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年俸制

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

ここでは、給与体系の一つである「年俸制」の基礎知識について解説します。

プロ野球のシーズンオフには、選手の契約更改に伴う年俸額の増減がメディアで取り上げられることから、おおよそのイメージはしやすいかもしれません。また、その影響で、「年俸制」が特別な職種に適用される給与体系と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、割合としては少ないものの、一般企業においても導入しているケースはあります。

では、「年俸制」とはそもそもどういった制度なのか、順にみていきましょう。

「年俸制」の概要

年俸制」とは、1年単位で給与の総額を決定する給与体系のことです。

一般的に、前年度の労働者個人の業績評価などをもとに、次の年度の給与額を決めます。そのため、年俸制は、個人の成果や能力が給与に反映される“成果主義”をとる企業・職種との相性が良いといえます。

例えば、プロのスポーツ選手やITエンジニア、また、人事評価において、年功序列や勤続年数等よりも、個人のパフォーマンスを重視する傾向にある外資系の企業で、導入されることが多いようです。

月給制との相違点

「年俸制」は1年単位の給与額が、「月給制」は1月単位の給与額が事前に決定しているという点が、大きな違いです。

つまり、年俸制は、年間の総収入額が事前に確定しているということになります。後述(<6-1-1 年途中の減額>)しますが、たとえ企業の業績に変動があろうと、事前の確定金額に影響することはありません。他方で月給制は、企業の業績によっては賞与が増減することなどが考えられるため、年間の総収入額が確定しません。

年俸制の対象者

いわゆる管理職の者から一般社員に至るまでのどの労働者も、年俸制の対象とすることは可能です。

ただし、年俸制は、労働者個人の実績等に応じて給与額を決定する仕組みであり、時間外労働の割増賃金の支払いを免れさせることにはなりませんので、労働時間に応じて給与が発生する労働者とは相性が良くありません。

そこで、時間外労働の割増賃金の支払いが不要とされる、あるいは原則発生しない、労働基準法上の“管理監督者”や裁量労働制等をとる労働者に対して導入されるケースが多いです。

年俸制と時間外労働(残業)の関係について、別途ページを設けて解説していますので、こちらも併せてご覧ください。

年俸制における残業代の支払い義務

労働基準法の適用

年俸制について、労働基準法上に特別な規定はありません。つまり、ほかの給与体系と同じように労働基準法が適用され、労働時間賃金等の制約を受けることになりますので、これらの管理は重要になってきます。

年俸制の導入方法

給与体系の変更は、労働者にとって大きな問題ですから、企業の独断で就業規則等を変更し、「年俸制」を導入するといったことはできません。では、どのような手続を経て導入を進めるべきでしょうか。

年俸制導入のための手続等については、別ページを設けて詳しく解説しています。導入にあたってのメリット・デメリットも記載していますので、導入をご検討の方はぜひこちらのページも併せてご覧ください。

年俸制を導入するにあたって注意すべきこと

年俸額について

年俸額の決め方に関する法規定はありませんから、年俸額の基準は企業によってまちまちです。

一般的には、就業規則等の賃金規程に定められた方法に則って計算するケースや、経営者が提示した年俸額に労働者が同意することで決まるケースなどが考えられます。

では、年俸制において「各種手当」、「割増賃金」、「賞与」、「退職金」の取扱いに何か影響があるのでしょうか。順にみていきましょう。

各種手当

家族手当や通勤手当などの各種手当は、法律で支給が義務付けられている費目ではありません。支給する予定であれば、就業規則等にその旨を明記する必要がありますし、すでに定めがある場合、企業には支払う義務が生じます。

各種手当の中でも、通勤手当の取扱いには注意が必要です。

通勤手当のうち、一定額までは非課税となりますが、その対象は“通常の給与に加算して受ける通勤手当”に限られます(所得税法9条5号)。つまり、「年俸額●円」+「通勤手当●円」といったように、年俸額とは別枠で設けている通勤手当を指します。

したがって、「年俸●万円(通勤手当を含む)」など、年俸額に通勤手当を含めて支給する条件で雇用契約を結んだ場合、非課税所得としては認められず、労働者に税負担が生じてしまいます。

通勤方法による非課税限度額の違い、そのほかの手当の課税・非課税に関する解説など、各種手当にかかる税金についての解説は、以下のページに譲ります。こちらもぜひご覧ください。

手当と税金の関係

割増賃金

年俸制は、労働時間ではなく、労働者個人の実績等に応じて給与額が決まる制度です。とはいえ、労働時間に関する法規制を受けることもすでに説明したとおりです。

年俸制を適用する労働者に対して「割増賃金」、いわゆる残業代を支払う必要はあるのでしょうか。

年俸制の割増賃金については、誤解や争いが多いテーマであるため、別途ページを設けて詳しく解説しています。ぜひこちらもご覧ください。

年俸制における残業代の支払い義務

賞与

「賞与」も「各種手当」と同様に、法的な支給義務がある費目ではないので、支給するかどうかは企業の自由です。制度として運用する場合には、就業規則等に賞与規程を設け、そのルールに則って支給します。

年俸制において賞与を支給する方法としては、主に次の2つのケースが考えられます。

(ア) 年俸とは別に賞与を支給するケース
年俸額を12等分した金額を毎月の給与として支給し、賞与は年俸とは別に考え、業績に応じて追加支給します。

(イ) 年俸に賞与を含めて支給するケース
例えば、年俸額を16等分し、16分の1ずつを毎月の給与として支給し、夏と冬に賞与として16分の2ずつ支給するといったように、賞与を年俸に含めて支給します。

以下のページでは、賞与の定義、賞与規程の内容によって異なる賞与の性質など、「賞与」の基礎知識について解説していますので、こちらもぜひご覧ください。

賞与に関する労働問題

退職金

年俸制でも、就業規則等で退職金支給の旨を定めて支給することもできますし、そのような規定を置かず、支給しないとすることも可能です。

「退職金制度」は法律で定められたものではないため、退職金制度を設けるかどうかは、各企業の判断で決められます。

退職金の意義や必要性、算定方法など、「退職金」にまつわる基礎知識を解説しています。ぜひこちらも併せてご覧ください。

退職金制度

給与の支払いにおける注意点

給与は毎月1回以上支払わなければならないという法律上のルールがあるため(労基法24条2項)、年俸制でも給与の総額を分割し、月給制の対象となる労働者の支給日に合わせて、毎月支払うのが一般的です。

1年単位で給与額が決定する年俸制ですが、それを一度にまとめて支払うわけではありませんので、注意しましょう。

なお、分割の割合については、単純に12分割としたり、賞与分を考慮して14分割、16分割としたりなど、企業が各々定めるルールによって異なるため、一概にはいえません。

以下のページでは、「毎月1回以上払いの原則」など、給与(賃金)の支払いに関する労働基準法上のルールについて詳しく解説していますので、こちらもどうぞご覧ください。

賃金の支払い

年俸額の更改

年俸額は、制度導入時に就業規則等に定めた年俸額に関する規定に沿って、労働者の同意を得たうえで1年ごとに更改します。更改によって、年俸額に変更がある場合について詳しくみていきましょう。

制度の導入時に就業規則に定める事項についての具体的な内容などは、「年俸制の導入」の解説に特化したページに記載していますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。

年俸制を導入するにあたって注意すべきこと

年俸額の減額

前年度の業績評価の結果が思わしくなかった労働者については、年俸額の改定にあたって、減額を検討することもあるかと思います。しかし、企業が一方的に給与額を変更することは許されず、労働者の同意があることが原則として必要です。

年途中の減額

年度の途中で、業績不振などを理由に年俸額を減額することは、契約違反にあたります。

年俸制の場合は、はじめに1年の年俸額に合意をしたうえで契約を結んでいるため、労働者の同意もなく、年度の途中に給与を減額することはできません。

また、“減額に同意しなければ解雇”などと、同意せざるを得ない状況をつくって得た労働者の同意は、労働者の自由意思に基づくものとはいえないため、法的に無効の扱いとなるおそれがあります。

