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公益通報・内部告発

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

内部告発とは、企業や官庁等で行われている不正・法令違反を、内部の人間が外部へ伝えることをいい、法律上では「公益通報」と呼ばれます。2004年には、告発者を保護する「公益通報者保護法」が制定されましたが、適切に運用されているとは言い難く、内部告発には未ださまざまな問題がつきまといます。

ここでは、過去に起こった実際の事例や問題点も含め、内部告発(公益通報)について詳しく解説します。

公益通報・内部告発の定義

昨今、一般企業だけでなく、政党や官庁等の組織でも法令違反が取り沙汰され、報道されるようになりました。

内部告発とは、組織においてなされた法令違反を、内部の労働者が、不正目的を持たずに、当該労務提供先、処分や勧告の権限を有する行政機関・監督官庁、または、その者に対し当該通報対象事実を通報することがその不正の発生・被害の拡大防止に必要だと認められる者、その他の通報必要者に通報することと定義されています。公益通報者保護法では、この行為を「公益通報」と呼びます(同法2条)。

公益通報・内部告発の意義

過去、公益通報で明らかになった事例では、リコール隠し、食品偽装表示等がありました。このような法令違反が明るみに出れば、企業のイメージが下がることは避けられず、企業にとっては不利益となります。

しかし、公益通報で法令違反が明らかになることで、不正や違法行為が是正されれば、消費者にとって危険な商品が市場から排除されたり、国民にとって不利益な行為が是正されたりする良い契機になります。また、企業や官公庁にとってもコンプライアンス(法令遵守)の精神を見直すきっかけとなるでしょう。

公益通報・内部告発に必要な要件

公益通報であると認められ得る要件には、主に3つのポイントがあります。

第一に、その告発内容の真実性、真実と信じるに足る相当の理由の有無です。

第二に、告発することの目的が、法令違反や不正行為の是正であることです。このポイントに関しては、その告発行為が労働条件を是正する労働組合の活動としての面があっても、公益通報の要件として認められます。

第三に、告発行為の態様の相当性です。企業内部に公益通報先があり、是正の仕組みが整っているようであれば、まずはそこへ通報することが妥当とされるでしょう。企業内にそのような窓口がない場合、あるいは是正が期待できない場合は、顧客や株主等に対して告発することも、相当性を認められ得ます。

公益通報・内部告発をするための条件

公益通報の条件には、以下のようなものがあります。

  • ・不正目的によらないこと
  • ・通報者が、通報の対象となる事業者へ労務提供を行う労働者であること
  • ・法令違反となる行為等の通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしている状況であること
  • ・通報先が、当該通報対象事実について処分、または勧告等の権限を有する行政機関(監督官庁)、またはその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生・被害の拡大防止に必要だと認められる者であること

「内部告発」を避けるために事業者がとるべき対策

労働者が社内の法令違反を外部の報道機関に告発するようなことがあれば、企業イメージの悪化は避けられません。外部への告発がなされる前に不正を内部で発見し、状況を改善できるよう、事業者は内部通報の体制を整えなければなりません。

重要なのは、社内コンプライアンスの見直しです。企業内で法令遵守の精神がきちんと周知され守られているか確認し、もし不十分であれば研修の実施等を行います。

また、社内の体制の整備も行います。社内規定において、通報先の窓口、責任者、通報者の保護等を定めましょう。いわゆる正社員のみならず、契約社員や派遣社員、パートタイマーやアルバイト等も通報できるような窓口を定め、受付方法(電話、メール等)を労働者に周知します。秘密を保持し、通報者の立場が守られることは、特に重点的に周知するべきでしょう。

事業者向けの公益通報のガイドラインは、以下のページで詳しく解説しています。ぜひご一読ください。

公益通報者保護法の概要

内部告発がなされた場合の対応

では、労働者から実際に内部告発がなされた場合、事業者としてはどのような対応をすればいいのでしょうか。

以下で、順に解説します。

不祥事などの事実の調査

まずは、迅速に事実関係の調査を行います。

内部告発された当該事実が、実際に起こった・起こっていることなのか、実際に起こっていたとすれば、その当該事実に違法性はあるのか、あるとすれば、当該事実全体が違法行為や法令違反にあたるのか、それとも一部だけなのか、当該事実を把握している社員は社内でどれだけいたのか、誰が把握していたのか、関係者への聴取等々、調査しなければならないことは多岐に渡ります。

しかし、内部告発後の調査は初動が肝心といえます。調査不足のまま公表を行えば、さらなる事態の悪化を招きかねません。内部告発があれば、まずは調査に注力しましょう。

対外的な公表

告発の内容が事実だと判明したら、対外的な公表についても検討しなければなりません。しかし、対外的な公表は、内部での事実調査を進め、ある程度自体を把握してからするべきでしょう。事実関係が曖昧なまま会見等を行うことで、質問に答えられなかったり、「調査中です」と繰り返すばかりとなったりすれば、かえって不信感をあおり、企業のイメージダウンを避けられないばかりか、甚大な風評被害を招きかねません。

また、すべてをつまびらかにせず不都合な事実を隠すような行為は、それが明るみに出たときの不利益の大きさを考えれば絶対に避けるべきだといえるでしょう。

告発者における、内部告発のリスク

内部告発が外部の第三者(監督省庁、警察、マスコミ等)に対して行われた場合、労働契約に付随する誠実義務(労働契約法3条4項)違反、服務規律における就業規則上の機密漏えいを禁止する規定違反、企業に対する名誉棄損などを理由として、告発者が懲戒処分され、不当な制裁を受けることが多くあります。

しかし、このようなリスクがあっては、労働者は処分や制裁を恐れて内部告発をできず、法令違反を放置することになってしまいます。

告発者の保護制度~公益通報者保護法~

外部に向け内部告発をした労働者への懲戒処分や不当制裁を防止すべく、2004年に、公益通報者保護法が制定されました。1条では『公益通報者の保護』に留まらず、『国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法令の規定の遵守を図り』、また『国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること』を目的として掲げています。

そして同じく1条では、『公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効等』と不当処分の禁止、『事業者及び行政機関がとるべき措置』と適切な対応方法を定めることで、その実現を図っています。

公益通報者保護法に関しては、以下のページで詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。

公益通報者保護法の概要

「内部告発」をめぐる監督省庁の不手際について

公益通報者保護法が制定されたものの、内部告発をめぐっては、たびたび監督省庁の不手際が指摘され、ニュースとして取り沙汰されることも少なくありません。

以下で、具体例を挙げながら解説します。

個人情報を知らせてしまったケース

内部告発において、本来、通報者の氏名や所属は、通報者保護のために厳重に秘匿しなければならないものです。しかし、通報を受けた監督省庁が通報者の個人情報を当該企業・団体に知らせてしまうことは珍しくありません。

過去の事例では、2007年、厚生労働省の監督下にある全日本自治体労働者共済生活協同組合の嘱託職員が、内部に不正があることを厚労省に報告しました。担当官は、当該共済の本部に事実関係を尋ねたのみで指導や勧告は行わず、さらに報告者の氏名と報告内容を知らせてしまいました。翌年、報告した職員は解雇されています。

この件が2010年に明らかになると、厚労省は謝罪し、当該共済に是正を指導しました。

内部告発を放置したケース

内部告発があったにもかかわらず放置された有名なケースとしては、ミートホープ牛肉ミンチ偽装事件があります。常務取締役が偽装の実態を知ると、保健所や農林水産省などに告発を行いましたが、一向に調査はされませんでした。2006年、常務は退職後、身分を明かしたうえで農林水産省北海道農政事務所に調査を依頼しましたが、事務所は調査を拒否、指導も行われませんでした。また、新聞社やテレビ局も告発を黙殺しています。

この件では、告発を受けた別の新聞社が調査を行うまで、省庁からの調査は一切行われず放置され、是正や勧告もされないままでした。なお、元常務が農水省に調査を依頼した2006年は公益通報者保護法が施行された年でもあったことから、公益通報の在り方について大きな問題となり、その後に消費者庁が前倒しで発足するきっかけにもなりました。

内部告発の手段となりうる「司法取引」

2018年から、日本においても司法取引制度が導入されました。

司法取引とは、被疑者や被告人が証拠の提出、共犯者の情報の提供などをして検察官の捜査に協力することと引き換えに、起訴猶予や刑の減免を受ける制度です。企業犯罪も特定犯罪の一種として対象になります。

内部告発につながり得る違法行為としては、贈収賄、業務上横領、談合、脱税などがあります。企業内の違法行為にかかわっている、または違法行為を認識している側は、情報提供をすることで自身の起訴猶予や刑の減免につながるため、内部告発が促進される可能性があります。

内部告発の事例

内部告発で有名な事例は、まず内部告発を放置したケースでも取り上げたミートホープ牛肉ミンチ偽装事件があります。農林水産省に告発をしても調査は行われず、告発者は辞職のうえ名前を公表して再度告発したにもかかわらず放置され、新聞社の調査による発覚後、大きな社会問題となりました。

また、三菱自動車リコール隠し事件も大きな問題となりました。これは、約23年間にわたり、10車種、18件、69万台ものリコールにつながるクレームを、運輸省(現国土交通省)へ報告せず、隠ぺいしていた事件です。三菱自動車社員からの運輸省への匿名の通報により隠ぺいが発覚し、警視庁による家宅捜査、幹部らの書類送検まで至りました。このリコール隠しによる死傷事故も起こっており、企業倫理に関する議論を巻き起こした事件です。なお、三菱自動車はこの2000年に発覚したものだけでなく、2004年にもリコール隠しが発覚しています。

多くの牛肉偽装事件が発覚する発端となった、雪印牛肉偽装事件も大きなニュースとなりました。2001年、国内で狂牛病にかかった牛が発見されたことから、出荷停止への補償として国が国産牛肉を買い上げる制度を設けました。雪印食品株式会社はこの制度を悪用し、輸入牛肉を国産と偽り、補償金を得ていました。冷蔵倉庫会社の社長による内部告発で明るみに出ることとなり、雪印は謝罪の末、廃業解散に至りました。また、この事件の発覚をきっかけとして、他社による牛肉偽装も次々と明らかになりました。内部告発をした冷蔵倉庫会社の社長は、「雪印と共謀して偽装に加担した」と国から業務停止命令を受けています。内部告発者の秘密保持、保護の必要性が問題となった事件でもあります。

船場吉兆による食品偽装事件も内部告発がかかわる一件です。2007年に告発がなされたこの事件では、賞味期限の偽装からはじまり、その後原材料の産地の偽装、客が食べ残したものの再利用、梅酒の無許可での製造等、内部告発を通し多くの不祥事が発覚しました。これに伴い、船場吉兆は2008年に廃業するに至りました。

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