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割増賃金請求

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

使用者は、労働者を法定時間外・休日・深夜に働かせた場合、割増賃金を支払わなければなりません。通常は法定時間内で収まるべき労働を、時間外にもしなければならない労働者の負担への補償という目的はもちろんですが、使用者の経済的負担を増やすことで、時間外労働そのものを抑制しようという目的によっても課されます。日本の割増率はいまだ低水準で、さらなる時間外労働の抑制を目指し、平成30年に成立した働き方改革関連法では規制が強化されました。

ここでは、割増賃金の定義から、その詳しい内容、使用者として知っておくべきこと等を解説していきます。

割増賃金の定義

労働基準法では、賃金に関して、『賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう(労基法11条)』と定められています。それに対して、割増賃金とは基本となる賃金に一定の割合で割増した賃金のことをいいます。割増賃金も賃金なので、労働基準法に定められている「通貨払いの原則」、「全額払いの原則」、「直接払いの原則」、「毎月1回以上払いの原則」、「定期払いの原則」が適用されます

割増賃金の種類

割増賃金には、法定時間外労働に対するもの(時間外手当・残業手当)、休日労働に対するもの(休日手当)、深夜労働(午後10時から午前5時まで)に対するもの(深夜手当)があります。労働させた場合、その時間またはその日については、通常の賃金からそれぞれ定められた率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。また、労働基準法で定められている割増率はそれぞれで異なります。その違い、特性、計算の仕方等、次項から詳しくみていきます。

残業代

法定労働時間は、1日8時間、1週間40時間と定められています。これを超えて労働者を労働させるときに「時間外労働」となり、割増賃金、つまり時間外手当(残業手当)が発生します。割増率は、通常の労働時間または労働日の賃金の25%以上でなければなりません。

もっとも、所定労働時間が午前9時から午後5時まで(休憩1時間)の7時間の企業で、午後5時から午後6時まで労働させた場合は「法定内残業」「法内超勤」等と呼ばれ、通常賃金の支払い義務があるのみで、割増賃金は発生しません。ただし、就業規則等で、「所定労働時間を超えた場合はすべて割増賃金を支払う」と定めることは問題ありません。

一方、時間外労働が1ヶ月60時間を超えたときは、超えた分について50%以上の割増が必要になります(中小企業に関しては、令和5年3月末までの猶予措置があります)。

休日手当・休日割増賃金

労働基準法では、使用者は、労働者に週に1回、もしくは4週間に4回以上の休日を与えなければならないとされており、これを「法定休日」といいます。この法定休日に労働させると「休日労働」となり、割増賃金(休日手当)を支払う必要が出てきます。割増率は、労働基準法によって、通常の労働日または労働時間の賃金の35%以上でなければならないと定められています。

ただし、35%以上の割増賃金が必要となるのは、あくまでも「法定休日」に労働させた場合ですので、「法定外休日」での労働と区別して理解する必要があります。

法定休日労働と法定外休日労働

週休2日制の企業の場合、1日は「法定休日」で、もう1日は「法定外休日」ということになります。たとえば日曜を法定休日と定めている場合には、土曜に労働させても法定外休日の扱いになるので、休日手当は発生しません。そのため、休日の振替が行われる等により週40時間を超えていなければ割増賃金は発生しません。ただし、週40時間を超えていれば25%増の時間外手当は発生しますが、いずれにしても、35%増の休日手当は発生しません。

この点が争いにならないよう、あらかじめ就業規則等で定めておくことが望ましいでしょう。また、就業規則等で、法定外休日にも休日手当を支払うと定めることは問題ありません。

深夜手当・深夜割増料金

労働基準法では、午後10時から午前5時は深夜時間帯とされています。この時間帯に労働させると「深夜労働」となり、使用者は割増賃金(深夜手当)を支払う必要が出てきます(深夜時間帯は、厚生労働大臣が必要であると認める場合において、その定める地域または期間については午後11時から午前6時までとなります)。割増率は、通常の労働日または労働時間の25%以上でなければならないと定められています。

