休職制度と休職規定

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
労働政策研究・研修機構の調査(2013年)によると、通常の年次有給休暇以外で、連続して1ヶ月以上、従業員が私傷病時に利用できる休職制度があるのは、全体の91.9%に達していたようです。
そして、同調査によると、休職者が1人以上いる企業の割合は52.0%となっており、多くの会社において、休職制度が活用されているといえます。
しかし、休職制度を設ける多くの企業においては、ノーワーク・ノーペイの原則から、休職期間中の給与等については、支給しないこととされています。
不適切な休職制度の運用は、後に、従業員との紛争の火種となりかねません。そこで、本稿では休職制度の概要について、基本的な事項を踏まえつつ解説していきます。
目次
休職制度を設ける意義
休職制度とは、従業員を就労させることが適切でない場合に、会社が、当該従業員の就労を一時免除又は禁止する制度のことをいいます。
休職制度の代表的なものとしては、業務上以外の理由で負傷したり病気になったりした場合に利用される傷病休職があります。
私傷病の場合には、業務上の災害(労働災害)とは異なり、休職する権利が法的に保障されているものではないため、従業員が、私傷病で休業する場合には、休職しない限り、基本的に欠勤扱いとなってしまいます。
このほか、出向時等、給与を発生させずに会社との労働契約を維持させることを目的として、休職制度が活用される場合があります。
なお、多くの就業規則においては、休職期間の満了により、当然に退職する旨の規定が設けられています。つまり、休職制度は、業務外の傷病により出勤ができない従業員に対する解雇の一手段として用いられる場面もある(この場合の休職のことを、“解雇の猶予措置”と呼んだりします。)ということです。
法律上、休職に関する定めは無い
業務上災害の場合には、会社は、従業員に生じた負傷又は疾病の療養を行う義務を負っており(労基法75条1項)、従業員が療養のために休業する際には、当該従業員に対して、給与の60%に相当する休業補償を支払う義務も負っています(労基法76条1項)。
そして、業務上災害による負傷又は疾病の療養のために休業する期間に加え、療養期間が終了してから30日間は、会社は、当該従業員を原則として解雇することはできない(労基法19条1項)とされています。
しかし、上述のように、私傷病等の場合には、業務上災害の場合におけるような、従業員に対する労働基準法上の保護はないことから、従業員が、私傷病で休業する際には、会社は給与を支払わないで良いほか、法的な解雇制限があるものでもありません。
就業規則における休職規程の必要性
休職制度については法律で定められているものではないため、会社と労働者との間の契約において設けられるものです。
その設定の方法としては、個別の労働契約書に記載する方法も考えられはしますが、基本的には各会社に定められている就業規則に記載する方法が適切と考えられます。
なぜなら、休職に関して定めるべき事項は、後述のようにいくつもあることから、各労働契約書に記載することは煩雑ですし、休職制度を変更する際に、各労働契約書の内容を書き替えなければならないとすることは現実的ではないからです。
また、休職制度を、解雇の猶予措置として活用する場合、解雇は、当該従業員との契約関係を終了させることから、その合理性が厳しくみられるため、休職の要件やその期間の合理性を担保する必要があります。
そうすると、休職制度は、就業規則に定められておくべきものといえるのです。
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欠勤や休業との違い
これまで見てきたように、休職とは、従業員を休ませるということなのですが、これは、よく耳にする“休業”や“欠勤”とは違う概念です。
休職は、会社が従業員の就労を一時免除又は禁止することをいい、当該従業員の労働義務を免除するものです。
一方、“休業”や“欠勤”は、従業員が、会社との契約上労働義務を負う時間について労働をしないことをいうこため、前提が異なります。
“休業”に関して、業務上災害を含む会社側の都合によって生じる休業については、休業補償を支払う必要がある等、様々な労働基準法上の規制があります。
休職規程に定めるべき事項
休職規定には最低限、以下の事項を定めることが必要です。
- ・休職の要件(休職事由)
- ・休職の期間
- ・休職期間中の給与の扱い
- ・復職に関するルール
次項より、詳細な内容を確認していきましょう。
休職事由
- ・傷病休職
-
業務に関係のない負傷や疾病(私傷病)により休職することをいいます。
詳しくは以下のページで解説をしています。
- ・自己都合休職
-
従業員の都合で利用する休職をいいます。
従業員からの申し出により、使用者が承諾することで実施されます。
- ・起訴休職
-
従業員が起訴されてしまった場合に活用される休職をいいます。
もっとも、従業員が単に起訴されてしまっただけでは休職とすることはできないと考えられており、①当該従業員が出社することによって、会社の信用が毀損されるおそれがあったり、当該従業員の職務遂行が難しいといったりする場合や、②身体拘束により、現実に出社することが困難である場合のいずれかの事情が認められなければならないと考えられています。
- ・出向休職
-
従業員が別の会社に出向する場合に活用される休職をいいます。
従業員を自社に在籍させつつ、給与の支払いをしない場合に活用されます。
- ・組合専従休職
-
従業員が、労働組合の業務に専従する場合に活用される休職をいいます。
会社が在籍専従者に給与を支払うことは、労働組合に対する経理上の援助にあたり、労働組合法で禁止されているため、休職が活用されます。
- ・公職就任休職
-
従業員が公職(議員等)に就任した場合に活用される休職をいいます。
公職就任をした従業員については、その就任のために業務に支障をきたす程度によって、解雇や休職といった対応をとる必要が生じます。近年では、裁判員裁判に参加する期間について、休職を用意する企業も出てきています。
- ・事故欠勤休職
-
従業員が傷病休業以外の事情で、従業員側の都合(事故)により欠勤が続く場合に活用される休職をいいます。
従業員側の落ち度が認められるような場合に、解雇の猶予措置として活用されることが想定されています。
- ・留学休職
-
従業員が会社に認められて留学等を行う場合に活用される休職をいいます。
留学終了後、同じ会社での勤務を希望する従業員が活用することが想定されます。
休職の適用対象者
従業員に、就業規則上の休職事由が認められると、当該従業員は、休職の適用対象者となります。
もっとも、休職は、“解雇の猶予措置”との一面もあることから、就業規則上の要件に形式的に該当するだけでなく、実質的にも、“当該従業員を就労させることが適切でない”といえることが必要であると考えられます。
休職期間
休職制度には、上述のように様々な場面で活用されるものであることから、その目的に応じた休職期間の定めをしておく必要があります。
詳しくは以下のページで、解説を行っています。
休職期間中の給与・賞与
休職中の従業員の取扱いについては、特に法的な規制があるものではありません。しかしながら、休職期間中といえども、賃金をはじめとする処遇は従業員にとって最大の関心事であるといえます。
では、どのようなルールを定めるべきでしょうか。
詳しくは以下のページで、解説を行っています。
傷病手当金について
傷病手当金とは、従業員が、業務外に負傷や病気となってしまった場合に、健康保険から受け取ることのできる手当金のことをいいます。傷病に関する診断書の提出や使用者による証明等の手続も必要となります。詳しくは以下のページで、解説を行っています。
社会保険料・住民税の納付義務
休職中の従業員については、給与を支払わないとしている会社も多いですが、厚生年金や健康保険料といった社会保険料の納付義務は免れられません。これらの費用に関する労働者負担部分の取扱いを定めておかなければ、休職期間中、使用者が負担し続けることになりかねず、休職後退職に至った場合にはその回収も企業にとっては負担になります。
詳細については、以下のページからご確認ください。
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休職手続きの流れ
・従業員に休職事由があると考えられる事情を把握した場合には、その事情について、確認するところから始めるべきでしょう。
具体的には、それぞれの休職事由によりますが、本人や直接の上司への聞き取りを前提に、例えば傷病休職の場合には、医師の診断書を提出させ、休職が必要となる期間を把握する必要もあると考えられます。
・休職事由が確認できれば、休職期間を設定する必要があります。休職事由や医師の診断書に応じた、合理的な休職期間を設定する必要あります。
・休職期間が決定すれば、その内容を記載した、休職通知を従業員に交付すべきです。いつからいつまでが休職期間であるかを従業員に明示することは、後に紛争となった場合に、重要な事実関係となると考えられるからです。
休職者の復職を支援する「リハビリ出勤制度」
休職中の従業員が復職しようとする場合に、“リハビリ出勤制度”が活用される場合があります。休職明けの従業員が、すぐさま連続勤務の生活リズムに対応できない場合もあることから利用される制度です。
詳しくは以下のページをご覧ください。
休職期間満了時の退職及び解雇について
休職制度の多くには、休職期間満了時において従業員が復職できない場合に、当該従業員は当然に退職する旨の定めが設けられています。
その場合の退職が、有効と判断されるためにはいくつかのハードルがあります。
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある