服務規律

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員
ほとんどの会社には、労働条件等を定めた就業規則があるかと思います。そのなかで“服務規律”について定めているでしょうか?
会社にとって、労働者が働く上でのルールをあらかじめ決めておくことは重要です。また、労働者にはいくつかの遵守義務が存在するため、その内容もきちんと明記しておく必要があります。
本記事では、服務規律の概要、労働者に対する規律等について解説していきます。
目次
服務規律とは
服務規律とは、従業員が守るべきルールや義務のことです。社員に求められる行動規範ともいえるでしょう。
もっとも、会社で服務規律を定める義務はありませんが、“企業秩序維持”のため、就業規則で定めるのが一般的です。きちんと明文化しておくことで、従業員の意識も高まりますし、労働トラブルの回避にもつながります。
服務規律の内容は会社によって様々ですが、勤怠ルールから会社設備の利用方法、身だしなみなど多岐にわたります。以下で詳しくみていきましょう。
就業規則のその他の記載事項については、以下のページをご覧ください。
服務規律を定める必要性
服務規律の目的は、従業員の認識を統一し、秩序を守ることにあります。
ルールが曖昧だと、従業員が好き勝手に行動し、協調性がなくなってしまいます。また、それによって生産性が低下し、会社の経営悪化につながる可能性もあります。
また、統一感がない職場は労働者にとって居心地が良いとはいえません。そのため、優秀な人材が次々と離職し、人手不足に陥るおそれもあるでしょう。
さらに、近年はセクハラやパワハラ、社内いじめ、情報漏洩などが増えており、会社の責任が問われることも多いです。服務規律を定めておけば、「きちんと管理していた」という根拠にもなるでしょう。
服務規律に定める内容
服務規律の内容は、大きく以下の3つに分けられます。
- ①労働者の就業に関する規律
- ②企業財産の管理・保全のための規律
- ③労働者としての地位・身分による規律
就業規則では、それぞれの規律について具体的に定めることが重要です。以下で詳しくみていきましょう。
①労働者の就業に関する規律
就業に関する規律には、以下のようなものがあります。
【勤怠】
- 出退勤時のルール(セキュリティーカードの管理や打刻方法など)
- 遅刻、早退、欠勤、休暇の届出
- 勤務時間中の私用外出について(事前届出、許可制など)
【所持品検査】
- 不要な私物の持込み禁止
- 所持品検査を行う場合があること(機密情報の持出しが疑われる場合など)
ただし、所持品検査は従業員の人権やプライバシーを侵害するおそれがあるため、正当な理由・方法でないと認められません。身体を直接触ったり、他の従業員の前で実施したりするのは避けましょう。
【服装や身だしなみ】
- 髪型や爪、髭などは常に清潔感を保つこと
- 華美な衣類やアクセサリーは着用しないこと
- 髪の色や長さについて(接客業など)
【ハラスメント】
- 性的言動により、他人に不快感を与えないこと(セクハラ)
- 職場での地位や優位性を利用し、他人に精神的・身体的苦痛を与えないこと(パワハラ)
また、2020年にはパワハラ防止法が施行され、会社におけるハラスメント対策の強化が図られています。詳しくは以下のページをご覧ください。
②企業財産の管理・保全のための規律
企業財産の管理・保全に関する規律とは、簡単に言うと「会社に損害を与えないようにする」という規律です。具体的には、以下のようなものです。
【備品】
- 会社から貸与されたパソコンや携帯は、破損や紛失がないように扱うこと
- 会社の備品を持ち出さないこと
【政治活動や宗教活動】
- 政治上の目的がある行為を行わないこと(ビラ配り、支持する政党の宣伝など)
- 自身が信仰する宗教の布教、勧誘を行わないこと
【金銭授受や贈与】
- 従業員同士で金銭の貸し借りをしないこと
- 他の従業員の保証人にならないこと
【施設利用】
- 無許可で会社の施設を利用しないこと(集会・演説・ビラ配りなど)
- 終業後は職場に滞留しないこと
- 会社の施設内で喫煙しないこと
③労働者としての地位・身分による規律
労働者の地位・身分による規律とは、以下のようなものです。
【兼業や副業】
労働者には職業選択の自由が保障されているため、兼業や副業を一切禁止するのは困難です。
そこで、自社の業務に支障をきたさないよう、事前申請や会社の許可が必要な旨を定めておくと良いでしょう。
ただし、疲労により遅刻・欠勤が増えたような場合、兼業禁止規定の合理性が認められる可能性があります。
【競業避止義務】
同業他社への転職を禁止する規定です。社内の機密情報や顧客リストが漏洩するおそれがあるため、多くの会社で設けられています。
ただし、労働者には職業選択の自由があるため、同業他社への転職を一切禁止するのは困難です。
競業行為禁止の期間や地域、労働者の地位や職務内容、競業避止の必要性などを考慮し、合理的な範囲で定めましょう。
【秘密保持義務】
会社の機密情報を守るための規定です。
例えば、会社や取引先の機密情報を漏洩しないこと、自身の業務に関係ない情報を不正に取得しないこと、退職時は会社や取引先の機密情報を速やかに返却することなどです。
競業行為や秘密保持義務については、以下のページでも解説しているので併せてご覧ください。