年俸制の増額・昇給

年俸額の更改時には、増額を検討する可能性もあります。増額の場合も、就業規則等に定めた“年俸額を決定するための手続”に沿って行います。

なお、年俸額は、労働者個人の成果・実績に応じて1年ごとに増減する仕組みであるため、勤続年数等に応じて毎年基本給が増額する“定期昇給”はありません。

中途入社・中途退職の対応

中途入社

中途入社の場合、当該労働者の年俸は、入社日から次の更改日までの期間を年俸対象期間とするのが通例です。

例をあげると、本来の年俸対象期間が4/1から3/31であれば、入社日から3/31までの在籍期間をもとに年俸を決定しますが、その期間が極端に短い場合は、同水準の労働者の平均額を採用するなどの対応をとることもあります。企業側には、他の従業員と比較して、当該労働者が不利な状況とならないような配慮が求められます。

中途退職

年俸制を適用する労働者が中途退職した場合の給与は、退職日までの働いた期間に応じて日割りで支払います。一方、1年間の給与額が確定していたとしても、特段の定めがない限り、働いていない期間の分まで支払う必要はありません。

また、本来年俸制の契約は、労働者に1年を通して働いてもらうことを踏まえて締結しているため、例えば病気療養などの“やむを得ない”といえる理由もなく、やむを得ない事由が労働者の過失によって生じ、労働者都合で中途退職する場合には、労働者に対して損害賠償請求をすることも可能です(民法628条)。

欠勤控除の可否

年俸制において、労働者の都合による欠勤・遅刻・早退などがあった場合に、その欠勤等の分について給与から控除することは可能です。年俸額を所定の労働日数で割って日額を算出し、欠勤等に応じた日数分を控除する方法が一般的です。

もっとも、欠勤控除をするかどうか、また、その計算方法については、就業規則等で定められた内容に従うことになるため、欠勤控除を予定している場合には、就業規則を整備する必要があります。

 

遅刻・早退の計算方法や、計算で端数が出た場合の取扱いなど、「欠勤控除」についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

欠勤や遅刻・早退時の賃金控除

税金・保険料の取り扱い

一口に「年俸制」といっても、その支払方法には、毎月均等額を支給する方法、賞与を含み、年2回●ヶ月分支給する方法などいくつかの選択肢があり、どの方法をとるかによって、労働者にかかる税金や社会保険料の額が変わってきます。

例えば、月の手取り額が多いと、その分納める社会保険料も多くなります。その一方で、将来的に受け取れる年金額などが、納めた分だけ多くなります。

現在の負担が少ない方が良いか、将来の補償が少しでも多い方が良いかなど、何をメリット・デメリットととらえるかは労働者によって異なるため、一概にどちらが良いとはいえませんが、そのような影響があるということを覚えておきましょう。

年俸労働者の解雇

労働基準法の解雇予告の規定では、労働者を解雇する場合は、雇用形態を問わず、少なくとも30日前に予告するか、30日分の平均賃金を支払うこととなっています(労基法20条)。これは、労働基準法上の適用を受ける年俸制の労働者も同様です。

しかしながら民法の規定では、6ヶ月以上の期間で報酬を定めた契約を解除するときは、3ヶ月以上前に予告することとなっています(民法627条)。年俸制は1年間の報酬を定めた契約であるため、会社側の都合による解雇である場合には、労働者から3ヶ月分の給与相当の損害賠償請求がなされる可能性があります。このリスクを考慮すると、3ヶ月前に解雇予告することが堅実な選択といえるでしょう。

以下のページでは、解雇予告の方法や、解雇予告・解雇予告手当支給の対象にならない解雇事由などについて解説しています。こちらもぜひご覧ください。

従業員への解雇予告

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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