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【高度プロフェッショナル制度】仕組みや注意点

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

働き方改革のなかでも、特に注目を集める労働基準法の改正点として、「高度プロフェッショナル制度の新設」が挙げられます。高度プロフェッショナル制度は、既存の働き方である裁量労働制と類似点もあるため混同されやすい面がありますが、特定の高度な専門業務に関する新たな働き方であり、まったく異なる制度です。

では、高度プロフェッショナル制度とはどのような仕組みの働き方であり、導入することで企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか?導入を検討されている方等、当該制度に興味をお持ちの方へ向けて、導入にあたって生じ得るデメリットと併せてご説明します。

高度プロフェッショナル制度とは

高度プロフェッショナル制度」とは、高度な専門知識を持ち一定水準以上の年収を得ている労働者について、労使委員会の決議及び労働者自身の同意に基づき、労働基準法の労働時間規制の対象から除外し、成果型労働制を適用する制度です(労基法41条の2第1項)。2019年4月に改正後の労働基準法が施行されたことにより、導入されました。

高度プロフェッショナル制度を利用する労働者が適用除外される労働時間規制とは、労働基準法が定める労働時間や休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定による規制です。ただし、適用除外とするためには、次のような措置を講じなければなりません(労基法41条の2第1項但書、同8号)(平成31年3月25日基発0325第1号参照)。

  • ・健康管理時間に応じた健康及び福祉を確保するための措置(健康・福祉確保措置)
    ※健康管理時間…当該制度を利用する労働者が事業場内にいた時間と事業場外で労働した時間の合計時間のことをいいます。
  • ・年間104日以上、かつ4週間を通じて4日以上の休日確保措置
  • ・労働時間に関連する選択的措置
  • ・苦情処理措置

対象業務

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務(以下、「対象業務」といいます)は、高度の専門知識等を必要とし、かつ性質上従事した時間と成果との関連性が高くないと認められる業務です(労基法41条の2第1項1号)。

具体的には、次に挙げる業務が該当します(労働基準法施行規則34条の2第3項)。ただし、使用者から当該業務に従事する時間について具体的な指示を受けており、従事する時間に関する労働者の裁量が事実上失われている場合は除きます(同括弧書き)。

  • 金融商品の開発業務:金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発業務
  • ディーリング業務:金融知識等を活用した自身の投資判断に基づく資産運用業務又は有価証券の売買その他の取引業務
  • 市場や株式等に関するアナリストの業務:有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づいて投資に関する助言を行う業務
  • コンサルタント業務:顧客の事業運営に関する重要事項の調査又は分析、及びこれに基づいて業務改革に関する提案又は助言をする業務
  • 研究開発業務:新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務

対象労働者

高度プロフェッショナル制度を利用できるのは、“通常業務として対象業務に従事している”、下記①②の要件を満たす労働者に限られます(労基法41条の2第1項2号)。なお、対象業務以外の業務も通常業務としている場合や、労働者が18歳未満である場合には、当該制度の対象とならないため注意しましょう。

【高度プロフェッショナル制度の対象労働者の要件】

  • 使用者との合意に基づき、職務が明確に定められていること
  • 使用者から支払われると見込まれる年間の賃金額が1075万円以上であること
    ※基準年間平均給与額の3倍を相当程度上回る水準として、厚生労働省令で定める額(労基則34条の2第6項)

裁量労働制との違い

高度プロフェッショナル制度は、労働の質や成果によって賃金報酬の額が決定する点で、「裁量労働制」と共通するため、誤解を招きやすいところがあります。

しかし、対象業務や対象者の年収、労働時間の取り扱い、時間外労働等に対する割増賃金の有無といった点に着目すると、それぞれの違いがみえてきます。相違点について下表にまとめたので、ご覧ください。

裁量労働制との違い
裁量労働制との違い

創設の目的や背景

他の先進国と比較して、日本における労働者1人当たりの労働時間はかなり長く、労働生産性も低いのが現状です。そこで、すべての労働者に一律に労働時間制度を適用するのではなく、労働者が自身の状況に応じたより柔軟な働き方を選択できるようにして、労働生産性を向上させようとする機運が高まってきました。

高度プロフェッショナル制度を導入すれば、対象となる労働者は、特に労働時間に関して柔軟に働けるようになり、労働生産性の向上が期待できます。さらに、在宅勤務やテレワークといった、職場以外でも働けるワークスタイルにも適合するため、ワーク・ライフ・バランスの実現にも近づきます。

こうした社会的な需要の高まりと、制度を導入することで得られるメリットを考慮して、高度プロフェッショナル制度が創設されました。

医師による面接指導の義務づけ

事業者(使用者)は、労働者に対して安全配慮義務等を負っています。そのため、長時間労働により健康障害を発生させるリスクが高まった労働者について、健康状態を把握したうえで指導するとともに、結果に応じた措置を講じなければなりません。特に、労働基準法上の労働時間の規制を受けない高度プロフェッショナル制度では、長時間労働が常態化するおそれが大きいため、医師による面接指導を義務づける必要性が高いといえます。

そのため、事業者には、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えており、超過時間が月100時間を超えた高度プロフェッショナル制度適用者に対して、医師による面接指導等を実施することが義務づけられています(労安衛法66条の8の4、労安衛則52条の7の4)。なお、上記の基準を超えないものの、医師による面接を希望した高度プロフェッショナル制度適用者に対しては、当該指導を実施するよう努めることになります。

導入にあたっての要件と流れ

高度プロフェッショナル制度を導入するための要件や、導入する際の流れについては、下記の記事で説明しています。ぜひ併せてご確認ください。

高度プロフェッショナル制度の導入要件について
高度プロフェッショナル制度の導入手続きについて

高度プロフェッショナル制度のメリット

労働生産性の向上

日本の一般的な労働制度では、時間外労働(残業)をすればするほど賃金を多く受け取れることになるため、仕事の早い人より遅い人の方が高収入になってしまうという不公平なケースが発生するおそれがあります。

しかし、高度プロフェッショナル制度では、働いた時間ではなく業務の成果によって賃金報酬が決定するため、働いた時間に応じて賃金が決定するシステムと比較して、適正に成果を評価することができます。したがって、成果を出せば出すほど賃金報酬が増えるため、モチベーションが上がり、労働生産性の向上につながることが期待されます。

無駄な残業代を削減

高度プロフェッショナル制度の適用者には、労働基準法上の労働時間に関する規定が適用されないため、使用者は、時間外労働(残業)に対して賃金を支払う必要がありません。また、労働者としても、時間外手当(残業代)が出ず、就労時間を自身の裁量でコントロールできるとなれば、業務の効率化を図るようになると考えられます。その結果、無駄な残業自体が減るとともに、残業代というコストの削減ができることになります。

ワーク・ライフ・バランスが実現し、人材確保が容易に

高度プロフェッショナル制度の下では、労働者は働く時間を自身で調整することができるので、私生活と仕事のバランスをとりやすくなります。また、テレワークや在宅勤務といった、就労場所にとらわれない働き方とも組み合わせられるので、育児や介護との両立もしやすくなり、ワーク・ライフ・バランスの実現につながります。

ワーク・ライフ・バランスを実現できる職場は労働者にとって魅力的であるため、高度プロフェッショナル制度を導入することで、優秀な人材の確保・定着が可能になるというメリットを得られます。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

業種によっては残業が横行するおそれ

高度プロフェッショナル制度の適用者は、労働基準法の労働時間に関する規制の対象外となるため、1日当たりの労働時間の規制も撤廃されます。ですから、「残業代ゼロ法案」と揶揄されたとおり、制度適用者がどれだけ時間外労働(残業)に当たる労働をしても、使用者は時間外手当(残業代)を支払う必要はありません。その結果、残業代を支払いたくない使用者が、労働者に高度プロフェッショナル制度の適用を強いるおそれがあります。

また、当該制度では、健康確保措置のひとつであるインターバル措置によって24時間労働は禁止されていますが、労働者が自身の裁量のもと、成果の追求のために無茶な働き方をするのを防ぐことは難しいという問題があります。そのため、表面化しない長時間労働の温床となりかねません。

労働者の健康不安

高度プロフェッショナル制度では、成果に応じた賃金が支払われるため、成果を追求するあまりに自身を追い込み、結果として健康を損なってしまう労働者が発生するおそれがあります。特にうつ病等のメンタルヘルスの不調は、労働者の度重なる休職や過労死といった問題を招きやすいため、労働者の健康面でのケアが大きな課題となります。

成果の評価が難しい

対象業務の専門性の高さゆえに、「成果」の基準と、成果に見合う賃金の設定が難しいという問題もあります。

適切でない賃金設定の下では、アナリストや研究職といった短時間では成果が出ない業種や、かけた時間に見合う成果を挙げられなかったケースでは、労働者が十分な賃金を得られないおそれがあります。このような問題を放置しておけば、優秀な人材の流出を招いてしまうでしょう。

高度プロフェッショナル制度の導入に伴う労務管理の注意点

高度プロフェッショナル制度は、労使に対して多くのメリットをもたらしますが、デメリットもある制度です。そこで、導入にあたっては、①長時間労働の防止措置②成果に関する適切な評価基準の設定等について入念に検討する必要があります。

そして、制度導入後も、長時間労働の傾向がみられる労働者に対して指導・勧告を行う、健康障害を未然に防ぐために定期的な面談の機会を設ける等、労務管理に注意しなければなりません。また、成果に関して適切に評価できているか、随時労働市場の動向を観察したり、労働者からの苦情を受け付けたりすることも重要でしょう。

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