退職と解雇の違い|種類や企業の注意点などをわかりやすく解説

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
退職と解雇は、従業員が会社を離れる点では共通しますが、法律上はまったく異なる制度です。
退職は、基本的には、従業員の意思によるもので手続きもシンプルですが、解雇は会社が一方的に契約を打ち切る行為であるため、厳しい要件を満たす必要があります。さらに、退職・解雇にも種類があり、それぞれ注意すべきポイントが変わります。
これらを理解せずに解雇などを行うと、従業員の生活などに深刻な影響を与えるだけでなく、会社も法的責任を問われる可能性があるため注意が必要です。本記事では、退職と解雇の違いや、会社が押さえるべき法律上のポイントについて解説します。
目次
退職と解雇の違い
退職と解雇は、どちらも労働契約を終了させる点では同じですが、その意味合いは大きく異なります。退職は、基本的には、従業員が自分の意思で会社を辞める手続きであり、退職届や退職願を提出することで労働契約が終了します。
一方、解雇は会社が一方的に労働契約を終了させるもので、従業員の同意がなくても成立します。解雇の場合には、その解雇理由の正当性をめぐってトラブルになりやすいため注意が必要です。
退職とは
退職とは労働者と会社との労働契約が終了することをいい、その理由によって、会社都合退職と自己都合退職に分けられます。
会社都合退職は、経営悪化によるリストラなど、会社側の事情で退職することをいいます。
一方、自己都合退職とは、転職や家庭の事情など、従業員の判断で退職することです。
両者では失業保険の扱いに大きな違いがあります。
会社都合退職では、7日の待機期間後すぐに失業手当の給付が始まり、給付日数も長くなるのが一般的です。一方、自己都合退職は、待機期間に加えて原則1ヶ月の給付制限があるため、受給開始が遅くなります。
具体的な違いについては、下表をご覧ください。
| 会社都合退職 | 自己都合退職 | |
|---|---|---|
| 解説 | 主に会社側の事情により従業員が退職すること | 主に会社とは無関係な従業員側の事情により退職すること |
| 失業保険の 待機期間 |
7日間 | 7日間+1ヶ月 (2025年4月より1ヶ月に短縮) |
| 給付日数等 | 90日~330日 | 90日~150日 |
| 受給条件 |
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| 退職理由の例 |
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自己都合退職や会社都合退職について詳しく知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
解雇とは
解雇とは、会社が従業員の意思に関係なく、一方的に労働契約を終了させることをいいます。従業員に大きな不利益が生じるため、正当な理由や適切な手続きが求められ、これらを欠くと無効と判断される可能性があります(労働契約法16条)。
一方、退職勧奨は、会社が従業員に退職してはどうかと提案する行為です。応じるかどうかは従業員の自由であり、納得できなければ退職する必要はありません。ただし、無理やり退職を迫ると、退職の強要であるとして争いとなるおそれがあります。
また、従業員が退職願を提出したとしても、その背景に退職勧奨があれば、会社都合退職として扱われる例が多いです。自己都合退職として扱うと、失業保険の受給などで従業員に不利益が生じ、トラブルとなる可能性があるため、退職の際には、退職理由などについて定めた退職合意書を締結するなどして、トラブルの発生を防止する措置を取るように注意しましょう。
退職勧奨についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの解説をご覧ください。
退職の種類
退職は、「自主退職」「合意退職」「自然退職」の3つに区別することができます。
自主退職
自主退職とは、従業員が自分の意思で会社を辞めることをいいます。転職のために職場を離れたり、結婚や妊娠など家庭の事情で退職したりするケースが典型的です。
なお、似た言葉に「辞職」がありますが、これは主に取締役や管理職など役職者が退任するときに用いられる表現です。一般の社員については「退職」というのが一般的です。
なお、労働者には退職する権利が法律によって認められています。正社員など期間の定めのない雇用契約で働いている場合には、退職の意思を会社に伝えてから2週間が経過すれば、法的には、会社が同意しなくても退職することが可能です(民法627条1項)。
合意退職
合意退職とは、労働者と使用者の意思表示の合致によって労働契約が終了することをいいます。具体的には、希望退職募集制度による早期退職や、退職勧奨による退職等です。労働者側の都合によるケースもあれば、使用者都合に近いものもあります。
なお、「依願退職」という退職方法もありますが、これは従業員が退職を申し出て、使用者側と合意するものです。
自然退職