なお、時間外労働かつ深夜労働である場合は25%+25%=50%以上の割増率、休日労働かつ深夜労働の場合は35%+25%=60%以上の割増率となります。

割増賃金の計算方法

割増賃金の計算方法は、
割増賃金額=時間単価×労働時間数×割増率
となります。

日によって定められた賃金については、その金額を1日の所定労働時間数で割った金額、週によって定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数で割った金額、月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数で割った金額を、時間単価とします。

割増賃金の計算方法について、詳しくは以下のページで解説していますので、ご参照ください。

割増賃金の計算方法

割増賃金請求をされた場合の対処法

労働者から未払いの割増賃金の支払いを要求されて裁判になると、場合によっては未払い賃金に加えて遅延損害金や付加金を支払わなければいけなくなるおそれがあります。高額の支払いが命じられることも少なくありません。では、労働者から未払いの割増賃金の支払いを要求されたとき、使用者としてはどのように対応すれば良いのでしょうか。

請求書の受け取り

労働者側から請求書が送付されてきたら、必ず内容を確認します。おそらく内容証明郵便で送られてくる可能性が高く、この場合、相手側には受け取ったことが通知されます。相手方が何を求めているのか、期限は設定されているか等を確認しないと、裁判になったときに不利になってしまうおそれがあります。請求書が届いたら、なるべく早く確認しましょう。

労働者からの請求が妥当なものか検討する

未払い割増賃金の請求があったら、まずはその請求が妥当なものであるかを確認しましょう。そのためには、就業規則の確認も不可欠です。

就業規則と照らし合わせながら、タイムカード等、出勤・勤務状態がわかるものを参照して、請求されている金額が妥当なものか、過大請求ではないかを確認したり、そもそも当該労働者が割増賃金の適用除外となる管理監督者ではないか、消滅時効を迎えていないか、固定残業手当により残業代を支払い済みでないか、企業側で残業を禁止してはいないか等を確認したり、企業側に未払割増賃金を支払う義務があるのかを確認します。

労働者側と交渉

労働者側からの請求書の条件をそのまま受諾できない場合には、交渉に入ります。直接交渉、電話交渉いずれもあり得ますが、後々揉めないよう、録音したデータを残しておきましょう。交渉によって話がまとまった場合は、後からトラブルが起こるのを防ぐため、合意に達した内容を合意書として作成します。

労働基準監督署などの裁判外紛争調整機関の利用

労働者との交渉が合意に達しなかった場合、労働基準監督署等の紛争調整機関によるあっせんや調停、日本弁護士連合会の紛争解決センターによる仲裁などを利用し、外部機関に頼ることとなります。

裁判所の利用

交渉や紛争調整機関を利用しても解決に至らなかった場合、裁判所を利用し、労働審判、労働訴訟などを行うことになります。労働審判は、平成18年より新設された、労働問題を迅速に解決するための新しい制度です。労使間の話合いが基本ですが、調停成立しなかった場合には、裁判所により審判が下されることとなります。この結果にどちらかが異議申立てをすれば、裁判に移行することとなります。

労働者との裁判

交渉で合意に至らず、労働審判でも解決しない場合、労働者との裁判が行われます。裁判で未払いの割増賃金の支払いを請求されたら、企業側としては、以下のような点を検討しましょう。ただし、下記内容は、あくまでも検討すべき事項の一部です。

・割増賃金が消滅時効を迎えているか…労働者が請求した割増賃金がすでに消滅時効を迎えている場合、使用者に支払う義務はありません。

・就業規則等で残業を禁止しているか…企業側が残業を禁止しており、その管理が十分になされている場合は残業代の請求が認められません。(ただし、「残業禁止」が形骸化しているケース、禁止はしているが黙認していたケースでは、請求が認められる可能性が高いです)

・労働者が申告した労働時間に、きちんと業務が行われていたか…タイムカード等で勤務時間を証明するものがあっても、その時間中に業務を行っていなかった、業務と無関係なことをしていた等が判明すれば、割増賃金の支払い義務も発生しません

