人事・労務・労働問題を法律事務所へ相談するなら会社側・経営者側専門の弁護士法人ALGへ

ストレスチェック

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

近年、仕事に関して強い不安、悩み又はストレスを感じている労働者が増え、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者が増加する傾向にあります。そのため、労働者のメンタルヘルスの不調を未然に防止することが重要な課題となってきました。

このような背景を踏まえ、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)及びその結果に基づく面接指導の実施等を内容としたストレスチェック制度が設けられました。

ストレスチェック制度導入の目的

ストレスチェック制度は、労働者が仕事によりどの程度ストレスを負っているのかを測定し、その結果を見た労働者自身が、日々の仕事の中でストレスを蓄積していることに気づく契機を設けるとともに、その結果を知った事業者が、職場の環境を改善しなければいけないという意識を持ち、労働者の働きやすい職場づくりを進めることによって、労働者が実際にメンタルヘルスの不調に陥ることを未然に防止すること(一次予防)を主な目的とする制度です。

ストレスチェック実施義務の対象

衛生管理者や産業医の選任義務と同様、常時50人以上の労働者を使用する事業場にストレスチェック制度の実施義務があります。この場合の「労働者」には、パートタイム労働者や派遣先の派遣労働者も含まれます。また、それ以外の事業場(常時50人未満の労働者を使用する事業場)によるストレスチェック制度の実施は、当分の間、努力義務とされています。

なお、ストレスチェックの対象者となる「常時使用する労働者」とは、次の2つの要件をいずれも満たす者をいいます。

  1. 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること
  2. その者の1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の、1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること

制度導入にむけた社内規定の整備

事業者は、衛生委員会で、以下の各事項を準備して実施していくことになります。

  1. ストレスチェック制度の目的に係る周知方法
  2. ストレスチェック制度の実施体制
  3. ストレスチェック制度の実施方法
  4. ストレスチェック結果に基づく集団ごとの集計・分析の方法
  5. ストレスチェック受検の有無の情報の取扱い
  6. ストレスチェック結果の記録の保存方法
  7. ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析の結果の利用目的及び利用方法
  8. ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析に関する情報の開示、訂正、追加及び削除の方法
  9. ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析に関する情報の取扱いに関する苦情の処理方法
  10. 労働者がストレスチェックを受けないことを選択できること
  11. 労働者に対する不利益な取扱いの防止等について調査審議者は、ストレスチェック制度の実施に関する社内規定を作成する。

これらの内容を踏まえたストレスチェックの実施の趣旨・社内規程を労働者に周知します。事業者は、単にストレスチェック制度の導入を表明するだけでなく、労働者のストレスチェック制度に対する理解を促すことが重要となります。

ストレスチェック実施の流れ

質問票の配布と回収

まず、事業者が、実施者の提案や助言、衛生委員会の調査審議を経て、ストレスチェックの調査票の内容を決定します。

質問票の質問項目には、以下の3項目を必ず含めておかなければなりません。

  1. 仕事のストレス要因(職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目)
  2. 心身のストレス反応(心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目)
  3. 周囲のサポート(職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目)

次に、ストレスチェック調査票を対象労働者に記入してもらいます。調査票の用紙を配布し記入してもらう方法と、社内のイントラネット等ICT を利用して回答を入力してもらう方法が選択できます。

ストレス程度の評価と通知

事業者が、実施者の提案・助言、衛生委員会における調査審議を経て、ストレスチェック結果の評価方法及び基準を決定し、実施者が、個々人の結果の評価を行います。実施者は、ストレスチェックの結果を遅滞なく労働者本人に通知します。

労働者本人のストレスへの気づきを促すという観点から、事業者が、ストレスチェックに基づくストレスの程度の評価を実施者に行わせるに当たっては、点数化した評価結果を数値で示すだけでなく、ストレスの状況をレーダーチャート等の図表で分かりやすく示す方法により行わせることが望ましいと考えられます。

結果の保管

事業者は、原則として、検査を行った医師等による当該検査の結果の記録の作成の事務及び当該検査の実施の事務に従事した者による当該記録の保存の事務が適切に行われるよう、必要な措置を講じなければなりません。

また、事業者は、書面又は電磁的記録で労働者の同意を取得した上で、実施者から提供されたストレスチェックの結果の記録を作成し、5年間保存しなければなりません。

事業者は、事業場の衛生委員会等で調査審議した上で、保存方法及び保存場所等を決定し、それに基づいて事業者が管理する事業場内の保管場所(結果が紙の場合)、企業内ネットワークのサーバー内(結果がシステム上のデータの場合)、委託先である外部機関の保管場所等で保管することができます。ただし、当該実施事務従事者が責任をもってセキュリティの管理を行い、個人のストレスチェック結果が事業者を含めた第三者に見られないよう厳密に管理をすることが必要です。

ストレスチェック結果による個別措置

面接指導の実施

まず事業者は、ストレスチェックの結果を労働者に提出させるか、面接指導の対象となる労働者の要件に該当するかどうかを実施者に確認するかで、面接指導の申出をした労働者が、高ストレス者であるか等、面接指導の対象者となるかどうかを確認します。

次に、対象者に対して、医師が面接指導を行います。医師は、<4-1 質問票の配布と回収>で記載したストレスチェック3項目に加えて、①当該労働者の勤務の状況、②心理的な負担の状況、③その他心身の状況の確認を行った上で、保健指導及び受診指導等の医学上の指導を行います。

就業上の措置

労働安全衛生法66条の10の6項によりますと、事業者は、面接指導を行った医師の意見を勘案し、必要があると認めるとき、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければなりません。

その際、事業者は、あらかじめ、当該労働者の意見を聴き、十分な話し合いを通じてその労働者の了解が得られるよう努めるとともに、労働者に対する不利益な取扱いにつながらないように留意しなければなりません。

また、就業上の措置の実施に当たっては、特に労働者の勤務する職場の管理監督者の理解を得ることが不可欠ですので、事業者は、労働者のプライバシーに配慮しつつ、当該管理監督者に対し、就業上の措置の目的及び内容等について理解が得られるよう必要な説明を行うことが適当であると考えられます。

集団分析に基づく職場環境改善の努力義務

労働安全衛生規則52条の14によりますと、事業者は、ストレスチェックを行った場合、実施した医師等に、職場や部署単位で、ストレスチェックの結果を集計・分析させ、必要に応じて、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければなりません。

ストレスチェックの結果を分析することで、高ストレスの労働者が多い部署が明らかになると考えられますので、その部署の業務内容や労働時間等他の情報を改めて分析し、その結果(例えば、事業場や部署として仕事の量的・質的負担が大きい、周囲からの社会的支援が低い、職場の健康リスクが高い等)に応じて、職場環境等を改善していくことが望ましいと考えられます。

ストレスチェック制度における罰則

未実施・未報告による罰則

労働安全衛生法は、事業主がストレスチェックを実施しなかった場合に、事業主に対して罰則を科すことを予定していません。

もっとも、労働基準監督署長は、事業者に対し、必要な事項を報告させることができ(労安衛法100条1項)、常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、定期に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等の報告書」を所轄労働基準監督署に提出する必要があります(安衛則52条の21)。

そして、労働安全衛生法100条1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告等をした者は、50万円以下の罰則に処されることになります(労安衛法120条5号)。

以上より、常時50人以上の労働者を使用する事業者が、上記報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合には、50万円以下の罰則に処されることになります。

安全配慮義務違反を問われる

事業者は、労働者との間で雇用契約を締結している限り、労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負担しています(労契法5条)。

事業者が、ストレスチェック体制を設けなかったり、ストレスチェックの結果を十分に活用しなかったりしたことで、労働環境を改善せず、労働者の健康を危険から保護する義務を怠ったと認められる場合には、労働者に対して損害賠償責任を負うおそれがあります。

ストレスチェック実施に当たっての留意点

守秘義務の発生

一般的に、医師、保健師及び看護師並びに精神保健福祉士は、業務上知り得た人の秘密をもらしてはならず、漏らした場合には一定の制裁が科されます(刑法134条、保助看法42条の2及び42条の3、PSW法第40条及び44条)。

さらに、ストレスチェック及び面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならず(労安衛法104条)、これに違反した場合には6ヶ月月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられることになります(労安衛法119条)。

プライバシーの保護

まず、事業者が、ストレスチェック制度に関する労働者の秘密を不正に入手してはならず、労働者の個別の同意を得た上で、ストレスチェックの結果を取得しなければなりません。

次に、事業者は、労働者の秘密を外部に漏洩しないように配慮する必要があります。例えば、①記入し終えた調査票が周囲の目に触れないよう、封筒に入れてもらうこと、②ICT を利用してストレスチェックを実施するに先立ち、個人情報の保護や改ざんの防止のための仕組み(システムへのログインパスワードの管理やキャビネット等の鍵の管理等)を整えておくこと、及び③事業者に提供されたストレスチェック結果や面接指導結果等の個人情報を適切に管理し、社内で共有する場合にも必要最小限の範囲にとどめること等が考えられます。

不利益取扱いの防止

労働者がストレスチェックを受けない、事業者へのストレスチェック結果の開示に同意しない、医師による面接指導の申出を行わないといったことを理由に、事業者が労働者に対して不利益な扱いを行うことや、ストレスチェック、面接指導の結果を理由に、解雇、雇止め、退職勧奨、あるいは不当な動機や目的による配置転換、職位の変更を行うことは禁止されています。

労働法務記事検索

労働分野のコラム・ニューズレター・基礎知識について、こちらから検索することができます