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休職期間中の取り扱いに関する社内規程について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

休職中の労働者には「会社の労働者」としての身分が保障されますが、実際には労働していない事実を考慮すると、休職の前後で待遇に違いが出てくるかと思います。では、具体的にどのような取扱いをされるのでしょうか?

使用者の皆様におかれましては、特に休職中の賃金の支払義務や公租公課の取扱い等に関心がおありかと思います。そこで、今回は、これらのポイントに焦点を当てながら、休職中の諸々の取扱いについて解説していきます。

休職期間中の取扱いに関する社内規定の必要性

「休職」は法令に基づく制度ではないため、当該制度を設けるかどうかは、会社の裁量によります。もっとも、休職に関して何かしらの定めをする場合は、労働契約の締結にあたって、労働者に「休職に関する事項」を明示しなければなりません(労基法15条1項、同法施行規則5条1項11号)。

具体的には、働くうえでのルールブックとして労働契約の内容にもなる就業規則や、労使間の取り決めである労働協約等で「休職に関する事項」について定め、労働契約の締結の際に、労働者に対して提示することになります。

この労働基準法15条1項に違反した場合には、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条1号)。また、制度の有無や運用が不明確であると、労働者とのトラブルにもなりかねないので、あらかじめ就業規則等で明確に定めておくことが重要です。

休職期間中の過ごし方の制約について

会社としては、休職期間中の労働者の過ごし方に関して、ある程度の制約を設けたいと考えられる場合もあるかと思います。特に、業務外の傷病による長期欠勤、つまり「私傷病休職」期間中である場合には、殊更に厳しい制約を課すことを考えられるかもしれません。

しかし、当然のことながら、労働者には私生活の自由があるため、休職中の過ごし方について、会社が厳しい制約を課すことはできません。

そうは言うものの、期間中に労働者が無制約に過ごしてしまっては、十分に心身を休めることができないおそれがあります。そして、休職の目的である職場復帰が遠ざかるばかりか、「ずる休み」であると他の労働者に誤解され、両者のモチベーションを低下させることにもなりかねません。

このような事態を避けるためにも、就業規則等に「休職中の過ごし方」について明確な基準を設けておき、休職前に、「休職の目的」とともに当該労働者と使用者間で十分に共有しておくことが必要でしょう。

休職期間中の賃金・賞与

休職期間中の賃金の支払義務

休職は法令に基づく制度ではないため、会社には、休職中の社員に賃金を支払う義務はありません。したがって、当該期間中に労働者に賃金を支払うかどうか、またその金額については、会社が自由に決めることができます。なお、休職制度を導入する場合、「休職に関する事項」について就業規則等に明記しなければならないので、賃金支払の有無やその金額、計算方法等については、あらかじめ定めておく必要があります。また、就業規則等に「賃金を支払う」と規定した場合には、会社は賃金の支払義務を負うことになるため、規定を設ける際には慎重に判断しましょう。

ただし、休職の要件を満たしていないにもかかわらず、会社が休職命令を発令した場合には、「会社の責に帰すべき事由による休業」となるので、平均賃金の6割以上の賃金を休業手当として支払わなければなりません(労基法26条)。

休職期間中の賃金請求権を認めた裁判例

ここで、休職命令が無効であるとして、休職を命じられた労働者に賃金請求権を認めた裁判例をご紹介します。

・東京高等裁判所 平成7年8月30日判決、富国生命保険(第1回、第2回休職命令)事件

事案の概要

Y(被告会社・控訴会社)が雇用するX(原告・被控訴人)に頚肩腕障害があることを理由に、合計1年6ヶ月間の休職を命じたことに対して、Xが、当該障害は通常勤務には支障のない程度にまで回復しており、就業規則に規定される休職事由には該当しないと反論し、休職命令の無効確認、未払賃金及び慰謝料の支払を求め提訴しました。第一審の判決でXの主張の多くが認められたためYが控訴した結果、本判決が下されました。

なお、今回は休職命令の無効確認及び未払賃金請求に焦点を当てて解説します。

裁判所の判断

1 休職事由の存否

まず、Yは、就業規則第48条1項5号(本人の帰責事由により業務上必要な資格を失う等、該当業務に従事させることが不適当と認めた場合)及び同項6号(その他前各号(病気休職等)に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合)に該当するとして、Xを休職処分にしたものと認められます。

