令99条)。この衛生委員会は、月1回以上の開催が義務付けられており、産業医も委員として構成されることになります。委員である者が出席しなければ衛生委員会の開催が不可能なわけではありませんが、産業医にも積極的に出席してもらうことで、医学的・専門的な立場からの見解をもらうことができるでしょう。

安全衛生について

産業医の設置において企業が取るべき対応

産業医への情報提供

産業医が専門的な立場から労働者の健康管理をしやすくするために、使用者は産業医が必要とする労働者の情報を提供しなければなりません(労安衛法13条第4項、労安衛則14条の2第1項、第2項、15条の2第3項)。具体的な情報とは、以下のような内容になります。

  • ・健康診断実施後やストレスチェックの結果に基づく面接指導後の措置内容
  • ・1ヶ月あたり80時間以上、残業等をした労働者の情報
  • ・産業医が必要とする労働者の業務情報

使用者から提供されたこれらの情報をもとに、産業医は、使用者に対して助言や勧告を行うことができます。

健康診断の実施義務、面接指導についての詳細は、それぞれ下記のページをご覧ください。

健康診断の実施義務
面接指導

産業医の勧告に対する措置

使用者は、上記のような情報を産業医に提供し、産業医が職場環境・労働環境の改善が必要と感じた場合には、使用者に対して勧告を行います。使用者が勧告を受けた際は、その勧告を尊重し(労安衛法13条第5項)、勧告内容を衛生委員会や安全衛生委員会に報告しなければいけません。また、使用者は当該勧告の内容と措置内容を記録し、3年間保存をする必要があります(労安衛則14条の3第2項)。さらに、衛生委員会や安全衛生委員会に対しても、措置内容を報告します(労安衛法13条第6項)。

産業医からの勧告通りに対応するかは、使用者の判断によりますが、産業医は労働者の安全や健康について勧告できる権限を有していることを、理解しておくべきでしょう。

産業医を選任しない場合の罰則

使用者は産業医を選任しなければならない事由が生じた場合、14日以内に選任しなければいけないと定められています(労安衛則13条)。さらに、選任した際には産業医選任報告書を労働基準監督署に提出する必要があります。

このように、産業医の選任は法的な拘束力が定められているため、選任が必要な要件に該当しているにもかかわらず、選任しないままでいると罰金等の罰則を受けることになります(労安衛法120条)。

使用者としては、産業医の選任をしなければ、労働者の健康管理等に専門的な知見を活用できない状況に陥り、労働者の健康に対するリスクが上がってしまうことを十分に理解しておく必要があります。また、労働環境が原因となって健康を害することになってしまった労働者からは、損害賠償請求等の訴訟を起こされてしまうおそれもあります。産業医の選任は、このようなリスクを回避することに役立ちますので、積極的に選任しておくべきでしょう。

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