【働き方改革】36協定指針の要点・留意すべきポイントについて解説
この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲(東京弁護士会)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
36協定を締結し届け出ることによって、使用者は労働者に時間外労働をさせることができるようになりますが、そのためには、「対象となる業務の種類」や「1日、1ヶ月、1年当たりの時間外労働の上限」等を決める必要があります。こうした事項の取り決めにあたっては、厚生労働省から出された指針を踏まえて行うことが求められます。
では、この指針には具体的にどのようなことが定められているのでしょうか?以下、解説していきます。
目次
働き方改革の一環として36協定の締結に関する指針の策定
働き方改革の一環として、時間外労働に上限を設定する法改正がなされたことに伴い、厚生労働省から「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」(以下、「36協定指針」といいます)が策定されました。36協定の締結にあたっては、この36協定指針の内容に十分に留意することが求められます。
今回は、指針の目的や留意すべきとする具体的な内容等、36協定指針について解説しますので、36協定そのものの基礎知識や改正点に関して知りたい方は、下記の記事でご確認ください。
36協定指針の目的
36協定指針は、2019年4月以降、36協定で定める時間外労働に罰則つきの上限が設定されることに合わせて、時間外労働及び休日労働を適正なものにするために策定されました。指針には、36協定の締結にあたり留意すべき事項や、時間外労働等に係る割増賃金率、その他の必要事項等が定められています。
繰り返しになりますが、36協定の締結や細かな事項に関する協定を結ぶ際には、36協定指針の内容を踏まえることが望ましいとされます。
留意すべき事項等
時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめる
時間外労働や休日労働は、必要最小限に留めなければなりません。そのため、指針第2条では、36協定の締結の際には、使用者と労働者代表それぞれの責務として、時間外労働・休日労働の時間数や日数を最小限に設定するよう努める必要があるとされています。
安全配慮義務・長時間労働と過労死の関連性に留意する
指針第3条では、36協定の範囲内で労働させる場合でも、使用者は労働契約法5条に基づき安全配慮義務を負うことについて注意喚起しています。
また、併せて、労働時間が長くなるにつれて、業務と過労死の関連性が強まることも留意すべきポイントとしています。具体的には、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発1063号)において下記のように業務と過労死の関連性が評価されている点について、留意すべきであるとされます。
1週間当たり40時間を超えて労働した時間が、
- ・1ヶ月につき概ね45時間を超えた場合
⇒業務と、脳血管疾患及び虚血性心疾患の発症との関連性が強まる - ・発症前1ヶ月間に概ね100時間又は発症前2~6ヶ月間において1ヶ月当たり概ね80時間を超えた場合
⇒業務と、脳・心臓疾患の発症との関連性が強い
業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にする
36協定指針は、第4条において、36協定で定める時間外労働及び休日労働を行う業務の区分を細分化することにより、その範囲を明確にすべき義務を、労使ともに負う点に留意すべきであるとしています。
例えば、それぞれの製造工程で、各々独立して労働時間を管理しているにもかかわらず、「製造業務」とまとめるようなケースは、細分化が不十分であるといえます。
事情がなければ限度時間を超えることはできない
月45時間・年360時間の限度時間を超えて働かせることはができるのは、臨時的な特別の事情がある場合に限られます。つまり、原則として、限度時間を超えて働かせることは許されません。
そのため、指針第5条は、「臨時的な特別の事情がある場合」については、できる限り具体的に定めなければならない旨を周知しています。したがって、「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」等、長時間労働を常態化させるようなおそれがある内容にすることは認められません。
また、限度時間を超えて働かせる場合でも、①1ヶ月の時間外労働・休日労働の時間、②1年間における時間外労働時間については、可能な限り限度時間に近づけた時間数で設定するよう努めることが求められる旨も留意すべきポイントとされています。
さらに、限度時間を超える時間外労働に対する割増賃金率に関して、25%を超えたものに設定しなければならない旨についても留意するよう、指針上定められています。
1ヶ月未満の期間で働く労働者の時間外労働は目安時間を超えないよう努める
指針第6条によると、以下のように、1ヶ月未満の期間で働く労働者の時間外労働の目安時間が定められています。36協定の締結の際には、当該労働者が目安時間を超えて時間外労働をすることがないよう、設定する必要があります。
- ・1週間:15時間
- ・2週間:27時間
- ・4週間:43時間
休日労働をできる限り少なくするよう努める
指針第7条は、36協定で休日労働について定める際には、休日労働の日数及び時間数を最小限にするべく努める旨について、労使ともに留意するよう定めています。
労働者の健康・福祉を確保する
指針第8条では、限度時間を超えて働かせる労働者に対して、健康及び福祉を確保するための措置(健康確保措置)を講じる必要がある旨を留意させています。使用者及び労働者代表者は、可能な限り、以下の措置の中から健康確保措置として講じる措置を選択したうえで、協定を締結することになります。- 1 特定の労働者に対する、医師による面接指導の実施
- 2 深夜労働(22時~翌5時)の回数制限
- 3 勤務間インターバル制度の導入
- 4 労働者の勤務状況及び健康状態に応じた、代償休日・特別休暇の付与
- 5 労働者の勤務状況及び健康状態に応じた、健康診断の実施
- 6 まとまった日数連続して取得することを含めた、年次有給休暇の取得の促進
- 7 心とからだの健康問題に関する相談窓口の設置
- 8 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮した、適切な部署への配置転換
- 9 産業医等による助言・指導や保健指導
限度時間の規制が適用除外・猶予されている事業・業務
指針第9条では、限度時間の規制が適用されない・猶予される事業・業務に関して留意すべき旨が定められています。詳しくは、対象となる事業・業務であっても、限度時間を考慮すると同時に、健康・福祉の確保に努める必要があるとされます。
例えば、限度時間の規制が適用されない新技術・新商品の研究開発業に関しては、限度時間を考慮することが望ましく、時間外労働が限度時間を超える場合には、健康福祉措置の設定に努める必要があるとされます。
また、限度時間の規制が猶予される事業・業務に関しては、猶予期間内で36協定を締結するケースでも、限度時間を考慮することが望ましいと考えられています。