有期労働の雇止め法理

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
有期労働契約は、定められた期間のみ労働する契約であるため、契約期間の満了によって契約終了となるのが原則です。しかし、自動的に有期雇用契約が繰り返し更新されているようなケースにおいて、契約が更新されると期待していた従業員にとって、契約が更新されないことは重大な不利益となりえます。
そこで、一定の条件を満たす場合には、「雇止め法理」によって雇止めを無効とすることがあります。
このページでは、雇止めに関するトラブルを未然に防ぐために、使用者が知っておくべき「雇止め法理」について解説します。
目次
雇止め法理とは
雇止め法理とは、有期雇用契約を、雇用契約期間が満了するタイミングで更新せずに打ち切る「雇止め」について、法律上の制限を課すルールのことをいいます。
このルールは、すべての有期労働契約が対象となるわけではなく、一定の条件を満たす有期労働契約を対象としています。使用者が一方的に契約の更新を拒絶することに対応して、労働者を保護するために定められています。
なお、有期契約労働の概要については以下のページで解説していますので、ぜひご参照ください。
対象となる有期労働契約
雇止め法理の対象となる有期労働契約は、労働契約法19条で、次のいずれかに該当するものとされています。
- ①過去に反復して更新されたことがある有期労働契約で、その雇止めが無期労働者を解雇することと社会通念上同視できると認められるもの(同条1号)
- ②労働者において当該有期労働契約の期間満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められるもの(同条2号)
そして、①②の有期雇用契約につき、以下のいずれかにに該当する場合は、使用者は、労働者による契約更新の申込を使用者が承諾したとみなされます。
- 契約期間が満了するまでに労働者が当該有期雇用契約の更新の申込をした場合
- 当該契約期間の満了後、遅滞なく有期労働契約締結の申込をした場合に、それを使用者が拒否することが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき
実質無期契約タイプ
期間の定めのない契約(無期労働契約)と実質的に異ならない契約になっている有期労働契約を「実質無期契約タイプ」と呼びます。
このタイプには、以下のような特徴があります。
- 業務内容が雇用側にとって恒常的であり、無期契約の労働者とほとんど変わらない職責にある
- 契約の更新手続が形骸化している
- 採用あるいは契約期間中に雇用の継続や無期契約への転換を期待させる使用者の言動がある
- 同様の地位にある労働者が過去に雇止めされた事例がほとんどない
「実質無期契約タイプ」の場合、裁判で争うと、雇止めが違法と判断されやすい傾向にあります。
期待保護(反復更新)タイプ
雇用継続への合理的な期待が認められる契約かつ、その理由として相当程度の反復更新の実態がある有期労働契約を「期待保護(反復更新)タイプ」と呼びます。
このタイプには、以下のような特徴があります。
- 業務内容が雇用側にとって恒常的なものであり、契約の更新回数が多い
- 契約の更新手続にあたって面談や書面作成など厳格な手続きがなされていない
- 採用あるいは契約期間中に雇用の継続や無期契約への転換を期待させる使用者の言動がある
- 同様の地位にある労働者が過去に雇止めされた事例が少ない
「期待保護(反復更新)タイプ」は、雇止めに対して一定の制約がかかる場合もありますが、使用者の経済的事由による雇止めは無期労働者と判断基準が異なるものとして判断され、雇止めが認められる例もあります。
期待保護(更新約束)タイプ
当初契約を締結した時の事情から、雇用を継続することに対して合理的期待が生じていると認められる有期労働契約を「期待保護(更新約束)タイプ」と呼びます。
特殊なタイプですが、更新回数は総じて少なく、契約締結の経緯といった事情により、雇用継続の合理的期待が当初契約を締結した時から生じていると認められる場合がこれにあたります。
この場合、契約締結時に特殊な事情が存在していたことを理由として、雇止めが認められない傾向にあります。
純粋有期タイプ
期間満了後も雇用関係が継続するものと期待することに合理性が認められない有期労働契約を「純粋有期タイプ」と呼びます。
このタイプには、以下のような特徴があります。
- 業務内容・契約上の地位が臨時的なものである
- 契約の更新手続が厳格である
- 使用者と労働者の双方が契約期間満了後に雇用関係の継続がないことを十分に認識している
- 同様の地位にある労働者が過去に雇止めされた事例が多い
「純粋有期タイプ」の場合、裁判例では原則どおり、契約期間の満了によって契約関係は適法に終了すると判断される傾向にあります。
雇止め手続きについて
雇止めをしようとする際には、トラブルを防止し、有期労働契約が使用者・労働者の双方にとって良好なものとなるよう定められた厚生労働省の基準に従うことが望ましいでしょう。
もちろん、有期労働契約は目的にかかわらず締結することが可能です。また、厚生労働省が示した手続きが行われなかったとしても、ただちに雇止めが無効になるわけではありません。
しかし、裁判等によって雇止めが無効とされてしまうと、損害賠償の支払い等を求められるおそれがあります。そのような事態を避けるための手続きについて、以下で解説します。
契約締結時の明示事項
有期労働契約を締結するとき、会社は、以下の事項を明示しなければなりません。
- 更新の有無
- 更新するか否かの判断基準
- その他の事項
なお、労働契約を締結するときに示された条件が、就業規則よりも不利な条件であった場合には、その条件は就業規則に定められた水準に修正されます。そのため、就業規則に「有期労働契約は更新を1回以上行う」と書いてあるときには、「更新を行わない」という契約は無効となり、1回は更新されることになります。
就業規則について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
有期労働契約締結時に明示するべき事項の詳細については、こちらの記事にもまとめてありますのでご覧ください。
雇止め予告
特定の条件を満たす有期労働契約で働く労働者を雇止めしようとするときには、少なくとも期間が満了する30日前までには予告をしなければなりません。ただし、契約を更新しないことがあらかじめ明示されている場合は、この限りではありません。
雇止めの予告をしなければならない有期労働契約は、以下のいずれかに該当する場合です。
- ①3回以上契約が更新されている場合
- ②1年以下の有期労働契約が更新され、最初に有期労働契約を結んでから継続して通算1年を超える場合
- ③1年を超える契約期間の労働契約を結んでいる場合
雇止め理由明示
使用者は、雇止めの予告をした後、労働者からその理由についての証明書を求められた場合には、遅滞なく交付しなければなりません。このとき、雇止めの理由は、契約期間の満了とは別の理由とする必要があります。
具体的には、以下のような理由が考えられます。
- 契約締結時から更新しないことが合意されていた
- 担当業務が終了した
- 無断欠勤が多く勤務態度が不良だった
契約期間についての配慮
使用者は、以下の2つの要件を満たす場合、契約の実態と労働者の希望に応じて契約期間をできるだけ長くする配慮が求められています。
- 契約を1回以上更新している
- 1年を越えて継続雇用している有期労働者との契約を更新する
なお、有期労働契約の期間の上限は通常の場合には3年(一定の事業を完了させる目的である場合や、高度の専門的知識等を活用する場合については5年)であり、下限は定められていませんが、不必要に短い期間にならないような配慮が必要となります。
有期労働契約の雇止めに関する判例
ここで、有期労働契約の雇止めが認められた判例、認められなかった判例をそれぞれ紹介します。
雇止めが認められた判例
【最高裁 昭和61年12月4日第1小法廷判決、日立メディコ事件】
- 事件の概要
本件は、工場に臨時員として雇用され、期間2ヶ月の労働契約が5回更新された労働者が、不況に伴う業務上の都合を理由に契約の更新を拒絶されたという事案です。
- 裁判所の判断
最高裁は、原告の業務は継続が期待される種類のものであり、現に原告との間で5回の契約更新がなされていたことから、解雇に対する規制と同様の判断枠組みにより判断すべきとしました。
しかし、裁判所は、臨時員が簡易な手続きで採用され、短期の有期労働契約を締結して雇用されていることから、無期労働者を解雇する場合とは合理的な差異があることを認めました。そして、問題となった工場において事業上をやむを得ない理由により人員削減をする必要があり、配置転換も困難である等の事情から、臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないと判断し、原告の訴えを退けました。
雇止めが認められなかった判例
【最高裁 昭和49年7月22日第1小法廷判決、東芝柳町工場事件】
- 事件の概要
本件は、期間2ヶ月の労働契約で臨時工として雇用された原告らが、それぞれ5回から23回の契約の更新がなされていたところ、会社が、不況に伴う業務上の都合を理由に雇止めの意思表示をした事案です。
- 裁判所の判断
最高裁は、以下の事情から、臨時工との契約は期間の定めのない契約と異ならない状態で存続していたと判断しました。
- ①臨時工の仕事が、無期労働契約の本工と仕事の種類・内容の点で差異がないこと。
- ②採用のときに、使用者側が長期継続雇用や本工への登用の可能性について期待させるような言動をしたこと。
- ③被告会社が、必ずしも期間満了の都度、ただちに更新の手続きを取っていたわけではないこと。
- ④過去に臨時工が2ヶ月の期間満了によって雇止めされた事例はないこと。
その上で、当該事例の臨時工の更新拒絶は、無期雇用労働者の解雇と同様に扱うべきであるとして、解雇事由に該当するような理由がない本件において、期間満了を理由として雇止めをすることは許されないと判断しました。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある