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フレックスタイム制における時間外労働の取り扱い

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

フレックスタイム制の導入により、労働者は自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるとともに、近年、働き方改革の一つとして是正が掲げられている“長時間労働”を予防することも可能です。

しかし、フレックスタイム制のもとで「時間外労働」が生じることがないのかといえば、そうではありません。

このページでは、フレックスタイム制における「時間外労働」について、中でも、「時間外労働のカウント方法」に焦点を当て、解説していきます。

フレックスタイム制における時間外労働

フレックスタイム制は、清算期間※1において定められた労働すべき時間※2の範囲内で、労働者の裁量よって日々の労働時間を決めることができる制度です。より柔軟な働き方を実現することを目的としています。

フレックスタイム制で働く労働者についても、時間外労働をさせるためには、通常の労働者と同じように36協定を締結する必要があります。ただし、フレックスタイム制の時間外労働は「1日」単位ではなく「清算期間」単位でカウントするため、36協定では「1日」あたりの延長時間を定める必要はありません。まずは、この点を押さえておきましょう。

※1 フレックスタイム制において労働者が労働すべき時間を定める期間)
※2 総労働時間

なお、フレックスタイム制の概要、制度導入のメリット・デメリット等について詳しく知りたい方は、以下のページをご参照ください。

フレックスタイム制の仕組み

フレックスタイム制の「総労働時間」の決め方

フレックスタイム制の総労働時間とは、清算期間において定められた「労働者が労働すべき時間」です。
総労働時間は法定労働時間を超えないように定める必要があります。そして、1週間の法定労働時間は、基本的に40時間を超えることができません。

以上のことから、総労働時間は7日につき40時間以下となり、1ヶ月の日数(28日~31日)によって上限時間が変動することになります。

具体的に説明すると、例えば1ヶ月が31日である月については「40÷7×31≒177.1」により、総労働時間の上限は177.1時間になります。また、1ヶ月が30日である月については「40÷7×30≒171.4」により、総労働時間の上限は171.4時間になります。

フレックスタイム制における時間外労働の取り扱い

フレックスタイム制における時間外労働は、清算期間が1ヶ月の場合と1ヶ月を超える場合について、分けて考える必要があります。

<清算期間1ヶ月の場合>
清算期間内の労働時間が総労働時間を超えていた場合に時間外労働となります。

<清算期間1ヶ月を超える場合>
1ヶ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えていた場合に時間外労働となります。
さらに、週平均50時間以上の労働時間を差し引いた清算期間内の労働時間が総労働時間を超えていた場合にも時間外労働となります。

清算期間が1ヶ月の場合

清算期間が1ヶ月の場合には、総労働時間を上回った労働時間が時間外労働となります。
総労働時間を法定労働時間と同じ時間に定めたケースにおいて、1ヶ月の労働時間が180時間であった場合の時間外労働時間は以下のようになります。

・1ヶ月が31日(総労働時間は177.1時間)であれば時間外労働は2.9時間
・1ヶ月が30日(総労働時間は171.4時間)であれば時間外労働は8.6時間

清算期間が1ヶ月を超える場合

清算期間が1ヶ月を超える場合には、特定の月において労働時間が法定労働時間を超えても、直ちに時間外労働にはなりません。ただし、特定の月の労働時間が週平均50時間を超えてはならないという規制があるため、これを超えると時間外労働になります。この規制は、繁忙期の労働時間が極端に長くなってしまうことを防ぐために設けられています。

したがって、以下の(ア)と(イ)が時間外労働としてカウントされます。

(ア)清算期間を1ヶ月ごとに区分した各期間において、週平均50時間を超えて労働させた時間
(イ)清算期間を通算した法定労働時間の総枠を超えて労働させた時間(※(ア)の時間は含めない)

清算期間が1ヶ月を超える場合の時間外労働の計算方法

では、清算期間を7月1日から9月30日までの3ヶ月間、実労働時間を7月【190時間】、8月【130時間】、9月【225時間】(※3ヶ月合計【545時間】)とした場合を例に、時間外労働の具体的な算定方法について順に確認していきましょう。

清算期間 実労働時間
7月 190時間
8月 130時間
9月 225時間
合計 545時間

1.フレックスタイム制の枠組みを把握

まずは、時間外労働のカウントの基礎となる、7月から9月までの3ヶ月間における①各月の週平均50時間の労働時間と②法定労働時間の総枠を把握します。

①は「50時間×(各月の日数÷7日)」で求めることができます。7月と8月の日数は31日、9月は30日であることから、各月ごとに週平均50時間となる月間の労働時間は、7月と8月は221.4時間、9月は214.2時間であることが分かります。

期間 週平均50時間となる労働時間数
7月 221.4時間
8月 221.4時間
9月 214.2時間

②は「1週の法定労働時間(40時間)×(7・8・9月の日数の合計(92日)÷7日)」で求めることができます。計算すると、法定労働時間の総枠は約525時間であることが分かります。

期間 法定労働時間の総枠
7月
8月
9月
合計 525時間

2.各月ごとに週平均50時間を超えた分が時間外労働

続いて、実労働時間と前項①の結果をもとに、各月ごとに週平均50時間を超えた分の時間外労働をカウントします(「フレックスタイム制における時間外労働の取り扱い」の「清算期間が1ヶ月を超える場合」で紹介した(ア)にあたります)。