・当該労働者は管理監督者であるか…管理監督者は割増賃金の適用除外対象となりますので、そもそも割増賃金を支払う義務は発生しません。ただし、管理監督者と認定されるための要件は厳格なため、役職名だけでは管理監督者として認められません。

・固定残業代によって残業手当はすでに支払っているか…固定残業代とは、いわゆる「みなし残業代」と呼ばれる、毎月固定の残業手当です。これを支払っている場合、固定残業代に含まれると定めている時間外労働分については、新たな支払い義務は発生しません。

割増賃金請求の裁判と和解

会社側としても、当該労働者との紛争を白黒つけたいという希望から、是非裁判で判決まで戦ってほしいというご要望を受けることがあります。ただ、判決が常にベストな選択というわけではありません。判決が出るまでには相当な期間もかかり、費用も手間もかかります。また、仮に労働者側の訴えが全面的に認められてしまった場合、未払いの割増賃金に加えて遅延損害金、付加金を支払わなければいけないおそれもあります。裁判による判決は、労働者と合意できない場合の最終手段となります。裁判において企業側の主張が認められる算段が低く、判決になれば不利益が大きい場合は、交渉での合意や和解を検討するのもひとつの手です。

割増賃金と労働時間の区別

労働基準法では、原則、使用者は労働者を、1日8時間、1週間40時間を超えて労働させてはならないと定められています。労働させている時間とは、始業時刻から終業時刻までの拘束時間から、休憩時間を抜いた実労働時間を指します。これを超えて労働させると時間外手当、休日出勤の場合は休日手当、深夜労働の場合は深夜手当を割増賃金として支払わなければいけなくなります。

割増賃金に関する規定の適用除外

割増賃金に関する規定が、適用除外となる場合があります。

①農業(林業を除く)、畜産・養蚕・水産業の事業に従事する者
②事業の種類にかかわらず、「管理監督者」「機密事務取扱者」に当たる者
③監視、または断続的労働従事者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者

上記の労働者に関しては、一般の労働者と働き方が異なるため、労働基準法により「労働時間、休憩、及び休日」に関する規定が適用されないことになっています。ただし、深夜労働や有給休暇に関しては除外対象とはなっていませんので、留意が必要です。

詳細は以下のリンク先で解説していますので、ご参照ください。「割増賃金に関する規定の適用除外(サブフロント)」

割増賃金に関する規定の適用除外

割増賃金の消滅時効

権利を行使せずに放置すると、その権利が消滅してしまう制度のことを「消滅時効」といいます。債権には消滅時効があり、また、賃金は債権にあたるため、賃金を請求できる権利は永続的なものではありません。

これまでは、賃金の消滅時効は2年とされていましたが、令和2年4月の民法改正により、賃金の消滅時効は3年※と定められました(退職金は除く)。よって、定められた支払日から3年間請求がなければ、消滅時効を迎え、使用者の支払い義務もなくなります。

ただし、「時効の中断」という制度もあります。裁判上で未払い賃金を請求された場合、時効の進行は中断し、例えば支払日から2年半が経っていたとしても、それがゼロに戻りますので注意が必要です。

※令和2年4月の改正民法の施行により、当面のあいだ3年とされることが発表されました。今後、年数が変わる可能性があります。

遅延損害金と付加金

未払いの賃金には、本来支払われるべき日の翌日を起算日にして、遅延している期間の利息に相当する遅延損害金(年利6%)が発生します。通常の賃金のほか、退職金、賞与等に加えて割増賃金もこの対象となります。さらに、未払いの賃金等については、退職の日(支払日が退職日より後の場合には、支払日)までに支払われなかったものについては、年14.6%という重い利息が発生します(これには退職金は含まれません)。

また、使用者が解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇の賃金、そして割増賃金を支払わなかった場合、悪質と認められれば、制裁措置として未払い賃金と同額の「付加金」を支払わなければなりません。付加金は裁判において妥当と認められることで発生し、判決の翌日から年5%の利息が発生します。

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