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病気による差別について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

病気は目に見えず、人々に多くの不安を与えます。「接触すると移るのではないか」「ウイルスが感染するのではないか」といった心配から、病気がある人をつい遠ざけてしまう方もいるでしょう。

しかし、このような行為は立派な「差別」にあたり得ます。雇用や採用の場面でも、さまざまな法律や指針で差別が禁じられているため、事業主は十分注意することが重要です。

本記事では、病気における差別の現状や、偏見や差別をなくすために事業主が知っておくべきポイント等を解説していきます。「無意識のうちに差別をしていた」という事態を防ぐため、しっかり確認しておきましょう。

難病等の病気と労働における差別について

難病とは、いわゆる難病法によって以下の①から③の全てを満たす疾病であると定義されています。

  • ①発病の機構が明らかでない疾病であること
  • ②治療方法が確立していない希少な疾病であること
  • ③当該疾病にかかることにより長期にわたり療養を必要とすることとなるもの

要するに、原因不明の希少な病気で長期間の療養を必要とするものです。いわゆる「不治の病」と呼ばれるものが想像しやすいかもしれません。

一方で、難病の要件に、“自立生活が送れない”“生命維持が難しい”といったことは含まれません。実際、医療の目覚ましい進歩により、難病を抱えながらも定期的な通院・服薬により問題なく日常生活を送れている人が多くなっています。

そのため、難病患者でも、健康管理上の理解や配慮次第で働くことは十分可能です。事業主は「難病だから働けない」という偏見を持たず、医師の意見や病状を踏まえ判断することが重要でしょう。

また、採用選考において、難病であることだけを理由に不採用・就労不可とすることは、“差別的取扱”にあたるため注意が必要です(詳しくは、〈障害者雇用促進用による差別の禁止〉の項目をご覧ください)。

難病と障害の関係

「障害」とは、“日常生活や社会生活において、継続的かつ相当な制限を伴う症状”をいい、その原因にかかわらず一定の基準を満たせば障害と認定されます。また、障害が認定されると“障害者手帳”が交付され、さまざまな支援を受けられる場合があります。

一方、「難病」とは、“障害の原因疾病のひとつ”とされています。例えば、パーキンソン病・クローン病といった難病は、肢体不自由・腸の機能障害といった障害を引き起こす原因疾病です。

難病の中には、症状の進行や悪化により障害者手帳が交付されるものもありますが、継続的な通院や服薬により症状が安定し、交付対象とならないことが一般的です。また、難病は、障害の原因疾病であって障害それ自体ではないと理解されてきました。このような背景事情により難病患者の保護に関する法整備が進まず、生活や雇用の場面で難病患者が不利益を受けることが問題視されてきました。

しかし、法整備が進むにつれ、難病患者を差別から保護するための制度が確立されてきています。この点、次項で詳しくみていきましょう。

なお、“障害者”を雇用する際のポイントは、以下のページで詳しく解説しています。

障害者雇用

障害者雇用促進法による差別の禁止

「障害者雇用促進法」では、障害者の差別禁止について定められています。また、事業主に対し、“障害者への合理的配慮の提供”も義務付けています。

さらに、同法は平成28年に改正され、障害者手帳の有無にかかわらず、長期的に職業生活を相当程度制限される“難病患者”についても、差別禁止や合理的配慮の提供義務が課されることになりました。

そのため、事業主は、難病を抱える労働者から環境の改善を求められた場合、過度な負担にならない範囲で配慮することが必要です。また、難病であることだけを理由に不採用・就労不可とすることは、合理的な理由のない“差別的取扱”として禁止されています。

なお、“障害者”の差別についてより詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

障害者の差別について

また、事業主に課される“合理的配慮の提供”については、以下のページで詳しく解説しています。

障害者雇用の合理的配慮

HIV/エイズと労働における差別について

「HIV」とは、“ヒト免疫不全ウイルス”の略称です。また、HIVによって発症する“後天性免疫不全症候群”という病気を「エイズ」といいます。エイズはかつて死の病と恐れられていましたが、医療の進歩により、適切な治療を早期に始めることで慢性疾患にまで抑えることが可能になりました。また、血液を介して感染するため、日常の職場生活でHIVに感染することはまずありません。

それでもエイズ患者への偏見は未だ根強く、採用選考や職場で差別を受けるケースも多いのが現状です。事業主は、エイズについて正しい知識を学び、労働者が偏見や恐怖を持たないよう教育する必要があります。また、エイズ患者が適性に応じた仕事を続けられるよう配慮することも重要です。

職場におけるエイズ問題に関するガイドライン

厚生労働省は、平成7年に「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」を発表しました。ガイドラインでは、職場におけるエイズ対策の基本的な考え方を提示し、職場でのエイズ問題に対する自主的な取り組みを促進しています。

また、事業主はこの内容を踏まえ、エイズ問題に関する方針を作成することが推奨されています。ガイドラインで言及されているのは、以下の項目についてです。

  • 労働者に対するエイズ教育
  • HIV検査
  • HIV感染の有無に関する秘密保持
  • 雇用管理
  • 感染予防策

例えば、「労働者の採用選考にあたり、HIV検査を実施しないこと」「HIVに感染していることだけを理由に、就業禁止や解雇の対象にしないこと」「HIVに感染していても健康状態が良好な場合、他の健康な労働者と同様の処遇にすること」等と定められています。

障害の認定について

エイズは、“身体障害者福祉法”における「内部障害」のひとつとして、障害者手帳の交付対象になる場合があります。これは、平成10年の法施行令改正により、内部障害の項目に「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害」が追加されたためです(同法施行令36条)。ただし、免疫機能障害に認定されるには“一定の条件”を満たす必要があるため、次項で詳しく解説します。

また、“障害者雇用促進法”における身体障害にも、「ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害」が含まれており(同法施行令27条)、障害者雇用率制度・障害者雇用納付金制度・助成金制度等さまざまな制度が適用される場合があります。

このように、エイズによる免疫機能障害を持つ患者の保護に関する法整備が進められています。

障害の認定基準

「ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害」に認定されるには、症状について一定の基準を満たす必要があります。また、症状の重さに応じて、以下のいずれかの障害程度等級が認定されます。

  • 1級:ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害のため、日常生活がほぼ不可能なもの
  • 2級:ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害のため、日常生活が極端に制限されるもの
  • 3級:ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害のため、日常生活が著しく制限されるもの。ただし、社会での日常生活活動が著しく制限されるものは除く。
  • 4級:ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害のため、社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

ウイルス性肝炎と労働における差別について

ウイルス性肝炎とは、肝臓が肝炎ウイルスに感染し、肝機能障害をもたらす病気のことです。母子感染や血液を介した感染、注射器の使い回し等が主な原因のため、職場や通常の業務において感染するとは考えられていません。

また、医療の進歩により、慢性的なウイルス性肝炎であっても、早期に発見し適切な治療をすることでウイルスの増殖を抑えたり、根絶したりすることも可能になりました。

しかし、“感染症”というイメージが強いことや、昔から存在する病気であることから、未だウイルス性肝炎の患者に対する差別は根深いといえます。仕事の場面においては、ウイルス性肝炎を理由に内定を取り消される、解雇されるといった差別が起こっています。

事業者は、ウイルス性肝炎の正しい知識を労働者に普及し、偏見や誤解をなくすよう努めることが求められます。また、ウイルス性肝炎を早期に発見できるような措置を施すことも重要でしょう。

ウイルス性肝炎に罹患している労働者への配慮等

厚生労働省は、ウイルス性肝炎への中長期的な対策の方針として、平成23年に「肝炎対策基本指針」を公示しました。

また、ウイルス性肝炎の感染経路について人々の理解が十分でないことや、肝炎患者への不当な差別があること、感染を自覚していない人が多いこと等も指摘し、事業主に対して「職域におけるウイルス性肝炎対策に関する協力の要請について」も発出しました。そこでは、肝炎患者を早期に発見し、安心して治療を受けさせるため、事業主に対してウイルス性肝炎への理解・対策を呼びかけています。

具体的には、「労働者に肝炎ウイルス検査の受診を呼びかけること」「検査の受診を希望する労働者や肝炎による入通院が必要な労働者に対し、特段の配慮をすること」「検査結果について、プライバシー保護に配慮すること」「肝炎患者が不当な差別を受けないよう、職場に正しい知識を普及すること」等を求めています。

障害の認定について

平成22年より、身体障害者福祉法における障害として、「肝臓機能障害」が追加されました(同法施行令36条)。これにより、一定の基準を満たし、肝臓機能に著しい低下がみられる人については、障害者手帳が交付されることになりました。

肝臓機能障害が認められた場合、症状の程度により1~4級いずれかの障害程度等級が認定されます。また、認定された等級により、以下のような措置の対象となる可能性があります。

  • 公職選挙法における不在者投票(1~3級のいずれかが認定された場合)
  • 障害者雇用促進法における障害者雇用率制度や障害者雇用納付金での特別措置(1~2級のいずれかが認定された場合、又は3級の障害を2つ以上有している場合)

障害の認定基準

「肝臓機能障害」に認定され、障害程度認定を受けるには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 1級:肝臓機能障害により、日常生活活動がほぼ不可能なもの
  • 2級:肝臓機能障害により、日常生活活動が極度に制限されるもの
  • 3級:肝臓機能障害により、日常生活活動が著しく制限されるもの。ただし、社会での日常生活活動が著しく制限されるものは除く。
  • 4級:肝臓機能障害により、社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

また、等級の判断においては、「肝臓機能障害の重症度分類」が用いられます。具体的には、この分類をもとに、患者の脳症の程度や血清の値から障害の重症度を決定し、重症度に応じた等級が認定されます。

採用選考時の病気の把握について

採用選考時、以下の事項は法的に可能です。

  • 応募者に病歴の申告を求めること
  • 応募者に健康診断を実施すること

労働安全衛生規則43条における雇入時の健康診断について、「採用選考時の実施を義務付けるものではなく、また、応募者の採否決定のために実施するものではない」と定められていますが(平成5年5月10日労働省職業安定局事務連絡「採用選考時の健康診断について」)、これは採用選考時の健康診断の実施を“禁止”するものではありません。また、採用の自由の一環として、採用選考時に健康診断を行うことは可能だと認めた裁判例もあります(東京地方裁判所 平成15年6月20日判決、B金融公庫(B型肝炎ウイルス感染検査)事件)。

ただし、業務と明らかに関係のない病歴を把握しようとすることは、就職差別にあたる可能性があるため注意が必要です。

採用選考時の健康診断

採用選考時に健康診断を実施する場合、以下の点に留意する必要があります。

  • 応募者の適性や能力を判断するため、合理的かつ客観的に必要といえる範囲で実施すること。
  • 応募者に対して健康診断の必要性や検査内容をしっかり説明し、本人の合意を得たうえで実施すること。

したがって、一律で血液検査や尿検査を実施したり、健康診断書の提出を求めたりした場合、応募者の適性や能力とは無関係な情報を把握することになり、就職差別にあたる可能性があります。

「健康診断を実施すべきかどうか」「どのような検査を行うべきか」については、募集職種や業務内容によって個別具体的に判断することが必要といえます。例えば、運転や配送業務の場合、安全運転に支障をきたすような発作の有無や症状の程度を確認することは、合理的な理由があるといえるでしょう。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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