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出向

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

人事異動の中でも、企業間の異動にあたる【出向】においては、出向元の企業、出向先の企業、そして出向対象となる労働者の三者間で、それぞれに権利義務関係が生じることに留意しておかなければなりません。

本ページでは、使用者が労働者へ出向を命じる際に注意すべきことを中心に解説します。まずは、【出向】の概要、【配転】や【転籍】との性質の違いをみていきましょう。

人事異動における出向の意味

【出向】とは、一般的に、出向元の企業と労働者との雇用契約を維持したまま、業務命令により子会社等別の企業で就労させることをいいます。一定期間の経過後、出向した労働者が出向元の企業に戻ることを想定した人事異動の形態です。企業間の異動である点が、同一企業内の異動である【配転】とは大きく異なります。

労働者は、出向先の指揮命令下で業務に従事しますが、給与は基本的には出向元の企業から支払われます。ただし、出向契約の内容に応じて、出向先の企業が支払う場合もあります。

在籍出向と転籍出向

在籍出向とは、出向元の企業に籍を残したまま、出向先の企業に勤務し、業務に従事することをいいます。本ページで説明する【出向】は、この在籍出向のことを指します。この場合、出向元と出向先の企業とで、出向対象となる労働者について出向契約を結びます。また、労働者は、出向元と出向先の両方の企業と二重の労働契約が存続することになります。

他方で、転籍出向とは、出向元の企業を退職し、出向先の企業へ籍を移すことをいいます。つまり、【転籍】のことを指します。この場合、労働者は出向元の企業との労働契約を解消するため、出向先の企業とのみ労働契約が存在することになります。

在籍出向が、いずれ出向元の企業に戻ることを想定した人事異動であるのに対し、転籍出向は、出向元の企業との雇用関係がなくなるため、出向元の企業へ復帰できる保証のない人事異動であることから、転籍は、法的には労働契約の終了と転職を組み合わせたものといえます。

【転籍】についての詳しい内容は、以下のページでご覧いただけます。

人事異動における転籍に関する規定について

特殊な出向として扱われるケース

出向元と出向先の企業間に、資本関係のある親子会社、取引関係のある関連会社といった密接な関係性がある場合、人事交流によって企業間の関係性を強固にすること等を目的として、当該企業間において人事異動がなされることがあります。このような場合でも、異なる企業間で、従事する企業が変更となる以上、本来であれば、出向と同様の扱いがなされるべきです。

しかしながら、企業間の関係性等を踏まえて、包括的な同意があり、労働条件の具体性等に影響がないと見受けられる場合には、緩やかに出向の有効性が判断されるケースがありえます。この点、全く関係性のない企業への出向とは扱いが異なります。

では、出向命令について、もう少し詳しくみてみましょう。

出向命令について

【出向】は、出向元から出向先の企業へ労働者の就労請求権を譲渡するものです。「使用者は労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない」(民法625条1項)とする規定に照らせば、出向には原則として、労働者の同意が必要であることがわかります。

ここで問題となるのは、この同意がどの程度の具体性を求められるのかということであり、以下のようなケースで、出向中の賃金等の労働条件、出向期間、復帰の仕方等が詳細に定められている場合には、採用時等に包括的同意があるものとして、【配転】等と同様に、労働者の個別の同意を得ずとも出向を命じることができる可能性があるとされています。

  • ✓密接な関係性がある企業間の出向であるケース
  • ✓就業規則や労働協約等に“業務上必要性がれば出向を命じることがある”といった、出向に関する明確な規定があるケース
  • ✓就業規則や労働協約等に出向に関する明確な記載がなくとも、密接な関係性がある企業間の人事異動が日常的に行われていることについて労働者が認容しているケース
  • ✓労働者の利益に配慮した労働条件(例:出向先の企業、出向中の地位、出向期間、賃金、不利益が生じた際の補償)に関する詳細な規定がある場合

なお、上記に該当するケースであっても、出向命令が権利濫用に該当する場合にはは無効となるため、賃金の減額や転居等、労働条件の変更が労働者の生活に大きく影響するときには、個別に同意を得ることが望ましいでしょう。

また、全く関係性のない企業への出向においては、原則に従って、労働者に個別の同意を得るべきといえます。

判例

【新潟地方裁判所高田支部 昭和61年10月31日判決、日本ステンレス・日ス梱包事件】

 本件は、日本ステンレス株式会社(以下、「出向元企業」とします。)雇用の労働者らが、子会社への出向命令を拒否したことを理由とする懲戒解雇が問題となった事案です。

労働者らは、出向に際しては個別の同意が必要であるところ、同意をしていないのであるから、本件出向命令が無効である旨主張しました。

これに対し裁判所は、出向元企業の就業規則における「(転勤・出向又は職場の変更)労働者は正当な理由なしに転勤、出向又は職場の変更を拒んではならない」とする旨の規定を根拠に、労働者に対して個別の同意を得ることなく出向命令が可能であるとしました。

また、出向元企業と出向先の子会社は本店所在地が同一場所であること、役員構成においても6名中5名の役員が出向元企業との兼務であること、人事権も出向元企業において立案・決定されていること、賃金、その他労働条件についても子会社と同一であり、労働協約も同一のものが適用されること、子会社が出向元企業に吸収合併されることを前提に設立されたことから、出向元企業と子会社は実質的にみれば同一の会社であることを認めました。

以上のことから、本件の出向は、実質的には配転の場合と特段の差異を生じないため、労働者の個別の同意は不要であるとして、本件の出向命令及び出向命令を拒否したことを理由とする懲戒解雇は有効であると判示しています。

なお、本件原告である従業員のうち1人に対しては、身障者を抱える家庭の状況を踏まえて酷であることを理由に人事権の濫用があったことを認め、出向命令を無効とする判断をしています。

出向中の労働条件

出向中の労働者の労働条件は、出向元と出向先の企業との協議によって決定した内容(出向契約)に従うことになります。出向元又は出向先は、労働者に対して、出向契約の内容をあらかじめ明示し、出向後の労働条件が不明瞭にならないよう配慮しておくべきでしょう。

他方で、具体的な出向契約による定めがない場合には、原則、労務遂行に関する部分は出向先の企業の就業規則等が適用され、出向先の指揮命令下のもとで就労することになります。例えば、始業・終業時刻、休憩時間、休日といったものは、出向先の企業の規定に則ります。

また、その他の部分は出向元の企業の就業規定等が適用されます。なぜなら、労働者と出向先の企業との関係は、労務遂行に関する部分的な権利義務を移転するに留まり、基本的な労働条件は、出向元の企業に帰属すると解されるからです。そのため、出向元への復帰、退職、解雇等、労働者の地位の得失に関する事項等は、出向元の企業の就業規則等に則ることになります。

賃金

賃金について、出向元と出向先の企業どちらの規定を適用し、どちらが支給するかは、企業間の協議によって取り決め、出向契約等に定めておくべきです。特に取り決めがないとしても、賃金が不利益変更とならないように出向元の賃金規程に基づく金額は確保されなければなりません。

例えば、出向先の賃金規程に準じた賃金とすることで、賃金の大幅な減額が見込まれるといったケースでは、労働者の個別の同意の要否が問題となり、出向命令自体の有効性に疑義が生じます。

出向を理由に労働条件が低下し、労働者に著しい不利益が生じるケースでは、一方的な出向命令が権利濫用とされる余地があり、就業規則等に出向に関する明確な規定があるといった場合でも、労働者の個別の同意が必要になると考えられます。また、労働者の同意を得るために、出向元は、賃金差額が生じないように配慮した措置を講ずる必要があるでしょう。

労働時間・休日

労働時間・休日については、労務遂行に関する部分にあたるため、特段の取り決めがない場合は、原則として出向先の規定が適用されます。そのため、労働時間が長くなったり、休日が減ったりと、労働条件が低下するような場合、不利益の程度によっては、不利益となる労働条件を補填するための代償措置を講ずる必要があります。例えば、一定の出向手当を支給する、超過時間分・不足日数分に相当する手当を支給するといった方法が考えられます。

有給休暇

有給休暇は、労働者の“継続勤務”年数に応じて付与されます。在籍出向の場合、労働者と出向元の企業の雇用関係は維持されたままであるため、出向先に労務提供をしている期間も“継続勤務”として取り扱われます。そのため、出向元の規定を適用することになり、出向元で付与された有給休暇の残日数については、取得済みの権利であるため、出向先においても行使できると考えられます。ただし、有給休暇の消化が、出向先における業務の正常な運営の妨げの事由となる場合、出向先には時季変更権の行使が認められることになるでしょう。

また、出向元が法定休暇を上回る日数の有給休暇を付与していたときは、原則として、それを出向先でも行使できなければならず、これを認めない旨を出向契約等で定めた場合には労働者に不利益が生じることから、出向元は、出向命令の効力を維持するために、労働者の個別の合意を獲得するか、不利益分の補償等の不利益緩和措置を検討する必要があります。

労働条件のうち、有給休暇については、以下のページでさらに詳しく解説していますので、併せてご覧ください。

年次有給休暇の事後申請に関する法律上の定め

出向の期間

出向の期間について法的制限はないため、出向元と出向先の間で合意があれば、基本的に労働者の同意がなくとも、当初の出向契約等に定めた期間を延長又は短縮することが可能です。

とはいえ、あまりに長期間になると労働者の地位を不安定にすることに加え、出向が“復帰を前提とした制度”であることからしても、長くとも3年程度の期間にしておくことが適切でしょう。長期間にわたる出向は、復帰を前提にしていないと評価されてしまい、業務上の必要性等の相応の理由がない場合には、権利の濫用にあたるおそれがあるため、注意が必要です。

採用後すぐの出向命令

労働基準法には、労働契約の締結に際し、使用者は、就業の場所及び従事すべき業務に関する事項を明示しなければならない旨定められています(労基法15条1項)。そのため、これらの説明や労働者の同意もなく、採用後直ちに別の企業へ出向させたときには、これらの規定を潜脱する意図があるものと評価され、その出向命令が無効になるおそれがあるだけでなく、労働基準法15条1項の違反に対して30万円以下の罰金が科されるおそれがあります(労基法120条)。

出向命令の拒否

就業規則等、労働契約上に出向命令の根拠となる規定が明記されていない場合や、出向先での賃金、各種手当、出向期間等、出向に関する具体的な規定が明記されていない場合、出向命令が権利の濫用にあたる場合に、労働者は出向命令を拒否することが可能です。

なお、有効な出向命令等の人事異動命令を“拒否”した場合については、以下のページでさらに詳しく解説しています。

異動 人事異動の拒否

出向元への復帰について

出向元からの復帰命令

出向対象の労働者は、出向元で雇用される労働者として、出向元の命令により、一時的に出向先で就労している状態であるため、出向元は、当該労働者の同意を得なくとも、出向元への復帰を命じることができます。そのため、労働者は、基本的に復帰命令を拒否することはできません。

ただし、出向元企業と労働者との間で、あらかじめ、出向元へは復帰しないことについて合意していた等、特段の事情がある場合には、労働者の同意なく出向元への復帰を強いることはできないケースもあります。

出向者からの復帰要求

通常、出向は、いずれ出向元へ復帰することを前提とした人事異動であるため、出向命令時に定められた期間の満了、あるいは出向目的の達成によって、労働者は、出向元に対し、出向元への復帰を要求することができます。

また、出向自体が復帰を前提にした制度であるという趣旨からすれば、出向期間や出向目的について明確な定めがないとしても、出向当事者の関係や従事している業務内容等から出向目的が推認され、目的に比して十分な期間が経過しているといった事情から客観的にみて出向目的が達成していること等が認められる場合にも、復帰要求が可能と考えることができるでしょう。

他方で、出向命令当初には予見できなかった事情等によって出向期間が長期化している場合には、出向期間の延長について正当性が認められ、復帰の要求に直ちに応じることができないケースもあります。

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