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懲戒処分の基準とは|7つの原則や該当する事由について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

使用者が、将来、労働者に対して懲戒処分を行おうと考える場合には、前もって、労働者が何をすれば使用者がどのような処分を行えるのかという点を、就業規則に、明確に規定しておく必要があります。そして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければ、懲戒処分は無効となります。

以下では、懲戒事由を定める意義と就業規則について確認したうえで、懲戒事由及び懲戒処分の種類について述べていきます。

懲戒処分とは

懲戒処分とは、労働者の企業秩序違反行為に対する制裁罰としての労働契約上の不利益措置です。

使用者が企業を存立させ、事業を円滑に運用するためには、企業秩序を維持する必要があります。そのため、使用者は、企業秩序を定立し維持する権限を持ち、労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって企業秩序を遵守する義務を負うと考えられています。

もっとも、使用者が企業秩序を定立しても、これに違反する労働者を規律できないとすると、企業秩序を維持することができなくなります。そこで、使用者は、懲戒処分を労働者に行うことにより、企業秩序を維持することとなります。

懲戒処分の基準となる就業規則

使用者は、就業規則に、懲戒事由及び懲戒処分を定める必要があります。
労働契約の内容となる就業規則に懲戒に関する定めがないときには、使用者は懲戒処分を行うことができません。これは、そもそも就業規則を作成していないときも同様です。就業規則に懲戒に関する規定がないまま懲戒処分を行うと、裁判等において、懲戒処分が無効とされてしまいます。

懲戒処分は、使用者にとっては企業秩序を維持するためには不可欠な制度ですが、労働者にとっては労働関係上の重大な不利益を受ける制度であるため、両者の利益を適切に調整するための労働契約法による規制が行われています。

懲戒処分の種類

懲戒処分の種類 解説
戒告 口頭で反省を促し、将来に向かって戒める。
譴責 書面で反省を促し、始末書等を提出させる。
減給 本来であれば支払われる賃金の一部を差し引く。
出勤停止 一定の期間の出勤を禁じて、その期間を無給とする。
降格 役職や階級等を引き下げる。
諭旨解雇 一定期間のうちに退職しなければ懲戒解雇とすることを伝えて退職させる。
懲戒解雇 従業員を制裁として解雇する。

上の表に、一般的に定められていることの多い懲戒処分と、その簡単な説明を記載しています。これらは、自由に行えるわけではなく、減給できる金額や出勤停止できる期間等について定めがあります。

各懲戒処分について、より詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

懲戒処分とは|種類や懲戒処分の行う際の手順について

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懲戒処分における7つのルール

懲戒処分の基準を明らかにするために、以下の7つのルールがあります。

  • 罪刑法定主義
  • 個人責任
  • 二重処分の禁止
  • 遡及処分の禁止
  • 平等取扱い
  • 適正手続き
  • 合理性・相当性

もし、懲戒処分にこれらのルールが適用されなければ、職権濫用や不公平な処分等により、恣意的な処分が行われることにつながり、従業員にとって不利益が生じるおそれがあります。そのため、懲戒処分は7つのルールを意識することが重要です。

それぞれのルールについて、以下で解説します。

罪刑法定主義

罪刑法定主義とは、刑法における考え方を流用したルールであり、懲戒処分を行うために、処分の対象となる行為や、処分の種類とその内容を事前に明らかにしておかなければならないという原則です。

懲戒処分の種類や要件、懲戒事由等を就業規則に明記する必要があるのは、このルールを守るためです。

個人責任

個人責任とは、処分の対象となる行為については、当該行為を行った者だけが責任を負うという趣旨であり、例えば、個人が行ったことに対して、同じ部署の全員に懲戒処分を適用する等の連帯責任を負わせることはできません。

責任のある上司等は、当該行為を防止すべき地位と責任があったという理由で、懲戒処分の対象とすることができますが(ただし、罪刑法定主義のルールに基づき、懲戒事由が定められていることは必要です。)、無関係な者に対して懲戒処分を適用することはできません。

二重処分の禁止

二重処分禁止とは、1回の問題行動等に対して懲戒処分を行った場合には、同一の行為について、懲戒処分をもう1回科すことはできないというルールです。

この原則により、既に懲戒処分を行った言動について、もう1回懲戒処分を行うことは認められません。

しかし、例えば、同一の従業員が無断欠勤を繰り返した場合に、何回も注意・指導して、戒告や譴責を行っても、処分後にさらに無断欠勤が行われた場合には、既に処分を受けている事情を考慮して、重い懲戒処分を与えることは可能です。

遡及処分の禁止

遡及処分の禁止とは、処分の対象となる行為を新しく定めた場合、その規定を設けた後の行為についてのみ適用するというルールです。

例えば、無断で副業することが懲戒処分の事由になっていなかった場合において、従業員が無断で副業していたことが明らかになったとしても、その後に懲戒事由として「無断での副業禁止」を定めて、これを根拠に懲戒処分を行うことはできません。

平等取扱い

平等取扱いとは、同じような非違行為については、同程度の懲戒処分を下さなければならないというルールです。平等取扱いを意識して、主観的な要素(人格的に嫌いだからなど)による公平性を排除して、考慮すべき事由を慎重に精査する必要があります。

例えば、1万円を横領した従業員(地位や在籍年数なども同等とします。)が2人いたときに、どちらも1万円を返却した場合には、片方を懲戒解雇処分として、もう片方を戒告処分にする等、明らかに平等ではない処分を行ってはなりません。

適正手続きの原則

適正手続きとは、事実関係を慎重に調べて、本人に弁明の機会や聴聞の機会を付与する等、本人の言い分を聴取することを含めた適正な手続きによって懲戒処分を下さなければならないという原則です。

例えば、セクハラやパワハラ等の申告があったときでも、もしかすると事実と相違するのではないかという観点からも会社としては慎重に調べる必要があります。事実であるかを調査しないまま、加害者とされる従業員に懲戒処分を行ってはいけません。

就業規則において、手続きを明記している場合(例えば、役員会で決議する、懲戒委員会を組織するなど)には、その手続きを遵守しなければならないというルールでもあります。

合理性・相当性

合理性・相当性とは、「客観的かつ合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要であるというルールであり、従業員の言動の経緯等に照らし合わせて、恣意的な処分や必要のない処分や重すぎる処分を行ってはならないという原則です。

例えば、電車やバス等が事故によって遅れた場合に、遅刻した従業員に重い懲戒処分を与えるのは一般的な感覚とは異なり、相当性を欠くといえます。このように、社会通念上相当とされない処分を行ってはなりません。

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懲戒処分に該当する事由

従業員が懲戒処分を受ける事由として、職務懈怠や業務命令違反等が挙げられます。
それぞれについて、以下で解説します。

職務懈怠

職務懈怠とは、無断欠勤、出勤不良、勤務成績不良、遅刻過多、職場離脱等をいいます。

もっとも、無断で欠勤したことによって常に懲戒処分を有効に行えるわけではなく、労働者に正当な理由がないか、使用者が配慮するべき事柄がないかに留意する必要があります。

過去には、精神的な不調で欠勤していた労働者が、有給休暇を消化した後、欠勤届を出さないまま欠勤を続けていた事案で、使用者が、精神科医による健康診断を実施し、その診断結果等に応じて休職等の措置を検討し、経過を見るなどの対応をとらなかったことは適切でなく、このような事情の下では、労働者の欠勤は、懲戒事由たる無断欠勤にはあたらないと判断されたことがあります(最高裁 平成24年4月27日第2小法廷判決、日本ヒューレット・パッカード事件)。

業務命令違反

業務命令違反とは、就業についての上司の指示・命令に違反すること等をいいます。
下記のような事項を考慮して、処分の有効性が判断されることになります。

  • 命令が有効か
  • 命令が重要か(その違背による企業秩序侵害の程度が重大か)
  • 命令に服しないことにつき止むを得ない事由が存在したか 等

※時間外労働命令、休日労働命令、出張命令、配転命令、出向命令

職務規律違反

職務規律違反とは、就業規則などに記載された職場規律に違反する行為をいいます。

過去には、女性従業員に対し、1年余りにわたり、露骨で卑猥な性的発言等を繰り返していた男性管理職に対する出勤停止処分及び降格処分は、女性が拒否の姿勢を明示していなかった事情等を踏まえても、懲戒権の濫用にはあたらないと判断されたことがあります(最高裁 平成27年2月26日第1小法廷判決、海遊館事件)。

経歴詐称

経歴詐称は、労働契約上の信義則違反であるとともに、労働者に対する全人格的判断を誤らせる結果、雇い入れ後の労働力の組織づけなど企業の秩序や運営に支障を生ぜしめるおそれがあることから、懲戒事由となりえます。

過去の事案では、最終学歴を実際よりも低く詐称することも懲戒事由に該当すると判断されたことがあります(東京高等裁判所 昭和56年11月25日判決、日本鋼管鶴見造船所諭旨解雇事件)。

企業外の行動

労働者の企業外の行動(会社の承諾を得ずに他社に雇われたり、自ら事業を営んだりすること等)についても、会社の利益を損なうことがあるため、懲戒処分の対象となりえます。

もっとも、労働者の私生活(プライバシー)や職業選択の自由の尊重の要請も働くため、懲戒事由該当性や懲戒処分の相当性はより厳格に判断されることになります。

過去には、深夜に及ぶ長時間の兼業等で労務提供に具体的に支障が生じる場合や、競合する会社へ就職又は自ら事業経営し所属企業への背信行為があると認められる場合に限定して、二重就職及び兼業が懲戒事由にあたると判断された事案があります(【東京地方裁判所 昭和57年11月19日決定、小川建設事件】【京都地方裁判所 平成24年7月13日判決、マンナ運輸事件】【東京地判 平2年3月23日、ナショナルシューズ事件】)。

犯罪行為

労働者による犯罪行為が、会社の名誉や信用を損なう場合に限り、懲戒処分の対象となりえますが、その判断は慎重になされる必要があります。

過去には、タイヤ製造・販売会社の従業員が深夜に酩酊して、他人の住居に侵入し2500円の罰金刑を受けたため、使用者が同人を懲戒解雇した事案で、会社の体面を著しく汚したとまではいえないため、懲戒事由にはあたらないとして、懲戒解雇を無効と判断されたものがあります(最高裁 昭和45年7月28日第3小法廷判決、横浜ゴム事件)。

企業内政治活動・組合活動

職場内でのビラ配布などの政治活動を禁止する規定に違反した場合に、懲戒処分をなしうるかという点について、過去に、就業規則に職場内での政治活動の禁止、ビラ配布の許可制を定めることは、企業秩序維持の見地から合理的な定めとして許されるとしつつ、形式的に同規定違反に当たる行為があったとしても、実質的に企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められる場合には、同規定違反は成立しないと判断された事案があります(最高裁 昭和52年12月13日第3小法廷判決、ベトナム反戦プレート闘争事件)。

施設管理に関する違反

職場の規律維持や公私混同の回避のため、従業員が会社の物品を私用で用いることが懲戒事由として禁止されることがあります。例えば、会社のパソコンを利用した私的メールの送受信があります。

もっとも、メールの内容が業務関連か私用かを明確に区別できない場合、禁止される「物品の私用」にあたらないと解されますし、私用メールの頻度、時間帯、他の従業員の利用実態、利用規則を整備して注意や警告を行ってきたかという使用者側の予防措置の有無、処分の重さ等を考慮して、懲戒処分は権利の濫用と判断されると考えられます(札幌地方裁判所 平成17年5月26日判決、全国建設工事業国民健康保険組合北海道東支部事件)。

懲戒処分の流れ

懲戒処分の流れは、一般的に、以下のようになっている場合が多いです。

  1. 従業員の問題行動等を認識する。
  2. 事実関係の調査を行う。
  3. 本人に弁明の機会を与える。
  4. 就業規則に定めた懲戒事由に該当するかを検討する。
  5. 過去の社内における処分や裁判例等を検討し、どの懲戒処分に該当するかを判断する。
  6. 懲戒処分を決定し、本人に通達する。

なお、就業規則等に、役員会で決議するとか超過委員会を組織するなどの懲戒処分の際の手続きを定めてある場合には、それに従って手続きを行う必要があります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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