自然退職とは、ある条件に該当したときに、労働者や会社の意思に関係なく、労働契約が終了することをいいます。代表的な条件として、契約期間の満了、定年、休職期間の満了、労働者本人の死亡などがあげられます。
このうち定年制度は、あらかじめ定めた年齢に達したときに労働契約が終了する制度です。
高齢者雇用安定法では、定年を原則60歳以上とすることが定められています。さらに、希望する従業員が65歳まで働けるようにするため、会社に対して、以下のいずれかの措置を講じることを義務づけています。
- ①定年制そのものの廃止
- ②定年年齢を65歳以上に引き上げる
- ③継続雇用制度を導入する
加えて、70歳までの定年延長についても努力義務が課されており、より長く働ける環境づくりが求められています。定年制について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
解雇の種類
解雇は、主に「普通解雇」「懲戒解雇」「整理解雇」の3種類に分けられます。
これらについて、就業規則において解雇事由や解雇ができる条件をそれぞれ定める必要があるでしょう。
特に懲戒解雇については、懲戒解雇事由などを就業規則で定めておかなければ、解雇が無効と判断される可能性が高いです。また、これら3つの解雇は実務上、線引きが曖昧になりやすく、会社と労働者の認識が食い違うとトラブルに発展するおそれもあります。そのため、解雇の種類や要件などを明確にし、双方が正しく理解できるようにしておくことが重要です。
普通解雇
普通解雇とは、従業員の能力不足や協調性の欠如等の事由があるときに、使用者が一方的に労働契約を解約することをいいます。
普通解雇が可能となる要件として、正当な解雇事由があること等が挙げられます。正当な解雇事由には能力不足等が該当すると考えられますが、「営業成績が部署で一番低い」といった理由があれば、すぐに能力不足と断定できるわけではありません。
法律上、明確な基準があるわけではありませんが、どれだけ指導しても改善されず、今後も改善する見込みがなく、他の部署に異動できる可能性もない場合等の事情が求められており、解雇の有効性は極めて厳格に判断されます。
普通解雇する方法について詳しく知りたい方は、こちらの解説をご覧ください。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、会社がルール違反行為をした従業員に対するペナルティとして解雇する処分です。従業員が業務上横領等の重大な背信行為をした場合や、繰り返し指導してもセクハラやパワハラを繰り返す場合等、会社の秩序を乱す行為をしたときに懲戒解雇を下すことが考えられます。
この処分は、懲戒処分の中でも最も重い処分とされているため、有効性について極めて厳しく判断されます。会社のお金を横領する等の行為であれば有効とされるケースが多いですが、そうでなければ軽い懲戒処分を行って指導する等の対応が必要となるケースも少なくありません。
懲戒解雇について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
整理解雇
整理解雇とは、会社の経営が苦しくなったこと等により、人員削減のために行う解雇のことです。
使用者側の事情による解雇となるため、裁判例において、有効になる要件が挙げられています。
- ①人員削減の必要性
- ②解雇回避の努力
- ③人選の合理性
- ④解雇手続の妥当性
以上の要件等を踏まえて、整理解雇の有効性について、厳しく判断することになります。
なお、整理解雇についてより詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
退職・解雇に関する注意点
退職や解雇をめぐるトラブルは、会社と従業員の双方に大きな負担をもたらします。その多くは、法律上のルールや必要な手続きを十分に理解していないことが原因で起こるため、事前に注意点を押さえておくことが大切です。
特に注意して確認すべきなのは、以下の2点です。
- 退職に関する事由や解雇事由は就業規則に明記する
- 解雇権の濫用にあたる場合は解雇が無効とされる
退職に関する事項や解雇事由は就業規則に明記する
就業規則には、退職に関する事項や解雇の事由について、必ず明記する必要があります。
労働基準法では、会社に対して「絶対的必要記載事項」という、就業規則に絶対に記載しなければならない事項を明記するよう定めています。
「絶対的必要記載事項」には、労働時間、賃金、退職(解雇事由を含む)に関する内容等、労働条件として特に重要な内容が含まれています。退職を有効に成立させるためには、理論上当然に労働契約が終了すると判断できるような場合を除き、就業規則において、絶対的必要記載事項として、これを明記しておくことが必要といえます(労基法89条)。
労働基準法
(作成及び届出の義務)第89条常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
3 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
就業規則への記載方法について詳しく知りたい方は、こちらの解説をご覧ください。
解雇権の濫用にあたる場合は解雇が無効とされる
解雇に関して特に重要なのが、「解雇権の濫用にあたる場合は解雇が無効になる」という原則です。
これは、会社が不適切な理由で従業員を解雇することを防ぐために設けられた法律上のルールです。
解雇が正当と認められるためには、客観的に合理的な理由があることに加えて、世間一般の感覚からしても妥当だと判断できる必要があります。この考え方は裁判例を通じて確立され、現在では労働契約法16条にも明確に規定されています。
つまり、会社が従業員を解雇する場合、その理由や手続きが適切でなければ、解雇が無効となる可能性があるため注意が必要です。解雇を検討するときは、法的に求められる基準を満たしているかどうかを慎重に確認することが欠かせません。
退職・解雇時に使用者が負う義務
会社が従業員を解雇する際には、法律上いくつかの重要な義務を負っています。主なものとして、以下の3つがあげられます。
- 退職金の支給義務(就業規則の規定がある場合)
- 解雇予告・解雇予告手当の義務
- 退職証明書・解雇理由証明書の交付義務
これらの義務を正しく履行していないと、従業員との間でトラブルに発展するおそれがあるため注意が必要です。以下で、それぞれの義務について詳しく解説します。
退職金の支給義務
就業規則に、退職者に退職金を支給する旨の規定がある場合には、従業員を解雇する場合であっても、退職金を支給する義務は基本的に消滅しません。しかし、就業規則に特別な規定があり、従業員に周知されていれば、退職金を支給する義務が免除される可能性があります。
例えば、就業規則に「退職金は、懲戒解雇された従業員には支給しない」と明記してある場合には、懲戒解雇した従業員には支給せずに済む可能性があります。ただし、その場合であっても、退職金の全額を不支給にするためには、これまでの功績を打ち消すような重大な行為をしたことが要件となります。
なお、退職金制度が就業規則に記載されておらず、社長等の独断で報奨金等として支払っていたケースでは、退職金を支払わない従業員がいても問題ないと考えられます。
退職金制度について、さらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
解雇予告・解雇予告手当の義務
解雇予告とは、労働者を解雇する場合に、使用者(会社側)は、少なくとも30日前にその予告をする義務をいいます(労基法20条)。
労働基準法
(解雇の予告)第20条使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
また、解雇予告手当とは、解雇予告から解雇するまでの期間が30日未満である場合に支払いが必要となる、満たなかった日数分の平均賃金のことをいいます。
解雇の予告をしない場合は、解雇と同時に30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりません。ただし、除外認定を受ければ、解雇予告手当を支払う必要はなくなります。
除外認定も含めて、解雇予告についての詳しい解説は、以下のページをご覧ください。
退職証明書・解雇理由証明書の交付義務
退職証明書とは、従業員が会社等を退職したことを証明する書類です。また、解雇理由証明書とは、会社等が当該従業員を解雇した理由を記載した書面です。
労働者が退職する際には退職証明書を、労働者を解雇する際には解雇理由証明書を交付するように求められることがあり、請求された場合には、遅滞なく交付する必要があります(労基法22条)。
労働基準法
(退職時等の証明)第22条1 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
退職証明書は、労働者が退職した後のみ請求できますが、解雇理由証明書は、解雇予告をした時点で請求されることが多いです。そのため、解雇を伝える前に事前準備をしておくことが望ましいでしょう。
なお、退職証明書や解雇理由証明書の詳細については、以下のページをご覧ください。
退職・解雇時に労働者が負う義務
退職や解雇により会社を離れた従業員について、退職後も負わせることが望ましい義務があります。
代表的なものとして、以下があげられます。
これらの義務は、会社が業務を円滑に進めるだけでなく、情報漏えいや競業による損害を防ぐうえで欠かせないものです。しかし、明確なルールがなければ、従業員に強制することは難しくなります。そのため、就業規則や誓約書などにあらかじめ規定を設け、退職後も義務を守ってもらえるようにしておくことが必要です。
退職者の義務についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの解説をご覧ください。
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この記事の監修

- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、企業法務担当執行役員を務め、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある
