障害者の採用

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
社会的な課題である【障害者雇用】の促進ですが、「どのように募集や採用を行うのがベターか?」、「一般の従業員と業務や待遇について区別してもいいものか?」といった疑問を解決できないため、対策に乗り出せていない企業もあるのではないでしょうか。
まずは、このような疑問をひとつひとつ解決していくことから始めましょう。
このページでは、障害者雇用の「募集・採用」のステップにおける、障害者雇用“ならでは”の留意点などを中心にお伝えしていきます。ぜひ、一般の「募集・採用」とはどのような点が異なるのかに着目しながらご一読いただければと思います。
障害者の採用について
障害者雇用促進法に基づく「障害者雇用率制度」によって、事業主は、常用雇用労働者のうち、法律で定められた割合(=法定雇用率)以上の障害者を雇用するよう義務付けられています。
令和3年3月に法定雇用率が引き上げられたことを受けて、特に障害者雇用への取り組みが十分でない企業については、積極的に障害者雇用率を上げるための対策を検討する必要があります。
では、具体的に障害者を雇用するための採用活動をどのように進めていくべきか、順を追って確認していきましょう。
なお、【障害者雇用】に関する基礎知識や、「障害者雇用率制度」の概要等について先に確認したいという方は、以下のページを参考になさってください。
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障害者の採用方針・採用計画
障害者の採用計画は、策定した企業全体の長期(3年~5年)採用計画の中に組み込む形で、業務の遂行に必要な人数は何人か、また、法定雇用率の達成までに必要な人数は何人かといったところから検討します。そのうえで、身体障害・知的障害・精神障害と、それぞれの特性に合わせた職種と、人員の配置を考えます。
なお、これから障害者雇用の取り組みに着手する企業では、どの職種に、どんな特性を持つ障害者を、何人採用すべきか、年度ごとに計画を立てることが望ましいでしょう。
配属部署・職務の選定
法定雇用率の達成は、意識すべき大切な目標です。しかし、採用人数を重視するあまり、採用した障害者と配属先・担当職務とのミスマッチが多く、継続雇用に繋がらないというのであれば、障害者雇用に対する問題の本質的な改善には至りません。
したがって、担当職務等を先に選定したうえで、障害の特性や必要とする能力、企業が提供できる配慮等のポイントを踏まえ、その職務に適した人材を募集することができる方針をとるようにしましょう。
なお、担当職務等の選定方法は、大きく分けて次の2パターンが考えられます。
- 職場環境の整備、必要なシステム・ツールの導入、研修の実施等を前提に、既存の職務から選び出す方法
- 障害者が従事可能な、新たな職務を作り出す方法
雇用形態の検討
障害者雇用率にカウントされるのは、“常用雇用労働者”として採用した障害者に限られます。
“常用雇用労働者”とは、雇用期間の定めがない「正社員」や、雇用期間の定めはあるものの、1年以上の雇用が見込まれる「契約社員」、「嘱託社員」等を指します。また、労働時間や障害の程度もカウントの方法に影響します。障害者雇用率が課題となっている企業は、特に、この点を考慮して雇用形態を検討する必要があるでしょう。
障害者雇用率算定時の、障害者のカウント方法については、以下のページで詳しく解説していますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。
では、雇用形態について、もう少し掘り下げてみてみましょう。
短時間労働者
「短時間労働者」とは、“常用雇用労働者”のうち、週の所定労働時間が20時間以上、30時間未満の労働者を指します。そこで、障害者雇用率制度の対象となっている障害を有する従業員を採用する場合でも、20時間未満の労働時間で雇用契約を締結している場合には、“常用雇用労働者”にカウントされません。
在宅勤務者
雇用保険の被保険者としての資格を有しているなど、一定の要件を満たす「在宅勤務者」も、障害者雇用率算定時に“常用雇用労働者”としてカウントされます。
障害者の在宅勤務については、別途ページを設けて詳しく解説しています。障害者雇用率制度の対象となる「在宅勤務者」の要件などについて知りたい方は、以下のページをご覧ください。
障害者トライアル雇用
障害者雇用の実績が少ない、あるいはほとんどないという企業では、「障害者トライアル雇用」の活用が有用です。原則3ヶ月の試行雇用を経て、常用雇用に移行した場合には、雇入れ時に遡って障害者雇用率の算定の基礎となる“常用雇用労働者”に算入できます。
「障害者トライアル雇用」制度については、別途ページを設けて詳しく解説しています。雇入れの条件など、制度の概要について知りたい方は、以下のページをご覧ください。
配属先・組織形態の検討
“障害者が働きやすい環境”という観点から、一般部署における雇用だけでなく、「集合配置型」での雇用も検討することが有用です。
「集合配置型」とは、複数人の障害者を一所で雇用する方法で、一般部署に比べ、障害特性の知識を有する管理者のもと、特性に応じた配慮業務に取り組んでもらうことができます。このように、就業組織には、障害特性に応じた雇用が実現できるようさまざまな形態があり、「集合配置型」を採用する例としては『特例子会社』、『企業内障害者センター』などがあげられます。
特例子会社
『特例子会社』とは、障害者雇用の促進を目的として、事業主が障害者の雇用について特別な配慮をして設営した子会社を指します。
以下のページでは、「特例子会社制度」について説明していますので、ぜひご覧ください。
事業協同組合
中小企業で、『特例子会社』の設置が困難な場合には、『事業協同組合』のほか、水産加工業協同組合、商工組合、商店街振興組合を活用し、共同で障害者雇用に努めるという選択肢があります。一定の要件を満たすことで、『事業協同組合』等と、その組合員にあたる中小企業とで実雇用率の通算ができます。
重度障害者多数雇用事業所
重度の身体障害・知的障害・精神障害者の雇用拡大を目的として、重度障害をもつ従業員を10人以上継続雇用しているものと認定できる事業主が、重度障害者の雇用割合を全従業員の20%以上とする等の要件を満たしているときには、税制上の優遇措置や施設設備の整備等のために、費用の一部を助成してもらうことができます。
企業内障害者センター
『企業内障害者センター』は、『特例子会社』のように企業の外ではなく、企業内における「集合配置型」です。具体的には、障害者雇用の担当部署の中に、障害がある従業員が取り組める業務を集め、組織化するもので、労務管理、業務の進捗管理をするうえで効率的といえます。
賃金の設定
障害があるということだけを理由に、一般の従業員と、人事評価の基準、賃金決定の方法等を変える必要はありません。企業ごとのルールに基づき、労働法関連の範囲内で、一般の従業員と同様の賃金体系にて決めることができます。
つまり、障害があるからといって最低賃金を下回って良いということはありませんし、障害の程度に応じた一定額を支給するのではなく、人事評価制度に則り、業務の成果を賃金額に反映するといったことも大切です。
なお、障害がある従業員に最低賃金を適用することがかえって公平性を欠く場合には、「最低賃金の減額特例許可制度」の利用ができる可能性があります。事業主には、こういった制度・措置等を把握したうえで、適切な手続を踏んで賃金の設定を行うことが求められます。
「最低賃金の減額特例許可制度」について知りたい方は、以下のページをご覧ください。
就業規則等の整備
特に、障害者雇用についての取り組みが“これから”という会社では、既存の就業規則等に障害者を雇用するうえで必要なルールが定められていないことが考えられますので、整備が必要になってきます。
どのようなことに注意して定めるべきルールを決定するのか、詳しくは以下のページをご覧ください。
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障害者の募集方法
自社ホームページ等による募集
1つ目は、自社で運営するホームページに障害者雇用に関する求人情報を掲載する方法です。
自社の従業員で対応できる方法で、広告を打ち出すための費用がかからないため、採用コストを抑えて募集活動を行うことができます。
自社ホームページからの応募者は、その業種や業界、ひいては応募企業に対する興味関心が高く、志望度も高いことが期待できる一方で、多くの方に広く見てもらって求人を行いたいという場合には不向きともいえます。
ハローワークによる職業紹介
2つ目は、ハローワークの「障害者雇用枠」で募集を行う方法です。
ハローワークには、障害者雇用に関する専門的な知識がある職員が在籍しており、障害をもつ求職者が、自身の障害特性や希望職種にマッチした求人情報を探すための相談を受ける専門窓口があります。そのため、障害者雇用を予定している会社としては、ハローワークに事業所登録し、求人情報を掲載してもらうことで、障害を持つ多くの求職者の目に触れる機会を作ることができるといえます。
また、ハローワークの企業に対する支援も充実しており、必要な助言や専門機関の紹介、雇用制度の活用により助成金の支給を受けられるといったこともメリットです。
民間職業紹介
3つ目は、国が管理するハローワークとは別に、厚生労働大臣の許可を受けた民間職業紹介事業者に障害がある求職者を紹介してもらうという方法です。
就労支援・訓練機関や特別支援学校
4つ目は、就労支援・訓練機関から支援あるいは訓練を受けている方、また、特別支援学校の生徒を対象に募集する方法です。各機関と連携し、企業と障害者との相互理解を深めるため、主に企業における実習を中心に採用活動を行うことになります。
障害者を対象とした合同面接会
ハローワーク主催の職業面接会もありますが、民間職業紹介事業者が主催する合同面接会、就活イベント等にて、就職を希望する障害者を対面で紹介してもらうというのが5つ目の方法になります。
文書募集
6つ目の方法となる文書募集とは、新聞・雑誌・チラシなどに広告を掲載したり、不特定多数の者に配布したりすることによって労働者を募集する方法です。
“不特定多数の者の目に触れる”というところで、テレビやラジオ、インターネット等を利用した募集も、文書募集のうちに含まれます。
障害者の選考・面接
選考方法
選考方法には、筆記試験、面接、適性検査などが考えられます。
特に、障害者雇用では、一般雇用のように本人の性格・意欲・関心を推し量るだけでなく、障害によって実際にどの程度業務に支障があるのか、どのような「合理的配慮」を必要とするのかといったことを把握すべきであり、対面面接や職場実習棟による適性検査が重要になってきます。
実習・インターンシップによる選考
実習やインターンシップを行うことで、筆記試験や採用面接では見えてこないところも確認することができます。
例えば、実際に仕事を体験してもらう中で、ほかの従業員とのコミュニケーションの取り方を把握することが可能となり、より具体的に業務適性について検討したうえで採否を決められる、あるいは配置検討の判断材料とすることができるというメリットがあります。また、障害者としても、あらかじめ職場の環境や業務内容について把握することができるため、双方のミスマッチを防げるというわけです。
面接で確認すべき事項
面接では、障害の特性や業務への制限、サポートが必要となる事項など、障害者を雇用するうえで必要な情報を確認します。
例えば、障害者手帳等の交付を受けている※1かどうか、つまり、障害者雇用率のカウント対象となる“障害者”に該当するかどうか、障害がある部位、障害を負った原因、等級や今後等級が変わる見込み、通院や服薬等の必要性・頻度、また、業務だけでなく食事、移動等において障害者本人が企業側に希望する配慮なども、確認しておく必要があるでしょう。
※1:障害者手帳等の交付がなくても障害者雇用率のカウント対象となるケースもあります。
面接時の配慮
障害者に対する配慮は雇用後のみならず、採用面接のときも必要です。障害者の要望と、企業の“過重な負担”にならない範囲とを面接の前にすり合わせ、障害の特性に応じた配慮を提供します。
例えば、聴覚障害をもつ求職者であれば、「手話」、「口話」、「筆談」など、本人が最もコミュニケーションをとりやすい方法を確認します。さらに、「手話」であれば通訳の導入を、「口話」であれば口・表情の動きがわかるような工夫や話すペースの調整を、「筆談」であればコミュニケーションボードの用意や簡潔かつ的確に伝わる文章での会話を心がけるといったことが考えられます。
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障害者の採用における配慮
障害者に対する差別の禁止
従業員の募集・採用に際し、“障害者であること”を理由に不当な差別をすることは禁止されています(障害者雇用促進法34条)。
例えば、応募を受け付けない、一般の従業員に比べて不利な労働条件を設定する、一般の従業員を優先して採用するなどの事態が、“障害があること”に託けられるのは、不当な差別にあたるものと考えます。
障害者に対する差別については、別途詳しく解説したページを設けていますので、ぜひこちらも併せてご覧ください。
障害者に対する合理的配慮
合理的配慮とは、障害がある人、そうでない人を平等に扱ううえで支障となる事情がある場合に、その改善・調整をするための措置を指します。
事業主には、「障害者に対する合理的配慮」の提供が義務づけられています。この義務は、募集・採用のタイミングにも及びます(障害者雇用促進法36条の2)。
以下のページでは、“合理的配慮”の内容を決定する手続の流れなどの解説をご覧いただけます。ぜひ参考になさってください。
プライバシーへの配慮
採用活動にあたって、企業が応募者の障害の有無、程度等の情報を把握・確認する場合には、プライバシーへの十分な配慮が必要になります。そこで、厚生労働省が作成した「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」が有用です。
このガイドラインについて詳しく解説したページはこちらになります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある