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事業譲渡・合併における労働契約の承継について

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

事業譲渡合併は、どちらも組織再編の手法のひとつです。資金力強化や事業売却を目指す会社にとって、効果的な制度といえるでしょう。

ただし、労働契約の承継については大きな違いがあります。まず事業譲渡の場合、労働者の移動には本人の個別同意が必要となります。
一方、合併の場合、本人の同意なく労働契約を承継することが可能です。そのため、比較的少ない手続きで足りるのが特徴です。

では、具体的な手順はどういったものでしょうか。本記事で詳しく解説しています。

事業譲渡における労働契約の承継

事業譲渡では、譲渡される事業を担っていた労働者が必ず譲受会社に移るわけではありません。労働契約を承継するには、労働者本人から個別に同意を得ることが義務付けられています(民法625条1項)。
言い換えると、本人の同意がない限り移動を命じることはできず、譲渡会社に残留させる必要があります。

また、事業譲渡の場合、承継される労働者は、譲受会社と新たな雇用契約を結ぶ「転籍」を行うのが一般的です。「譲渡会社に愛着がある」「譲受会社の社風が合わない」という労働者が多いと、手続きが難航する可能性もあるでしょう。

そこで厚生労働省は、事業譲渡等指針を策定し、会社が留意すべき点を具体的に紹介しています。本指針のポイントを踏まえ、以下で詳しい手順を解説しています。

組織再編のうち「会社分割」を検討している方は、以下のページをご覧ください。

会社分割における労働契約の承継について

事業譲渡における労働者保護手続きの流れ

厚生労働省の事業譲渡等指針は、労働者の保護を図ることを目的としています。具体的には、労働者と十分協議のうえ、本人の意思を尊重しようとするものです。

特に、事業譲渡の場合、労働者がすぐに転籍に応じてくれるとは限りません。限られた時間の中で十分な説明・協議を行い、労働者に納得してもらう必要があります。

説明が不十分だったり、焦って同意を強要したりすると、仮に同意を得ても当該労働者についての労働契約の承継が無効になってしまうため注意が必要です。また、他の労働者にも不信感を与え、人材流出などの事態にもつながります。

労働契約の承継においては、以下の点に留意しましょう。

労働組合等との事前の協議

譲渡会社は、まず労働組合等と協議し、事業譲渡について理解と協力を得るよう努めなければなりません。「労働組合等」とは、労働者の過半数を組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者を指します。

また、協議事項としては以下のものが例示されています。

  • 事業譲渡の背景や理由
  • 譲渡会社と譲受会社の「債務履行の見込み」
  • 承継される労働者の範囲
  • 労働協約の承継
  • その他説明すべき事項

「労働協約の承継」については、譲渡会社・譲受会社・労働組合の三者合意により成立します。労働組合から承継を求められた場合、真摯に対応しましょう。
「その他説明すべき事項」としては、承継予定労働者の判断基準転籍後の労働条件転籍を拒否した労働者の取扱いなどが挙げられます。

協議の開始時期

労働組合等との協議は、労働契約の承継における手続きの“第一歩”です。よって、遅くとも承継予定労働者との個別協議の前までに開始する必要があります。

なお、必ずしも労働組合等の同意を得る必要はありませんが、できるだけ“納得”してもらうことが重要です。そのため、協議が長引くと数回にわたり実施されることもあります。

承継予定労働者との事前の協議

労働契約の承継が見込まれる労働者1人1人と協議を行います。主に以下の内容について説明・協議を行い、転籍の同意を求めます。

  • 事業譲渡全体の状況(譲渡会社と譲受会社の「債務履行の見込み」を含む)
  • 譲受会社の概要
  • 転籍後の労働条件(業務内容、勤務時間、勤務地などを含む)
  • その他説明すべき事項

「債務履行の見込み」とは、要するに譲渡後も給与や賞与をきちんと支払えるのかということです。労働者が特に気になるところですので、問題なく履行できる見込みである旨を伝え、安心感を与えましょう。

なお、債務履行に問題があるにもかかわらず、その旨を知らせなかった場合、説明不十分としてトラブルの元になるためご注意ください。

「その他説明すべき事項」としては、有給休暇や勤続年数の取扱いなどがあります。また、労働条件の不利益変更を伴う場合、変更の程度を具体的に示すことが重要です。

代理人の選定

個別協議において、労働者は労働組合を代理人とすることができます。
代理人が立てられた場合、会社は労働者本人ではなく代理人と誠実に協議しなければなりません。

なお、代理人の選定は民法上の規定に基づいて行われます。よって、双方代理となる行為(譲渡会社の代理人が労働者の代理人になること)は認められません。

協議の開始時期

労働者との個別協議は、事業譲渡の効力発生日に間に合うように始める必要があります。
また、労働者が十分に検討できるよう、時間的余裕をもって行うことが重要です。

なお、労働者への通知は、事業譲渡の内容が決定してから行われるのが基本です。
この点、株主への通知は効力発生日の20日前までに行うことが義務付けられているため、事業譲渡の決定日から効力発生日まで最低20日あれば法的な問題はありません。

ただし、20日で労働者の同意を得られるかは別問題なので、効力発生日の設定には配慮が必要です。

労働者への情報提供に関する留意事項

譲渡会社がわざと虚偽の情報を知らせて同意を得た場合、労働者は当該同意を取り消すことができます。また、「転籍に応じなければ解雇する」などと強迫した場合も同様です(民法96条1項)。

同意が取り消された場合、労働契約は承継されず、事業譲渡の効力発生日以降も譲渡会社との雇用契約が継続されます。
また、承継後に詐欺や強迫が発覚し、労働者が同意を取り消した場合、譲渡会社は承継日に遡って賃金支払い義務を負うことになります。

特に、優秀な人材に同意を取り消されると、譲受会社は事業譲渡のメリットを十分得られないため注意が必要です。

承継予定労働者の承諾

労働者と十分な協議を行ったら、労働契約の承継について本人に承諾を求めます。説明が不十分だったり、強制的に同意させたりすると、承諾が無効になる可能性があるため注意が必要です。

本人の承諾が必要なのは、事業譲渡が譲渡する権利義務を“個別に”定める特定承継にあたるためです。
つまり、譲渡する事業や労働者、資産、債務などの範囲を、両社が任意で決めることになります。

同意しない労働者の処遇

転籍に同意しない労働者については、譲渡事業以外の部門に配置転換するなど、雇用契約を継続するための措置を講じる必要があります。

なお、事業譲渡でも解雇権濫用の法理が適用されるため、合理的な理由なく労働者を解雇することはできません(労働契約法16条)。
例えば、「従事していた事業がなくなったから」「転籍に同意しなかったから」という理由による解雇は認められません。これらの理由で労働者を解雇した場合、解雇が無効になる可能性があります。

整理解雇の合理性については、以下の点を踏まえて判断されます。

  • 人員整理の必要性(赤字が膨大である等)
  • 解雇を回避するための努力(希望退職者の募集や退職勧奨を試みたか等)
  • 解雇対象者の選定基準
  • 解雇手続きの妥当性(労働者と十分協議したか等)

詳しくは、以下のページをご覧ください。

組織再編に伴う人員整理の手法や注意点

承継から排除された労働者の救済

特定の労働者を承継対象から外した場合、法的手続きの中で、承継対象からの除外が違法とされ、当該労働者への救済措置がとられる可能性があります。例えば以下のケースは、最終的に労働契約の承継が認められた裁判例となります。

  • 譲受会社が労働組合員だけを不採用にしたケース
    →意図的に労働組合を排除しており、不当労働行為にあたるため
  • 自社と同一性がある子会社に事業譲渡したうえで、譲渡会社を倒産させたケース
    →賃金支払い義務を免れるための行為であり、法人格の濫用にあたるため
  • 譲受会社において、譲渡前とほぼ同じ形態で事業を継続したケース
    →包括承継について、会社間で黙示の合意があったと評価できるため

事業譲渡の効力発生・労働契約の承継

事業譲渡の効力発生日に、労働契約も承継されます。なお、事業譲渡を実行する日(事業譲渡日)については、会社間の契約で定めることができます。
契約書の記載例としては、以下のようなものです。

  • 譲渡会社は、事業譲渡実行日の前日までに承継労働者を退職させること
  • 譲受会社は、転籍に同意した労働者と事業譲渡日に新たな雇用契約を締結すること
  • 譲受会社は、従来と同じ労働条件で雇用契約を締結すること(又は労働条件を承継しないこと)

事業譲渡における労働組合等との関係

協議に関する注意点

譲渡会社は、労働組合等と協議のうえ、事業譲渡について理解・協力を求める必要があります。
協議方法に明確なルールはありませんが、労使間が対等な立場に立ち、誠意をもって協議できることが条件です。例えば、労使協議会で取り上げるといった方法があるでしょう。

また、協議事項のうち「債務履行の見込み」は十分説明することが重要です。
債務履行の見込みとは、譲渡後もきちんと給与や賞与を支払えるかどうかの問題で、労働者の関心が特に高いといえます。誤解がないようしっかり説明し、労働者を安心させましょう。

なお、労働組合等との協議は譲渡手続きの第一段階なので、承継労働者と個別に協議をする前に実施する必要があります。

団体交渉に関する注意点

労働組合と十分協議したからといって、団体交渉の申入れを却下することはできません。
したがって、協議外で労働組合から労働契約の承継について交渉を求められた場合、会社(使用者)は誠意をもって対応する必要があります。

また、団体交渉に応じるべき使用者は、労働契約上の雇用主だけではありません。労働者の労働条件について雇用主と同等に支配・決定できる者であれば、使用者にあたると考えられています。

事業譲渡の場合、団体交渉の申入れがあってから“近日中”に組合員を雇用するのが明確な場合、譲受会社も使用者にあたるとされています。
よって、「雇用関係がないこと」だけを理由に団体交渉を拒否すると、不当労働行為にあたる可能性があるためご注意ください。

合併における労働契約の承継

合併では、消滅会社の権利義務が“包括的に”存続会社へ承継されます。よって、労働者は全員移動し、労働契約もそのまま承継されるのが基本です。
しかし、それでは存続会社に2つの労働条件が併存し、人事管理が難しくなります。また、「仕事内容は同じなのに待遇が違う」という事態も起こり得ます。

そこで、実務上は、合併前に両社の労働条件を統一させておくのが一般的です。例えば、消滅会社の労働条件を存続会社のものに揃えたり、存続会社で新たな労働条件を設けたりする方法です。

ただし、労働条件を不利に変更する場合、労働者から個別に同意を得るなど一定の手順を踏むことが義務付けられています(労働条件の不利益変更)。会社の一方的な変更は認められないためご注意ください。

労働者の同意

合併では、労働契約の承継に本人の同意は必要ありません。つまり、労働者の意思に関係なく、労働契約や労働条件は“そのまま”存続会社へ承継されます。

「会社が勝手に決めて良いのか」と思われるかもしれませんが、合併では労働契約が“包括的に”存続会社へ承継されるため、労働者の不利益がほとんどないと考えられます。
そのため、本人の同意を得ることなく手続きを進めることが可能です。

ただし、承継前後に労働条件を変更する際は、別途労働者と協議する必要があります。

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この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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