服務規律と労働者の遵守義務
服務規律では、従業員が遵守すべき義務(遵守義務)についても定めることをおすすめします。
この遵守義務は労働契約の締結と同時に発生するものであり、明文化する義務はありません。しかし、会社の規模や事業内容によって様々ですので、明確化しておくと安心です。
以下で具体的に解説していきます。
職務専念義務
職務専念義務とは、勤務時間中、従業員は仕事に専念し、私的行為を控えなければならないという義務です。例えば、以下の行為は職務専念義務違反となります。
- 会社のインターネットでサイトを閲覧すること
- 会社のパソコンで私的メールを送ること
- 自身のスマホを操作すること
- 無許可で私用外出すること
職務専念義務の詳細は、以下のページでも解説しています。
誠実労働義務
誠実労働義務とは、会社の指揮命令に従い、誠実に働く義務のことです。
これは、ただ毎日出勤すれば良いというわけではありません。居眠りしていたり、ダラダラと仕事をしていたりすれば、“誠実”とはいえないでしょう。
また、従業員は、労働契約で定められた労務を提供しなければなりません。
企業秩序遵守義務
企業秩序遵守義務とは、社内ルールを守り、会社の秩序や風紀を維持する義務のことです。つまり、「社員として最低限のマナーを守ろう」というものです。
例えば、以下のような規定があります。
- 職場の整理整頓に努め、常に清潔さを保つこと
- 会社や他の従業員の誹謗中傷をしないこと
- 会社の施設内で喫煙しないこと
- 勤務中に飲酒しないこと
- 酒気を帯びて勤務、運転しないこと
服務規律違反における懲戒処分
服務規律違反が就業規則上の懲戒事由に定められている場合、懲戒処分の対象となります。
ただし、懲戒処分は必ず認められるものではなく、以下の規定に注意する必要があります。
労働契約法
(懲戒)第15条
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
よって、懲戒処分が認められるかは、服務規律違反の程度や処分の重さなどを考慮してケースバイケースとなります。
会社は適切な処分を行うため、処分決定前に事実関係の調査を行うことが重要です。具体的には、関係者や周囲への聞き取り、証拠集め、本人へのヒアリングという流れで行うと良いでしょう。
なお、服務規律違反によって会社に損害が発生した場合、当該労働者に損害賠償請求することも可能です。
懲戒処分のポイントは、以下のページでも解説しています。
調査協力義務について
服務規律違反があった場合、他の従業員は一定の要件下で調査協力義務を負うとされています。
調査協力義務が認められるのは、以下のケースとされています(最高裁 昭和52年12月13日第三小法廷判決、富士重工事件)。
- ①調査に協力することが、当該従業員の職責に照らして職務内容といえる場合
- ②違反行為の性質や内容、違反行為見聞の機会と職務執行の関連性、より適切な調査方法の有無などの事情を踏まえ、調査に協力することが労務提供義務を履行するうえで必要かつ合理的といえる場合
服務規律の作成・変更
就業規則で服務規律に関する規定を設ける場合や、その内容を変更する場合、労働基準法に基づく手続きが必要です。
具体的には、まず労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者の意見を聞き、意見書を作成します。
その後、意見書と必要書類を併せて労働基準監督署へ届け出る必要があります(労基法89条、90条)。
なお、就業規則の作成・改定後は、社内での周知も必要です(労基法106条)。
従業員の意見聴取や周知方法は、以下のページをご覧ください。
服務規律規定の新設・変更による労働条件の変更
服務規律の新設・変更は、労働条件の不利益変更にあたる可能性があります。
不利益変更とは、“勤怠ルール”や“施設の利用方法”といった労働条件を、従業員にとって不利な内容に変更することです。また、不利益変更を行う場合、基本的に従業員の同意を得ることが義務付けられています(労働契約法9条)。
ただし、以下の事情を考慮し、労働条件の変更が合理的といえる場合、就業規則の改定によって変更できるとされています(労働契約法10条)。
- 従業員が受ける不利益の程度
- 労働条件変更の必要性
- 変更後の就業規則の内容の相当性
- 労働組合との交渉の状況
- その他就業規則の変更に係る事情
したがって、就業規則の改定だけで労働条件を不利益に変更する場合、変更に合理性があるかしっかり見極める必要があります。
公務員の服務規律について
公務員にも、服務規律は設けられています。また、公務員は“社会全体の奉仕者”と位置付けられているため、服務規律は法律によって明確に決められています。
例えば、以下のような規定があります(地方公務員法、国家公務員法)。
- 職務遂行上の義務(法令や上司の命令に従うこと、職務専念義務など)
- 信用失墜行為の禁止
- 秘密保持義務
- 政治的行為の制限
- 争議行為などの禁止
- 営利企業における従事などの制限
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この記事の監修
- 弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある