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日当

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 家永 勲

監修弁護士 家永 勲弁護士法人ALG&Associates 執行役員

出張時の出費など、「これは経費で落とせるのか?」と判断に迷うことは、少なくないかもしれません。経費で落とせるかどうか、あるいは“何か別の方法”で補填されるのかどうかは、会社がどのようなルールを定めているかによって変わってきます。

このページでは、出張時における【日当】の支給について詳しく解説します。会社のメリット・デメリット、注意すべき税金の取扱いなどについて、確認していきましょう。

日当の定義

【日当】とは、出張中に発生する食費通信費などの諸雑費のことであり、「出張手当」や「旅費日当」などとも呼ばれます。実費との差額を考慮せず、一日あたり一律の金額を支払うのが一般的です。

他方で、出張時の宿泊費交通費などの必要経費は、基本的に実費精算となるため、【日当】には含まれず、【出張経費】として扱われます。

もっとも、【日当】と【出張経費】の違いは、実際には後述する「出張旅費規程」をもとに判断することになるため、会社によって扱いがさまざまである旨ご留意ください。

日当支給の意義

【日当】は、出張に伴う身心の疲れに対する労いや、出張者が負担した諸雑費の補填のために「手当」として支給するものです。したがって、労働の対価として支払う「賃金」とは性質が異なります。

出張にかかる交通費や宿泊費はあらかじめ想定できますが、現地で発生する食事代など、想定外の支出は、【出張経費】として対応できないケースが多いです。そこで、一定額の【日当】を支給することでそれら諸雑費を清算し、出張者にかかる経済的負担、身心の負担を軽減する狙いがあります。

日当の支給義務

出張があった場合に【日当】を支払うかどうかは、法律で義務付けられているものではありません。

【日当】の支給は、会社が任意で「出張旅費規程」などに定めて運用するものです。

出張旅費規程の作成

全ての労働者に共通する労働条件として【日当】を支給する制度を導入するためには、「出張旅費規程」として“就業規則”にルールを定めておく必要があります(労基法89条)。

“就業規則”の作成と労働基準法89条との関連等、“就業規則”にまつわる解説は、別途ページを設けていますので、こちらをご覧ください。

就業規則について

出張旅費規程には、【日当】、【出張経費】のほか、出張に関して起こり得るトラブルを想定し、必要なルールを記載します。

なお、出張旅費規程のルールに基づいて【日当】が支払われた場合、支給対象者の所得税は非課税となります。詳しくは、<6 日当の課税・非課税>で解説します。

出張旅費規程に定める内容

出張旅費規程で定めるのは、主に以下のような内容になります。

目的
出張旅費規程の目的を定めます。
例えば、役員または従業員が、業務命令により出張する場合の手続・旅費に関する定めであることを明記します。

適用範囲
出張旅費規程は、原則として全社員を対象とします。
パートなど、非正規雇用者が出張することもある場合は、その旨明記しておきましょう。

出張の定義
どんなものが“出張”といえるのか、定義付けをします。
移動距離(例:片道●km以上)を基準に出張かどうかを判断する方法が一般的です。

支給額・条件
交通費、宿泊費、出張手当など、費目ごとの支給額を決めます。 移動距離や役職によって金額が変わる場合は、それらも明確に記載しておきます。

手続方法
出張の申請フローや、実費精算とするか定額支給とするかなど清算・支給方法等、手続の方法を明確に定める必要があります。

日当の支給による企業のメリット・デメリット

《メリット》
出張旅費規程に則って【日当】を支給することによる会社のメリットは、節税効果です。
出張に際して支払う日当は、経費と同様に“損金”に算入することができるため、法人税の節税になります。また、国内出張に対する日当のうち、“通常必要と認定できる部分”の金額は、課税仕入れ(課税売上から消費税が控除される仕入金額)になります(消費税基本通達11-2-1)。つまり、消費税の節税にもなります。
さらに、【日当】の支給は、「賃金」ではなく「手当」としての扱いとなりますので、会社が負担する社会保険料の節税にもなります。

《デメリット》
新たに【日当】の支給を導入する場合には、コストの増加が懸念されます。
日当は基本的に全社員が対象となるため、これまで発生していなかった支出が、全社員に対して生じる可能性があります。くわえて、一律の支給額としている会社よりも、役職で支給額を区別していたり、出張頻度が多かったりする会社の方が、コストがかさむことになるでしょう。
そのため、あらかじめどの程度支出が増えるのか試算したうえで導入を検討するようにしましょう。

日当の相場と定め方

【日当】の支給金額について、法律上での取り決めはないため、会社が自由に決めることができますが、過度に高額な金額を設定していいわけではありません。なぜなら、詳しくは後述(<6 日当の課税・非課税>参照)しますが、税務署から指摘が入るおそれがあるからです。

では、妥当な金額をどのように設定すれば良いのでしょうか。

国税庁は、その支給額が、自社と同じような業種・同じくらいの規模のほかの会社が支給している金額に比べて、一般的に相当と認められる金額とする必要がある旨の通達を出しています(所得税基本通達9-3)。とはいえ、もう少し具体的な相場を知りたいところでしょう。

そこで、産労総合研究所による「2019年度 国内・海外出張旅費に関する調査」が参考になります。

例えば、役職ごとに支給額を変えても問題ありません。上記のデータによれば、移動距離などにかかわらず、役職によって支給額を定めている会社の日当平均支給額(国内/日帰り)は、以下のとおりであるため、これを基準に出張の目的など自社の事情を加味して設定するというのが一つの手段といえます。

  • ●社長:4458円
  • ●専務:3781円
  • ●常務:3716円
  • ●取締役:3613円
  • ●部長クラス:2666円
  • ●課長クラス:2479円
  • ●係長クラス:2224円
  • ●一般社員:2094円

日帰り出張における日当額

「2019年度 国内・海外出張旅費に関する調査」によれば、日帰り出張の場合に日当を支給している会社は84.2%、支給していない会社は15.2%と、導入している会社の方が多いという結果が見えます。また、支給している会社でも、21.5%の会社が一律の支給額としているのに対し、役職や移動距離、出張地域によって金額設定を変えている会社も見受けられます。

支給の有無や支給区分の設定は会社の裁量となるため、日帰り出張における日当の支給を導入する会社は、出張旅費規程に定めて運用しましょう。

日当の課税・非課税

出張に対する【日当】のうち、“通常認められるもの”については、所得税が非課税となります(所得税法9条4号)。非課税対象と認められるための条件は、以下の2点です。

  • (ア)「出張旅費規程」が作成されており、【日当】の支給についてルール化されていること
  • (イ)「出張旅費規程」に沿った運用で【日当】が支給されていること

支給額の設定が必要以上に高額であると、税務署に、不正に収入を増やそうとしているものとみなされ、課税対象となるおそれがあります。この点、“高額”の判定に明確な基準はないものの、万が一指摘が入った場合に正当な支出であることを主張できるよう、「出張報告書」等を作成し、記録を残しておくことが望ましいでしょう。

出張報告書の作成

税務署に、納税逃れのための“カラ出張”と疑われないよう、出張が生じた際には、当事者に「出張報告書」に必ず記録をつけてもらいましょう。

「出張報告書」には、出張の日程、出張先、出張の目的などを記載し、より説得力をもたせるための対策として、規程に領収書添付を定めている場合には、原本を添付のうえ提出してもらいます。

海外出張の日当

ここでは、「2019年度 国内・海外出張旅費に関する調査」に基づいた、地域別一般社員の平均支給額を比較します。なお、データには8つの地域ごとの金額が示されていますが、最も低額な中国地域、平均的な北米地域、最も高額なロシア地域を抜粋しました。

  • ●中国地域:4514円
  • ●北米地域:4913円
  • ●ロシア地域:4791円

国内日帰り出張の一般社員の平均支給額が2094円だったのに対し、宿泊が伴う海外出張では2倍以上の金額が設定されていることがわかります。

これは、国内出張に比べて心身の負担が増大することや国内出張には生じない諸雑費・金額が発生する可能性などを考慮し、設定されているものと考えることができるでしょう。

また、渡航先によって予防接種や各種検査を要したり、海外旅行傷害保険に加入したりする場合には、別途“支度金”の支給をすることも可能です。

このように、海外出張の場合は支出額が大きくなるため、節税効果もより大きくなりますが、それに伴って税務調査も厳しくなることが予想されます。国内用とは別に、海外出張用の「出張旅費規程」をしっかり作成することも有用です。

出張期間中の休日

出張が長期に及ぶなどして、期間中に休日をはさむケースもあります。
出張期間中の休日に【日当】の支給をするかどうかは「出張旅費規程」に定めることで自由に設定できますが、業務を行っていない休日にも日当を支給する規定としている場合には、業務との関連性、補填の必要性を問われ、課税対象か、非課税対象か争われるおそれがあることに注意が必要です。
あくまでも非課税対象となるのは、出張中の諸雑費として“通常認められるもの”に限られます。

なお、以下のページでは、“休日”の定義や、“休日”にまつわる諸問題について解説しています。ぜひこちらもご覧ください。

休日について

日当の不正取得に対する懲戒処分の可否

実際に出張していないにもかかわらず、労働者が出張申請を行い、【日当】を不正に取得したことが当事者の証言や具体的・客観的な証拠によって判明したときには、就業規則等の懲戒規程に照らして相当と認められる処分を行うことができます(労契法15条)。

故意か過失か、また、不正取得した金額や不正を行った回数、期間、当該労働者の会社への貢献度等が、処分の程度を決定する要素となります。

懲戒処分に関する詳しい解説は、以下のページに譲ります。

懲戒処分について

この記事の監修

執行役員 弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 東京法律事務所執行役員 弁護士家永 勲 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

近著に「中小企業のためのトラブルリスクと対応策Q&A」、エルダー(いずれも労働調査会)、労政時報、LDノート等へ多数の論稿がある

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