期間 実労働時間 週平均50時間となる労働時間数 週平均50時間を超えた分の時間外労働
7月 190時間 221.4時間 0
8月 130時間 221.4時間 0
9月 225時間 214.2時間 10.8時間
合計 545時間 10.8時間

7月から9月までの実労働時間のうち、9月だけは週平均50時間となる労働時間数を上回ってしまっているため、「225-214.2=10.8」により、時間外労働は10.8時間となります。

3.法定労働時間の総枠を超えた分が時間外労働

さらに、実労働時間と「フレックスタイム制の枠組みを把握」の②の結果をもとに、清算期間内の労働時間が法定労働時間の総枠を超えた分の時間外労働をカウントします(「フレックスタイム制における時間外労働の取り扱い」の「清算期間が1ヶ月を超える場合」で紹介した(イ)にあたります)。

算定にあたって、前項で算出した時間外労働(10.8時間)は含めませんから、実労働時間の合計(545時間)から差し引きます。そして、法定労働時間の総枠である525時間を上回る部分を最終月の時間外労働としてカウントします。つまり、「545-10.8-525=9.2」により9月の時間外労働は9.2時間であることが分かります。

結果として、この例の場合には、「10.8+9.2=20」により20時間を9月の時間外労働としてカウントし、割増賃金を支払う必要があります。

フレックスタイム制の残業調整について

フレックスタイム制を導入している場合、残業代の発生については、法定労働時間を超えるか否かで判断されることとなります。

たとえ総労働時間を超えて労働させても、法定労働時間を超えていなければ残業代は発生しません。しかし、ひとたび法定労働時間を超えて労働させてしまうと、次の清算期間の労働時間を短縮して相殺することはできませんので、発生してしまった残業代は支払う必要があります。

フレックスタイム制における休日労働の取り扱い

フレックスタイム制においても、労働基準法35条の法定休日(週に1回あるいは4週を通じて4日の休日を与えなければならない)は適用されます。この法定休日に労働者を労働させた場合には、休日労働として35%以上の割合で算出した割増賃金を支払う必要があります。

これに対して、法定外休日に労働者を労働させた場合には、基本的に通常の労働時間として取り扱い、清算期間を通算した法定労働時間の総枠を超えているときには時間外労働として25%の割増賃金を支払うことになります。

フレックスタイム制における時間外労働の上限規制

フレックスタイム制における時間外労働についても、通常の場合と同じように、労働基準法36条4項、5項によって、以下のような「時間外労働の上限規制」の適用を受けます。

「時間外労働の上限規制」

・原則
月45時間以内
年360時間以内

・特別の事情がある場合(特別条項付き36協定が締結されている場合)
時間外労働が年720時間以内
時間外労働が月45時間を上回ることができるのは年6回まで
時間外労働+休日労働が単月100時間未満
時間外労働+休日労働が2ヶ月~6ヶ月の平均で80時間以内

フレックスタイム制における時間外労働が法令違反となるケース

フレックスタイム制における時間外労働の時間数が前項記載の上限を上回ると、法令違反となるケースがあります。考えられるケースとして、以下の3つを紹介します。

月45時間を超えた回数が年間で7回以上となった

月45時間を超える時間外労働をした月の回数が、年間で7回以上となった場合は法令違反となります。
例えば、36協定の対象を1月から12月までの1年間としたケースで、1・3・4・6・8・9・12月の時間外労働が45時間を超えてしまった場合には違法となってしまいます。

これは、時間外労働が起こり得る特別な事情について具体的に記載した「特別条項付き36協定」を結んでいても同様です。そして、他の月にはまったく残業をしていなかったとしても法令違反であることに変わりありません。

単月で合計100時間以上となった

時間外労働時間+休日労働時間は「単月100時間」未満を上限としており、特定の月に100時間以上に達してしまうと法令違反となります。
この規定は、清算期間を3ヶ月とするフレックスタイム制を導入する場合には特に注意が必要です。

例えば、清算期間が7月から9月の3ヶ月間で、実労働時間が7月は215時間、8月は205時間、9月は210時間であった場合、3ヶ月間の労働時間は「215+205+210=630」により630時間です。そして、時間外労働は「630-525.7=104.3」により104.3時間なので、100時間以上となってしまいます。

2ヶ月~6ヶ月平均のいずれかにおいて80時間を超えた

2ヶ月~6ヶ月の平均残業時間のいずれかが80時間を超えると法令違反となります。

例えば、7月から12月の各月につき、「時間外労働+休日労働」が7月は85時間、8月は70時間、9月は80時間、10月は85時間、11月は90時間、12月は85時間であった場合、7月から10月までの4ヶ月平均では「(85+70+80+85)÷4=80」により80時間を超えていません。しかし、7月から11月までの5ヶ月平均では「(85+70+80+85+90)÷5=82」により80時間を超えてしまうので、このケースは法令違反となります。

フレックスタイム制での労務管理の注意点

清算期間が1ヶ月を超えるフレックスタイム制では、通常の労働時間制度や清算期間を1ヶ月とするフレックスタイム制と異なり、原則として清算期間の最終月に時間外労働が把握されます。

ここで注意しなければならないのが、各月の週平均の労働時間のことだけを意識していると、清算期間の最終月の時間外労働が長時間に及んでしまうリスクがあることです。先を見越した労務管理が要されることとなります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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