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前借金

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

使用者が労働者に対して行う金銭の貸付についての法的規制は、以下のように整理できます。

貸付と労働契約とが密接に関連して、身体拘束を伴う場合には、当該貸付は「前借金」として、賃金との相殺が禁止されます(労働基準法17条)。一方、当該貸付と労働契約の関連性が小さく、当該貸付が労働者の身体拘束を伴うとはいえない場合には、当該貸付は「前借金」にはあたらず、労働基準法17条の相殺禁止の規制は及びません。

なお、不当な身体拘束を目的としてあえて貸し付けられた場合などには、公序良俗に反するものとして貸付自体が無効となる場合もあります。

では、労働者から金銭の貸付を頼まれた場合、企業はどう対応すべきでしょうか。また、どのようなケースで貸付が認められるのでしょうか。本記事で詳しく解説していきます。

前借金の定義

一般に、前借金とは、将来労働することを条件として、使用者が労働者に貸し出すお金のことを指します。

このような前借金があると、その後の給与で返済することを強く求められることにつながり、完済するまで退職しにくくなります。ただし、労基法17条の趣旨が、前借金を利用した不当な人身拘束の防止にあることから、労基法17条にいう「前借金」として相殺が禁止されるのは、このうち、金銭消費貸借と労働契約が密接に関連し、労働者の身体的拘束を伴うようなものに限定されると解されています。

なお、前借金は、労働契約の締結時だけでなく、雇用契約期間中に取り交わされることもあります。

 

前払いとの違い

前借金と混同されやすいのが、給与の「前払い」です。
前払いとは、すでに働いた分の賃金を給料日前に支払うことです。そして、給料日には、前払分を差し引いた金額を支給します。

前払いは、後で受け取るはずのお金を早くもらうだけなので、労働者に返済義務がないという点で前借金と大きく異なります。

また、前払いは使用者が任意で行うものなので、労働者から頼まれても基本的に応じる義務はありません。ただし、出産・病気・災害などの非常時については、例外的に事業主は前払いに応じることが義務付けられています(労働基準法25条)。

非常時の前払いルールについては、以下のページをご覧ください。

賃金の非常時払い

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前借金相殺の禁止

前借金については、後に支払うべき賃金と相殺することが禁止されています(労働基準法17条)。

具体的には、返済を終えるまで働き続けることを期待してお金を貸したとしても、労働者が働き続けている間は、貸した金銭(翌月分以降の給与から差し引くことを前提にした借金)について、使用者は、翌月分以降の給与から差し引くことは原則として許されません。

これに違反した場合、事業主は罰金・懲役などの罰則を受ける可能性があります。

ただし、これは労働者の身分を守るための規定であって、例えば、労働者の人的信用に基づき行う金銭の融通(例えば、母親の葬儀に参加するために交通費を貸し付けるなど)については、身体拘束の手段とならないことが明白であれば許容されており、一切の前借金が禁止されているわけではありません。

 

労働基準法17条の趣旨

前借金の相殺を禁止する目的は、以下にあるとされています。

前借金というお金の貸借関係労働関係のつながりを弱め、労働者に対する不当な人身拘束を防止すること

歴史的には、かつて横行していた芸娼妓契約などの“強制労働”や“人身売買”ともいえる悪習を打破するため設けられました。

「賃金全額払いの原則」との関係

ところで、貸付金が「前借金」にあたらない場合でも、賃金全額払いの原則は適用されます(労働基準法24条)。この原則は、使用者は労働者の賃金に一切手を付けず、その全額を支払わなければならないというものであり、所得税等の本人負担分など法令に別段の定めがあるもの以外については、原則として賃金から控除することを禁止するものです。

しかしながら、賃金全額払いの原則の例外として、「労使協定」が締結されている場合には、その控除が認められる場合があります。

では、「前借金」に該当しない貸付金の控除が認められるためには、いかなる要件が必要なのでしょうか。次の項目にて確認をしていきましょう。

賃金全額払いの詳細は、以下のページでご確認ください。

全額払いの原則

相殺が有効となる場合

まず、労働者に対する貸付金が「前借金」に当たらない場合には、労基法17条の相殺禁止の規制が及びません。

この点、相殺が禁止される「前借金」は、金銭消費貸借と労働契約が密接に関連し、労働者の身体的拘束を伴うようなものに限定されると解されています。
すなわち、貸付が労働者の身体的拘束を伴わない場合には、労基法17条の相殺禁止の規定の適用がありません。

