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労働災害

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働災害(労災)は、どのような事業場でも起こり得るものです。また、労災保険への加入は、労働者を雇用しているすべての事業者に義務づけられており、これに違反したり、労災が起こった際に報告を怠ったりすると、刑事罰に処せられるおそれもありますので、労災についての正しい知識を備えておくことは非常に重要です。

ここでは、労災の定義に始まり、労災保険の概要や種類、労災が起きた際の対応など、労災の概要と基礎知識を解説します。

労働災害の定義

労働災害とは、労働者が業務に従事していたことによって負った、又は通勤途中に発生した、負傷、疾病、傷害、死亡のことをいいます。現在の労働基準法では、「第8章 災害補償」において、労働者が労働災害により負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合、使用者が補償を行うべきと定めています。

労災発生における企業の責任

労災発生時における企業の責任は、法令に定められています。

まず、労働安全衛生法3条1項では、事業者は労災発生防止の最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境を実現し、また、労働条件改善を通じ、労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないという安全配慮義務を定めています。

一方、労働基準法75条~85条では、労災が発生した際の、使用者による療養補償、休業補償、打切補償、障害補償、遺族補償、分割補償、葬祭料の支給を定めています。

事業者は労働安全衛生法に基づき安全衛生管理責任を負っており、法違反があった場合、労災発生如何にかかわらず、刑事責任を問われるおそれがあります。

また、労災が発生した際、労働基準法上の補償責任とは別途、不法行為や債務不履行(安全配慮義務違反)により、被災労働者や遺族から、民事上の責任を問われ損害賠償請求されるケースもあります(ただし、労働基準法上の補償がなされたときは、二重補填とならないよう、その価額分の民法上の損害賠償責任は免れると労働基準法で定められています)。

また、労災が発生したことを労働基準監督署に届け出なかったり、虚偽の申告をしたりすると、刑事罰に処せられる場合もありますので、注意が必要です。

なお、事業場における安全衛生は、以下のページで詳しく解説しています。ぜひご参照ください。

労働安全衛生法

労災発生時の対応と手続

事業場で労災が発生したら、事業者はまず被災労働者を医療機関に搬送する手続をとらなければなりません。その後、労災指定病院の場合は労災保険手続を、労災指定病院以外の場合は「療養補償給付たる費用請求書(様式第7号)」を作成し、労働基準監督署に提出します。さらに、労働者死傷病報告の届出など、さまざまな手続をしなければなりません。

労働災害の認定基準

労災の認定基準は、業務災害と通勤災害によって異なります。業務災害とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」(労災保険法7条1項1号)とされています。一方、通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」(同法7条1項3号)とされています。

職業性疾病の労災認定

労災保険による補償の対象となる疾病は、職業病リストで定められています。

職業病は業務の内容と密接に関連して生ずる疾病(例えば、寒冷地域での業務における凍傷や、重量物を扱う業務での腰痛、粉塵が飛散する場所での呼吸器疾患など)です。職業病リストは労働基準法施行規則別表第1の2において確認できます。

過労死・過労自殺の労災認定

近年、労働者の過労死・過労自殺という痛ましい事件が世間を騒がせ、問題となっています。

脳梗塞や心筋梗塞などの脳・心臓疾患は、基礎疾患や加齢などさまざまな要因が発症の原因となるため、容易には判断できません。脳・心臓疾患の発症が過労死とされるためには、発症前から長期間にわたって激しい疲労の蓄積があったか、又は近接した時期に特に過重な業務に就いていたことなどによって発症したことが明らかであると認められる必要があります。

過労自殺についても、それが精神障害による自殺の場合は、精神障害の発病の原因が業務に起因すると認められた場合、労災保険給付の対象となります。

労災保険給付について

労災保険給付制度とは、労災による負傷・疾病・障害・死亡に対して、迅速に労働者やその家族の生活を保護し、社会復帰を促進するために、政府から一定の補償を受けられるよう定めたものです。政府が保険者となり、事業者が保険加入者として保険料を納付する義務を負い、保険事故(労災)が発生した際、被災労働者や遺族に給付請求権が発生します。

