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懲戒解雇・諭旨解雇

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員弁護士家永 勲(東京弁護士会)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

懲戒解雇を行うにあたっては、まずもって、懲戒解雇事由を就業規則において明確に定めておくことが不可欠です。そのうえで、懲戒解雇は、最も重い懲戒処分であることから、労働者の行為が懲戒解雇事由に該当すると判断するに際しては、紛争時にその妥当性が厳格に判断されることも見越して、慎重に事実を確認して評価する必要があることにも留意する必要があります。

また、懲戒解雇を行うに際しては、懲戒解雇よりも一段階軽い処分として、労働者への退職勧奨及びこれに対する合意に基づく諭旨解雇という手段があり得ることも念頭に置くことが望ましいと考えられています(もっとも、諭旨解雇を行うにあたっても就業規則上の根拠は必要です。)。

本記事では、懲戒処分に該当する懲戒解雇、諭旨解雇について、それぞれ解説していきます。

懲戒解雇の定義

懲戒解雇には、法律上の定義は存在せず、就業規則において定義することになります。一般的には、企業秩序違反に対する制裁である懲戒処分として行われる解雇のことを指し、退職金の全部または一部が支給されず、また、解雇予告を伴わずに即時解雇されることが通例です。具体的にどのような行為が懲戒解雇事由に該当するかは、就業規則上の懲戒規定等に基づいて決定されます。

懲戒解雇と普通解雇の比較

懲戒解雇普通解雇
解雇事由懲戒解雇事由に該当することが必要解雇事由に該当することが必要
解雇事由の追加できないできる場合がある
解雇予告義務なしあり
退職金支給減額または不支給もあり得る退職金規程等にしたがって支給 
退職及び解雇

懲戒解雇と普通解雇それぞれの目的とは

懲戒解雇と普通解雇は、いずれも使用者側の一方的な意思表示によって労働契約を解除するという点では同じですが、その目的においては差異があります。

使用者が懲戒解雇を行う目的は、懲戒事由に該当する行為を行い、企業秩序を乱した労働者に対して制裁を加えることにあります。他方で、普通解雇とは、労働者の債務不履行を理由とする解雇のことを指します。したがって、普通解雇を行う目的は、傷病が継続して回復の見込みがない場合や、能力が著しく低い等の理由で、使用者が労働契約上期待する労務が提供されないことを理由に、労働契約を解消することにあると理解されます。

懲戒解雇から普通解雇への変更について

使用者が、懲戒解雇の意思表示と同時に、懲戒解雇の要件が充足されないと評価される場合に備えて、予備的に普通解雇の意思表示を行う場合があります。このような解雇が争われた場合、裁判所は、まず懲戒解雇の効力を審査し、懲戒解雇が否定された場合に、普通解雇の適法性が判断されることもあります。

このような事例に対し、使用者が予備的に普通解雇の意思表示を行っていない場合に、無効な懲戒解雇を普通解雇としては有効であると判断できるかという問題が存在しますが、懲戒解雇と普通解雇では意思表示の性質が大きく異なることから、裁判例の大勢はこのような転換を否定しています。

懲戒解雇処分が有効となる要件

懲戒解雇処分が有効となるためには、就業規則上懲戒解雇の根拠規定が明記されている必要があります。そのうえで、労働者の行為が就業規則上規定された懲戒事由に該当し、かつ、懲戒解雇を行うことに相当性が認められる場合、懲戒解雇処分が有効となります。

懲戒処分
退職及び解雇 解雇事由

懲戒解雇事由の具体例

懲戒解雇事由として就業規則上定められる事由は多岐にわたりますが、代表的な懲戒解雇事由としては、①最終学歴や職歴、犯罪歴等、重要な経歴を詐称した場合、②業務上横領その他これに類する金銭的な不正があった場合、③転勤や出向の拒否等、企業にとって重大な業務命令を拒否した場合、④無断欠勤が続いた場合、⑤他の従業員に対してセクハラやパワハラ等の行為を行った場合等が挙げられます。定められた労働時間中に労務提供を受けるという労働契約の基本的な趣旨に反しない限り、これら以外の懲戒解雇事由を定めることも可能です。

懲戒処分 懲戒事由

懲戒解雇の事由と懲戒事由を分けておく理由

就業規則の中には、懲戒解雇の事由と懲戒事由が分けて規定されておらず、懲戒解雇を行うか否かを、懲戒処分の態様の判断に委ねているものが散見されます。しかしながら、懲戒解雇の事由と懲戒事由が分かれていない場合、労働者の側から事後的に、「行為が懲戒事由に該当することは認めるが、懲戒処分の態様として懲戒解雇は重すぎる」等といった主張がなされ、懲戒解雇の効力が争われることもあります。懲戒解雇の対象となる自由を明示しておくことで、重大な違反のみを懲戒解雇の根拠として明示するために、懲戒解雇の事由と懲戒事由とを分けておく方法も採用されることがあります。

就業規則の規定の有無

懲戒処分が有効とされるためには、その前提として、使用者が労働者を懲戒することができる場合でなければならないため、就業規則上懲戒解雇の理由となる事由及びこれに対して懲戒解雇を行える旨の規定がなければ、懲戒処分を行うことはできません。

懲戒処分

労働基準法20条による懲戒解雇時の解雇予告除外認定について

一般に、使用者が労働者を解雇しようとする場合においては、使用者は、労働者に対して、少なくとも30日前に解雇予告をしなければなりません(労基法20条1項)。しかしながら、例外的に、労働者の責に帰すべき事由において解雇する場合には、解雇予告を行う必要はないとされています(同項但書)。ここでいう、「労働者の責に帰すべき事由」は、労働者の帰責事由が解雇予告制度の保護を否定されてもやむを得ないと認められるほど、重大または悪質な場合に限られており、懲戒解雇でありさえすれば解雇予告が不要になるとは限りません。なお、懲戒解雇事由にあたることを理由として、労働者を即時解雇するためには、労働基準監督署長の認定が必要です(労基法20条3項)。

具体的な手続としては、まず、使用者の側において懲戒事由が解雇予告除外認定の要件にあたるか、すなわち当該事由が懲戒解雇相当であるかに加えて、それが悪質または重大であるかを判断したうえで、いずれも該当すると判断できた場合には、所轄の労働基準監督署に解雇予告除外認定申請書を提出し、労働基準監督署の調査を経て、解雇予告除外認定の通知がなされるという流れになります。即時解雇を行わなければならない状況においては、直ちに除外認定の判断が得たいところですが、それほど素早く判断してくれるわけではありませんので、あらかじめ準備しておくか、手続が得られることを見越して即時解雇を行わざるを得ない場面もあります。

懲戒解雇時の年次有給休暇の扱い

使用者が懲戒解雇を行った場合において、対象となった労働者が、懲戒解雇時点で年次有給休暇の取得に関する権利を有していた場合の処理については、以下のように考えられます。

年次有給休暇の取得権は、労働契約に基づいて労働者が有する権利であり、労務提供義務の免除を受ける一方で賃金請求権を失わない制度であるところ、労働契約が終了した時点で労務提供義務自体が消滅する結果、労務提供義務の免除を受けるための有給休暇に関する権利も確定的に消滅すると考えられます。したがって、懲戒解雇処分によって、労働契約が即時に終了することで、当該労働者の年休取得権も確定的に消滅することになるため、使用者として、年次有給休暇の日数に相当する給与を支払う必要はないと考えられます。

なお、年次有給休暇についての詳しい情報は、リンク先をご参照ください。

労働基準法で定められる年次有給休暇の基礎知識

退職金の不支給及び減額措置

懲戒解雇された労働者に対する退職金の支給については、就業規則や退職金規程等に、懲戒解雇された者については退職金を支給しないまたは減額する旨の規定が設けられていることが多いところ、このような退職金の不支給条項が賃金全額払の原則に違反しないかが、解釈上問題となり得ます。もっとも、退職金請求権は、単なる賃金の後払いではなく、功労報奨の要素があることや退職金規程と退職金の不支給条項に基づき初めて発生するものであることから、必ずしも不支給ないし減額条項の適用が、賃金全額払の原則と抵触するものばかりではないと考えられています。

懲戒解雇が有効・無効となった裁判例

懲戒解雇が有効とされた裁判例につき、最高裁まで争われた事例としては、以下の事例があります(最高裁 平成3年9月19日判決)。

Y社が、中卒者または高卒者を対象として採用募集を行ったところ、Xは、これに応募し、その採用面接において、Xは、実際には大学を除籍処分となった経歴があったにもかかわらず、これを秘匿して、高卒者であるかのように偽りました。また、採用当時、Xについて、刑事事件が公判に係属しており、その後凶器準備集合罪にかかる実刑判決が確定しましたが、Xは、Y社に対してこの点も秘匿していました。

Xの採用後、Y社においてこのような事情が判明したため、Y社は、Xの経歴詐称を理由として、Xを懲戒解雇したところ、Xは、裁判において当該懲戒解雇処分の効力を争いました。

この事例において、最高裁は、労働者には、採用時において、企業秩序の維持に関係する事項についても真実を告知する義務が信義則上認められるところ、これに反してXが真実を秘匿したことが懲戒解雇事由に該当するとしたことは正当であるという原審の判断を是認しました。

他には、懲戒解雇が無効とされた事例につき、最高裁まで争われた事例としては、以下の事例があります(最高裁 昭和45年7月28日判決)。

Y社の工場作業員であるXは、飲酒した後、他人の居宅に侵入したところ、逮捕され、住居侵入罪で罰金刑を受けるに至りました。数日内に、この事実が社内及び工場の近隣住民の相当数に知れ渡ったため、Y社は、この犯行をもって懲戒解雇事由である「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」に該当するとしてXを懲戒解雇処分に付しました。そこで、Xは、裁判において懲戒解雇処分の効力を争いました。

このような事実関係のもと、最高裁は、Xの犯行が恥ずべき性質の行為であり、逮捕の事実が数日内に社内外を問わず噂となって広まったという点からは、Y社がXの責任を重くみたことも無理からぬ部分があるものの、問題となったXの行為が会社の組織、業務等に関係のない私生活の範囲内で行われたものであり、また、Y社におけるXの職務上の地位も高くないという事情からは、Y会社の体面を著しく汚したとまでは評価できないとして、懲戒解雇処分を無効と判断しました。

諭旨解雇の定義

諭旨解雇とは、使用者が労働者に退職を勧告し、使用者に退職届を提出させたうえでこれに応じて解雇する取扱いのことを指します。この点、労働者が退職勧奨に応じない場合には、その後に懲戒解雇が予定されている場合が多いことから、諭旨解雇は、事実上企業秩序の違反に対する重大な制裁であるといえ、懲戒処分に準じる重い懲戒処分として、厳格な司法審査に服することになります。

諭旨解雇と懲戒解雇の違い

懲戒解雇が行われた場合においては、離職票に懲戒解雇によって退職となった旨が記載されますが、諭旨解雇の場合で、勧告に応じて退職した場合には、労働者の希望に応じて自己都合退職として取り扱われる場合もあるため、処分の対象となった労働者の再就職の観点からみると、諭旨解雇は労働者にとって寛大な処分といえる側面もあります。

退職金の支給有無

就業規則上の退職金規程の定め方にもよりますが、実務上、懲戒解雇がなされた場合には退職金の全部または一部が支給されない旨定めることが一般的ですが、諭旨解雇の場合は、退職金不支給条項の対象外としたり、少なくとも一部は支払われる場合が多いようです。

混同しやすい諭旨退職・退職勧奨とは

一般に、使用者が、人員削減等を目的として、労働者の辞職または合意解約を促す事実行為を、退職勧奨といいます。この点、労働者が懲戒解雇処分を受けた場合において、再就職等に重大な支障が生じることから、懲戒解雇処分に先立って、使用者から労働者に対して、自己都合退職を促す形で、退職勧奨の手法が用いられる場合があります。あくまでも、任意に退職合意を得るために、退職申込の勧誘をする行為であるため、懲戒処分として位置付けられるものではなく、退職勧奨を行うための就業規則上の根拠は不要です。ただし、懲戒解雇を背景に退職するよう説得することは諭旨退職との区別を曖昧にするうえ、強迫に該当して、退職合意が取り消される可能性があるため、退職勧奨の際に伝える内容は適切に選択する必要があります。

一方、懲戒自由に該当する場合に、自ら退職の意思を示さない場合には懲戒解雇処分を行うことを前提に働きかけることを諭旨退職といいます。こちらは懲戒処分ですので、懲戒事由が就業規則に定められていることが必要であり、退職勧奨に応じなかった場合には懲戒解雇が予定されていることから、諭旨退職に対しては、懲戒解雇に準ずる厳格な司法審査がなされています。

退職及び解雇 退職勧奨
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