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「就業規則の労働契約に対する効力」について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

労働者の労働条件を定める規定は複数あるため、その効力の優先順位が問題となります。例えば、労働基準法をはじめとする法令は最も強い効力を持ち、最優先されますが、それ以外の規定はどのような優先関係になるのでしょうか?

今回は、就業規則と労働契約の優先関係、つまり就業規則の労働契約に対する効力と、就業規則や労働契約を変更する際の留意点について、解説していきます。

就業規則の労働契約に対する効力

就業規則も労働契約も、労働者の労働条件を定め、労働契約の内容となる点では共通しますが、前者は全労働者に関係する統一的な労働契約であるのに対して、後者は会社と個々の労働者の個別的な労働契約である点で異なります。

就業規則と労働契約の内容に異なる点がある場合には、原則として就業規則が優先して適用されますが、例外的に労働契約の内容が優先することもあります。どのような場合に例外とされるのでしょうか?次項より説明していきます。

就業規則の最低基準効

就業規則が労働契約に優先して適用されるとは、つまり、労働契約で定める労働条件が就業規則で定める基準に達しない場合に、その労働条件が無効になるということです(労基法93条 、労契法12条)。これを、「最低基準効」といいます。

例えば、労働者全員を対象とした就業規則には「賞与を支給する」旨の規定があるにもかかわらず、ある労働者との労働契約で「賞与を支給しない」と取り決めた場合には、当該取り決めは無効となります。この場合、会社は当該労働者に賞与を支給する必要があります。

もっとも、逆に、労働契約の内容が就業規則で定める基準を上回った場合には、最低基準効が発生しないので、労働契約が就業規則に優先することになります(労契法7条但書(後述します))。

また、就業規則の最低基準効が認められるためには、当該就業規則がその事業場の労働条件の基準を定めた規則として、労働者に実質的に周知されていなければなりませんもっとも、就業規則の周知義務(労働基準法106条、労働基準法52条の2)を果たしているか否かは問いません(平成20年1月23日基発第0123004号)。

労働基準法

(労働契約との関係)第93条
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成19年法律第128号)第12条の定めるところによる。

労働契約法

(就業規則違反の労働契約)第12条
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

就業規則の契約規律効

労働契約締結時における効力

就業規則には、最低基準効のほかに、「契約規律効」という効力があります。これは、個別の労働契約を締結していない労働条件については、就業規則で定めた労働条件を適用するというものです(労契法7条本文)。

例えば、労働契約締結の際に特別休暇について定めなかった場合でも、就業規則に特別休暇の規定があれば、当該規定が適用されることになります。そのため、契約内容を補充するという意味で、「契約補充効」といわれることもあります。

ただし、契約規律効は、①就業規則が合理的な労働条件を定めており、かつ②労働者に実質的に周知されているという条件を満たさなければ、発生しません。(詳細については後述します。)

なお、就業規則を変更した場合にも、契約規律効は発生します。次項以下をご覧ください。

労働契約法

第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約変更時における効力

就業規則には「契約規律効」があるので、就業規則を変更した場合、それぞれの労働者が個別に同意しなくとも、変更した就業規則の内容が労働契約の内容になります(労契法10条)。

この労働契約法10条は、労働者の合意なく労働条件を不利益に変更することを禁止する、同法9条の例外規定です。もっとも、同法10条によって不利益変更が認められるためには、①変更後の就業規則が周知されることと、②就業規則の変更に合理性が認められることが必要です。

なお、「就業規則の変更によっても変更されない」とあらかじめ労使間で合意していた労働条件については、就業規則で定める基準を下回らない限り、既存の労働契約が優先されます(労契法10条但書)。

労働契約法

第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

合意による変更

労働契約の内容である労働条件の変更をする際は、原則として、労使間の合意が必要です(労契法8条)。

この点、労働者に有利な労働条件に変更する場合には、問題なく合意を得ることができるでしょう。しかし、労働者に不利益に労働条件を変更する場合、合意を得るのはなかなかに難しいことだと思います。しかし、次項でも述べるとおり、労働者の合意が得られていないにもかかわらず、労働条件を不利益な内容に変更することは許されません。

不利益変更の禁止

労働契約法9条によると、労働者の合意なく、労働条件を労働者に不利益な内容に変更することはできません

もっとも、「就業規則変更に伴う契約規律効」が発生した場合には、例外的に不利益変更をすることが許されます(労契法10条)。

では、労働契約法10条が定める「就業規則変更に伴う契約規律効」は、どのような場合に発生するのでしょうか?同条の要件について、次項で説明しています。

不利益変更が許される場合とは

労働契約法10条によれば、①変更後の就業規則が周知され、かつ②就業規則の変更に合理性が認められる場合には、「就業規則変更に伴う契約規律効」が発生するため、労働条件の一方的な不利益変更が許されます。

なお、最低基準効の場合と同様、就業規則の周知は実質的周知で足り(平成20年1月23日基発第0123004号)、下記の記事で説明する「周知義務」(労働基準法106条、労働基準法52条の2)を果たしたかどうかは問われません。

就業規則の周知義務について

労働契約法10条で問題となるのは、②就業規則を変更する合理性の有無でしょう。一般的に、以下で説明するような基準によって、当該合理性の有無が判断されます。

「合理性」の判断要素

労働契約法10条で問題となる「就業規則を変更する合理性」は、諸般の裁判例によると、次のような事情を考慮して判断されます。

【就業規則変更の合理性の有無の考慮要素】
  • ・労働者が受ける不利益の程度
  • ・労働条件の変更の必要性
  • ・変更後の就業規則の内容の相当性
  • ・労働組合等との交渉の状況(労働者側との交渉状況)
  • ・その他の就業規則の変更に係る事情

なお、これらの事情は、「いずれか1つを満たせば合理性が認められる」というものではなく、また、「すべてを満たさなければならない」というものでもありません。

不利益変更が認められるようにするためにも、会社が知っておくべき「合理性」の判断基準のポイントについて解説します。

労働者が受ける不利益の程度

不利益変更によって労働者が受ける不利益が小さいほど、就業規則の変更に「合理性」が認められやすくなります。

したがって、不利益変更にあたって、会社は、労働者が受ける不利益をなるべく小さくする方法を考える必要があります。例えば、減給する代わりに、労働時間を短縮する、賞与を増額する、新たな手当の支給制度を設ける等、他の労働条件を労働者に有利に変更するといった方法が考えられるでしょう。

労働条件の変更の必要性

会社側の労働条件を変更する必要性が高いほど、就業規則の変更に「合理性」が認められる傾向にあります

労働条件の変更の必要性の内容・程度は、会社にとって現実的かつ具体的である必要があります。過去の裁判例からすると、次のような事情がある場合に、就業規則を変更する必要性が高いと判断され、合理性を認められる可能性が高いようです。

  • ①法律の要求がある場合
    例:週休2日制の実施に伴い労働時間を延長するケース、定年年齢の引き上げに伴い減給するケース
  • ②合併により労働条件を統一する場合
    例:吸収合併が行われ、組織運営や労務管理の観点から労働条件を統一するケース
  • ③会社経営が破綻する場合
    例:減給しなければ会社が倒産するような、危機的な経営状況にあるケース

変更後の就業規則の内容の相当性

変更の「合理性」が認められるためには、変更後の就業規則の内容に相当性がなければなりません

具体的には、会社が運営する事業の業界や業種、同規模の同業他社の労働条件を参考に、相当性を判断することになります。なお、ある一定の層の労働者を狙い撃ちにするような変更は、相当性の判断で不利になります。一方、例えば、就業規則を変更して減給する場合に逓減のための期間を設定する等、移行措置を設けることは、相当性の判断で有利に働きます。

労働組合等との交渉の状況

労働者の合意を得ようと努力していたことが認められると、就業規則の変更に「合理性」があると判断される見込みが高まります。換言すれば、不利益変更の際は、労働者もしくは労働組合と交渉の状況、程度が重視されるといえます。

また、近年は、多数労働者または多数労働組合の意思を尊重する傾向にあります。したがって、労働者の多くから不利益変更に関する同意が得られれば、合理性が認められる可能性が高まるでしょう。

その他の就業規則の変更に係る事情

そのほかにも、変更後の就業規則の内容が、同規模または同業他社と比較して労働者に不利益すぎないか、代償措置があるか、その内容はどのように評価できるかといったように、社会常識の様々な観点から「合理性」について判断されます。

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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