その概要について、以下の項目で説明します。

労災保険を給付する目的

労災保険を給付する目的について、労働者災害補償保険法1条では、負傷・疾病・障害を負った労働者の社会復帰の促進、労働者やその遺族の救護、労働者の福祉の増進を挙げています。

労災が発生した際、労働者が使用者に対して民法上の責任を追及することは、不可能ではないものの、非常に困難です。そこで、1947年に制定された労働基準法と労災保険法によって、労働者の権利を保障するため、故意・過失の立証なしに迅速な保険金の給付を行うという現在の労災者補償制度が確立しました。

労災保険の加入義務

労災保険法は、公務員や、雇用者が5人未満の小規模な農林水産業などの個人経営事業を除く、労働者を使用するすべての事業に適用されます。したがって、原則として、期間の定めのない雇用者(いわゆる“正社員”)であるか、パートタイマー・アルバイト等であるかを問わず、労働者を1人でも雇用していれば、事業者には労災保険に加入する義務があります。

労災保険が適用される対象者

労災保険は、業種、業態、勤務形態に関係なく、使用者に使用され賃金を支払われる、あらゆる労働者を対象にしています。ここでいう「労働者」の概念は、労働基準法9条で定義されている「労働者」と同一であるとされています(最高裁 平成8年11月28日第一小法廷判決 横浜南労基署長(旭紙業)事件)。正規雇用や非正規雇用の区別なくパートタイマーやアルバイトにも適用されますし、また、外国人労働者にも同様に労災保険が適用されます。

特別加入制度の対象者

労災保険法は、使用者によって使用される労働者を主たる対象としたものですが、一般には労働者とみなされない、事業主、役員、フリーランスの労働者、海外企業への派遣労働者なども、一定の要件を充たせば加入を認めているのが特別加入制度です。

特別加入制度による労災認定は、労災の適用対象の範囲を、労働者に準じる業務をしていることに限定しており、実際の裁判ではその要件を充たしているかを非常に厳格に判断しています(最高裁 平成9年1月23日第一小法廷判決 姫路労基署長(井口重機)事件など)。したがって、事業主、役員、フリーランスの労働者等のすべての業務が保護対象となるわけではありません。

派遣労働者の適用

労災保険への加入は、労働者を1人でも雇用していれば、どのような雇用形態であろうとすべての事業者に義務づけられています。派遣労働者に関しては、派遣元会社が労災保険料を負担する義務を負っています。よって、派遣労働者が労災に遭った場合、派遣元会社に対して補償の請求がなされることになります。

労災保険の補償内容

労災保険の補償は、どのような給付を受けられるか、労災によって受けた被害の状況や内容によって定められています。労災認定を受けると、次のような補償がなされます。

  • ・療養補償給付……負傷や疾病に対する、治癒するまでの診察費・治療費です。ここでの「治癒」とは、治った場合だけでなく、症状固定(それ以上治療を続けても症状がよくならない状態)も含みますので、症状固定に至った場合、そこで給付は終了になります。
  • ・休業補償給付……負傷や疾病で労働できない場合、その休業中に平均賃金の100分の60が給付されます。
  • ・傷病補償年金……負傷や疾病が療養開始後1年6ヶ月経っても治っていない場合、または障害等級(労働者災害補償保険法施行規則別表第二)に定められた、身体に残った障害の程度を等級に分けたものに該当する場合、その程度に応じて給付されます。
  • ・遺族補償給付……業務上の死亡につき、遺族に対し、平均賃金の1000日分を補償するものです。ただし、受け取ることができる遺族は、配偶者(内縁関係者含む)、18歳の3月31日を迎えるまでの子、60歳以上の父母兄弟姉妹等、死亡者の収入により生計を維持していた者に限られます。なお、受け取ることができる遺族には順位があり、配偶者が第1順位、18歳の3月31日を迎えるまでの子が第2順位となっています。
  • ・介護補償給付……労災により、障害等級が1級又は2級の精神・神経障害及び胸腹部臓器障害が残り、常時介護が必要になったときに給付されます。ただし、病院又は診療所に入院・入所したりしている場合は、十分な介護のサービスを受けているとされ給付されません。
  • ・障害補償年金……負傷や疾病が症状固定に至った際、障害等級1級~7級に該当する障害が残った場合に給付されます。また、障害等級8級から14級に該当する障害が残った場合には一時金が給付されます。
  • ・葬祭料……業務上の死亡者の葬祭を行う際、葬祭を行う者に対して給付されます。給付の内容は、31万5000円に平均賃金の30日分を加えた金額で、この金額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、平均賃金の60日分が支給されます。

保険料の負担割合

労災保険の保険料は、事業者が全額負担するものであり、労働者側に負担はありません。保険料率は、過去3年間に起こった業務災害及び通勤災害の発生率などを考慮し、業種ごとに厚生労働大臣が定めることとなっています(労保徴12条2項)。一般に、労災が発生しやすい業種ほど保険料は高額になります。

事業者が労災保険の加入手続を行っていなかった場合に労災が発生すると、被災労働者に給付される保険の全額又は一部を負担することになりますので、労災保険への加入手続は忘れずに行うようにしましょう。

労災保険給付の請求時効

労災保険は、労働基準監督署に対して請求書を提出し、調査の後に労災と認定されれば保険料が給付される仕組みになっています。ただし、この請求には時効がありますので、注意が必要です。

療養補償給付のうち、療養の費用、休業補償給付、介護保障給付、葬祭料は請求に関する時効が2年と定められています。

また、障害補償給付、遺族補償給付は請求に関する時効が5年と定められています。

時効の起算日はそれぞれの給付によって異なりますので、こちらも注意が必要です。ただし、労働者が労働基準監督署に審査や仲裁を申し立てたとき、労働基準監督がその職権により審査や仲裁を行ったときには、裁判上の請求とみなされ、時効は中断されます。

労災休業中の解雇制限

労働基準法19条は、労働者が業務上の負傷又は疾病(=労災)の療養のための休業期間中、及びその期間終了後30日間は、原則、解雇することができないという解雇制限を定めています。ただし、これは業務災害(業務上の負傷、疾病)に限ったものであり、通勤災害(通勤による負傷、疾病)は例外となっています。

また、療養を開始した後、3年を経過しても治癒しない場合、平均賃金の1200日分を支払うことでその後の療養補償・休業補償を支払わなくてよいとされる「打切補償」を支払った場合も、この解雇制限の例外となります。

労災隠しの違法性について

労働者が業務上負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合、使用者は療養補償(労働基準法75条1項)等の補償をしなければなりません。労災保険給付が行われるべき場合には、療養補償等の補償の責任を免れます。しかし、労災隠しをすると、当該補償をするための保険給付を労働者が受けることができず、上記補償を怠ることにもなります。

また、事業場で労災が発生した際、事業者はその事実をすみやかに労働基準監督署に報告し、死傷病報告書を提出しなければなりません。報告を行わなければ「労災隠し」とみなされ、法違反として刑事責任を問われるおそれがあります。
「労災隠し」とみなされるのは、

  • ・報告自体をしなかった
  • ・すみやかな報告をしなかった(4日以上の休業又は死亡の場合は「遅滞なく」、4日未満の休業の場合は、災害発生が1月から3月の間の場合は4月末日まで、4月から6月の間の場合は7月末日まで、7月から9月の間の場合は10月末日まで、10月から12月の間の場合は翌年の1月末日までに報告をしなければなりません)
  • ・労働者に口止めをした
  • ・虚偽の内容を報告した
  • ・労災の治療をする際、被災労働者に健康保険証を使用させた
  • ・労災保険に加入していなかった

以上のような場合です。この「労災隠し」が発覚した場合、労働安全衛生法120条5条に、50万円以下の罰金に処すると定められています。また、事業者が警察から取調べを受けるおそれもあるほか、労災保険による適正な保険が支払われず、安全配慮義務違反を理由とする債務不履行責任の追及のため、被災労働者から民事訴訟を提訴されるおそれもあります。

事業場で労災が起こった際には、故意でなくとも「労災隠し」となってしまわないよう、注意が必要です。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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