この点、厚生労働省は、生活に必要な資金を貸し付ける場合、その貸付理由・金額・期間・利子の有無などを考慮し、身分の拘束にあたるかを判断するとしています(昭和63年3月14日基発150号)。

そして、「前借金」にあたらない場合でも、賃金から控除するには少なくとも労使協定の締結が必要となります(労基法24条)。

そして、労使協定の内容としては、会社からの貸付金が控除の対象となることを明確に定めておく必要があります。また、月々の返済額を特定しておくことが適切ですので、労働者の同意を得ておくことが望ましいでしょう。

お金を貸し付けて、賃金から控除したいときは、労使協定を締結したうえで、毎月の返済額(控除額)を明確に合意しておくことが重要です。

住宅建設資金の融資について

家を建てるための住宅建設資金を融資する場合、高額で返済期間も長くなるのが一般的です。そのため、毎月の給与から少しずつ回収したいと思われるかもしれません。

しかし、労働関係とは切り離して考える必要があります。したがって、お金が未完済であることを理由に、労働者を自社に拘束することは認められません。

ただし、労働者の申し出によって貸し付けたか否か、賃金から相殺しても労働者の生活に支障がないか否か、また返済前であっても退職の自由が保障されているか否か等の事情を考慮して、当該貸付が、労働の強制ないし身分的拘束の手段となるようなものでない場合には、相殺禁止規定は適用されず、労使協定の締結と労働者との合意があれば、給与から差し引くことが認められうると考えられています。

給与の差押えとその範囲

労使協定を締結して前借金の相殺が認められる場合でも、相殺額には上限があります。

法律上、たとえ差押えなどの強制的な手段による債権の回収においても、賃金(手取額)の4分の3は差押えが禁止されており、労働者に必ず支給しなければなりません(民事執行法152条)。差押えが禁止されている範囲で相殺も禁止されていますので、相殺による賃金からの控除についても、手取額の4分の1までしか控除することはできません(民法510条)。

なお、差押えや相殺禁止の範囲は、一部の例外的な債権(養育費など)を除き、退職金についても同様です。

もっとも、相殺禁止の範囲については、任意規定と考えられており、本人との真摯な合意があれば、手取額の4分の1を超えて控除することも可能です。ただし、本人との真摯な合意を明らかにするためには、同意内容はしっかり書面に残すことをおすすめします。

※手取額の4分の3が33万円を超える場合、給与の差押え禁止の範囲は33万円となります(退職金は適用対象外)。

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損害賠償請求権の相殺

労働者の行為によって損害を受けた場合、企業は労働者に損害賠償請求することができます。しかし、この損害賠償金についても、賃金と相殺することは禁止されるのが通例です。

この理由として、最高裁は、労働者の生活基盤となる賃金は確実に支給すべきであり、相殺はこの趣旨(賃金全額払いのルール)に反するためだとし、損害賠償金についても例外ではないと示しています(最高裁 昭和36年5月31日判決)。

前借金に関する罰則規定

労働基準法上の前借金の規定に違反した場合、以下の罰則を受ける可能性があります。

前借金の相殺禁止(17条)に違反した場合

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金(119条1号)

企業が一方的に不当な身体拘束を伴うような「前借金」と賃金を相殺した場合です。また、「経営が苦しいから」等の事情があっても違法となります。

ただし、相殺が禁止されるような「前借金」に該当しない場合に、労使協定又は労働者の同意に基づき賃金から控除するのであれば問題ありません。

強制労働の禁止(5条)に違反した場合

1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金(117条)

前借金の返済を理由に、強制労働させた場合です。例えば、「完済するまで退職させない」、「完済前に辞めれば損害賠償請求する」等と脅し、労働者の自由な退職を妨げる行為です。
この罰則は労働基準法の中で最も重く、適用されるのは強制労働のケースのみとされています。

 

なお、違反が発覚したとしても直ちに罰則を受けるとは限りません。まずは労働基準監督署から是正勧告を受け、これに従わない場合に罰則を受けるのが一般的でしょう。

この他、賃金全額払いの原則(24条)に違反した場合も罰則が科されます。
詳しくは以下のページをご覧ください。

賃金の支払いに関する労働基準法の定めについて
ちょこっと人事労務

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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