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競業行為

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

競業行為とは、従業員が企業に在職中や辞めた後、営業秘密を他社に漏えいしたり、企業にとって重要な情報を持ち出して競業他社に再就職したり、競業会社を起業したりすることをいいます。取締役は会社法365条1項等を根拠とした競業避止義務を、一般従業員は労働契約に付随する誠実義務(労働契約法3条4項)として競業避止義務を負います。

また、競業に伴って従業員が引き抜かれることもあります。従業員の引き抜きは、事業活動に大きな支障をもたらすものです。悪質とみなされれば、損害賠償請求が認められることもあります。

ここでは、競業行為、及び従業員の引き抜き行為について詳しく解説します。

競業避止義務について

使用者としては、自社で蓄積してきた情報や技術、ノウハウを流出させたくないのは当然のことです。そこで、就業規則、あるいは個別の特約において、従業員に競業避止義務を課すことが考えられます。

競業避止義務とは、従業員の在職中、あるいは退職後に、その企業の事業と競合する行為をしないという義務のことをいいます。例えば、在職中に業務上知り得た情報を競業他社に流出させたり、単なる勧誘の域を超えて引き抜きを行ったり、退職した後に競業関係にある他社に再就職したり、競業企業を自分で新たに設立したりといったことを禁止します。

競業行為をめぐる紛争

競業行為とは、競業他社への転職、競業する企業の設立、他の従業員を大勢引き抜くこと、顧客を奪うこと、競業他社に企業秘密や顧客情報を漏えいすることなどをいいます。

これらの行為があまりに悪質であり、競業避止義務に違反すると認められた場合は、損害賠償の請求や差止請求が認められる可能性があります。また、懲戒処分等の対象にもなり得るため、退職金の不支給や減額、没収等がなされ得ます。

在職中と退職後の競業行為

在職中の主な競業行為は、勧誘行為の域を超えて同僚や部下を大量に引き連れて転職する、競業他社に情報を漏えいするというような行為です。

また、退職後の競業行為は、競業企業を興し前社の顧客を奪取する、営業秘密に値するようなノウハウや顧客情報を持ち出して流用する等があります。

競業避止義務違反の効果

競業避止義務違反が認められれば、使用者は従業員に対して、損害賠償請求、競業行為の差止請求が可能になります。また、就業規則での定めや個別の特約があれば、退職金の減額・不支給・没収、違約金請求等が認められる可能性があります。

退職金の減額・不支給

就業規則に懲戒処分事由として明記する、あるいは退職金支給規定に定めておくことで、競業避止義務に違反した場合は退職金を減額する、不支給にする等の処分を下せる場合があります。

差止請求について

就業規則や個別の特約で、競業避止義務に違反した場合に業務の差止めを定めている場合は、当該従業員の競業行為を差し止めることができる場合があります。

一方、競業避止義務が課されていない従業員が競業行為をしたとき、差止請求が認められるのは、違法性が著しく高い場合、また、損害賠償請求では使用者側の不利益をリカバーできないと判断された場合に限られるといえるでしょう。差止措置は重大な不利益を課すものですので、裁判所も慎重に判断する傾向にあります。差止請求が認められたとしても、従業員の職業選択の自由を鑑み、制限の範囲(期間・地域)を最小限に留めると思われます。

契約書・同意書の署名

競業避止義務を課す個別の契約書や同意書、誓約書には、従業員の署名が必要です。

しかし、従業員が署名を拒否した場合、使用者側として競業避止義務を強制的に負わせることはできません。その場合、後々トラブルとならないよう、従業員と個別に交渉しておくべきでしょう。例えば、競業避止義務を課す代わりに金銭的な補償をする、従業員が行おうとしている競業行為を開示してもらい、こちら側の利益を損なわないよう折衷案を提示する等です。

仮処分による差止請求

従業員に競業避止義務を課す合意書を交わしていても、従業員がそれに従わず競業行為をし、交渉による解決が図れなかった場合、仮処分による差止請求という手段があります。仮処分とは裁判よりも簡易なもので、裁判所により早期に“仮”の判断を下してもらうことができます。また、相手方を交渉の場に立たせ、裁判所が仲介役となることで、和解が成立する可能性も高くなります。

仮処分で下される決定はあくまでも“仮”のものですが、裁判よりも迅速であること、また、訴訟まで発展することなく相手方と和解できる可能性もあることから、有用であるといえます。

差止請求に関する裁判例

ここで、競業避止義務に関する、差止請求が認められなかった裁判例、認められた裁判例をそれぞれ紹介します。

差止請求が認められなかった裁判例

【知的財産高等裁判所 令和元年8月7日判決】

まつげエクステサロンを営む控訴人(一審では原告(使用者側))が、退職後に同じ市内で同業他店に就労した元従業員を、競業禁止の合意に反し、顧客情報を取得したことが不正競争行為に当たるとして、退職後2年間の同市内におけるアイリスト業務への従事の差止めを求めた事案です。控訴人は、被控訴人(一審では被告(従業員側))は人事情報を漏えいし「秘密情報」を利用したといえるので、被告が転職先で行ったサービス等は入社時合意に反するものであり、被控訴人の営業を差し止める必要があると主張しました。

裁判所は、退職者に対する競業制限は職業選択の自由や営業の自由を制限するものであり、合理的と認められる限り許されるべきであるが、本件の定めは無限定に就業制限を課するものであり、到底合理的とはいえないとして、就業規則および退職時合意を無効としました。また、被控訴人が転職後に行った宣伝等が秘密管理性を有するとはいえず、控訴人から顧客情報を入手した事実を認めるに足りる証拠はなく、秘密管理性を有する情報を利用した競業行為とはいえないとして、控訴人会社の差止請求を棄却しました。

差止請求が認められた裁判例

【東京地方裁判所 平成28年11月11日判決】

原告は、被告会社から、ウェブサイトを利用した中古ロリータファッション、ガーリーファッション衣類の売買を目的とする事業の譲渡を受けましたが、その後、被告会社は不正の競争の目的をもって同一の事業を行い、原告に損害を与えたと主張して、被告会社に対し事業の差止めを求めるとともに損害賠償を請求しました。

本事案では、本件譲渡契約は「事業」の譲渡契約か、競業避止義務を負わないとの黙示の合意があったか等が争点となりました。被告会社は、本件譲渡契約に当たり、ロリータファッションを取り扱うサイトに関する物品は引き渡すものの、ガーリーファッションを含むその他の物品は譲渡対象ではないので引き渡さない旨を説明し、了承を得ていたことから、被告が新たに立ち上げたウェブサイトを黙認していたのであり、被告会社は競業避止義務を負わないとの黙示の合意があったというべきだと主張しました。

裁判所は、本件で譲渡されたものは婦人用中古衣類の売買という一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産であり、「事業」を譲渡するものであったと判断しました。また、被告会社は譲渡契約による事業譲渡の後も、同契約の対象とされた事業と「同一の事業」を行っているものであり、原告の顧客を奪おうとする等、事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をしたものであることが明らかであり、「不正の競争の目的」があったものと認めました。一方、競業避止義務を負わないとの黙示の合意があったとは認められないとされ、被告会社は、原告に事業を譲渡したにもかかわらず、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ったものであるので、原告は被告会社に対し、その行為の一部差止めを求めることができると判断しました(なお、被告は控訴しましたが、控訴審においても原告の請求が認められています)。

競業避止義務違反の損賠賠償請求について

競業避止義務違反として従業員に損害賠償請求をする場合、使用者側に、競業避止義務違反による損害があったことを主張し、因果関係を証明しなければなりません。また、従業員の競業避止義務違反によってどれくらいの損害があったのか、具体的な逸失利益の金額を算出します。算出が難しい場合、合理的な推算により金額を求めます。

逸失利益が発生したと認められる期間は、例えば人材の引き抜きならば、欠けた人材分を補填するまでにかかった期間、顧客の流出ならば、使用者がその分の利益を回復するのにかかった期間がどの程度だったかが検討されることになります。

損害賠償請求に関する裁判例

ここで、競業避止義務違反による損害賠償請求が認められた裁判例を紹介します。

【東京地方裁判所 平成19年4月24日判決 ヤマダ電機事件】

<概要>

大手家電量販店チェーンである原告が、元従業員であった被告が退職に際して作成した誓約書に違反して同業他社に転職したと主張して、損害賠償を求めた訴訟です。

<内容>

被告は原告会社の役職者でしたが、退職する際、退職後には守秘義務を負う、情報記録媒体の持ち出しをしない、最低1年間は同業種に転職しない(以下、本件競業避止条項)、それに違反した場合は退職金を半額に減額するとともに直近の給与6ヶ月分に対し法的処置を講じられても意義を申し立てない等の旨の誓約書を提出しました。

その後、被告は人材派遣会社に登録し、株式会社Bに勤めた後、株式会社Cに入社しました。なお、B社はC社の子会社です。

主な争点は、被告が誓約書の本件競業避止条項に違反したかどうかと、本件競業避止条項の有効性です。

<裁判所の判断>

被告が入社したC社は全国的に家電量販店チェーンを展開する会社で、原告会社と直接競業するライバル関係にあり、競業避止条項にいう同業者に当たることは明らかであり、被告がC社に入社したことは本件競業避止条項に違反するとしました。

また、被告の転職先が原告会社のライバル会社であるC社であったこと、C社に入社すれば本件競業避止条項に違反することを認識しながら、派遣会社を通じてB社で稼働するという形式を装ったこと、在職中に転職先を確保していたこと、誓約書の作成時点で本件競業避止条項に違反する状態が生ずることを認識しながらそれを秘匿していたこと等から、被告の違反行為は軽微だとはいえないと判断しました。

本件競業避止条項の有効性に関しては、原告会社で店長等を歴任し、経営戦略等を知っていた原告が競合他社に入社すれば、その会社は当該従業員の知識・経験をいかして利益を得られる反面、原告会社は相対的に不利益を受けることが容易に予想されることから、被告のような地位にあった従業員に対して競業避止義務を課することは不合理ではないと判断しました。また、被告は誓約書の内容を理解したうえでその作成に応じたと認めることができ、自由意思が抑圧されていたわけではなく、本件競業避止条項が公序良俗に反し無効であるとの被告の主張を退けました。

その結果、被告には退職金の半額と給与1ヶ月分である143万2755円の違約金の支払いが命じられました。

引き抜き行為をめぐる紛争

人材の引き抜き行為に対しては、競業避止義務を負う特約を交わしていない場合でも、それがきわめて悪質である場合、損害賠償請求が認められる場合もあります。

例えば、在職中に内密に計画・準備をして同僚従業員を一気に引き抜きライバル社に転職させ、企業運営に重大な支障をきたした事案では、引き抜いた社員とライバル社に対して損害賠償請求が認められています(東京地方裁判所 平成3年2月25日判決 ラクソン事件)。

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