しかしながら、Yの就業規則における休職制度全般の趣旨からすると、同項5号の休職事由は、労働者本人に何らかの帰責事由があり、業務に従事させることが不適当と認められるような事由を指すものと解されるところ、本件の場合、Xが頚肩腕障害に罹患したこと、治癒せず将来再燃、増悪する可能性があること等は、ただちにXの責に帰すべき事由によるものであるとまではいえないことは明らかです。そこで、裁判所は、同項6号の休職事由は存在しないとして、これを根拠とする休職命令には理由がなく効力は発生しないと判断しました。

次に、休職命令が休職者に具体的な不利益を与えるものであることを考慮すると、病気休職に準じるやむを得ない事由があるかどうかは厳格に解釈する必要があるため、Xの頚肩腕障害が同項1号(傷病欠勤)の場合と実質的に同視でき、通常勤務に支障を生じる程度のものである場合に、はじめて同項6号の休職事由があるというべきだと考えられます。しかし、諸々の事情を考慮しても、Xの頚肩腕障害がそこまで重度のものであるということはできません。そこで、裁判所は、同項1号に準ずる休職事由があるとは認められず、したがって同項6号の休職事由には該当しないと判断しました

また、YはXの頚肩腕障害を業務外および通勤災害以外の傷病として、Xの長期間の欠勤を傷病欠勤として取り扱っているところ、Xはこの長期間の傷病欠勤後、Yの承認の下に復職して約3ヶ月間の通常勤務を行っていた状況があります。したがって、業務外および通勤災害以外の傷病を理由とする休職を命じた時点では、当該休職を命じる前提となる傷病欠勤の存在はなくなっていたといえるため、裁判所は同項1号の休職事由も存在しないと判示しました

以上を理由に、裁判所は、Yの休職命令は、就業規則48条1項1号、5号、6号のいずれも根拠とすることができず無効であると結論しました。

2 賃金請求の可否

休職事由が存在せず、休職命令が無効である以上、YにはXに対して賃金を支払う義務があると考えられます。そこで、裁判所は、Yに対して、未払い分の賃金(362万8240円及び平成6年5月から8月にかけての4ヶ月分の賃金)の支払いを命じました。

休職期間中の賞与支給

賞与の支給も法律上の義務ではないため、休職中の賞与に関して、会社は支払義務を負いません。もっとも、就業規則等で賞与を支給する旨を定めることはできますし、その場合、会社は賞与の支給義務を負うことになります。

なお、休業中の労働者に賞与を支給する場合、支給額を決めるにあたって休職期間分を控除して計算したり、日割計算したりする等して、減額することも可能です。ただし、このように運用するのであれば、無用なトラブルを招かないためにも、支給する旨だけでなく計算方法に関しても就業規則等に明記しておくべきです。

休職期間中の社会保険料・住民税等

休職者から社会保険料を徴収する方法

休職中であっても、労働者が社会保険の被保険者であることに変わりはないので、社会保険料の支払義務は生じます。したがって、会社は、少なくとも会社自身の負担分については社会保険料を支払う必要があります。なお、休職中の保険料額は、休職前の標準報酬月額に基づいて計算されるため、休職の前後で金額が変わることはありません

社会保険料の労働者の負担分については、会社が毎月賃金から控除し、自身の負担分と併せて納付していましたが、休職中で賃金を支払う必要がない場合には、従前の方法をとることができません。したがって、社会保険料の労働者負担分の徴収方法について、あらかじめ就業規則等に明記しておくといったように、事前に労働者と取り決めておく必要があります。

一般的な徴収方法としては、次項以下のようなものが考えられます。

休職者から毎月送金してもらう

第一に、「休職中の労働者から毎月事前に送金してもらう」という方法が考えられます。

この方法をとる場合には、支払日や支払方法についても取り決めておく必要があります。なお、「半年ごとに振り込む」等、支払日の間隔を長期間に定めても制度上は問題ありませんが、会社と休職者双方の負担を考えると、毎月、長くとも3ヶ月ごと程度に、現金や振込みで支払うよう定めることをお勧めします。

毎月送金する旨で合意することで、会社側としては未徴収を回避できる可能性が高くなり、休職者側としては一括返済の負担を軽減できるといったメリットが得られます。

会社が一時的に立て替える

「会社が一時的に立て替え、復職後に支払ってもらう」といった方法も考えられます。

休職者に資力がない場合に有効な方法ですが、会社側にはメリットはほとんどありません。なぜなら、休職明けにそのまま退職し、未払いのままになってしまうケースや、復職したとしても、会社が立て替えた社会保険料の支払いを拒むケースが考えられ、未回収のままとなってしまうおそれが大きいからです。さらに、後者の場合に賃金から立替分を控除することは、事前に過半数組合又は過半数代表者との間で労使協定を締結していない限り、「賃金全額払いの原則」に反することになり、違法となってしまいます(労基法24条1項本文)。

