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出向とは|出向中の労働条件と復帰について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

出向は人事異動のひとつですが、他社への異動になるため、労働者の勤務先や就労環境が大きく変わるのが特徴です。新型コロナウイルスが拡大する中、人員調整やコスト削減の目的での出向が注目を浴びています。

企業にはさまざまなメリットがありますが、出向する労働者には負担が大きい制度といえます。不安や不満を招かないよう、十分な事前準備と説明が必要でしょう。

本記事では、出向を命じる際の流れやポイントについて解説していきます。出向を検討されている方は、ぜひご覧ください。

出向とは

出向とは、子会社やグループ会社などの関連企業に労働者を異動させることをいいます。
労働者のスキルアップや人脈確保、子会社のマネジメントなど、さまざまなメリットがあります。また、事情により自社での雇用継続が難しくなった場合、出向によって労働者の生活を守ることもできます。

ただし、出向は配置転換と違い、勤務先や職場の人間関係が大きく変化します。労働者にかかる負担も大きいため、事前にしっかり説明することが重要です。

出向の種類

出向には、「在籍出向」と「転籍出向」の2種類があります。

在籍出向とは、労働者の籍を出向元に置いたまま、別会社で勤務させることです。
労働契約の一部や指揮命令権が出向先に移るため、2つの企業と雇用契約が発生します。そのため、労働時間や休日など、詳しい労働条件については企業間で相談して取り決める必要があります。

転籍出向とは、出向元との雇用契約を解消したうえで、出向先に異動させることです。
労働者の籍や労働条件はすべて出向先に移るため、給与体系も出向先のルールに従うのが基本です。
出向先の一社員になることから、実質的な転職といえるでしょう。

それぞれの特徴について、下表で整理します。

在籍出向
  • 労働者の籍は出向元に残る
  • 出向元と出向先それぞれで雇用契約が発生する
  • 給与は出向元が支払うのが基本(労働条件は企業間で相談)
  • 一定期間後、出向元に戻るのが前提
転籍出向
  • 労働者の籍は出向先に移る
  • 出向元との雇用契約は解消し、出向先と新たな雇用契約を結ぶ
  • 給与は出向先が支払う(労働条件も出向先に従う)
  • 出向元への復帰が前提ではない

転籍出向の詳細は、以下のページでも解説しています。

人事異動における転籍に関する規定について

出向と人事異動・左遷の違い

人事異動は、社内での部署やポジション変更を指すのが一般的です。人員調整などを目的とした“配置転換”といえるでしょう。
一方、出向は勤務先自体が変わるため、手続きや事前準備がより複雑になります。また、労働者の負担も大きくなるため、十分な説明と意思確認が求められます。

従来、出向にはネガティブな印象もありましたが、実際はスキルアップ人脈形成などさまざまなメリットがあります。
また、子会社への出向では重要なポストを任されることも多く、グループ全体の業績アップも目的とされています。

左遷とは、地位の降格を伴う異動を指します。
重要度が低いポストに下げたり、本社から地方の支社に異動させたりするケースが多いです。処分としての意味合いが強いため、出向とは別物といえるでしょう。

出向命令と労働者の同意

労働者を出向させるには、基本的に本人の同意を得る必要があります。
法律上、企業は、労働者の同意なくその権利を譲渡することが禁止されているためです(民法625条)。

ただし、就業規則などで出向命令権が定められており、かつ出向の具体的条件も明記されている場合、本人の同意なく出向を命じることができます。
例えば、「事情により出向を命じることがある」などと記載されており、出向先の範囲や出向期間、出向中の賃金やその他労働条件について明示されている場合です。

就業規則に規定があれば、労働者は基本的にそれに従う義務があります。
よって、個別に同意を得ずに、出向を命じることが可能です。出向についても「包括的同意」があったとみなされるためです。

出向命令の拒否

就業規則に出向規定があれば、労働者は出向命令を拒否できないのが基本です。
ただし、以下のような場合、企業側の権利濫用とみなされ、出向命令が無効になる可能性があります。

  • 出向先企業の範囲や出向期間、出向中の賃金やその他労働条件が明記されていない
  • 家庭の事情により転居が難しい者に、転居を伴う出向を強いること
  • 出向命令がパワハラにあたること
  • 内部告発や争議行為に対する措置として、出向命令を行うこと

出向は、人選の正当性や労働者の事情等を十分考慮し、慎重に判断しましょう。

人事異動などを拒否された場合の対応については、以下のページをご覧ください。

人事異動の拒否が認められるケースと拒否された場合の対応

出向命令が無効とされた判例

子会社への出向命令を拒否した労働者らを、出向元が懲戒解雇した事案です。
労働者らは、出向について同意していないことを理由に、当該処分は無効であると訴えました。

裁判所は、出向元の就業規則における「労働者は、正当な理由なく出向を拒んではならない」旨の規定を根拠に、労働者の同意がなくとも出向命令が可能だと認めました。

また、以下の点から、出向元と出向先は実質的に同一会社であり、出向は配置転換に近いことから、労働者の同意は不要と判断しています。

  • 出向元と出向先の所在地が同じであること
  • 出向先の役員6名のうち5名が、出向元の役員を兼任していること
  • 人事権が出向元によって決定されていること
  • 賃金やその他労働条件、労働契約が出向元と同じであること
  • 出向元が子会社(出向先)を吸収合併するのが前提であること

以上から、労働者が出向命令を拒否することは認められず、懲戒解雇は有効であると判断されました。

なお、労働者のうち1人については障害者を抱えており、本件措置は酷であることから、企業の権利濫用及び出向命令の無効が認められています。

出向中の労働条件

在籍出向中の労働条件は、出向元と出向先が協議して決めることになります。企業(一般的に出向先)は、あらかじめ労働者に労働条件を提示し、理解を得ておくことが重要です。

もっとも、勤務先は出向先になるため、労務提供にかかわる項目は出向先のルールを適用するのが基本です。例えば、以下の項目です。

  • 始業・終業時刻
  • 労働時間(フレックスタイム制など)
  • 休憩、休日
  • 36協定(残業や休日出勤)
  • 安全衛生

一方、労働者の籍は出向元に残るため、労働者の身分に関する項目は出向元のルールを適用するのが基本です。例えば、以下の項目です。

  • 定年
  • 退職金
  • 解雇
  • 昇給や昇格

なお、懲戒処分の権限は出向先が持つことが多いですが、両社に併存するケースもあります。

賃金

出向中の賃金は、出向元と出向先で協議して決定します。在籍出向の場合、基本的な労働契約は出向元に残るため、賃金についても出向元の規定を適用するのが一般的です。また、賞与や退職金についても同様です。

ただし、労働時間の管理は出向先で行うため、残業代の計算ミスなどがないようしっかり連携する必要があります。

なお、出向先の賃金規定を適用し、賃金が大幅に下がった場合、権利濫用として出向命令が無効になる可能性があります。また、労働者のモチベーション低下や離職を招くおそれもあるため、できるだけ不利益が生じないよう配慮が必要です。

例えば、出向元の賃金との差額を支給したり、出向手当や調整手当を支給したりするなどの対応が求められるでしょう。

労働時間・休日

労働時間・休日については、労務遂行に関する部分にあたるため、出向先の規定を適用するのが一般的です。
そのため、労働時間が長くなったり、休日が減ったりと労働条件が低下する場合、不利益の程度によっては何らかの代償措置を講ずる必要があります。

例えば、一定の出向手当を支給する、超過時間分・不足日数分に相当する手当を支給するといった方法が考えられます。

労働条件のうち、労働時間については、以下のページでさらに詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

労働時間

有給休暇

出向しても勤務は継続しているため、有給休暇は出向元・出向先それぞれの勤続年数を通算して付与する必要があります。また、有給休暇の残日数もそのまま維持されるのが基本です。

もっとも、業務の遂行に支障がある場合、出向先は時季変更権(取得日を変更させる権利)を行使することが可能です。

ただし、出向元で法定以上の有給休暇を付与されていたケースは注意が必要です。
この場合、出向先の他の社員よりも有給休暇の日数が多くなり、不公平感が生まれるおそれがあります。また、出向先の業務によっては、以前のように有給休暇を取得できない可能性もあります。

そこで、出向先で消化できない有給休暇を買い取ったり、不利益を補うための出向手当を支給したりするなどの対応も必要です。

有給休暇の時季変更権については、以下のページで詳しく解説しています。

年次有給休暇の時季変更権

出向の期間

出向期間に法的なきまりはありませんが、「半年~3年程度」とするのが一般的です。
具体的な期間は出向元と出向先が協議して決めますが、あまりにも長いと労働者の不安を招く危険性があります。離職の原因にもなるため、適切な期間を設定しましょう。
また、長期の出向は「出向元への復帰を前提としていない」と判断され、権利濫用にあたる可能性もあります。

なお、正当な理由があれば、労働者の同意を得ることなく出向期間を延長・短縮することが可能です。
もっとも、通算期間が10年を超えたり、無制限に延長したりすると、労使トラブルに発展するおそれがあるため注意が必要です。

出向契約書の取り交わし

出向契約書とは、出向中における労働者の労働条件や指揮命令関係、その他ルールについて定めた書類です。出向元と出向先の協議によって内容を決定します。

出向契約書を作成しなければならないという法的義務はありませんが、後の労使トラブルを防ぐため、必ず作成することが重要です。

また、出向契約書を作成することで、取り決め内容が整理され手続きをスムーズに進めることができます。
出向契約書に記載すべき項目は、以下のようなものです。

  • 当事者(出向元、出向先、出向者)
  • 出向期間
  • 服務(当事者が行うべき事項)
  • 服務規律(懲戒処分の権限など)
  • 給与や賞与
  • 社会保険や労務保険
  • 出向料
  • その他協議事項

なお、厚生労働省のホームページではひな形が公開されているため、参考にすると良いでしょう。

出向契約書の参考様式(PDF)
出向契約書の参考例(WORD)

出向元への復帰

出向元に復帰する場合、以下の2つのケースが考えられます。

  • 出向元からの復帰命令
  • 出向者からの復帰要求

それぞれのポイントについて、以下でみていきます。

出向元からの復帰命令

出向元の企業は労働者の同意を得ずに、復帰を命じることができます。なぜなら、在籍出向とは出向元への復帰を前提としている制度だからです。その際に、労働者は基本的に復帰命令を拒否することはできないとされています。

過去の裁判例でも、「“特段の事由”がない限り、復帰命令に本人の同意は不要である」と判断しています。

ここでいう、復帰命令を拒否できる“特段の事由”とは、出向元へ復帰しないことについて労使間で合意していた場合などです。そうすると、そもそもの出向が、出向元への復帰が前提とされていた訳ではないため、一方的に企業から命じて復帰させることはできません。

出向者からの復帰要求

出向期間が満了した場合、労働者は出向元へ復帰を要求することができます。また、出向期間の定めがなくても、出向の目的が達成できたと客観的に判断できれば、復帰要求が可能とされています。これは、そもそも在籍出向は出向元への復帰を前提とした人事異動だからです。

一方、出向期間や出向の目的が不明確な場合、それまでの出向期間や出向元・出向先の状況などを考慮して判断されます。
出向先での業務遂行状況によっては、復帰要求が認められない(延長命令が認められる)可能性もあるでしょう。もっとも、無制限に延長することは権利濫用となる可能性が高いため、適切な期間を定めることが重要です。

採用後すぐの出向命令について

新入社員を子会社などに出向させることは、労働基準法違反として無効になる可能性があります。また、30万円以下の罰金を科されるおそれもあります(同法120条)。

これは、労働契約の締結時、使用者は労働者に対して「就業場所や就業すべき業務に関する事項」を明示することが義務付けられているためです。
入社後すぐに出向命令を行うと、本来予定されている労働条件とは異なる内容を提示したことになるため、違法と判断される可能性が高くなります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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