また、未払いのまま退職した労働者と連絡が取れない場合には、身元保証人への請求や労働者本人の提訴を視野に入れなければなりませんし、連絡が取れた場合でも、支払ってもらうまでに煩雑な手続きが必要になる可能性もあります。未払い分の回収には多くの費用や労力がかかるため、できる限り立替払いを避ける方が賢明でしょう。

会社が傷病手当金から控除する

「傷病手当金から控除する」という方法もあります。これは、休職者に対して健康保険から支払われる「傷病手当金」を一旦会社が受領した後、社会保険料の労働者負担分を差し引いたうえで、労働者に支給する方法です。

事前に受取先を会社の口座にしておく等の手続きが必要ですが、未払い等のトラブル回避のためにも有効な方法です。

雇用保険料・所得税・住民税

社会保険料以外の公租公課についても気になるところです。

この点、“雇用保険料”と“所得税”は、賃金が発生した場合にのみ支払う義務が発生します。したがって、休職中無給であるならば、たとえ傷病手当金等を受け取っていたとしても、会社と労働者のどちらも雇用保険料や所得税を支払う必要はありません。

一方、“住民税”の支払義務は休職期間中にも発生しますが、会社が支払う必要はありません。なぜなら、一般的に、住民税は会社が賃金から天引きしていますが、これはあくまで事務の簡素化のためであって、会社は元々住民税を負担していないからです。したがって、休職中は、労働者は自身で住民税の支払手続きを行うことになります。

休職期間中の年次有給休暇

休職者は、年次有給休暇(以下、「有休」とします)を取得できません。なぜなら、有休は、労働者の疲労を回復して労働力を維持すること等を目的とする制度であり、“労働義務が課されている日“にその義務を免除するものであるからです。休職中は、有休の前提となる労働義務が課されている日がないため、有休の要件を満たしません。

有休について、詳しくは下記の記事をご覧ください。

労働基準法で定められる年次有給休暇の基礎知識

休職期間中の育児休業の取得

育児休業は、原則として1歳未満の子供を養育するために労働義務を免除する、法律で定められた制度です。労働者から当該制度の利用を申し出られた事業主(会社)は、育児休業を認めなければなりません(育児・介護休業法6条1項本文)。したがって、育児休業制度は休職制度に優先して適用されるので、私傷病による休職期間中であっても、育児休業を取得することができます。

育児休業については、下記の記事で説明しています。

育児休業について

休職期間中の病状等の報告義務

休職して病気療養に専念しているからといって、休職者との接触を過度に敬遠するべきではありません。会社の近況を伝える等十分な情報提供を行うことで、休職者の疎外感や孤独感を軽減できますし、復職できるかどうかといった休職中の不安を相談できる状況を作ったり、労働提供義務の免除措置を継続する必要性を会社が判断したりするためにも重要だといえるでしょう。

しかし、こうした取り組みの一環として休職者に報告義務を課してしまうと、休職者に大きな負担をかけることになってしまうため、できる限り負担とならない方法を模索することが大切です。

報告義務について、あらかじめ個別の労働契約や就業規則に定めておくことも有効ですが、その場合は、休職者の負担が最小限になるような定めとなるよう心がけましょう。

休職期間中の報告に関する取り決め

休職中の報告に関しては、事前に連絡方法やその頻度を取り決めておくと良いでしょう。連絡方法としては、タイミングによっては休職者の苦痛ともなりかねない電話ではなく、メールにすることをお勧めします。メールであれば休職者の体調の良い時に対応できるため、負担が軽くなりますし、文字として記録が残ります。頻度については、休職者の負担にならないラインを見極めることが大切です。一般的に、1ヶ月に1回程度であれば、合理的であるとして報告を求めることが認められると考えられます。

また、複数の人からの接触がストレスになる場合もあるため、連絡窓口は一本化すると良いでしょう。また、その際には、既に人間関係が構築されている直接の上司・部下・同僚を連絡担当者にするのではなく、離れた立場の労務担当者等を配置するべきです。

なお、たとえ善意であったとしても、過度な応援等、復職を過剰に迫る行為は違法とされるおそれがあるため、控える必要があります。

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